映画『マイライフ、ママライフ』亀山睦実監督インタビュー
—–本作の着想を教えて頂けないでしょうか?
亀山監督:プロデューサーの方から若手監督にオリジナルの物語で映画を作ってみませんか?と言う企画のお誘いをして頂けたのが、始まりでした。
ちょうど、「平成が終わります」というタイミングでした。令和という元号が発表される前で、ひとまず「平成が終わります」という時期に、企画のお話を頂きました。
私がちょうど平成元年生まれだったので、平成が終わる、次の時代が訪れるという節目のような作品を作ってみたいと思ったのもありました。
いくつか企画を出した上で、その中で一つ実現したのが、本作『マイライフ、ママライフ』でした。
その時私がまだ29歳頃で、大学時代の同級生たちや高校時代の同級生たちが、結婚したり、子どもを産んで育て始めたりしていた時でもありました。
ちょうど私たち世代のライフステージが変わるタイミングでした。その時のSNSでは良く、「ワンオペで子育てが大変」「仕事のキャリアと妊娠・出産を両立させるのはなかなか難しい」という声をちらほらお聞きしておりました。
みんなの本音や愚痴が、SNSに流れておりました。その時にちょうど、女性の働き方の問題や子育ての話などが、ニュースにも取り上げられていた時期でした。
世の中で取り上げられていることが、本当に私たちの身の回りにもあり、リアルになっていることを再認識させられたことが、とても印象的でもありました。
その部分をもっと、映画として物語として、残したいという気持ちが湧き上がったのが、最初のきっかけです。
—–題名『マイライフ、ママライフ』には、どのような経緯で決まりましたか?また、タイトルに込められた監督の想いをお聞かせください。
亀山監督:正直なところ、タイトルにもなっている『マイライフ、ママライフ』は、ずっと決まらないまま、お話を作っておりました。
そろそろメイン・キャストが固まり、本読みの準備の段階、そんな時にお二人のプロデューサーと私の三人で、案を出し合う中、そんな時ある女性のプロデューサーの方が、案を出してくださり、このタイトルが決まりました。
私自身が出した案ではないんですが、その方に出してもらえて、とても良かったと、今は思っております。
このタイトルにしようとした決め手は、『マイライフ、ママライフ』の間に句読点の「、」が付いてるじゃないですか。
映画の中でも同じ言葉が出てきますが、「自分の人生と、母親としての人生」が分断されたものではなくて、地続きなんです。
「同じ文章の中にあるもの」という意味が、この題名で上手に表現されているのではないかと思っております。
実際に、映画として伝えたい部分は、そのところです。
—–とても深い話ですね。伝えたいことを理解できても、これを言語化するのは至難の業です。
亀山監督:普通に生きていても、結婚したら自分の人生変わるんじゃないかとか、子どもができたら人生変わるんじゃないかと思われるんですが、そこを経験していない段階だと、その部分が大きな違いになるんじゃないかと、思ってしまいがちですよね。
ですが、色々な方のお話をお伺いし、脚本を作り上げる中、全く別の人生になるということはなく、今まで自分が歩んできた地続きの人生の中で、また違う要素が加わったことによって、少しだけでも生き方や考え方が変わる。
もしくは生活を変えていかないといけないとなってるのではと思います。全く違う何かになるということではないんだなと、思います。
—–主人公の周囲にいる登場人物のキャラクター像に、目が行くものがありました。冒頭の3つのシーンにおいて、主人公のパートナー、職場の部下の女性、そして上司の男性。この三人の描き方が、まだ現実の世界にもいると感じました。
亀山監督:そのような方も、ごく一部かとは思いますが、いらっしゃると思います。
特に、二人の主人公の会社の上司の方たちは、私自身も最初、この話を考えてる時に、「こんな人、今時いるのかな」と思った時もありました。
でも、色んな方々のお話をお聞きしていると、やはりまだまだそのようなステレオタイプな方は、いらっしゃるとお聞きしました。
それなら、このままこの場にいてもらい、描いてもいいのかと思いました。
—–観ていて共感できる箇所が、たくさんありました。時々、映画には距離を感じる時があります。この作品に関して言えば、現実とリンクする場面が多々ありまして、すごく親近感が湧き、共感のあるシーンもあり、登場人物の生活に自分自身を投影できる作品かと思います。
亀山監督:確かに、観察している部分もあるとは思いますが、最近取材を通して、お話させていただく中で、私もポツポツ考えたりすることはあります。
自分の人生に経験値のないことを物語に起こす時に、何が必要なのだろうと、私は人の話をお聞きする時、お聞ききしたい事を知っている方から情報を頂くことを一番心掛けているところでもあります。
もちろん、ネットで調べたり、自分で本を読んだり、色々やることもあるんですが、やはり経験値のある方からお話を聞くことが、一番ニュアンスが伝わりやすいと思います。
こちらもイメージが湧くかなと思っております。
—–シナリオのセリフが、現実味を帯びており、脚本を作り出す上で、台詞は慎重に選ばれたのでしょうか?
亀山監督:そうですね。一旦、私が思うままに初稿を書きました。第一稿をプロデューサーの方と、今回は脚本監修として狗飼恭子さんに参加して頂きました。
プロデューサーと狗飼さんも含めて、4人ぐらいで脚本会議をしておりました。
例えば、ここでの場面はこういう言い方がいいのではないかと、常に話し合いを重ねておりました。
実際に、お子さんがおられる方にも質問を重ね、直したりすることもありました。
—–作品を鑑賞させて頂きまして、セリフにも共感できる箇所が多々ありました。
亀山監督:そうなんですよね。台本を書いている段階では、リアルに則しているどうか、細かく確認しながら作業することができました。
ただ、つい先日、別の方とお話している時に、気づくことができました。
実際、本編を観て頂けたら分かるとは思いますが、本当のお母さんだったら、こういう行動はしないだろうなと言う場面があります。
それが、実は台本上になかった部分でもありました。現場で実際にお芝居をして頂いている中で、発生してしまった場面や撮影後に編集した時に、少し変わってきてしまうパターンもありました。
その部分をネガティブに受け止めるのではなく、観てくださった方が、この状況は、もし親であったら、危ないと感じるから、してはいけないことを家族で話し合う場を設けたと言うお話をお聞きしました。
本当にリアルじゃない部分が、作品に入っていたとしても、そこを起点にご家族で話し合いができるきっかけになったというエピソードがありました。
それがすごくありがたく、劇場で鑑賞した後も、会話がそれぞれのご家庭で展開されていれば、とても嬉しい話でもあります。
—–先程もお話が出ましたが、脚本監修に狗飼恭子さんがご参加されておられますね。この方が作品に関わってから、何か大きな変化はございましたか?
亀山監督:長篇作品の脚本を書くこと自体、暫くぶりでした。
作品として、実現させるために書くのが、初めてでした。
大学の先生のように、ご意見をたくさん頂きました。
「ここはこうした方が、いいですよ」というようなことを仰って頂けました。あと、単純に物語のアイディアなども、頂けました。
—–撮影中に、何か大変だったことなど、ございますか?
亀山監督:思い出せば、数え切れないぐらいのエピソードがあります。
日本のインディペンデント界隈ならある話ですが、本作の撮影期間が、8日間しかありませんでした。
最近、ふとクランクアップした時の自身のSNSを読み返してみると、「8日間で撮ってしまった」と書いていました。この日数で撮ってしまったことを、当時の私が後悔していると、感じました。
もう少し、時間があれば、撮りこぼしてしまった欠番のシーンを撮れたと思います。
結果的には、編集で上手に繋げることができましたが、観て頂いた時に違和感はないようには、なっております。
でも、欠番がどうしても出てしまったり、時間の制約上、カットを割らずに通しで撮影するのは、あるべき形ではないと思います。
振り返ってみれば、予め物語をコンパクトにしておく対策もできたと思うところもございます。
もしかしたら、現場への文句にも、聞こえてしまうかもしれません。
ただ予算があれば、もう少し撮影日数を増やすことも可能だったと思います。
撮りたい内容と実際にできることに則した撮影体制を取るべきだったと、今は反省しております。
—–私が言うことはではないかも知れませんが、現場に対する文句と言うよりも、もっと大きな話として、日本の映画業界そのものシステムが、悪いようにも感じます。
亀山監督:働き方の問題やパワハラ問題、それらの事を正そうとしている体制には、なってきていると思います。
そこに触れていくのはタブーではなく、寧ろポジティブな一面だと思います。
—–監督のディレクターズ・コメントにおいて、「これからの女性の生き方を考える必要がある」と書いておられましたが、監督自身が考える「これからの女性の生き方」とは、何でしょうか?
亀山監督:脚本を書いていた頃は、とにかく働いている女性たちやお母さん達に届ける気持ちで作っておりました。
狭い言い方をしてしまうと、「女性」に向けて考えたり、書いたりしておりました。
実際、これが完成された後、試写会や映画祭でお客様に観て頂いて感想を拾っていく中、「女性」だけに絞るのではなく、関わっているすべての人達が対象であることに気付かされました。
すべての方々の(1)QOLが上がることが、私たちが今一番、目指すところでもあります。
男性も、女性も、関わらず。日本人だけでなく、外国籍で今日本に住んでいる方も含め。
例えば、今までの日本社会では、管理職にあたる役職には、女性の方やマイノリティの方はおられない時代がありました。
ただ、現在はシステム上、変わりつつある世の中でもあります。
実際に、女性の方々も、役職のある立場に就くケースも増えてきている世の中ですね。
今まで通りの考え方や会社の仕組み、運営の仕方が、この先の未来では通用しないことを一考してもいいのではないだろうか。
今後、男性も女性も苦しい働き方をするのではなく、全体で支えていく社会が、一番いい事だと思います。
—–本作の主人公たちが、自分らしく生きようとする姿を描いてらっしゃると思いますが、監督自身が思う「自分らしさ」とは、何でしょうか?
亀山監督:私自身は、言いたいことをすべて言える環境で生きてきた人間だったので、この物語に登場する人物たちが抱える息苦しさとは、無縁で過ごしてきました。
ただ、言いたいことがあっても、言えない人がいることを前提にし、念頭に置いておくことを忘れないようにしています。
その上で、言いたいことがあるけど言えない方々、例えば夫婦や友達、会社での人間関係もありますが、まずは世間の風潮が、自分の意見をしっかり伝えられるようになる社会にすることが、「自分らしさ」に一番必要なことではないかなと、思います。
でも、「らしさ」とは、なんでしょうか?
—–「らしさ」とは、一体なんでしょうか?この「らしさ」には、実は人の考えを凝り固めた言葉なのかもしれないですね。例えば、「男性らしさ」「女性らしさ」という考え方も必要ないのかもしれないですね。
亀山監督:まず、「男性らしさ」「女性らしさ」という考え方は、将来的には絶滅する言葉だと思います。
ですので、「自分自身」であることを大事にすることが、必要だと思います。
この考えが、一番あるべき形かと思います。
個々人の心地良さや気持ちが前向きになれるものが、大小関係なく自分自身が好きなもの、気持ちが心地よくなれるものを身の回りに集められることが、それを続けていけば「自分らしさ」が、出てくるのかなと、思います。
私はまだ、模索中でもあります。
—–最後に、本作の魅力を教えて頂けないでしょうか?
亀山監督:タイトルやヴィジュアルからだと、少し硬い印象を持たれるかもしれませんが、実際に観て頂ければ分かると思いますが、実際はそんなに硬い作品ではありません。
私自身は、ブログのような感覚を持っております。ブログやSNSを覗く感じで、気軽に鑑賞して頂ければ、と思っております。
noteを読んでいても、タイトルやラストの文言にグッとくる時があると思いますが、本作でも「ここのセリフが刺さった」「このシーンが印象的だった」ということが、あれば幸いです。
女性が主人公でもありますので、女性が共感できる作品ですが、男性が観ても共感できる部分があるのではないかと、思います。
映画『マイライフ、ママライフ』は現在、関西では本日4月9日から十三のシアターセブンにて上映中。また、4月22日から京都みなみ会館にて公開予定。全国の劇場で絶賛公開中。
(1)QOLとは、クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)の略。「生活の質」や「人生の質」という意味がある。