ドキュメンタリー映画『70歳のチア・リーダー』人生100年時代

ドキュメンタリー映画『70歳のチア・リーダー』人生100年時代

2023年8月12日

老いとは、誰の人生にも訪れる。避けては通れない人生における、一大ビッグ・イベントの一つだ。あなたにも、私にも、誰の人生にも必ず訪れる老化現象。自然現象ではあるものの、なぜ人は老いてしまうのか?そのメカニズムの細密な部分は、ほとんど知られていない。著書『なぜヒトだけが老いるのか』を上梓した東京大学定量生命科学研究所教授の小林武彦さんは、現代ビジネスのインタビュー(※1)にて「老い」について、こう話している。「「老い」という現象は、ネガティブに捉えられがちです。退職して「生き甲斐がなくなった」、年を重ねて「あとはもう死ぬだけだ」。そう考える人も少なくないのではないでしょうか。でも、そうではない。「死」だけに意味があるのではない。「死」の前の「老化」にも非常に重要な意味がある。(一部抜粋)」と話す。インタビューでは、この後の「消極的な老い」と「積極的な老い」について、小林さん独自の理論を話されているが、私たち人間が経験する「積極的な老い」とは、生きていく上で必要不可欠なプロセスであると受け取れる。老いが少しずつ始まるのは、ちょうど40歳前後だろう。現象が顕著に現れるのは、頭髪の生え際が後退し始めたり、少しずつ白髪が目立ち始めるタイミングだ。この老化現象は、誰にも抗えない事象であり、不老不死であり続ける事もできない。それでも、「老い」はあなたの隣りにそっと横たわる。老化をテクノロジーや医学的歴史的観点から言えば、私たち人類にとって、はるか昔から疑問視されてきた。果たして、老いることは「自然現象」なのか、それとも「病気」と言えるのか。2世紀頃に存在したとされる古代ギリシャの医学者ガレノスは既に、この頃から「老化は人間にとって自然なプロセス(※2)だ」という文言を残している。人は生きている限り、必ず老いる。それは、抗えない事実として受け止め、今を一生懸命生きて行く必要がある。あるがままに自然現象である人間の衰えを受容したそのタイミングで、私達の生き方は大きく変わる。また、老化は美容やファッションの観点からも考える事ができ、歳を重ねることを楽しめる3つの心得(※3)(3つどころか、4つ5つ、6つと加齢を楽しむコツは、人生にたくさん眠っている)がある。1つ目は、老化現象を自然現象と受け止め、大人の魅力を磨く。2つ目は、毎日イキイキして過ごす。そして、3つ目は、自身の年齢に合った似合うファッションを知る事が重要という見方もできる。今ここで挙げたのは一例に過ぎないが、老いを楽しむ人生のコツやポイントは、幾らでもある事を知っておきたい。

ドキュメンタリー映画『70歳のチア・リーダー』は、自身の年齢に対して、諸共せず現役でチアリーディングを全力に楽しむシニア・シルバー世代の女性たちの姿を追ったチアーズ・ドキュメントだ。彼女達自身の人生に迫る老いに狼狽えもせず、自身の好きな事であるチアリーディングを堂々と人前で披露する姿は、輝かしい。それでも、様々な問題は立ちはだかるもので、持病、家族の無理解、老体など、その年齢特有の厄介事に直面しながらも、それぞれが持つ信念を貫き通す。そもそも、チアリーダーの歴史を皆さんは、知っているだろうか?私は、この作品に触れるまで知ろうともしなかった。今がいいチャンスだと、チアーズについての歴史を映画と共に触れていければと思う。今でこそ、チアリーダーとは若い女性たちが行うパフォーマンス(もしくはスポーツ)としての認識が強く根付いているだろうが、本来のチアリーディングは男性たちのスポーツであった事を知っておきたい。チアーリーディングの歴史(※4)は意外と新しく、アメリカン・フットボールと密接に関係していると言われている。1869年、プリンストン大学とラットジャース大学間での対抗試合で初めて行われたのが、米国におけるチアリーダーだ。この時を境に、1920年頃までアメリカン・フットボールの選手たちがチアリーダーの中心となって、アメリカン・フットボールの世界を盛り上げて来た。転機となったのが、先に述べた1920年頃、ようやく女性がチアリーディングへの参加権を許された。そして、1960年頃には、ジュニア・キッズの部、ユースの部など、若手の人材育成が行われるようになる。今でこそ、チアリーダーの世界が華やかではあるが、このスタイルが確立するのが1980年頃と、比較的新しい。そして、2000年以降、アメリカではメジャー球団がチアリーディングチームを発足し始め、現在のスタイルへと落ち着いた。アメリカにおけるチアの歴史は案外新しく、時代を重ねながら現行の様式へと定まったのは、2000年以降と日が浅い。これは、アメリカ合衆国におけるチアリーダーの歴史だが、アメリカ以外でもカナダ、イギリス、オーストラリア、アジア各国、ヨーロッパ、アフリカ大陸でもチアリーディングが広がり(※5)を見せている。2016年には、オリンピック暫定競技にチアリーディングが認定されており、近い将来、チアリーダーがオリンピックの競技となると言われている。今、世界で最も注目が集まるスポーツ競技の一つだ。

本作『70歳のチア・リーダー』は、そんなチアリーディングの世界にスポットを当てた作品だが、ただ当てている訳ではなく、タイトルの通り、シニア・シルバー層の女性たちが活躍する姿に焦点を当てている。非常に珍しい作品であるが、本作を観て思い出させるのは映画『カレンダー・ガール』や映画『チア・アップ!』(この作品のモデルは、本作が取り上げているチアダンスチーム「カレンダー・ガールズ」がモデル)、また高齢者によるヒップホップを題材にしたドキュメンタリー『ヤング@ハート』や高齢のおばあちゃんが昔からの夢であったランジェリーショップを開こうと奮闘する映画『マルタのやさしい刺繍』を想起させる。本作は、ドキュメンタリーでありながら、映像には遊び心が見え、演出や編集において作り手達の工夫がチラッと覗かせる。この彼らの創意工夫のおかげで、非常に観易い作品として昇華されている。単なるドキュメンタリーではなく、劇映画としても楽しめるため、ドキュメンタリーが苦手な方でもすんなりと頭に入る入門編的な役割も担って来る。また、作品の対象となるチアリーディングは、若い女性ではなく、皆さん70歳を越えたシニア・シルバー世代。恐らく、彼女達に対して色々か意見が飛び交うかもしれないが、彼女たちが輝きながら踊る姿を観ていると、何故だか気持ちがスッキリする。この作品で被写体となるシニアから構成されるチアリーディングチーム「カレンダーガール」は、フロリダ州を拠点に2005年から活動を続けているが、同じように高齢であるにも関わらずチアリーダーとして活躍しているのは、彼女だけではない。アリゾナ州フェニックスで活躍する「Sun City Poms」(※6)をご存知だろうか?彼女らも「カレンダーガール」と同様に、シニア層の女性たちから構成されたアメリカのチアリーディング・チームだ。また他に、シニア層のチームではなく、一般のチアリーディングではあるものの、調べてみるとエストニアというヨーロッパの国で「Team Estonia」(※7)やエストニアのクレサーレで唯一のチアリーディング「Saaremaa Tantsutydrukud」というチーム名も存在する。今、チアリーダーは世界共通のエンターテインメントであり、スポーツ競技だ。

TEAM ESTONIA | Coed Elite 📣🌟💜🌟 2022 ICU World Cheerleading Championships 🔥🔥

それでも、近年チアリーディングに関しての問題(※8)が、浮上しているのも事実だ。その背景には、盗撮問題が絡んでいる。それでも、多くのチアリーダーの方々が、国内外でご活躍しているのは目覚しい事だ。ここ日本でも、「カレンダーガール」や「Sun City Poms」と同様に、シニアの方々が中心となって活躍するチアリーディングが存在するのを、知っているだろうか?チーム名「ジャパンポンポン」(※9)は、平均年齢は70歳以上のシニアグループ。活動拠点は、恐らく東京ではあるものの、呼ばれれば日本全国、いや全世界に足を運ぶバイタリティ溢れる彼女達。「ジャパンポンポン」は、代表を務める滝野文恵さん(※10)が中心となって、有志5人のご友人から始まった日本のシニア女性によるチアリーディング・チーム。そもそも、この滝野さんの行動力が素晴らしく、お若い間に2回アメリカに語学留学を経験しており、53歳の時に、ノーステキサス大学の老年学修士課程に入学し、57歳で修士号を取得しているお方。明朗快活だからこそできるこの行動力は、自身が歳を重ねても真似をしたいほどだ。英語には、諺や慣用句的な言葉として「Age is Just A Number」という言い回しがあるが、意味は「年齢はただの数字に過ぎない」で、人は年齢に囚われることなく、様々な事にチャレンジできるという意味だ。自身もこの言葉を胸に(自身に言い聞かせ)、常に活動している。本作『70歳のチア・リーダー』を監督したマリア・ルーフブードさんとローベ・マルティンセンさんは、あるインタビューにて、本作における芸術的目標は何か、それを実現できたのか?そして、映画のストーリーテリングや登場人物の扱いを強化するために、映画撮影をどのようにしたいかと考えていたのか、と聞かれ

Loohufvid & Martinsen:“We wanted to capture the universe of the Calendar Girls—to really be within the group, not just looking at them from the outside. As directors and cinematographers, we were somehow a part of the group in every situation. We trusted our intuition and tried to capture every moment.We filmed with two Sony A7SII. One each. The lenses we used the most was a Voigtlander 40 mm and a vintage Tokina tele zoom lens.we didn’t want a big camera between us and the women being portrayed. We didn’t want that distance. In every situation we were there as persons—persons that happened to have cameras with us.”(※11)

ルーフブード & マルティンセン:「私たちは、「カレンダー・ガールズ」の世界を捉えたかったのです。彼女たちを外から見るだけでなく、実際にグループの中にいることを表現したかったんです。監督や撮影監督として、私たちはどんな状況でも、グループの一員として参加していました。私たちは自分たちの直感を信じて、あらゆる瞬間をも捉えようと心掛けました。また、私たちと彼女たちの間に大きなカメラを置きたくありませんでした。私たちは、そのような距離を作りたくなかったのです。あらゆる状況において、私たちは人として、たまたまカメラを持っていた人間として、そこにいただけなんだから。」と、答えている。如何に、撮影において、監督自身と「カレンダー・ガールズ」たち面々の距離感を、映画やカメラで測るのではなく、いち人間として触れ合おうとした努力が、監督たちの言葉から感じ取ることができる。だからこそ、本作を鑑賞すればするほど、鑑賞する側の私達が、チアリーディングの世界に没入しているかのように錯覚させられるのは、撮影に対する両監督の中の意識が、そうさせている事を知っておこう。

最後に、本作『70歳のチア・リーダー』は、シニア層・シルバー層の、おばあちゃんとは呼ばせない、女性たちやチアリーディングの世界を描写したドキュメンタリーだ。彼女達の姿を通して、老いとは何か、人生とは何か、生きることとは何かと、再度考える良い契機になれればと、願っている。私事ではあるが、自身の祖母は御歳90歳だが、健康維持のために通っている大学病院から90歳女性の健康を調べたいと言う医者からの申告の元、現在は健康食品を摂取し、アップルウォッチで日々の健康チェックをしている。その診断テストは、決められた限られた方しか入れなく、あらゆる項目、あらゆる質問をすべてパスしないと、この実験には参加できないので、ある種、健康な体でそこに参加できるのは奇跡なのかもしれない。私の父もまた、仕事を定年退職をした今、ほんの少しではあるが仕事をしつつ、70代半ばに差し掛かり、第2の人生として声楽の趣味に没頭している。自身の好きな事に対して、力を注げれるのは健康の証拠だろう。それでも、若者世代から本音を言えるとしたら、若者たちが活躍できる場、できる椅子を用意して欲しい(それは、ハングリー精神を持って、自身で勝ち取って行くものだと思うが…)。今は、お年を召された関係者の方々が業界を牛耳っているようにも感じるので、そこは敢えて引退を提言してもいいのかなと思いつつ、それでも何歳になっても現役で居続ける事への尊さは、リスペクトに値する。なので、シニア世代、若者世代の両サイドが気持ちよく働ける環境整備は、今後必須となりうるだろう。少子高齢化社会と叫ばれる昨今の日本、そんな世代間の溝を埋めるようにして、私達は協力し合える関係性を築いて行きたい。ここに興味深い動画がある。全国区の夕方のニュース番組「Live News イット!」から生まれた普段は調べないことを頑張って調べて報告するニュース特集「しらべてみたら」が、YouTubeにて幾つかアップされているが、その中にはシニア世代にとって必要不可欠となる「年金」。その年金事情を調べた興味深い特集番組を、制作している。シニア層、若年層、仕事や働く事に対して、それぞれ思う所があると思うが、それでも人生の諸先輩方のシルバー世代が、今でも現役で働いている事は、日本文化の誇りかもしれない(逆に言えば、年齢を重ねても仕事をしないといけない社会環境は、間違いなく政府の怠慢さだ)。シニア層達の「年金事情」。その裏では、働きたい人、働かざるを得ない人、生活や家庭に事情を抱えてる人国の方針に翻弄される人、ほんと様々な方々がおられるが、それでも元気に働ける職場があり、その環境があるのが素晴らしいこと。その反面、若い層から見れば、自身の50年先、60年先の姿として捉える事ができ、死ぬまで仕事に追われる人生もいいことないと感じてしまうだろう。「しらべてみたら」の年金編の動画は、何シリーズにも渡って制作されているので、これを機に視聴をしてもいいと思っている。様々な意見があると思うが、参考には必ずなる。

人気シリーズ年金の現実! 老後も働く?【しらべてみたら】

【しらべてみたら】年金の現実!東京と大阪で年金生活どう違う?

でも、なにであれば、何も感じることのない毎日。日々健やかに過ごせる環境こそが、一番の健康であるだろう。少し前に、映画『アキレスは亀』という作品でインタビューを行った際、「明るい未来を臨むには?」という質問を投げかけて頂いた返答が、平凡であり当然の答えであるにも関わらず、非常に感銘を受けた。心身共に健康であることが、私達の未来へと続いていく。また、下の動画6分後の取材内容が興味深いので、こちらも参考に観て欲しい。

【個性派コンビニ】出来たて惣菜&焼きたてパン&看板店員も!独自の魅力で人気のお店『every.特集』

本作『70歳のチア・リーダー』に登場する彼女達の姿を見てもらえれば分かると思うが、あの健康的な彼女達だからこそ、各々が輝いて見えるのだ。老化現象には抗える事はできないが、しかしながら、如何に心身共に健康である事が大切なのか、彼女達が身を持って伝えてくれている。身体は資本と言うが、まず心身の健康が伴わないと、日々を過ごせない。それが、本作の魅力であることは、間違いない。人生100年時代、私達は一体、何ができるだろうか?

ドキュメンタリー映画『70歳のチア・リーダー』は現在、関西では大阪府のシネ・ヌーヴォにて上映中。兵庫県の元町映画館は近日公開となる。また、全国の劇場にて、順次公開予定。

(※1)人間の「老い」は、じつは「必要なもの」だった…陸上哺乳動物で「人間だけ」が老いるワケhttps://gendai.media/articles/-/112974(2023年8月9日)

(※2)「老化」は抗えない現象か?治療可能な「病気」か?https://www.technologyreview.jp/s/172616/what-if-aging-werent-inevitable-but-a-curable-disease/(2023年8月9日)

(※3)老化を受け入れられないあなたへ。歳を重ねることを楽しむ3つの心得。https://makestyleyukiko.com/2021/05/26/not-accepting-aging/(2023年8月9日)

(※4)チアリーディングの歴史https://www.cheer-uniforms.jp/history/cheer-history.html(2023年8月10日)

(※5)チアリーディングの歴史ー150年間の総歴史https://cheerleading-jpn.com/cheer-history/(2023年8月10日)

(※6)Meet the Sun City Poms, the senior pom-pom squad that proves age is just a numberhttps://www.today.com/video/meet-the-sun-city-poms-the-senior-pom-pom-squad-that-proves-age-is-just-a-number-1403411011543(2023年8月10日)

(※7)Team Estoniahttps://www.eok.ee/team-estonia(2023年8月10日)

(※8)「本当は長袖なんて…」 盗撮防止に悩むチアリーダー 夏の甲子園https://mainichi.jp/articles/20230810/k00/00m/050/025000c#:~:text=%E5%9C%9F%E6%B5%A6%E6%97%A5%E5%A4%A7%E3%81%AE%E3%83%81%E3%82%A2,%E3%82%82%E3%81%AE%E3%82%82%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82/(2023年8月11日)

(※9)「90歳でも踊りたい」日本最年長のチアリーダーが体現する“生涯現役で楽しむ人生”https://www.oricon.co.jp/special/56833/(2023年8月11日)

(※10)いつも元気、いまも現役(シニアチアダンスチーム「ジャパンポンポン」代表 滝野文恵さん)https://www.tyojyu.or.jp/net/interview/itsumogenki-imamogeneki/takinofumie.html(2023年8月11日)

(※11)“In Every Situation We Were There as Persons—Persons That Happened to Have Cameras With Us”: DPs Love Martinsen & Maria Loohufvud on Calendar Girlshttps://filmmakermagazine.com/113050-love-martinsen-maria-loohufvud-calendar-girls-sundance-2022/(2023年8月11日)