ドキュメンタリー映画『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』「全国のミニシアターに興味を」木全純治支配人インタビュー

ドキュメンタリー映画『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』「全国のミニシアターに興味を」木全純治支配人インタビュー

2022年7月16日

名古屋のミニシアター、シネマスコーレの「今」を丹念に捉えたドキュメンタリー映画『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』木全純治支配人インタビュー

©Tiroir du Kinéma

©メ〜テレ

—–本作『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』の企画が立ち上がった経緯を教えて頂きますか?

村瀬さん(本作の製作総指揮):本作の企画の流れと致しましては、シネマスコーレをずっと密着しておりました。

5年前に副支配人の坪井篤史さんの番組を一度、劇場化しております。

そんなこんなで、木全支配人はうちの局の映画紹介のコーナーがある生番組にも、ご出演して頂いておりました。

古くからお付き合いをさせて頂いており、コロナが原因で、ミニシアターが大変な状況になって来た時、お客さんが一人も入らないことが判明しました。

もしかしたら、シネマスコーレが消えちゃうんじゃないかと、僕らとしても物凄く危機感を感じました。

もちろん、ここが無くなってはいけないという個人的な想いもありました。

ここをどう乗り切るか、もしかしたら乗り切れないかも知れないという状況も含めて、取材をさせて下さいと、企画が始まりました。

いざ、劇場に足を運んでみると、木全さんは平気な雰囲気を纏っているんです。

ちゃんとした考えを持って、劇場運営をされておられました。

コロナなんか怖くないと、仰られておられました。

カメラを回してる間に、段々説得力を持つようになって、木全さんのような考え方で捉えれば、コロナも怖くないのかと、僕ら自身、学び発見できました。

その実感を踏まえて、映像化して、劇場で見てもらえたら、コロナに怯えてる方々がいる、もしかしたら、コロナによって物の見方が狭くなっている方々の見方を再度、変えてもらいたいという思いも込めた作品です。

©メ〜テレ

—–この道39年、シネマスコーレで支配人をされていらっしゃりますが、上映した作品で一番思い出に残っている作品は、ございますか?

木全支配人:やはり、原一男監督のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』です。

これまでずっと、シネマスコーレの興行収入が歴代一位の作品でした。

それが、若松孝二監督の映画『キャタピラー』に抜かれてしまったんです。

歴代一位は、『キャタピラー』。

歴代二位が『ゆきゆきて、神軍』です。

この作品のお陰で、シネマスコーレが世間に知られるきっかけとなった作品なんです。

それが、1989年の事です。

—–最初の上映時ですね。口コミなどで、広がったんでしょうか?

木全支配人:この映画は、奥崎謙三という方が、天皇にパチンコ玉を投げた話が発端です。

天皇との関係性、戦争犯罪に対して、異議を唱えたドキュメンタリー映画です。

天皇と戦争を絡めたんです。この作品を上映する時に、非常にシビアな意見も頂きまして、最初に上映する劇場が極めて少なかったんです。

だから、僕自身はこの作品を鑑賞して、すごい作品だなと実感したんです。

世間での「声」とは関係なく、シネマスコーレでの上映を決めました。

そういう上映するまでの様々な障壁を乗り越えて、世の中に広まった作品です。

今も、色々ありますが…。

様々な社会的背景が原因で、興行側も躊躇する時もあるんです。

—–だいぶ、踏み込んだ作品ですよね。

木全支配人:そうですね。でも、非常にヒットした作品なんです。当時の日本国内で、話題を集めたドキュメンタリーです。

©メ〜テレ

—–ありがとうございます。単純な話ではありますが、劇場の支配人をされて、嬉しかった事、または大変だったことはございますか?

木全支配人:ドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』で映画館が、大ヒットするのが一番の喜びですね。

色々ありますが、劇場へ行って、まず最初にすることはシャッターを開けることなんです。

その前に、お客さんがズラーっと並んでいる事を、三年に一回、五年に一回、そういう事が起きる訳ですよ。

これは驚くべき瞬間ですよ。

逆に最悪な事は、一人もお客さんが来ない事です!

劇場に一人も来ないという現状が、大変ショックな事でした。

—-興行としては、お客さんが劇場に足を運んで頂くことが大前提ですよね。

木全支配人:本当に、今までゼロという事はなかったんです。

必ず、足を運んで頂いていたのに、一人も来ないという現状。

信じられなかったんですが、コロナの影響力がこんなにもあった事に驚きを隠せなかったです。

僕のコロナの捉え方は違うんですけど、皆さんのコロナに対する受け取り方は恐怖心が、非常に大きくあったと思います。

だから、外へ出るなとか、高齢者は家にじっとしておきなさいとか、そんな事したら、高齢者の体力も弱ってしまうと思うんです。

事実として、コロナの影響力は、本当に大きかったんです。

©メ〜テレ

—–木全支配人が考える、劇場支配人としての業界に対する役割や立ち位置は、何でしょうか?

木全支配人:支配人にも、色々あります。例えば、シネコンの支配人ですね。

全国でシネコンは、全体の9割を占めています。でも大手シネコンの支配人は、劇場全体を管理している存在です。

番組(作品の上映時間や組み合わせ)は全部、中央の本部で決められて、それを流すだけがシネコンのシステムです。

だから、日々の管理を任せているだけの存在です。

その逆に、ミニシアターは映画館の支配人が、どの作品を選択するのかを決める立場なんです。

それを踏まえた上で言えることは、ミニシアターのラインナップは支配人が決めており、個性が一番表出する場でもあり。

だから、支配人と言っても、シネコンの支配人とミニシアターの支配人でとは、非常に役割が違います。

当然、自分の劇場の時間を決めていけるので、その部分は非常に貴重な部分でもあります。

例えば、僕自身は日本の独立系映画とアジア映画が好きなので、それに沿った番組を組む時があります。

他の劇場さんにしても、ヨーロッパのアート系が好きなど、そういう特徴があります。

その違いが出る場所と言うのは、とても貴重かなと思います。

—–自分の好きな色が出せる場所があるのは、いいですね。本当にオススメしたい作品を、自身の選出眼を持って、上映できるのがミニシアターとしての強みと言いますか、役割ですよね。

木全支配人:あと、先程言いましたシネコンが躊躇する作品は、ミニシアターで上映できるという所も、単館系の強みでもありますよね。

社会的な問題がある作品は、なかなかシネコンでのラインナップからは、外れてしまいますよね。

二通りの劇場鑑賞(シネコンと単館系)があることで、ミニシアターも非常に充実した番組を組む力を持てば、二つ通りの選択肢ができることによって、シネコンとお互いより豊かな映像体験ができる機会があると思います。

この映画も参考にして頂きまして、全国の都道府県にミニシアターが一件ずつできると、よりいい事だなと、思います。

©メ〜テレ

—-お考えが一緒です。自身も同じように目指しておりますが、地方から映画文化を発信すると仰られておられますが、発信することで何が変わりますか?どのように発信すれば良いのか、具体的にお話して頂けますか?

木全支配人:例えば、この作品は名古屋で製作されましたが、名古屋で映像の勉強をしている人はたくさんいます。

でも職業として、映像関係に携わる場合は、ほとんどの場合、東京に行かざるを得ない状況なんです。

名古屋で学んだ方全員が、東京に才能を持って行かれてしまうんです。

今の現状が、ここです。

—–大阪でも同じ現象が、起きております。

木全支配人:そうなると、東京からの文化の発信が、各地方一方通行になってしまうんです。

これは非常に危険だと思っております。

文化や価値観が、多様性があると言うことは、その土地土地で、確固とした文化の土壌が、ないとダメなんです。

その立ち位置として、全国のミニシアターや名古屋のシネマスコーレがあります。

関西なら関西での立ち位置として、単館系の劇場があり、豊かな文化を発信する。

やっと、そこで、ひとつの多様性や豊かな文化土壌が、出来上がるんです。

だから、東京の一極集中の一方通行は価値観を構成するのに、極めて危険だと思っております。

だから、ここから文化を発信する、地方で発信する場所がある。

逆に言えば、才能を東京に出さない。

まだ、そこまでの豊かさはありませんが、そういう土壌を作っていくのも課題です。

今は、東京から逆輸入する事も視野に入れています。

僕自身は、地方に才能を逆輸入する土壌を作るかが、非常に大切かと思います。

そこで、生活できる条件も必須になると思います。

©メ〜テレ

—–若輩者の自分が言うのも少し驕傲ではありますが、木全支配人のお考えには賛同、共感できる所がたくさんあります。また、コロナで興行側も大打撃を受けましたが、コロナ禍の現在、劇場運営の現状を教えて頂きますか?また今後、運営状況が変わると思いますが、その時にどう対処するかなど、お考えはございますか?

木全支配人:まず最初の2020年の時は、売上が25%減でした。その次の2021年では、30%減でした。

でも最初の年は、持続化給付金、休業補償、クラウドファンディングのミニシアターへの分配金で賄うことができました。

2年目も、その補助がありまして、賄えたんですが、3年目もその全てがありません。

だから、3度目に助成金がない中、2019年の時代に戻さないと、ダメなんです。

数字が出ますが、2019年は2万8000人で、シネマスコーレでの採算では2万6000人、2万2000人と、かなり減少してしまいました。

今年の2022年では多分、2019年の9割は、戻ると考えております。

だから、補助がない今、通常の営業状態に戻るのではないかと、考えております。

政府が、コロナに対して、トンデモ政策をやってしまえば、別の話になりますが…。

僕自身は、コロナに対して、怖くないと思っております。

それよりも、映画館は今後、配信というコンテンツとどう戦っていくかが課題であり、そういう時代が到来しました。

こちらの方が僕としては、大きな問題として捉えております。

配信が自由に観れる中、映画館の魅力はどこにあるのか、ずっと考えております。

如何にミニシアターに来て頂けるようにすればいいのか、試行錯誤している状態です。

—–木全支配人にとって、シネマスコーレとはどんな映画館でしょうか?

木全支配人:日本の独立プロと、アジア映画を観るなら、シネマスコーレに足を運んで頂きたいです。

©メ〜テレ

—–もし映画文化を100年先に残していくとしたら、今何をして行けば、よろしいでしょうか?

木全支配人:教育です。

映画の教育をしていくことです。

映画文化には既に、100年という歴史があります。

これをあまりにも知らないまま、映画を撮っている人がたくさんいます。

やはり、きちんとした映像教育がなされる中でしか、次の100年はないと思います。

—–最後に、本作『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』の魅力を教えて頂きますか?

木全支配人:本作を観て頂くと、映画館の運営が、どのようにされているのか、非常に明快に分かります。

この作品を観て頂き、ミニシアターに興味を持ってもらい、全国に単館系の映画館はあります。

もしご旅行に行かれた時に、ちょっとそこのミニシアターに立ち寄って頂きたく、思います。

—–貴重なお話、ありがとうごさまいました。

©メ〜テレ

映画『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』は、7月15日(金)府の京都みなみ会館、7月16日(土)より大阪府のシネ・ヌーヴォ、兵庫県の元町映画館にて上映開始。また、全国の劇場でも、順次公開予定。