映画『アメリカン・ユートピア』音楽の力は、あらゆる問題をも超越していく

映画『アメリカン・ユートピア』音楽の力は、あらゆる問題をも超越していく

2021年6月14日

映画『アメリカン・ユートピア』の作品概要

アメリカを代表する黒人監督スパイク・リーと、これまたアメリカを代表するミュージシャンのデヴィッド・バーンが、手を組んで制作した音楽映画。単なるライブ映像ではない!単なるバンド映画ではない!この作品には、デヴィッド・バーン自身の伝えたいことが、豊富に詰まった類を見ないミュージック映画だ。

映画『アメリカン・ユートピア』のあらすじ

あらすじそのものは、あってないようなもの。最初から最後まで、デヴィッド・バーンと、彼が率いるバックバンドが奏でる極上のパフォーマンスが見どころ。歌唱シーンの間に差し込まれるスピーチにも注目。彼が伝えたいことは楽曲の素晴らしさだけでなく、この演説にもたっぷり含まれている。とてもメッセージの強い本作『アメリカン・ユートピア』は、最後まで目が離せない至極の音楽映画だ。

映画『アメリカン・ユートピア』の感想とネタバレ

本作は、14年振りに発表したアルバム『アメリカン・ユートピア』のツアーを映像化した作品だ。作品冒頭から、休みなく怒涛のステージ・パフォーマンスが続く。個人的に気に入っている楽曲は、出だしの『Lazy』だ。

歌詞の内容は、何をするのも退屈と言う誰もが抱く倦怠感について。何もしたくないと言う億劫な気持ちを歌詞に乗せて歌っている。

例えば「I’m lazy when I’m lovin’, I’m lazy when I play.I’m lazy with my girlfriend a thousand times a day.I’m lazy when I’m speaking, I’m lazy when I walk.I’m lazy when I’m dancin’ and I’m lazy when I talk.」※1

一部を抜粋すると、いつでも倦怠感を感じている内容で、この歌詞に共感してしまいそうだ。誰でも時には、怠けてみたいと感じる時もあるだろう。デイビッド・バーンは、人々が抱くそんな感情をクラブ音楽に乗せて景気良く歌っている。歌詞の内容とは逆に、聞くだけで明るい気持ちになれる洗練されたナンバーだ。

そして、もう一曲記憶に残っているのは、作品の中盤以降で演奏される『Hell You Talmbout』と言う曲だ。元々は、ジャネール・モネイと言うシンガーが、制作した作品だ。ある抗議活動の一環として、この曲が披露され、その内容にアメリカ人の多くが同調した。

『Hell You Talmbout』は“一体何について話しているのか?”と言う問いかけ。人種問題、銃社会、マイノリティ格差など、それらについて抗議しようと人々に促している。作中、銃弾で倒れた黒人たちの名前が読み上げられ、写真が映し出されていく編集は感動的だ。デイビッド・バーンは、この曲を通して世の過ちに対して異議を唱えている。

本作は前半と後半の演出が、ガラッと変わっている。なぜ、本作は前半後半で作品の趣きを変えようとしたのか?前半は豪華絢爛なライブ映像だったが、終盤になるにつれメッセージ性が強くなる。デイビッド・バーンが、最も伝えたい事は、後半に詰まっている。前半はライブ映像、後半はメッセージ性に富んだ構成になっている。

本作は、有権者に選挙に行こう、投票をしようと訴えかける作りだ。近年アメリカでは、政治発言が目立つ若い著名人が現れている。デイビッド・バーンも、彼なりのメッセージを得意なフィールドで発信しているのだ。

この作品がテーマとして掲げる問題は、日本でもタイムリーな事柄だ。昨今、首相と名乗る指導者は、国民からの支持率が低い人物ばかり。その問題は一重に、このコロナ禍でのリーダーとしての素質の是非が、問われている。

少し話しは変わるが、映画評論家の町山智浩氏の著書『今のアメリカでわかる映画100本』※2の中で取り上げているドキュメンタリー『I.O.U.S.A』では、アメリカ政府が抱える負債について言及している。

ブッシュ政権は、イラク戦争のために財政を使い、借金に手が回らなくなり、国民年金にまで手を出した。次のオバマ大統領が、ブッシュの時代に抱えた借金を景気刺激策で回復させようとした。しかし、次のトランプ大統領は、1兆ドルの投資をし、財政赤字は無限に広がる一方だと言う。現大統領のバイデン氏の政策が、今後気になるところだ。詳しくは、先に挙げた著書で詳しく紹介されている。

指導者の統率力がいかに重要か、心底感じる話だ。消極的なリーダーを一掃しない限り、日本の将来は変わらない。今の社会をより良くする選択肢は、ひとつしかない。本作『アメリカン・ユートピア』は、国民一人一人が有権者として選挙や投票に積極的に参画することだ。ホストを勤めるデイビッド・バーンは、そう心から願っている。

※1楽曲『Lazy』の一部から抜粋。

※2引用元:町山智浩(2017) タイトル『今のアメリカがわかる映画100本』44-47

映画『アメリカン・ユートピア』のまとめ

本作『アメリカン・ユートピア』は、洗練されたパフォーマンスが観れる貴重な作品だ。本作は既に爆音上映も決まっており、人気は加速度を増していくだろう。映画ファンの評価も高く、今年公開作品の中では観て損は無い作品だ。

タイトル『アメリカン・ユートピア』のロゴが、逆さまになっている逆説的否定的にしている演出が素晴らしい。最後にファンが出待ちする中、颯爽と現れたデイビッド・バーンのチャーミングな姿にも親近感を覚えるだろう。

ただ、音楽と言うキーワードだけに固執せず、デイビッド・バーンが伝えたい、もう一つの主題でもある“政治”ネタにも耳を傾けて欲しい。

本作は、音楽の力を借りて、作り上げられたポリティカル映画なのだ。デイビッド・バーンが、表現するミュージック・パワーに劇場で圧倒されること間違いなしだ。

映画『アメリカン・ユートピア』は現在、大阪ステーションシティシネマTOHOシネマズなんば神戸国際松竹TOHOシネマズ西宮OS京都シネマにて、絶賛公開中。また、京都府のTOHOシネマズ二条、大阪府のTOHOシネマズ梅田は、近日公開予定。