映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』個人の声に耳を傾けて

映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』個人の声に耳を傾けて

2024年2月16日

SNS時代のマネー狂騒!映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

金融機関をテーマにした映画は、山ほどある。その元祖と呼べる映画は、1987年公開の映画『ウォール街』だ。2010年には、続編『ウォール・ストリート』も制作され、シリーズ化する程の人気を集めた金融系映画の代表格にして、ボス的存在だ。その他にも、2016年公開の映画『マネーショート 華麗なる大逆転』は、2008年9月15日から連鎖的に倒産が相次いだリーマン・ショック(※1)から立ち上がった数人の金融マンの姿を描いたサクセス・ストーリーだ。2011年公開の映画『マージン・コール』は、2007年に発生したリーマン・ショックの24時間に焦点を当てた作品。同じく、2011年公開のドキュメンタリー映画『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』は、上の作品同様に、サブプライムローン問題に端を発したリーマン・ブラザーズの経営破綻とそれに続く世界規模での金融危機をドキュメンタリーとして描いた作品。2009年公開の同じドキュメンタリー映画『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』は、ドキュメンタリー映画の監督として知られるマイケル・ムーアが、資本主義経済に鋭いメスで切り込んだ金融ドキュメンタリー。続く2012年公開の映画『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭』は、ニューヨークの大物ヘッジファンドが一代で築いた富と暴落を描いたヒューマン・サスペンス。1998年の公開の映画『マネートレーダー/銀行崩壊 』は、1995年に投資銀行ベアリングス銀行が、破綻した事件を題材にした実録映画。2013年公開の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、元株式ブローカーのジョーダン・ベルフォートの回想録『ウォール街狂乱日記 – 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』を原作とした金融系映画。また邦画では、1999年公開の映画『金融腐蝕列島 呪縛』は、腐敗した大銀行を再生すべく、立ち上がった中堅行員たちの姿を活写した社会派ドラマ。少し番外編となるが、80年代の日本のバブル期が非常に分かりやすく描かれている2006年公開の日本映画『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』など、ここ40年の間に数多くの金融系映画が誕生した訳だが、この度、本作『ダム・マネー ウォール街を狙え!』が誕生し、堂々と金融系映画の仲良く入りを果たしている。挙げた10の作品と本作『ダム・マネー ウォール街を狙え!』の違いは、今まで大手ヘッジファンドか銀行からの視点、またリーマン・ショックと言った世界金融危機からの視点が多かったが、この作品では個人投資家からの視点で一貫して描かれている。団結した個人の投資家達が、ジェットコースター相場に落とし込み、大手ヘッジファンドに復讐する話だ。まさに、2021年のコロナ禍の時期に、修羅場となる下克上の世界がアメリカの金融業界で繰り広げられた。

©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

世界的恐慌の歴史を振り返ってみると、経済混乱は頻繁に起こっている。最も有名な株価暴落からの金融危機に陥った事例は、後に暗黒の木曜日と呼ばれるようになる1929年10月24日に起きた世界恐慌(※3)だ。未曾有の経済危機が起き、大恐慌の始まりを告げる笛が鳴った。その原因は、1920年代のアメリカ経済の好況の中で進んだ株式投資ブームが加熱。1929年、その反動が起こり、株価暴落が世界恐慌の引き金となった大事件。大きな経済発展が齎したのは、日本にも大きな影響を与えた世界中の経済破綻だ。この世界恐慌より以前の世界恐慌と言えば、1873年恐慌だ。日本の教科書には、ほとんど紹介されていないが、「1873年恐慌」とは、1873年から1879年までヨーロッパと北アメリカで不況を生じさせた金融危機を指す。中には、更に、長引いた国もあったと言われている。たとえば、イギリスでは、大不況と呼ばれる経済停滞が20年間起き、世界経済をリードしてきた英国の国力を弱らせる事態に陥った。農業恐慌が、金融恐慌を引き起こしたとさえ、言われている。1873年の世界恐慌以前(※3)にも、穀物の物価高、安価なアメリカ産穀物の問題など、幾度となく世界規模での経済破綻を経験している。1909年に、アメリカの映画の父と呼ばれたD・W・グリフィスが発表したおよそ15分の短篇『小麦の買い占め(A Corner in Wheat』は、まさにこの時代の背景を描いている。グリフィス自身は、この作品で今まで封じていた政治ポピュリズムを前面に出し成功を収めているが、この時の反動が原因で、後に制作した『國民の創生』で映画人生を揺るがす程の大敗を期したのは有名な話だ。話を戻して、ここ日本でも金融危機を経験しているのは、周知の事実だ。1986年から1991年の5年間、日本は好景気に大いに揺れていた。1988年頃から好景気を一般の人々までもが実感し、株価の急上昇、不動産価格の上昇、また個人資産なども大幅に増大し、社会全体が今までにない好景気を実感した最高潮の時期だった。これをバブル景気(※4)と、人々は呼ぶ。このバブルが弾けたのが1990年3月27日、土地バブル潰しのため、大蔵省が「土地関連融資の抑制について」を発表。いわゆる、総量規制が通達され、日銀も引き締めに動き始めた。これが、後に言われる「バブル崩壊」の引き金となったと言われている。また、日本のバブル絶頂期(※5)は、1989(平成元)年12月29日がこの年の年内最後の取引日「大納会」を迎えた。東京証券取引所では、日経平均が史上最高値を付け、この日をバブル景気に揺れる日本の絶頂期として捉えられている日だ。しばらく、日本国内でも、海外でも世界規模の経済破綻は発生しなかったが(1995年(平成7年)2月26日)には、英国・ベアリングス銀行が経営破綻(※6)をしているが、こちらも非常に有名な銀行破綻)、2008年大規模な世界的金融危機が起きた。これが、リーマン・ショックだ。リーマン・ショックの発端は、米住宅バブルの崩壊と言われている。信用力の低い個人向けの住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きが進み、それらを束ねた証券化商品が値下がりした結果、大量に保有していたリーマンの資金繰りの雲行きが怪しくなった。サブプライム関連の金融商品は、世界中に出回っていたのも原因となり、疑心暗鬼による信用不安が世界の金融機関に連鎖反応した。その結果として、世界中が不景気に陥った。また、2009年頃に問題にもなったギリシャ危機(※7)も記憶に新しいが、この危機を脱するために、ギリシャ政権が取った政策は、国民負担も大きくデモや暴動を引き起こさせる代償も払った。ギリシャ本体は無事経済危機を脱したが、今日本は増税問題(※8)で揺れている。今後、他国の経済破綻と同様に、日本も「日本経済危機」「日本経済破綻」を引き起こさないように、私達国民一人一人がこれからの経済の動向を注意しなければならない局面に来ている事を、心のどこかに留めていて欲しい。

©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

さて話を戻して、映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、先にも述べたように、個人投資家集団が大手ヘッジファンドに仕掛けた驚きの経済事件が注目を集めた。それが、「ゲームストップ株騒動」(※9)だが、キース・ギルを筆頭に主だって行動に移したのはネットの中いるユーザーだ。匿名を用いて集団でエリート集団に闘いを挑んだ「オタク集団」。もしくは、アメリカの金融経済を引っ掻き回した結果、今後アメリカ当局から厳しい締め上げを受ける可能性もある。そんな危険を犯してまで彼等が何を目的に経済混乱を攪拌させたのか分からない部分もあるのではないだろうか?それでも、彼らネットの中の住民が、大手資本家や投資家、ヘッジファンドに石を投げつけた行為(※10)は、「ダビデとゴリアテ」(※11)もしくは、王様(権威)のパンツを無理やり引き摺り下ろす民衆蜂起の象徴だ。「ダビデとゴリアテ」の物語は、日本の昔話で言えば、「弁慶と牛若丸」の関係だろう。時に、弱者が強者に勝る時がある。今回の「ゲームストップ株騒動」は、まさにこれに当てはまる。巨大な経済業界に闘いを挑んだのは、名も無き英雄達だ。果たして、この騒動が日本で同じように起きるか問われれば、結論から言えば、答えはノーだ。日本は、起きにくい環境にあるから、アメリカと同じ状況にはなりにくいと言われている。私自身は投資や株の世界には疎いので、どう捉えれば良いのか困る一面もあるが、専門家が起きないと言ってはいるが(※12)、下手をすれば日本でも同じ事が起きる可能性もゼロではないと思う。今回の騒動を引き起こした人物と同じように、その素質を持つ日本人がいるとしたら、安易に安心はできないのではだろうか?本作を制作したクレイグ・ギレスピー監督は、あるインタビューにて、作品のセリフについて、こう話す。

Gillespie:“There’s a great line that we put in , which is, “They were considered a fringe movement, and now they can move markets,” and that’s the seismic shift that’s happened.”

©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

ガレスピー監督:「私たちが入れた素晴らしいセリフがあります。それは、「彼らは非主流の運動だと考えられていましたが、今では市場を動かすことができるようになりました」というもので、これは地殻変動(天変地異)です。」(※13)と話す。「彼らは非主流の運動だと考えられていましたが、今では市場を動かすことができるようになりました」という言葉には、本当に深い意味がある。監督は、企業主体の時代は終わったと、訴えたいのだろうか?集団や団体の力に勝るものはないが、個人の力が今後、如何に大切になると説きたいのか。それは分からないが、この騒動を通して、また本作『ダム・マネー ウォール街を狙え!』を通して、私達は時に小さな力が大きな権力に立ち向かえる事を知る事ができるだろう。

最後に、映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、アメリカ金融経済に一泡食わせた個人投資家集団の復讐を描いた金融映画だ。経済、金融、経済破綻、金融危機、バブル崩壊などというキーワードが並ぶと、少し難易度の高い作品と受け取ってしまいそうだが、この作品の本質は経済のお話では無い。この物語が一番伝えようとしているのは、個人の力だ。随分と昔から企業や団体、集団が幅を利かせ、権力が物を言う時代が当然とされていたが、この「ゲームストップ株騒動」を通して、個人の力が如何に社会を動かす事ができるのか、その点を問うている。監督自身も、この点に着眼点を置いていると考えても良い。これからの未来、個人がより声を大にして発信できる社会にしなければならない。私個人は、権力とは争いたくなく、共に並走できることを強く願う。


©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は現在、全国の劇場にて上映中。

(※1)リーマン・ショックとは 金融機関で信用不安が連鎖https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB159YE0V10C23A9000000/#:~:text=%E2%96%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF%202008%E5%B9%B4,%E7%99%BA%E5%B1%95%E3%81%97%E3%81%9F%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82(2024年2月16日)

(※2)「暗黒の木曜日」とは?世界恐慌のきっかけとなった大暴落の1日を解説https://dime.jp/genre/1674884/#google_vignette(2024年2月16日)

(※3)はじめに:『穀物の世界史 小麦をめぐる大国の興亡』https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/020500533/(2024年2月16日)

(※4)バブル景気(ばぶるけいき)https://www.tokaitokyo.co.jp/sp/kantan/term/detail_0433.html(2024年2月16日)

(※5)【1989(平成元)年12月29日】日経平均が史上最高値、バブル絶頂https://media.rakuten-sec.net/articles/-/43733#:~:text=1989%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%90%E5%85%83%EF%BC%89%E5%B9%B412%E6%9C%8829%E6%97%A5%E3%80%81%E5%B9%B4%E5%86%85,%E7%A9%BA%E5%89%8D%E3%81%AE%E5%A5%BD%E6%99%AF%E6%B0%97%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82(2024年2月16日)

(※6)英国・ベアリングス銀行が経営破綻【1995(平成7)年2月26日】https://media.rakuten-sec.net/articles/-/40625(2024年2月16日)

(※7)今さら聞けない「ギリシャ危機」って何だっけ?https://www.am-one.co.jp/warashibe/article/chiehako-20190820-1.html(2024年2月16日)

(※8)経団連はなぜ消費税を上げたがるのか?「日本国民を不幸にする」増税案を打ち出したワケhttps://diamond.jp/articles/-/329504?_gl=1*1kuohqh*_ga*YW1wLV9HQ1U1a3Z6OHVod0ZONHlBVjVzaktvbS1wbE9iUnhmZXBtbERkbnB5ekh4QzY3MlFGZWJkVXoxTXRrb0lnWFI.*_ga_4ZRR68SQNH*MTcwODA1MDU5MS40LjEuMTcwODA1MDU5Mi4wLjAuMA(2024年2月16日)

(※9)個人投資家の逆襲:個人がヘッジファンドを潰したゲームストップ事件とはhttps://hedgefund-direct.co.jp/column/hedgefund/individual-investorshedge-funds/#index_id0(2024年2月16日)

(※10)「ゲームストップ騒動」示す侮れない社会の変化エリートへの反乱が起こりやすくなっているhttps://toyokeizai.net/articles/-/409732?page=3(2024年2月16日)

(※11)【興奮中】375%UP!「ダビデ」が「ゴリアテ」を倒しました。https://dlpo.jp/blog/david-goliath.php(2024年2月16日)

(※12)個人が機関投資家を打ち負かす ゲームストップ事件は日本でも起こるのか?https://www.itmedia.co.jp/business/spv/2102/15/news129_2.html(2024年2月16日)

(※13)’Dumb Money’ Director Craig Gillespie Wants the Audience to Feel the Outrage of the System “Rigged Against Them”https://collider.com/dumb-money-director-craig-gillespie-interview/(2024年2月16日)