映画『yes,yes,yes』『pinto』『賑やか』「「愛」が必ず、孤独の処方箋になる」矢野瑛彦監督インタビュー

映画『yes,yes,yes』『pinto』『賑やか』「「愛」が必ず、孤独の処方箋になる」矢野瑛彦監督インタビュー

2022年7月30日

人が生きる意味を問う映画『yes,yes,yes』『pinto』『賑やか』矢野瑛彦監督インタビュー

© 矢野瑛彦

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—–同時上映の映画『賑やか』含め、それぞれの作品が持つテーマを教えて頂きますか?

矢野監督:やはり、僕が撮り続けているのは一貫して、美しい「孤独」なんです。

その中で、無意識のうちに出てくるワードやテーマは、「生き方」なんです。

どう生きていくかという事に対して、自分自身の葛藤があるからこそ、その方向に行くんです。

それがやはり、三作品共通している事かと思います。

—–やはり、「孤独」ですよね。

矢野監督:そうですね。やはり「孤独」ですが、それを如何に美しく描けるかが、肝になっています。

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—–この話題は後ほども触れますが、改めて、全作を鑑賞して感じたのが、「孤独」なんです。種類の違う「孤独」を感じました。家族の中の孤独。喧騒の都会の中の孤独。三作を通して、共通点が「孤独」だと感じました。映画『yes,yes,yes』では、方言がすごく際立っておりましたが、この演出にされた意図は、なんでしょうか?

矢野監督:僕の出身地、地元の宮崎で撮影させて頂きました。

宮崎で撮るリアリティをトコトン、求めたかったんです。

僕の中の話ではありますが。標準語で描くこともできましたが、自分が見たい世界観は、自分が見てきた世界観なんだと思います。

そこに対して、自分の中で拘らないと、徹底した演出はできないと考えて、宮崎弁をそのまま役者さんに落とし込んで頂きまして、演出させて頂きました。

—–役者の方は、宮崎で活動されている方と、東京の方がおられますよね?

矢野監督:主役の男の子だけ宮崎出身の方でオーディションさせて頂きました。

残りの三人は、東京でご活動されている方です。

舞台を中心にご活躍されていらっしゃる方ばかりです。

—–その三人の方は、宮崎弁をしっかり勉強してもらって、撮影に挑まれたんですか?

矢野監督:大変でしたけど、宮崎弁を覚えてもらいました。宮崎弁は独特な話し方なので。とても苦労しました。

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—–映画『pinto』では、モノクロとカラーで表現しておられますが、作中において交互で挿入されておられますが、この演出は何を描写しようと、されておられますか?

矢野監督:主役の女の子の世界観が、一気に広がるという表現です。

最初の白黒の場面では、写真を撮って、その写真がカラーになる場面が登場します。

それは、由紀子の世界観が瞬く間に広がったという描写です。

そこを狙って演出しており、そこから色付いた物語としてカラーにしております。

リアルな世界は、やはり色付いていますので、色の付いた物語の中での傷つき方を表現したくて、モノクロとカラーで映像表現を分けてみました。

—–とても斬新で、実験的ですよね。

矢野監督:学校で習った通りの事をする必要もなく、このようにしなさいと言われて、その通りに作る必要はないと思っています。

僕が思った事を正直に体現したいと思いました。

この作品は、踏み切った作品だと思っております。

自分の中では。

—–映画『yes,yes,yes』に関してですが、なぜモノクロとして製作されたのでしょうか?

矢野監督:カラーで最初に撮影しておりましたが、ただ撮影期間入る前に、キャストさんとスタッフさんには白黒になると思いますと言いながら、撮影しておりました。

撮影は、白黒にできるような撮り方で敢えて撮っておりましたが、白黒になるだろうなと思っていた理由は、インサート・カット(風景画)の綺麗さが際立つ、と僕が撮りながら考えていました。

試写会の前に何も情報を知らない方々にテスターを行いました。

その方達の作品への感想が、「風景が綺麗だった。」という意見をほぼ100%返ってきました。

見せたいと思っているのは、よりシンプルに役者さんたちの演技だけに集中できる構成には、しております。

家族四人しか出さなかったのも、演出意図なんです。

目立ってしまう情報は抑制して、シンプルにシンプルに削ぎ落とすために、最終的な判断として、シロクロにしました。

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—–映画『賑やか』では、都会の切り取り方が上手いと感じましたが、都会の喧騒さの中とは相反する物語が展開されますが、今を見詰めた社会的テーマも感じ取ることができましたが、この作品を通して、何を表現しようとされましたか?

矢野監督:物語の途中で、元恋人役の岩瀬亮さんが喋っているセリフを用いて、映画化した一面があります。

その台詞が、「光は遠くから見てたら、密集していて煌めいて、すごく綺麗だけど、実際その光の中に入ったら、光と光の距離は離れているんだ。」という言葉に集約されております。

近くにいるようで遠くにある。それが、都会の人間模様や孤独を映像化にしました。

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—–三作品を観比べて感じたことではありますが、映画『yes,yes,yes』『pinto』では、モノクロとして全編通して描かれており、映画『賑やか』では、その逆に色彩が全編通して印象的でしたが、映像に対しての「色」には、何か強い拘りはございますか?監督自身、意図するもの、意企するものはございますか?

矢野監督:「色」に関して申し上げますと、そのままある素材を映像に残しておりますので、そこまで意識して配置はしておりません。

ただ、映画『pinto』で言いますと、車の中では照明に色を付けてました。

青という色は、主張しない色として選択しました。

観ている側が、落ち着く気持ちになれるような配色は、敢えてしております。

「色」に関しては、もう少しちゃんとした配色をしたいと思っております。

—–各々の作品において、共通点があるとすれば、どこにあると思いますか?

矢野監督:やはり、「孤独」ですね。

一貫して、そのテーマで撮り続けておりますので、もう一歩先に行くとすれば、この「孤独」がもっと人に伝わるようにしたいと思います。

自分の中の美しいと思える「孤独」を今まで作って来ましたが、人が美しいと思える「孤独」をもっと観点や方向性を変えて、これからは描く必要があると思いますし、今後生き抜いていけないと危機感は、持っています。

—–共感性のある孤独と言いますか…

矢野監督:それがまた、ケース・バイ・ケースだと思いますが、この物語やあの物語など、ストーリーの種類によって、違ってくると思います。

ヴィム・ヴェンダース監督の映画『パリ・テキサス』が一番好きなんですが、男が観て心が動いてしょうがないラスト・シーンや、その前にある母と息子の無言の描写だとか、共感性のある物語をしっかり構築していく必要もあると思います。

—–では、なぜ一貫して「孤独」をテーマに作品を作られておられますか?

矢野監督:今もそうですが、僕自身が孤独を抱えて来たと言いますか、自分自身、孤独だなと、感じるところが多くあります。

孤独に対して敏感に反応し、世の中が生きづらいと、感じる事が多々ありました。

やはり、そういう負の部分を映画にして、吐き出しているんだと、思っております。

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—–あるインタビューで、映画『yes,yes,yes』において、人の「温もり」を表現したかったと仰られておられますが、本作が表現している「温もり」が、何らかの形で社会の処方箋になりうると思いますか?

矢野監督:思いますね。

もちろん、伝わらない方も、おられると思いますが、一番信じてあげる方は、作った本人の僕です。

それしか言えませんが、あとは人が決めることですので、その方の感じ方にお任せします。

作った本人として、その考え方は必ずあると、信じております。

—–どの部分で、あると思いますか?

矢野監督:やはり「愛」ですね。

口に出すと少し恥ずかしい言葉ですが、「愛」があれば、それが処方箋になるんじゃないかな、と思います。

—–映画『pinto』以降の演出スタイルにおいて、二つのことを役者さんにお伝えしていると、インタビューでお話されておられますが、監督自身の演出、もしくは役者さんへの演技に変化は、ございましたか?

矢野監督:ちなみに、どんな事を言っておりましたか?

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—–二つあります。「俳優は、役を100%なりきるものではないと思っておりますので、完璧ではなくても、その役に見えれば良い。そのシーンに適した演技が、見えればOKです。」と「現場でできない事は、やりません。やれる事を100%、100点でやりましょう。」

矢野監督:どんな役でも構いませんが、例えば物凄く優しい人、もしくはその反対で物凄く怒りっぽい役の人。とても淡白な人の役。

色々あると思いますが、矢野瑛彦という人間をベースに、その中にある感情や感覚の振り幅を利用して、それを表現するものだと思っております。

あくまで僕の考え方だと思いますが、周りがどう言おうか、僕は気にしません。

そういう意味で、僕が役者の方にお伝えしたいことは、もっと自分に自信を持って欲しいという事です。

自分の中の感情や感覚を、もっと知って欲しいという事です。

もっと理解して、演じて欲しいという思いがあります。これが一点です。

そして、もう一点は、単純に時間の無駄だと思っています。

現場でやれない事を挑戦しようとすることは、無駄だと思っています。

そんな無駄なことに時間を割く事こそ無駄なので、やれない事が現場にあると言う事は、僕にも責任があると思います。僕の準備不足もあると思います。

僕がしっかり勉強していれば、問題ない事です。

準備できていないのは、僕のせいです。

それは役者さんたちに対しても、同じ様な事を言えると思います。

とにかく、やれない事を現場で考える時間が、無駄だと思っていますもっとシンプルであるべきだし、もっと効率よく、現場以外で表現を求めればいいと思っています。

現場以外での時間の方が、映像制作する上で大切です。

だから、100点でやりましょうという思いです。

—–映画『賑やか』では、裏社会を通して現代社会に生きる人達の「孤独」を描いておりますが、この物語が意図するものはなんですか?

矢野監督:僕が伝えたかった、描きたかったセリフに一番マッチしていると思います。

闇を見せることは。もっと普遍的な表現で言いましと、本当に賑やかなパーティやお祭り、街の群衆を追いかけるとか、そういう普遍的なやり方もあったと思います。

ラストシーンを印象的なものにするために、暗い方向に持って行きたかったんです。

—–最後に、それぞれの作品が持つ魅力を教えて頂きますか?

矢野監督:リアリティを追求しておりますので、作品を描くにあたり、取材を物凄くしております。

そう言った人間模様のリアルさを観て欲しいと思います。

風景画であったり、インサート・カットの画は、すごく自信があります。

画力に関しても、同じことが言えます。

そのような画も合わせて観て欲しいです。

映画『yes,yes,yes』で言いますと、穿った見方をして欲しくないです。本当にまっ更な気持ちで観て頂ければ、本作の良さが伝わってくると思います。

穿った目線で観て頂くより、まっ更な気持ちで観て欲しい作品です。

—–本日は、貴重なお話をありがとうございました。

© 矢野瑛彦

映画『yes,yes,yes』『pinto』『賑やか』は、7月29日(金)より大阪府のシアターセブン、京都府の出町座にて上映中。