予測不可能!ジャンル特定不可!新感覚エンターテインメント!映画『シャーマンの娘』井坂優介監督単独独占インタビュー
アイドル×幽霊!?音楽×幽霊!?ホラーなのか、コメディなのか、ファンタジーなのか。新感覚の感情に突き落とされるフレッシュなホラー映画『シャーマンの娘』を監督した井坂裕介監督に単独独占取材を行った。本作の見どころや魅力、制作経緯や制作秘話、「命」や「生きること」について、お話をお聞きしました。
—–本作『シャーマンの娘』の製作経緯を教えて頂きますか?
井坂監督:製作経緯としてはまず、長編を撮りたいと思ったのが一つです。
9作の短編映画がありますが、ずっと短編ばかり作ってきました。
最初に、監督したのが2015年の短編『幽霊アイドルこはる』が、デビュー作です。
この作品が、PFFに入選しまして、その時からずっと短編映画を作り続けています。
2015年から2018年まで、3、4年間は短編製作をメインで行っていました。
いよいよ長編を撮りたいと思い、2019年ぐらいから3年ほど要して、本作『シャーマンの娘』をずっと製作していました。
アニメ会社に勤めていた頃、様々なシナリオや企画書を書いていました。
長編を撮ろうと思った時に、どのような物語にしようか悩んだ結果、その中の一つ、この作品の原型となるシナリオがありました。
テレビアニメのシリーズとして考えていたお話でしたが、その作品の序盤5話ぐらいを映画用にまとめ直し、何度も何度も書き直しました。
7、8年前に書いたシナリオを長編として編集し直したのが、本作の製作経緯です。
—–冒頭のゴッホの言葉「死人を死んだと思うまい。生ける命のある限り、死人は生き、死人は生きていくのだ。」を据え置いていますが、この名言を選んだ意味や意図、また作品との関係性はございますか?
井坂監督:ゴッホでなく、他の偉人でも良かったのですが、ただ作品のテーマとピッタリの言葉がないかなと探していたんです。
映画の冒頭は、引用で始めたいと思っていました。
引用で物語が始まる演出にしようと計画していたんです。
何か、その作品に合った言葉を探した結果、このゴッホの名言に辿り着きました。
要するに、ゴッホの言葉の意味合いとしては、死んだ後の彼の作品は今も生き続けているという意味があると思います。
死んだ後も、死人の想いや思い出はずっと、生き続けていくと。
実際に、ゴッホが描いた絵も、死んだ後も生き続けていると、様々な捉え方がありますよね。
映画『シャーマンの娘』の中でも、重なる部分はあり、主人公の健悟も音楽をやってる人なので、彼女が死んだ事を歌にしてる人物なんです。
彼女が死んだ事実を歌にすることが、まさにゴッホの言う言葉だと思います。
また、幽霊の存在についての意味もあるかと思います。
亡くなった方の想いや死して尚、生き続けていこうとする意思にも繋がっていくと感じます。
—–作品の時間が長くなるにつれて、どうしてもシナリオの執筆が大変になっていたとと思いますが、執筆の大変さはございましたか?
井坂監督:元々のシナリオがありましたが、映画に置き換えると、少し違った場面もあります。
テレビアニメのシリーズの最後とは、少し違う所もありました。
話の中のキャラクターの数や展開はそのまま使いつつも、構成や細かい点は手直しが必要でした。
それでも、10数稿ほど、書き直しました。
シナリオの執筆に関しても、調整するだけとは言え、非常に時間はかかりました。
アニメと実写では大きく異なり、アニメで表現できる場面でも、映画となると撮影できないシーンも多くあります。
その時は、場面そのものを大幅に変更したりと、対応して来ました。
タイトルの「シャーマンの娘」もまた、最初の題名とでは、大きく違いました。
ヒロインのキャラクターは、元々男の子だったんです。
健悟のバイト先に来た生意気な新人の美少年が、設定にありました。
彼には、女装趣味があるんです。
木原渚さんが演じる海花には、はじめ女装娘の設定でしたね。
長いことに関しては、別に苦労はありませんが、何稿も書き直して、映画の形にしていく上で、修正を重ねて行く作業は非常に大変な作業でした。
—–現実の世界と死者の世界を表現するために、効果的に照明を使用していられるように感じました。少し細かい話ですが、場面での照明の当て方がいいと思いましたが、照明に関して製作中に気を使った事はございますか?
井坂監督:全編ではございませんが、登場シーンは印象的にしないといけないと思いましたので、最初に佐藤あかりさんが演じるさゆりの登場場面は、彼女がベッドに座っている後ろから青いライトを当ててます。
青い光は、霊的な雰囲気が出ますので、青みを入れた照明にしました。
また、さゆりの登場カットは、照明を落とし気味にして、逆光っぽくしています。
さゆりの顔が、見えそうで見えないぐらいの明るさにしています。
ちょっとしたゾクッとくる不気味さや怖さを、感じてもらうようにしています。
特に、照明に関して、意識した場面は登場シーンですね。
—–井坂監督作品は、過去の短編含め、アイドル×幽霊、音楽×幽霊と言うように、真逆の要素を作品に取り込んでいる傾向を感じましたが、監督自身、幽霊とアイドルには何か関係性はございますか?
井坂監督:デビュー作がまず、『幽霊アイドルこはる』と言う作品を作りましたが、ただ幽霊とアイドルだから、テーマがある訳ではございません。
それに関しては、映画『シャーマンの娘』よりも、『幽霊アイドルこはる』の方が、より顕著に真逆の要素を作品に取り入れています。
死んだ女子高生の女の子が、死後も尚、アイドルと言う夢を目指して奮闘し、最後に幽霊アイドルとして霊が見える人達に布教活動をして、幽霊アイドルとして最後に自身のライブを成功させる物語です。
あの作品には、死んだ後も夢を叶えるというテーマがあったと思いますが、単純にもっと分かりやすい所で言えば、幽霊とアイドルを掛け合わした節はあります。
単純に、幽霊の話だけでなく、幽霊がアイドルになると言う話にしました。
かわいい女の子との組み合わせは多くて、自分自身、かわいい女の子やアイドルが好きなんです。
あと、オカルトも大好きです。
単に、その好きな二つを掛け合わしてるだけなんです。
怖いものとか、おぞましいものも好きですし、一方で女の子も凄く好きです。
真逆な要素ではありますが、その真逆なものがどちらも好きだからこそ、作品に取り込みました。
映画『シャーマンの娘』もまた、魅力的でかわいいという要素をより際立たせるために、ホラー要素や残酷さを掛け合わしています。
—–単純に、ただかわいい、ただアイドル、ただホラーではないということですね。一つのジャンルや要素に拘るのではなく、様々な要素をミックスして、掛け合わしたのが、映画『シャーマンの娘』であり、処女作の短編作品ですね。
井坂監督:その通りです。自分だけでなく、他の方も同じように、作品に自身が影響受けた何かを取り入れていると思います。
もちろん、ホラーは、ホラーだけ。かわいいは、かわいいだけ。と言う特化型の方もおられると思いますが、様々なジャンルが混ざり合って、ミックスされている方もいるでしょう。
そういう方の作品は、観ていて好きになってしまいます。
自分自身もやはり、ジャンルが横断されていくような映画を撮りたいと、常に思っていました。
—–本作『シャーマンの娘』は、過去作から辿って行くと、集大成のように感じました。それぞれの作品の良い部分を応用して、本作が作られたのでは、と思ってしまいました。本作は、今までの作品の要素を詰め込んで作られた作品でしょうか?
井坂監督:そこまで、すべてを持ち込もうとは思っていませんでしたが、長編なので、今までの要素はいくつか入れれるようにはしました。
一つの作品の中で、何個かの要素を見せようと思っていたんです。
今までの作品のすべてを落とし込んではいませんが、「幽霊」は今までの作品にテーマとして扱って来ましたので、幽霊ものをやりたいと。
また、コミカルな要素も必要かと。
ホラー要素も、作品に入れておきたいと考えていたんです。
—–長編デビュー作なので、集大成と言う言い方は少し誤りがあったかもしれませんが、それでも過去の短編作品と観比べてみると、それが顕著に現れています。
井坂監督:サイコパスな悪役と女の子が登場する作品も撮ったので、その要素も本作に盛り込みました。
今振り返ってみると、折角の長編作品だからこそ、色々な側面を見せたいと思って、製作したんじゃないかと思います。
あとは、男の子が主人公で、ボーイ・ミーツ・ガールの要素を取り入れてます。
短編映画『奈落へと君を待つ』は唯一、男の子が主人公の短編もありました。
この要素もまた、本作のキャラクターにも反映されていると思います。
そう考えると、比較的、何個かの作品の側面を持った作品が、本作『シャーマンの娘』と言ってもいいのかもしれないです。
—–ある映画サイトにて、あらすじが紹介されておられましたが、その紹介文には「音楽の夢も、恋人の夢も、こんなにハッキリ見えるのに、まるで掴み取る事ができない」とありますが、とても面白く感じました。見えているのに、掴めない。それは、今の日本とこの物語が、地続きなように感じてしまいます。また、近付けそうで、近づけられない、まるで曖昧で霊的な世界を想像してしまいます。
井坂監督:そのフレーズは、自分で書きました。取り上げて頂いて、非常に嬉しいです。
—–ありがとうございます。本作は、この「曖昧さ」に対して、何かを表現しているなど、ございますか?
井坂監督:まず「曖昧さ」と言う表現よりも、この「恋人の幽霊も音楽の夢も」に掛けているのは説明が難しいですが、健悟という男は二択を迫られる訳です。
実際、シャーマンの娘として誕生していますが、恋人を取るのか、夢を取るのか。
結局、音楽の夢でも成功しておらず、彼女といい感じになるかと思えば、死んでしまいます。
幽霊として生まれ変わったが、その中でどちらも近くにあるのに叶えられないもの。
そのような儚さの象徴かと思います。
幽霊も、夢もどちらも、同時に掴もうとしても、どちらも手に出来ない。
そういう意図を込めて、そのフレーズを考えました。
「曖昧さ」と言うよりも、幽霊のように掴め取れない「儚さ」があると、感じます。
—–ホラー映画には、恐怖の要素だけでなく、「生きる」や「命」と言うドラマティックな要素も含まれていると思いますが、井坂監督にとって、「生きる」や「命」とはなんでしょうか?
井坂監督:非常に大きくて難しい問いですね。
命や生きる事を一言では表現しにくく長くなりますが、まずトータルで考えるものではないと思います。
人生80年となった時、80年の尺や歴史で考えるのではなく、その瞬間瞬間を生きることが、命だと思います。
その一瞬が素晴らしければ、結果どうであれ、素晴らしかったと思える。
未来がどうだ、あぁだと、考えていても、始まらないんです。
また、この映画には、過去や幽霊を否定するキャラクターがヒロインにいながら、最終的にはエンドロールの走馬灯で終わるんです。
幽霊や過去の思い出を、賛美して終わらせています。
それらを美しいものとして、最後に描いています。
人生の一瞬一瞬が繋がって、思い出になるんです。
本作『シャーマンの娘』で言いたいことは、過去に囚われるのは良くないと言うシャーマンの娘の主張と、それでも過去の思い出や誰かとの大切な一度限りの存在を忘れられない事や美しい思い出があった事実を思い返す事。
人間だからこそ、大切な事です。
—–ありふれた話ですが、死ぬ時に過去を振り返り、良かったと思える人生になるように、今のこの一瞬一瞬を大切に生きる必要があると思います。そういう生き方も大切で、一瞬一瞬を大切に生きないと、未来もないですし、振り返ることもできないですね。最後に、本作『シャーマンの娘』の魅力を教えて頂きますか?
井坂監督:本当は言わなきゃいけないですが、一言で言うのが言い難いです。
ただ、魅力を何個か挙げるなら、どんな映画だろうと、その興味を楽しんで頂きたいのが、まず一つ。
色んなジャンルがあり、どんなお話なのかと言う話から、観ている間、どんな作品なのかと、どう話が展開していくので、その感覚を味わって頂きたいのが、二つ目。
分かりやすくホラーやコメディだと、最初から提示している作品ではありません。ジャンルが、どこに落ち着くか分からないという感覚を漂いながら、作品が進んでいく感じもまた、楽しんで頂きたいのが、三つ目。ジャンルレスを楽しんで頂きたいです。
あとは、キャストに触れますと、可愛いヒロイン達が登場しますので、アイドル映画的観点から作品を観れるのが、魅力の四つ目。
最後に、音楽を楽しむという観方もできます。バンド「死んだ僕の彼女」が、劇伴と主題歌を担当して下さったので、ここの部分も五つ目の作品の魅力です。
ぜひ、劇場でご覧下さい!
—–貴重なお話を、ありがとうございました。