映画『コンビニエンス・ストーリー』「意味があるものに意味がない。意味がないものに意味がある」三木聡監督インタビュー

映画『コンビニエンス・ストーリー』「意味があるものに意味がない。意味がないものに意味がある」三木聡監督インタビュー

2022年8月5日

異世界の入口へようこそ。映画『コンビニエンス・ストーリー』三木聡監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–まず初めに、本作『コンビニエンス・ストーリー』が持つテーマがございましたら、お話頂けますか?

三木監督:テーマはないんですが、どのようにして、この行き止まりの迷路を作っていこうかという考えは、初めからありました。

周囲にもお話するんですが、以前「シティ・ボーイズ」というコメディ・グループのお笑いライブの演出をしていた時期がありました。

その時、あるコントで、大きい達磨を切ると、中ぐらいの達磨から小さい達磨、その中から更に小さい達磨が出て来て、その達磨を切って、中から出てきたのが最後は梅干しの種というコントをしました。

普通は、達磨の中から達磨が出て来るという予測を裏切り、最後に梅干しの種が登場するという意味を瓦解していく構成です。

最後に梅干しの種を登場させることによって、今までしてきた全体の意味が分からなくなるんです。

真面目に、生真面目に、意味を突き詰めて行った先に、ひとつ別の違う要素があるんです。

本作で言えば、異界に行く話こそが要素なんです。

物語の中に急に、紛れ込んできた時に、それまで思っていた普通の孤独が、全然違う意味を持って来るんです。

まったく意味がないものという恐怖感やギャグ感を、今回の作品でやってみたいと思いました。

—–(※1)マトリョーシカ人形みたいなお話ですね(笑)

三木監督:そうですね。マトリョーシカ人形のように小さい人形が次々出てきて、最後に一番小さいマトリョーシカが出てくると思ったら、梅干しの種が出てくるという話ですね(笑)。

この梅干しの種の意味が、まったく分からない上、それまでのマトリョーシカのようにどんどん出てくる仕組みもすべて、まったく無意味な事になってしまうんです。

そういう事で、作品の中の方法論として迷宮を作っていきます。

体験する中で、人間の意味本能みたいな事があると思います。

意味がない、あるいは意味の分からない出来事に遭遇した時の人間の感覚。

意味のない出来事は怖いから、何とか意味づけしようとするじゃないですか?

よく言うんですが、小説などでも、著者近影でどのような大学に進学して、どういう経歴で本を書いているかの説明って、必要なんだろうか?

あれは、この話を書いている人が、どんな人なんだろうと、埋めておかないと不安になるからなんでしょうね。

誰が書こうが、話自体が面白ければ、問題ないと思うんですが、あのような手掛かりを人間が見つけたいと思う感じを、登場人物の行動やセリフ、作中の美術に対して、どのような意味があるのかと、皆が思いながら、自分も迷宮に入っていくみたいな体験をしてもらえたら、面白い事だと思います。

映画体験として、劇場で味わってもらえたら、うれしいです。

—–今ブームとなっている「考察」でさえも、この作品にかかれば、考察したくても、考察できないですよね。

三木監督:まさに「考察」と仰りましたが、監督として不思議なことを面白いと感じることは、今までの事を踏まえると、女性の方の方が共感性が高いように感じています。

男性の方が、理屈が合っていない事に対しての不条理感を感じる人が、多いと思います。

カメラもそうですが、男性は割と、レンズの選択、ミリ数、シャッタースピード、露出、これがすべて好条件でピッタリ合った上で、自分が撮った写真がいい写真かどうか判断する人が多いと思うのですが、女性はシャッタースピードやレンズのミリ数に関係なく、感覚でいい作品を撮れればいいという考えを持っていると思うんです。

そこに落ち着けるかどうかで、この作品の観方も変わってくる印象は、ありますね。

—–深いお話にも感じますね。

三木監督:そんなことありませんが、物事の感じ方や意味の求め方みたいな事を面白がれたり、体験として面白く感じてくれたらと思います。

映画館は音もいいので、僕らが作って来たその時の雰囲気を、劇場の音からも感じてもらえたらと思います。

鑑賞後、帰宅してPCで考察を書いてくれるのもとてもいいですが、まずは映画館で体験して欲しいです。

意味不明な事含めて、この行き止まり感を演出していこうという目的は、ひとつありました。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–本作の企画・原案は、映画評論家のマーク・シリングさんが関わっておられますが、このプロジェクトに対して、監督自身はどこに惹かれましたか?

三木監督:マークさんとは過去の作品を通して、「(※2)ウーディネ極東映祭」に紹介してくれると言ってくださって、お付き合いが始まりました。

その後、数年前、急にメールを下さって、このシノプスが映画にならないか、と相談を受けました。

どんな物語なのか気になったので、読んでみました。

その中で、主人公が山の奥の謎のコンビニに入って、事件に巻き込まれるエピソードと、惠子という美人の女性店主がいるという設定は、残しました。

あとは、自分でストーリーを考えました。マークさんはアメリカ人ですが、日本のコンビニに対して変な違和感を持っていたようです。

外国人からすると、コンビニは不思議な空間なようです。

あれだけ色んな物が揃っており、ひとつのお店で生活を完結できて、何時でも開いていて、夜の街の片隅で「ボワァっ」と光っているでしょ。

原案でも表現されている、面白い違和感のような物を感覚として残しました。

最初に相談を受けた時は、「怪獣」の映画の脚本を書いていたこともあり、この作品については別の脚本家にシナリオを書いてもらいました。

それをマカオにあるマーケットに持って行って出資を募ろうと思ったのですが、なかなか難しかったんです。

その時にマカオのプロデューサーや映画祭関係者の方々が、日本のコンビニには確かに、異界観があるとお話されていました。

日本人の方の中にも、同じ感覚を持つ方もおられると思いますが、この世のじゃない異空間の世界が、コンビニにはあるんです。

それは、外国の方の感覚かなと思うところもあり、それはそれで面白いと思いました。

日本に戻ってきたら、たまたま別のプロデューサーから、「監督、自分で台本書いた方がいいんじゃない」と言われ、コロナ禍が原因で、大怪獣の撮影も止まったため、その期間に初稿にあたる脚本を書き始めました。

50年代、60年代のフィルム・ノワールで言えば、映画『サンセット大通り』があったり、それを90年代風にするとコーエン兄弟の『バートン・フィンク』デビッド・リンチだと映画『マルホランド・ドライブ』になるんです。

ある種のフィルム・ノワールの世界を今2022年に置き換えたら、どうなるのか考えたのが、一番最初のベースにありました。

そのため、ノスタルジックな音楽や照明効果音を使用しました。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–原案はマークさんがお書きになられましたが、それをシナリオする上で、監督は何か気をつけていたことはございますか?

三木監督:書く上で気を付けていたことは、全体の辻褄ですね。全部合わせる必要は無いんです。

どうしても合わせたくなってしまいますが、合わせることを主題にしてしまうと、深みにハマってしまうと思いました。

ある意味、帳尻や辻褄の合わなさを、脚本がどういう風に許容していくか、どうかだと思います。

敢えて、そういう事をしました。

ある事が続いていくが、ある時断裂されてしまう所を、どう表現すれば良いのか、考えました。

フィルム・ノワールの指標にしても、ファム・ファタールが登場する物語の構造みたいな事が、必要になりました。

フィルム・ノワールには、一種のルールがあるんです。

—–では、今回はヒロインの前田敦子さんが、要なんですね。

三木監督:生きているのか死んでいるのか分からない妙な感じですが、迫力ある色気と言いますか、ゾワッとする色気も含めて、前田さんの感性は必要でした。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–本作を製作する上で、最も取り組んだ事や、関心を持ったことはございますか?

三木監督:ひとつには、六角精児さん演じる南雲(前田敦子さんが演じる惠子の旦那)がいない間に、成田凌演じる主人公の加藤と惠子が、不倫関係に陥る作品のひとつのモチーフがあります。

家を留守にしないといけない訳で、その場にいない間に不倫の関係になるんです。

旦那をどうやって、そのコンビニからいなくならせるかを考えました。

ヴィスコンティの有名な作品「郵便配達は二度ベルを鳴らす」だと、釣りに行っていることがありますが、不倫をしている彼らと別に、六角精児さんにはクラシックの楽曲に合わせて、指揮棒を振ってもらうのが、面白いかと思いました。

森の中で音楽が鳴っている間は、彼は戻って来ないというサスペンスです。

音楽が持っているサスペンス感を、作品に盛ろうとしました。

例えば、コッポラの『地獄の黙示録』や黒澤明の『野良犬』のラスト・シークエンスで流れるクラシックの効果を、この作品に流用してみました。

そうする事で、山や森の中で六角精児さんが流している音楽の横では、不倫の事後の会話が成される背景に、ハンガリー舞曲の4番を挿入したら、昔のイタリア映画っぽくなったんです。

(※3)異化効果を演出することで、音楽や演出が活かされたり、現実世界と異界が音楽で地続きとして表現できると思いました。

音楽と異化効果もまた、作品の中のテーマとしてありました。

それと、レンズの光の捉え方もまた、製作中にトライしてみようと思いました。

—–観る側も注意して、観たいと思います。

三木監督:そんなに注目しなくても、大丈夫ですよ。ブルース・リー的に言えば、Don’t think, feel! 「考えるな、感じろ!」ですね。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–昨今、コンビニ業界もブラックだとニュースで報道されている事もありますよね。業界の方々には酷な話かもしれませんが、何でも手に入れられるコンビニという存在。もし、コンビニで手に入れられるなら、何を手に入れたいでしょうか?

三木監督:面白い脚本が売っていたら、いいですよね(笑)。

面白い映画のアイディアとか。

「なんか、コンビニで面白いストーリー売ってないですかね?」というセリフが作中にあるんですが、「ホラー映画のシナリオは、これ。450円で売っている。」なんて。

惠子のセリフに「あの世界の中ですべてが完結している事で、結局ここから出られない」という言葉があるんです。

水槽の中の水草も魚たちも、外から差し込む光によって、光合成をし、生きている。

生き物達が生きる水槽とコンビニには、近いところがあります。

そういう感覚を、コンビニの中で感じる時がありますよね。

お線香から何から何まで売っているんですもんね。

—–困ることないですよね。

三木監督:困らないですよね。あの中で、すべてが完結してしまっているんで。完璧な世界ですもんね。

—–日本人から見れば、ただの便利なお店にしか思いませんが。

三木監督:外国から見れば、不思議な空間なんですね。

—–コンビニを違う視点で見ることができる要素ですね。不思議な感覚ですね。

三木監督:現実世界を、映画を観る前と観た後でちょっと違う視点で見られることが、この作品を通して体験として味わってもらえると面白いかなと、思います。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–少し話が反れるかも知れませんが、三木監督作品の持ち味は、シュールさやオフビートな笑いが作品の根幹を占めていると思いますが、監督にとってのシュールさやオフビートの笑いの魅力とは、何でしょうか?

三木監督:意味みたいな事が、ひとつの出来事のために、ひっくり返されてしまう快感ですね。

映画『インスタント沼』でもやりましたが、スロットマシーンに文字が表示されるんですが、ビーフが出てきて、その次にチキン、そのまた次にシーフードって表示されて、これは何の機械?って考えた時に、カレーの具を決めるマシンではないだろうかという話になるんです。

次にスロットを回すと、インディアン・サマーが出て来て、カレーの具を決める機械じゃないという話になるんです。

このように意味そのものが崩壊していくカタルシスが、コメディの中のギャグかなと思います。

ひとつの面白いポイントになると思いますね。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–プレスのインタビューにおいて、「結論ない故にバカバカしい事が、コメディの根本と捉えている。意味があると思っていた物に実は、意味がなく。笑うか笑わないかは、本人次第。ナンセンスの瞬間を面白いと思って、コメディ映画を作っている。」とお話されておられますが、映画として、そうでなくても、この「ナンセンス」が重要であるかどうか、教えて頂きますか?

三木監督:僕自身は基本、「ナンセンス」かどうかは、今までの意味があったことに、別の意味を見出してくる事が、表現のひとつではないかと思います。

基本、そういうものを思考することはありますよね。絵画にも、そのような部分があると思います。

—–現代アートも、特にそうですよね。

三木監督:現代アートもそうだし、現実そのままを描写する事がいいとしていたが、思ったことを描けばいいんじゃないかという瞬間もあったりすると思います。

それまで、精密に描写する事より、写真の代用行為みたいな事があって、意味がひっくり返って行くとか、それまでの意味とかが、瓦解していく事が基本的なベースにあり、価値観がひっくり返って行く感じが、アートや映画において、表現とされるものかと思います。

—–意味のないことに、意味がある事もありますよね。

三木監督:その逆もありますよね。凄い意味があることに、実は意味がなかったり。

気付かされることがあります。

それは、僕が評価するモノの中には、そのようなモノが多いかなと、思うことです。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

—–作品のコメントにおいて、「謎は謎だから、謎でありますが、謎を解けてしまえば、謎ではない。」とエレクトリック・ソウルマンの言葉を引用されておりますね。また、「本作がどこに向かっているのか、監督自身は分からない。」と公式にてコメントが発表されましたが、今現在、この作品の方向性は、何か発見されましたか?

三木監督:いや、お客さんが体験として、この謎を謎のままにして、映画館を後にして欲しいんです。

謎は、自分の中で内包されて、別の答えを導き出して、映画館を出てもらいたいですね。

映画の体験として、この夏のホラー感のある作品を観て頂き、楽しみを見つけてもらえたら嬉しく思います。

—–公開後の話ですね。どう転ぶか、楽しみですね。

三木監督:自己表現として、レビューを書いたり、酷評してもいいですし、ご自身の中で完結してもいいんです。

まずは、映画館で新しい体験、発見をしてもらえればと、思います。

—–最後に、本作『コンビニエンス・ストーリー』の魅力を教えて頂きますか?

三木監督:不倫など、タブーな事も含めて、それを観た時に、皆さんの気持ちがどのように振れていくのかを味わってもらえたらと。

色んな映画があって、ストーリーを楽しんだり、お芝居を楽しむ、映像を楽しむ事がありますが、この不思議な経験を楽しむような映画は最近少なかったような気がします。

この不思議な体験を映画館で味わってもらえれば、一番嬉しいと思っています。

—–貴重なお話を、ありがとうございました。

©2022『コンビニエンス・ストーリー』製作委員会

映画『コンビニエンス・ストーリー』は、8月5日(金)本日より、関西では大阪府のテアトル梅田MOVIX堺。京都府では、T・ジョイ京都アップリンク京都。兵庫県では、シネ・リーブル神戸にて上映開始。また、全国の劇場でも絶賛公開中。

(※1)マトリョーシカについてhttps://matryoshkaya-nonna.com/mato.html(2022年8月1日)

(※2)映画祭レポート◇ウーディネ・ファーイースト映画祭 2013/4/19-27 Far East Film Festivalhttps://www.kawakita-film.or.jp/kokusai_3_2013_fareast.html(2022年8月3日)

(※3)異化効果の意味を簡単に解説!|映画やアニメ、舞台、小説の事例と効果とは?https://sakka-no-mikata.jp/2020/01/23/ostranenie/(2022年8月3日)