映画『東京カウボーイ』何を成し遂げたかが大切

映画『東京カウボーイ』何を成し遂げたかが大切

喧騒の東京から、大自然が広がるモンタナへ…映画『東京カウボーイ』

ビジネス砂漠のど真ん中。東京都心の営利的競走競合は、日本の経済をより良くする経営の基本だ。今の世の中、どこの企業に就職しても、ビジネス、ビジネス、ビジネス。利益、利益、利益。営業、営業、営業。結果、結果、結果と口うるさいほど、収益にがめつく、売上利益主義が横行している。この売上至上主義(※1)こそ、労働者の労働感覚を狂わせ、薄利多売や厚利少売の精神はなく、残業に残業を重ねても、 貰えるサラリーは雀の涙。高級取りは、全体の数%という弱肉強食の世界。ブラック企業、社畜、パワハラ(※2)というマイナスイメージの言葉が生まれ、日本の若き労働者を苦しませる。社会人達だけが労働の足枷に掛けられている訳では無く、近年ではバ畜という言葉も生まれ、アルバイトの学生たちでさえもブラックな職場環境に遭遇する日本社会の実態が見えて来る。利益より売上を最優先させるビジネスは危険で、まずは売上より利益を最優先させる価値観を持つ必要がある。売上至上主義で最も間違った要因は四つあり、それらは、資金不足、成長の伴わない拡大、疲弊、自滅のこの4つが組み合わさった時、会社倒産への秒読みカウントダウンが始まると言われている。売上至上主義で最も間違った要因について、一つ一つ読み上げて想像するには、近年において非常に注目を浴びた飲食店企業がある。それが、度々ニュースでも報道されていた「いきなりステーキ」や「大戸屋」(※3)の経営方針が、世間から非常に叩かれていた。映画『東京カウボーイ』は、これとは真逆のエリートビジネスマンが、左遷されてアメリカの片田舎の牧場に飛ばされ、自身の働き方を振り返り、異国の地で成長する物語だ。日本では一流企業の社員として敏腕な仕事ぶりをしていたら、左遷先のアメリカでは思い通りにならない日々を過ごす。近頃、世間では働き方改革(※)とい働く事への意識改革を求められるになった昨今の日本社会、自身の仕事に対して、どのように振る舞い、どのように付き合い、どのような対峙するのか、今問われている。時代の変化と共に労働に対する考え方の価値観が、大きく変化した近年、果たして、一流企業への就職が勝ち組で、そうでないそれ以外の働き口すべてで働いている人全員が皆、負け組という構図は今の時代、そぐわないのかもしれない。働き方は、人それぞれである。その方の歩幅、ペース、力量で、その人なりの働き方ができる世の中に、ますます変化して欲しいと願うばかりだ。

本作『東京カウボーイ』の主人公の男は、エリート街道まっしぐらの一流企業のトップビジネスマンだったが、ある時、東京の会社からアメリカの田舎に展開する牧場で和牛を牧畜するビジネスを任命させられ、左遷させられる。そこでは、今まで培ったビジネスの手腕は一つも役立てず、現地の牧場主とはいがみ合う関係に。それでも、その地で日本の牛を育てる商売を軌道に乗せようと躍起になる。単なる日本からやって来たビジネスマンを演じるのではなく、その地の習慣や風習に肌まで染まり、豪に入れば郷に従え精神で現地の住民と魂のレベルで肩を付き合わせる。そして、お互いの信頼度がMAXレベルの最高潮にまで立ち昇った時、彼らの中には「信頼」と「友情」という関係性が育まれる。仕事とは、利益を出して、物を売って、収入を得る事ではなく、同じ肩抱き合って二人三脚で同じ目標にひたむきに取り組む事こそ、それがビジネスでは無いだろうか?仕事上、海外派遣は就職する企業によっては、よくある話だろう。私はヘタレな人間で、知らない土地に飛ばされるのが苦手だったのもあり、人生で一度も「就職」という選択肢を選んだ事がない人種だが、誰もが海外派遣を経験する事もあるにはあるだろう。海外派遣、海外赴任、海外駐在員という立場や業務命令は、日本国内ではもしかしたら、マイナスなイメージ、すなわち「左遷」という印象で持たれているだろう。果たして、海外派遣は「左遷」か「昇格」か。出世街道まっしぐらの場合もあれば、時には切り捨て要員としての場合もある。それは、日本国内でも同じで、部署にいる社員全員をリストラ目的で左遷させられる職員もいる。過去には、VHS開発の裏で左遷やリストラ、部署解散の浮き目に遭いながら、技術開発に力を注いだ人々がいる。世界規格となったVHSの開発の裏で活躍した、名も無き技術者たちの姿を描いたヒューマン・ドラマ『陽はまた昇る』にて、映像化された。この昭和の日本人の気骨の精神(昭和の働き方には否定が集まるが、ひたむきに努力する人々の姿は忘れてはいけない)は、今の時代の私達は彼らの姿から見習う事がたくさんできる。左遷されたから、リストラされたからと言って、人生はそれで終わりではない。必ず、何度もチャンスやきっかけは訪れる。必ず、どんな人生にも「陽はまた昇る」と信じていれば、どんな場所であっても、再度輝く事はできる。本作『東京カウボーイ』はそれを教えてくれている。

日本からの海外勤務や海外派遣は、非常に一般的と言えるであろう。海外勤務ができる日本の会社トップ200社というデータ(※7)が2017年頃に発表されたが(トップ200社という事は、その下にも有象無象の海外勤務ができる外資系の日本企業がいる事を考えないといけない)、比較的日本から海外に働きに行く事は、至極当然のようにも感じてならない。近年では、自身のキャリアを捨て、キャリアアップの為、または日本の低賃金労働の現状にウンザリした若者達(※8)が、自ら進んで海外労働を選ぶ現状がある事を知っていても良いだろう。今、全国で問題になっている日本の人口減少の原因は、ここにもあるのかもしれない。現在、アフターコロナ後の日本において、各企業に務める日本の労働者の何割かは、海外勤務を自ら望んでいる(※9)という報道もある。その一方で、外国人労働者が日本に働きに来るという逆のパターン(※10)も考えられ、今世界中で他国への海外勤務、海外派遣が盛んになっており、この流れは今後ますます隆盛を誇るに違いない。日本企業が、海外に支社を持っている会社は数多くあると書いたが、その中でも日本のシェアがどんどん増えて行く大陸や国と言えば、アフリカ大陸に位置する国々だ。今、アフリカにおける外国資本の企業がビジネスとして数多く参入しており、その流れでその会社に務める社員はアフリカへの海外勤務も近い将来、展開されるであろう。日本からのアフリカ進出企業は、年々増えていると言われている。海外進出日系企業拠点数調査によると、2020年は900、2021年は927、最新の2022年調査結果(令和4年10月1日)では1,238社(※11)が参入している結果となる。まだアフリカ進出していない日本企業は、この潮流に乗り遅れる事なく、アフリカ進出を考えても良いのではないだろうか?また、海外勤務にはアタリ、ハズレ(※12)があるようだが、アタリの海外派遣は新規事業の立ち上げやり甲斐のある事業を会社から任された時。またハズレの海外派遣は、日本とまったく同じ業務内容を先進国で行う場合という海外派遣の経験者が語っている。でも、仕事に対して、アタリ、ハズレが本当にあると言うのだろうか?勤務先によって、勝ち組、負け組が存在するのだろうか?こういう価値観や思想、考え方を持っている人こそ、負け組ではないだろうか?どんな仕事であれ、どんな職場や環境であれ、それらは一切関係ない。どんな労働環境であっても(ブラックな環境は除く)、事業や会社の為に自身の労働意欲がプラスに好転するのであれば、それこそが勝ち組と言えるのではないだろうか?本作『東京カウボーイ』を制作したマーク・マリオット監督は、「この作品における言語とコミュニケーションの役割の重要性」について話を聞かれ、こう答えている。

Marc:“Yes, absolutely. We’ve only had a few screenings of the film, and we’re just starting out on our festival journey. But we often get questions about that scene. We made the very deliberate choice not to have subtitles for part of the story, and that was really important to us. We had a lot of discussions about why we wanted to do it that way. I wanted the audience to experience that moment in the way that Hideki does. He doesn’t understand the language and the words – but what he does understand is the emotion. That’s a different kind of language and communication that really starts to crack him open and he starts to feel things. That, for me, is a really pivotal point in the story where he starts to change, open, listen and accept with more humility.”(※13)

マーク:「まだ数回しか上映していませんし、映画祭への参加も始まったばかりです。でも、あのシーンについてよく質問を受けます。物語の一部に字幕を付けないという選択を意図的にしましたが、それは私たちにとって、とても重要なことでした。なぜそのようにしたかったのか、何度も話し合いました。観客には、ヒデキと同じようにあの瞬間を体験してもらいたかったのです。彼は言葉を理解していませんが、感情は理解しています。それは、彼の心を開き、感情を感じ始める、異なる種類の言葉とコミュニケーションです。私にとって、それは物語の中で彼が変わり始め、心を開き、耳を傾け、より謙虚に受け入れ始める、本当に重要なポイントです。」(2023年10月18日掲載記事の引用)と話す。世界中の人類における大きな壁は、「言語」だ。同国の人間同士であれば、公用語が共通のため、コミュニケーションにまったく問題ないですが、いざ外国へと足を伸ばしてみると、最初に問題となる生活の壁はまさに、言語の壁が存在する。いかに、この壁を乗り越えるかが重要ではあるが、本来、言語の壁に翻弄されなくていい。コミュニケーションとは、言葉と言葉だけがコミュニケーションではなく、仕草や感情、心の繋がりこそが、本来のコミュニケーションなのだろう。

最後に、映画『東京カウボーイ』は、東京でブランドマネージャーとして働くヒデキは、上司でもある婚約者ケイコと新居を探す一方で、経営不振に陥ったモンタナ州の牧場で和牛を飼育して収益改善を図る計画を立ち上げるという物語ではあるが、仕事に対して、人生の勝ち組や負け組なんて、一切関係ない。その場所で、何に取り組み、どう対峙し、そして、最後まで何を成し遂げたかが大切だ。それは、立場が悪かろうが、左遷という境遇に立たされようが、一切関係ない。その場所で、あなたが何を残し、何を築き上げるかが課題だ。もし勝ち負けが存在するのであれば、それはその土地で自身がどう輝いたかによって、勝敗が決まるのではないだろうか?

映画『東京カウボーイ』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)中小企業の“老化”を早める、間違った「売上至上主義」4つの問題点https://www.mag2.com/p/news/561848(2024年6月17日)

(※2)ブラック企業の壮絶な実態とは|ブラック企業あるある25選https://rebirthlab.com/magazine/?p=4737(2024年6月17日)

(※3)「いきなり!ステーキ」と「大戸屋」テレビ取材が裏目 ブラック企業と呼ばれる共通点https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12270945/?all=1&page=3(2024年6月17日)

(※4)【2024年4月】36協定はこう変わる!時間外労働の上限規制について内容を詳しく解説!https://www.shalf.jp/hr-get/2023/12/4645/(2024年6月18日)

(※5)海外駐在員は出世ルート?左遷ルート?駐在する国、年齢、状況、役職でわかります。https://web-mygo.com/oversea/advancement/(2024年6月18日)

(※6)なぜソニーはビクターのVHSに敗北したのか…ベータマックスの責任者が語る「ビデオ戦争」の勝敗の分かれ目https://president.jp/articles/-/74949?page=1#goog_rewarded(2024年6月18日)

(※7)「海外勤務者が多い」トップ200社ランキングメーカー、商社…海外で働ける企業はここだhttps://toyokeizai.net/articles/-/158196?page=2(2024年6月18日)

(※8)“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4746/(2024年6月18日)

(※9)コロナ禍を経て再考したい、海外派遣を成功に導く必要条件https://www.mercer.com/ja-jp/insights/consultant-column/905/(2024年6月18日)

(※10)2023年の海外労働者派遣、日本向けが最多で8万人、過去最高水準に回復https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/02/53cd9302033a1db8.html(2024年6月18日)

(※11)アフリカビジネス情報 日本企業の進出に見る「最後のフロンティア」アフリカの現在https://africabusiness.beforward.jp/investment-startup/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%B8%E9%80%B2%E5%87%BA,1%E6%97%A5%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%AF1%2C238%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2024年6月18日)

(※12)また長くなっちゃいました。総合商社の「海外駐在ガチャ」のアタリとハズレ。https://www.onecareer.jp/articles/1309#category6(2024年6月18日)

(※13)An In-Depth Chat with Marc Marriott, Brigham Taylor & Ayako Fujitani on “Tokyo Cowboy”https://www.creativescreenwriting.com/an-in-depth-chat-with-marc-marriott-brigham-taylor-ayako-fujitani-on-tokyo-cowboy/(2024年6月18日)