ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』献身的な精神を培う必要性

ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』献身的な精神を培う必要性

売られる子どもをなくしたいドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』

©2024 NPO法人映像記録/ウェストサイドプロダクツ

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សំដីប្រាប់ភាសា កិរិយាប្រាប់ជាតិ មារយាទប្រាប់ពូជ ។(言葉は言語を語り、行動は国家を語り、習慣は民族を語る)(※1)

これは、カンボジアの公用語であるクメール語の諺だ。文末でも同じクメール語の諺を用意しているが、このカンボジアで知られる2つの諺「សំដីប្រាប់ភាសា កិរិយាប្រាប់ជាតិ មារយាទប្រាប់ពូជ ។」と「បុគ្គលឧត្តមខ្ពង់ខ្ពស់តែងតែដាក់ខ្លួន ក្នុងការនិយាយស្តី ប៉ុន្តែធ្វើឲ្យលើសលុបក្នុងសកម្មភាពរបស់ខ្លួន」をカンボジアで「ひとりNGO」を立ち上げた栗本英世氏に捧げたい(本来は、「Oka」(クメール語で「チャンス」)で諺を探したかったが、見つけられ無かったので、作品と少しニュアンスが違って来るかもしれないが、大目に見て欲しい)。80年代後半から東南アジアに移住し、たった一人でその地域の社会の暗部に手を差し伸べて来た人物。テレビや新聞が取材して有名になった人物でもなく、ただひっそりと何十年にも及ぶ支援活動を一人で続けて来た。キリスト教出身の人だからこそ、「ボランティアは誰でもできる」を信条に世のため人のため、社会的弱者の人々を救い続けた社会活動家。その反面、彼の私生活は謎のベールに包まれ、誰も知る由もない。彼がどんな人生を歩み、なぜ東南アジアに辿り着き、たった一人でカンボジア人に支援の手を差し伸べて来たのかを?表面上の経歴は公表していても、その彼の中にある真の目的は誰も知らない。ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』は、東南アジアで「ひとりNGO」として活動し、2022年に71歳で他界した「OKA」こと栗本英世さんの足跡をたどったドキュメンタリー。

©2024 NPO法人映像記録/ウェストサイドプロダクツ

」今私達が暮らす日本という国が、如何に平和で穏やか身に染みて思い知るだろう。この日本という国の外側にある諸外国に置かれた環境は、ここ日本に暮らす私達では、到底、想像もできない世界がある。日々の日本のニュースでは、報道しない各国が直面する問題に私達日本人は皆、無関心の塊だ。日本人は、日本国内で起きている事、自身の身の回りで起きている事、自身の日々の生活の安定を支える事が必死で、外国で一体何が起きているか、誰も興味を示さない。少し冷たいかもしれないが、他者を助けるだけの力がなく、自身の生活で精一杯。誰が、日本以外の国が置かれている現状に興味を持つと言うのだろうか?それでも、ほんの少しでいい、たった1ミリでもいいから、世界が今、置かれている現状に関心を示して欲しい。カンボジアでは今、随分昔から人身売買や臓器売買の問題が指摘されており、人身売買の送り出し国であると同時にベトナム少女たちの受入国、経由国となり、カンボジアという国は人身取引の犯罪の温床となっている。「騙されてニワトリのように売られた」(※2)この言葉は、人身売買の被害にあったカンボジアの少女が実際に発したものである。カンボジアでは国内の村から観光地や首都プノンペンへ売られるケースも非常に多く、その背景には、人口の35%が貧困ライン(1日0.5ドル)以下で暮らしており、特に農村の貧困の深刻化と都市との格差の拡大が原因の一つとして挙げられる。また、大きな要因としては、中国人や韓国人、そして、日本人が処女に対して支払う’値段’の高さや、犯罪組織が人身売買で得ている巨大な利益が少女の性に対する需要を生み出していると指摘されており、私達日本人の一部が、この人身売買の犯罪に加担していると認識する必要がある。カンボジアは地雷被害が深刻な国の一つで、ベトナム戦争と内戦で埋められた地雷により、現在も多くの人が被害に遭っている。推定400万から600万個の地雷が残り、地雷による死傷者の数は毎月平均200人、そのうち18%が子ども達だ(※3)。人身売買、臓器売買、それに地雷問題。これらの問題に直面しているか弱き子どもと村の民だ。少数民族になればなるほど、カンボジアの人権は得られない。名も無き人々が今も、危険に晒されている。私達が今、何が出来るのか?私達に託されたものは、一体何か?「ひとりNGO」を立ち上げた栗本英世氏の姿を通して、何が出来るか一緒に考えたい。

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日本では人身売買なんて言葉、国内で暮らしていら、聞いた事がないだろう。日本では、人の失踪事件や行方不明、誘拐事件は耳にする事もあるだろうが、その事件が人身売買に直接結び付く事はまずなく、普通に暮らしていたら、一生関わる事が無い問題だ。人身売買は、海外の問題であり、島国の日本には関係ないと高を括っているなら、それは大きな勘違いだ。カンボジアやその他東南アジア諸国の地域で問題視されている人身売買、臓器売買、児童売春(※4)はここ日本国内で現在進行形として、今起きている事を知っていて欲しい。「人身取引(性的サービスや労働の強要等)」とは、暴力、脅迫、誘拐、詐欺などの手段を用いて、支配下に置き、闇組織に引き渡し、売春や性的サービス、労働などを強要する犯罪であり、重大な人権侵害と世界中から問題視されている。近年の事例としては、①出会い系サイトを通じての売春。②短期滞在の在留資格で入国させたフィリピン人女性4名を被疑者が経営する飲食店に雇い入れ、渡航費用名目で借金を負わせ、旅券を取り上げ、監視下に置き、不法残留させたままホステスとして稼働させた事案。③実習実施者として受け入れていた複数の技能実習生に対して暴力を振るい暴言を浴びせ、技能実習生のぜい弱な立場に乗じて違法な時間外労働を行わせる事案。これらは、全体の氷山の一角に過ぎない。ほとんどの事件が外国から日本に技術の習得や出稼ぎ、留学目的で入国して来た外国人が巻き込まれているかもしれないが、その中には日本人が日本人に。大人が未成年者に対して行う人身売買の実態がある。たとえば、今年の年明けの2月頃、関西で問題になっている居場所を無くして、グリ下に居座っていた10代の未成年者に嘘を言って連れ出し、東北地方で一日中、売春行為をさせた事件(※5)や今年の年明けに発覚した未成年の高校生が、騙されてタイへ渡航し、そのまま拉致監禁され、詐欺事件への片棒を担がされた事件(※6)もまた、これらすべて人権侵害と言っても間違いではないだろう。カンボジアで起きている人身売買とは質や規模は違うにしても、日本の私達の生活のその隣にも、人身売買の恐怖や危険性は迫っている。その点で言えば、栗本氏の活動を遠巻きに見るのではなく、私達の日常に潜む問題として、人身売買を捉えた時、きっとこの映画が私達の生活とより近い場所に位置していると考えても良いだろう。ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』を制作した牧田敬祐監督は、あるインタビューにて本作の被写体となったOKAさんこと栗本英世氏について、こう話す。

©2024 NPO法人映像記録/ウェストサイドプロダクツ

牧田監督:「最初に会ったときから変わらない人でした。とっても魅力的で、知れば知るほど大好きになっていきました。OKAさんがいなくなって、肉親を亡くしたように寂しいです。「どんな形でまとめたらええんや?」と悩んだりもしましたが、映画にOKAさんを残せて良かった。これでOKAさんを知ってもらえます。OKAさんのぬくもりが伝わっていけば、幸せです。OKAさんの志を受け継いで現地にいるスタッフと相談して、村々を回ってこの映画の上映会をする計画があります。映画キャラバンです。向こうで上映するには吹き替えも必要ですし、移動の経費もかかります。どうぞ応援をよろしくお願いいたします。」(※7)と。栗本英世氏のお人柄は、一言では筆舌に尽くし難い神々しさを持っているのだろう。それは、各々のインタビュー記事や映画だけでは計り知れない栗本氏本人の中に眠る人としての偉大性を兼ね備えているのだろうか?

©2024 NPO法人映像記録/ウェストサイドプロダクツ

最後に、ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』は、東南アジアで「ひとりNGO」として活動し、2022年に71歳で他界した「OKA」こと栗本英世さんの足跡をたどったドキュメンタリーだが、この作品はボランティア精神に乗っ取った一人の男の物語ではない。彼の姿を通して、慈愛の心、無慈悲の精神を再度、認識させられるだろう。私が活動拠点に置いている関西では、学生団体バオバブ(※)というカンボジアでボランティア活動をする学生達が日本の関西にいる。彼ら学生は、渡航費をアルバイト代で工面し、募金活動をし、遊びよりボランティア活動を優先し専念している学生団体だ。彼らは、日本のお祭りや花火文化をカンボジアに届けようと一年中、活動を続けている。少しでも、日本でこのような学生や大人達が増える事を願って止まない。また今回、私はカンボジアにおける人身売買の実態や日本国内における人身売買の実情を書き連ねたが、本来はそうではなく、OKAさんこと栗本英世氏が敬愛するマザーテレサのような慈愛の心に満たされた人が一人でも、この世界に、この社会に誕生するよう栗本氏は願っている違いない。この世界に少しでも献身の精神があれば、悲惨な事件や事故、問題は起きない。起きたとしても、最小で食い止められる。栗本氏の背中を通して、私達は見返りを求めない献身的な精神を培う必要性があるのかもしれない。この作品が、それらを包括するすべてなのだろう。

បុគ្គលឧត្តមខ្ពង់ខ្ពស់តែងតែដាក់ខ្លួន ក្នុងការនិយាយស្តី ប៉ុន្តែធ្វើឲ្យលើសលុបក្នុងសកម្មភាពរបស់ខ្លួន(偉大な人は、言葉では謙虚だが、行動では優れている)

©2024 NPO法人映像記録/ウェストサイドプロダクツ

ドキュメンタリー映画『OKAは手ぶらでやってくる』は現在、関西では5月24日(土)より大阪府のシアターセブンにて公開中。また6月6日(金)より京都府の出町座、6月13日(金)より兵県の神戸映画資料館豊岡劇場にて上映予定。

(※1)អភិក្រមវាចា៖ ៦៨ សុភាសិតខ្មែរនិងសកលទាក់ទងនឹងការនិយាយស្តីhttps://www.lokavidunews.com/2017/10/blog-post.html?m=1(2025年6月3日)

(※2)特集 アジアの子どもの人権 Part2 カンボジアの子どもの人権~性的搾取や人身売買と子どものエンパワメントhttps://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section2/2006/01/post-205.html(2025年6月4日)

(※3)カンボジアの地雷と今も闘い続ける人々https://aarjapan.gr.jp/report/15417/#:~:text=%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%A7%E3%81%AF%E5%86%85%E6%88%A6%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%80%81%E3%83%9D%E3%83%AB,%E3%81%86%E3%81%A1%E5%9B%9B%E8%82%A2%E5%88%87%E6%96%AD9%2C088%E4%BA%BA%EF%BC%89%E3%80%82(2025年6月4日)

(※4)「人身取引」は日本でも発生しています。あなたの周りで被害を受けている人はいませんか?https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201111/3.html(2025年6月4日)

(※5)大阪・道頓堀のグリコ看板下で勧誘、東北で売春させる…少女「知らない土地で連れ回された」https://www.yomiuri.co.jp/national/20250214-OYT1T50077/(2025年6月4日)

(※6)ミャンマーで保護 日本人高校生 中国系の男の指示で詐欺加担かhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20250221/k10014728831000.html(2025年6月4日)

(※7)『OKAは手ぶらでやってくる』 牧田敬祐(けいゆう)監督インタビューhttp://cineja-film-report.seesaa.net/article/515099487.html(2025年6月4日)

(※8)学生団体BAOBABhttps://college.co.jp/user/1821/view(2025年6月4日)