「正義」について問いかけるドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』
「暴力」は、未来永劫、無くなることは無い。
どれだけ暴力に対して、撤廃運動が盛んに行われようが、人々の一人一人の意識が変わらない限り、どんな未来であっても、暴力が消滅することは決してない。
それを胸に留めておきながら、ドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』を鑑賞すると、180度考え方や価値観、感じ方は大幅に変わってくるだろう。
本作は、2018年から2019年まで続いた抗議デモ(※1)「黄色いベスト運動」の実態を、デモ参加者である当事者や有識者24人を集めて客観的に観察し、意見を述べる姿に迫った非常に実験的なドキュメンタリーだ。
この手法に良く似たドキュメンタリー映画『これは君の闘争だ』が、昨年日本でも公開されている。
ブラジルの学費問題を発端に学生と呼ばれる10代の若者たちが、自身の教育の自由を声高に主張して、校舎に立て籠る抗議活動を行った。
その時、リーダーだった三人の若者が、作中でナレーションを務める。
自身が行った抗議デモを客観視しながら、作品とその時の様子を紹介していく構成が、とても実験的だったと言える。
話を戻して、本作『暴力をめぐる対話』が取り上げている「黄色いベスト運動」と呼ばれる抗議デモの内容は、如何なものだろうか?
ここ日本に暮らしていると、海外のニュースとなるとロシア・ウクライナ戦争と言った大きな出来事の報道がほとんどとなり、小中の事件はなかなか伝達されにくい。
2018年から起きたこの運動は、農村部や都市部周辺の人々が中心を担ったデモだ。
抗議内容は、「燃料価格の上昇」「生活費の高騰」「政府の税制改革の負担が労働者や中産階級に及んでいること」「燃料税の削減」「富裕層に対する連帯税の再導入」「最低賃金の引き上げ」「マクロン大統領の辞任」を声高に主張したものだった。
市民によるこのムーブメントは、2018年5月から始まり、収束したのは2019年6月だ。
実に、一年の間、フランス人達は国の政策に対して、戦い続けた。
また、民主化運動は、フランスだけでなく、度々この媒体でも取り上げている香港の民主化運動もまた、記憶に新しい。
長年続いているミャンマーでの軍による独裁政治への反発から起きた民主化運動は、今も尚続いている。
近年では、ロシア・ウクライナ戦争における、ロシア国内で「戦争反対」と異を唱えるロシア人による(※2)デモ活動が、数ヶ月前、連日のように行われ、多くの出来事が日本でも報道され、注目を集めた。
また先日、起こることがないだろうと思っていた中国国内では、政府に対する(※3)抗議デモが市民団体によって行われた。
世界各国で行われる市民による抗議デモの理由や目的は、様々だ。
今回、本作『暴力をめぐる対話』が取り上げたフランス政府に対するデモは、マクロン大統領やフランス国会の政策に対する不満が爆発したもの。
また、ロシアで起きた抗議活動は、プーチン政権に対する戦争反対が主な理由だ。
そして、先日中国で起きた市民によるデモは、中国政府の極端なゼロコロナ対策に対する長年の蓄積された不満が、噴出した結果と言えるだろう。
国も違えば、起きた時期も違うが、一貫して言えることは、政府への不満、そして暴徒化した市民を抑えるための「暴力」が、どこの国でも起きている。
本作で監督を務めたダビッド・デュフレーヌ氏は、あるフランスのインタビューにおいて、「この議論に取り組むことは、あなたにとって重要だったか?」と問われ、監督は
ダビッド・デュフレーヌ:「映画の中で、小説家のアラン・ダマシオはウェーバーの言葉を引用せず、今日のメディアで実際に語られている言葉をそのまま使用しています。両者の違いは、非常に重要です。この映画は、ウェーバーの正確なフレーズ に疑問を投げかけています。「暴力」が、「合法?」であるか、講演者に尋ねます。私にとって、それは「要求が厳しい」ものです。国家がそれを主張するなら、あなたは模範的でなければなりません。そして、今までなかった警察の暴力を証明する書類が揃っているので、模範を示すことが第一義ではないと言っても過言ではありません。」と話す。暴力が、合法かどうか、その是非を出演者の討論を通して、本作は観客たちに語り掛ける。
最後に、本作『暴力をめぐる対話』は、作品に参加したデモの当事者や有識者を交えて、「暴力」に対する理非曲直を問うた作品だ。
なぜに、人は同じ国民であるにも関わらず、暴力で事の鎮静を図ろうとするのであろあか?
昨今、暴力こそが「悪」だ、とまで言われている。
パワハラ、セクハラ、モラハラ、ソジハラなんて言葉も産まれ、コンプライアンスに対する人々の意識が変わりつつある。
ただ、暴力は今挙げた物だけではない。
「暴力」は、人々が無意識の中で振るわれている。
例えば、年齢や性別、年上年下、男女、老若男女、大人子供関係なく、人は人に対して「リスペクト」しているだろうか?
ちゃんと、他人に対して尊敬の念を払えているのだろか?
これは自身にも返って来る言葉ではあるが、自分可愛さ余り、他人の心を蔑ろにしいないだろうか?
もし自分を可愛がりたいのであれば、まずはあなたの目の前にいる他人から愛してみては、どうだろうか?
自身のことを知って欲しければ、まずは他人のことを知ることが大切だ。
人へのリスペクトが、欠落している昨今、これもまた暴力の一つだと言える。
今、あなた方は本作に出演しているデモ活動の当事者達のように、自身を客観視できていますか?
ドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』を通して、これら挙げた「暴力」の可否について、今一度、考え直して欲しい。
現在、日本国内で暮らす1億2,322万3,561人に伝えたいのは、本作を通して、自身の振る舞いについて、客観的に振り返りができているかどうか。
ちゃんと、他人に対して尊敬の念を抱けていますか?
自身を振り返り、客観視する事で、暴力は自然と減っていくだろう。
ただ、何もせず、今の状態が続くのであれば、「暴力」は未来永劫、無くなることはない。
ドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』は現在、兵庫県の元町映画館にて、近日上映予定。また、全国順次公開予定。
(※1)フランスの黄色いベスト運動とは?2018年、燃料価格高騰等に対するデモが発出https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/terrorism_riot_demonstration/6310/(2022年11月29日
(※2)ロシア、動員令に抗議活動 全国で1300人超拘束=人権団体https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-mobilisation-protests-idJPKBN2QM1OB(2022年11月29日
(※3)中国 「ゼロコロナ」への大規模抗議活動 北京 上海 広州などでhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20221128/k10013905571000.html(2022年11月29日)
(※4)Interview cinéma : David Dufresne pour son film ” Un pays qui se tient sage”http://www.baz-art.org/archives/2020/10/05/38544607.html(2022年11月29日)