映画『PLASTIC』「こんな時代もあったよねと…」宮崎大祐監督インタビュー

映画『PLASTIC』「こんな時代もあったよねと…」宮崎大祐監督インタビュー

2023年7月22日

ロック・ナンバーと共に駆け巡る映画『PLASTIC』宮崎大祐監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–まず、映画『PLASTIC』の制作経緯を教えて頂きますか?

宮崎監督:元々、僕が撮りたかった学園モノの企画を持っていました。若い男女が音楽か、それ 以外の何かを通して、繋がりを持っていて、片方が別の場所に引越し、もう一方はそこに残る、 結果として双方のキャラクターの場所が入れ替わる企画を考えていたんです。2 年ほど前、お世 話になっている株式会社boid(※1)の樋口泰人さんと会った時、文化庁の予算で企画を立ち上げ ないかと、お話をしました。すると、樋口さんの会社がエクスネ・ケディ(※2)の音源権利を持っているから、この音楽を絡めて、何か企画を始められないかという話になりました。元々の企画 であった青春モノのジャンルに、エクスネ・ケディを絡めて企画を立案したんですが、長編映画 になりそうだったので予算的に文化庁の支援だけでは厳しい一面もありました。今僕は映画プロデューサーの仙頭武則さんの紹介で名古屋学芸大学にて、非常勤講師をしていますが、ちょうど大学の授業の一環で映画を撮ろうとしていましたので、大学と絡めて企画を進める事に なりました。本作は、そんな 3つの要素が組み合わさり、出来上がった作品です。

—–名古屋と言った地方での撮影が今後、大切になるのではと感じています。わざわざ、東京で 撮らなくても、どこでも撮れる気がしています。

宮崎監督:僕自身も、そう感じる時はあります。東京では撮れる場所が限られています。近頃では、よっぽど狙って撮らないと、絵が貧しくなってしまうんです。露骨な観光映画ではない撮り方で地方を撮れば、可能性が広がると思います。

—–現在は、地方映画として売り込まないと宣伝や収益に繋がりにくくなっていますが、ご当地 映画とは括らず、一般作として地方を舞台にした映画が広がればと。

宮崎監督:本当にローカルにフォーカスできれば、東京以外での撮影の方が可能性がある気がし ます。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–タイトル『PLASTIC』には、音楽担当のプラスチック・ケディ・バンドから文字ったのかなと思いますが、「プラスチック」が指すものとは、作品全体、設定、登場人物に対して、どう掛か っているのか教えて頂きますか?

宮崎監督:まず、プラスチックは身の回りにあって、便利なものですよね。プラスチックは史実 では偶然できてしまったものですが、今や、人が手放す事ができないほど非常に便利なものです。 最早、何でもプラスチックで作れてしまうほど、プラスチックに溢れた世界が今あります。また、プラスチプラスチックいう意味でも使われますが、原義である可塑的で、定まらない固まらない何にでもなれる若者たちが、どう生きて行くのかというイメージが、最初にありました。次に、映画の大きな影響源であるデヴィッド・ボウイです。彼は自身の初期作品を、黒人のソウル音楽と混ぜた「プラスチック・ソウル」と呼んでおり、そのジャンル名からも取っています。昔の かっこいいものやアメリカに憧れて、定まらない主人公たちが偽物の、ハリボテの人生をどう生 きるかというお話なので、タイトルには『PLASTIC』がピッタリだと思いました。その題名が採用された後、エクスネ・ケディがこの映画用の変名を使いたいと話になり、プラスチック・ケデ ィ・バンドが生まれました。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–作中におけるセリフが、心に響くものがありました。たとえば、「あなた、音楽だけで食えるの?」や耳に残る言葉もありましたが、監督が考えるセリフは、どのようにして浮かんで来ますか?

宮崎監督:これは僕が、過去に知人から浴びせられた言葉です。また、僕は脚本家の坂元裕二さんが書くシナリオが凄く好きで、彼が書いた脚本をコロナ禍の間に 沢山読みました。その時、体得したシナリオのリズムを自身の作品に投影し、アウトプットする事を心掛けました。あとセリフに関しては、僕自身、ラップが好きなので、ヒップホップの影響が強く出ているのかもしれません。ラップは、何も無い所から突然始まります。インスト に乗せて即興的にはじまる音楽ジャンルです。だから、一つの言葉からどんどん連想するリズムが、一番大切なんです。リズムを何度も唱えながら、書き直すんです。その語尾の響きを気にして、リズムを整えて、生み出していきます。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–本作の特徴は、音楽面。特に、グラムロック(※3)の特性が遺憾無く発揮されており、ベース音がズンズン響いて、非常にクールな旋律でした。それでは、本作の音楽が作品に与える効果とは、何でしょうか?

宮崎監督:僕が、劇中で使用する楽曲を聴き込んで、最初から用意されていたプロットやセリフ に演出として歌詞を分解し、ふりかけみたいに振り掛けていきました。ずっと曲を聞いていると、どこかで繋がり、あの時の歌詞の言葉がシーンとしてあり、歌詞がシーンの演出の元に なっている映画です。その点との繋がりに気付けば、より立体的に話が浮き上がり、面白くなって来ます。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–物語の設定が、東京から名古屋に引越しとありますが、舞台やロケ地を「名古屋」にする事によって、作品にはどんな影響があったと言えますか?

宮崎監督:前の作品が、大阪を舞台にしていましたが、街が自分の映画の主人公だと思っていて、分かりやすいご当地映画っぽくするのではなく、極力取材を重ねて、その街の皆がどこに行くの か、ローカルの方向性を考えて、それを基準にロケ地を選んで行きました。場所によって、当然 台本も変更していきます。ロケ地が面白いからこそ、話の構成を変更しようとしました。例えば、最初のシーンなんかは、よくあるそれなりに栄えた駅前で、主人公たちが出会うという設定が最 初の段階でありましたが、助監督が廃墟になっているローカル線と駅舎があるから、どうでしょうかと提案してくれました。それで駅の廃墟がロケ地になったのですが、生きている景色よりも死んでいる、あるいは死にかけている景色を撮影地にする方が価値があると実感したんです。実際、その駅舎は今年中には取り壊される事が決まっています。

—–その駅舎を映像として残せた事には、価値があり、貴重な事ですね。

宮崎監督:そうですね。どこの地方都市も同じですが、中心街は栄えていて、大手企業の量販店が並んでいます。ただ、そこから一歩出ると、道は広くなる一方、往来する人はほとんどいなくなるんです。それをどう活かすか今までの作品同様に考えた結果、本作が出来上がりました。

—–場所の活かし方は、非常に大切だと思います。私含め、観客はロケ地に対して何気なく感じている節がありますが、ロケーションが作品に影響を与え、仕上がりにも左右すると思っています。

宮崎監督:だから、アピチャッポンやペドロ・コスタ、ジャ・ジャンクー達は、風景を見る映画と いう一面が強くあります。そんな映画が、日本でも成立してくれればと願っています。東京だと 成立させるのが難しいかもしれませんが、名古屋や他の地方都市なら、出来る可能性が秘めているんです。

—–たとえば、シナハンはされましたか?

宮崎監督:シナハンは、何度も慎重に行いました。僕の場合は、キャスティングとシナハン、ロケ ハンが映画のウェイトの多くを占めています。実際、その場所に行ってみて、歩き回って感じた 事をプロットに落として、脚本にしていきます。まず、その場所に行く事が大切です。シナハン は毎回、必ず行っています。ロケハンよりもシナハンの方が、入念に行きますね。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–名古屋学芸大学の学生達が制作に参加されておられますが、私自身はこの取り組みには好感が持てました。本作の制作を学生と一緒に遂行した事によって、作品への化学反応がどう起きたと思えますか?

宮崎監督:ある種、大人として教育者を演じなければいけない一面もありましたが、日本の映画業界では普段、プロが集まる現場では、効率化を最優先にした映画作りに気持ちが向いています。例えば、ものの呼び方、進行の仕方がありますが、学生たちはすべてにおいて「なぜ?」をぶつけて来ます。「なぜ、〇〇なのか?」「なぜ、〇〇しているのか?」と、学生達から発せられる「なぜ?」 に対して、僕自身は頭で冷静に考えられる良い機会になりました。今まで、僕達が何となく考えていた事に対して、改めて考えられる機会をもらえました。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–伝説のロックバンドが好きな10代は現実問題、少ないのでは?70年代の音楽グループ、たとえば日本のフォークグループでもいいですが、10代20代はどこまで興味を持っているでしょうか?

宮崎監督:それは、正直同意出来ません。僕の実体験としては、中2からクラシックロックを聞き始めたんです。あるジャンルに興味を持ち始めますと、遡って聞いていきますので、昔のレコードを買い漁っていました。70年代まで遡ろうと思えば、容易に遡れてしまうものです。昔の楽曲を聞いているから、今の流行りものを聞いている人より偉いみたいな自意識は、僕の時代にも今の時代の子にもあると思うんです。例えば映画で言うと、高校生だけど、溝口健二監督が大好き な子は必ずいると思っています。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–本作のラストが非常に感動的でしたが、音楽業界も益々、活気が溢れて来ると思います。コロナ禍が少しずつ明けた今、このタイミングで本作が上映される意義は、なんでしょうか?

宮崎監督:このタイミングを狙って上映した訳ではありませんが、毎年作品を制作できればと思っています。毎年の映像制作の営みとして、偶然に本作の企画が通っただけの事です。ただ、2018 年から 2022 年の期間は、僕から見た人類史、日本の歴史上で重大な時間だと捉えています。今までは、小さな街で起きた出来事の視点でしたが、今回は数年に渡る名古屋と東京という場所で起きる描写を初めて作品に挿入しました。ある種、僕の中では記録映像です。あの時代、あのコロナ禍を、5年後、10年後に観て、こんな時代もあったよねと思ってもらえたらいいなと、意識的に取り組んだ作品ではあります。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

—–私自身はある種、未来への希望の象徴を感じ取る事ができたんです。映画で描かれている事が、現実で起こって欲しいと感じました。

宮崎監督:僕の映画は基本、全部そんな風に作っています。現実に起きて欲しいと思って走りはじめたけど、結果としてそうではなくなってしまう映画もあります。でも、この作品に関して言えば、この先、映画で描いている事が現実として、人それぞれのリアルがバラけてしまい、時間や場所の軸が雑然となったとしても、いつか交差してくれたらという祈りのようなものを込めています。

—–最後に、本作『PLASTIC』が私達に与える影響力が、どう作用するのか、教えて頂けますか? 併せて、作品の魅力もお話して頂ければ。

宮崎監督:作品には、大きく 2つあります。共感や感動、希望を感じ取って下さる方もいるでしょう。一方で、どっち付かずな自分ですら、生き続けなければいけないと思ってくれる方々もいるでしょう。また、この映画には選択や分岐が沢山出てきますので、すべて裏目に出てきてしまった場合、あまりポジティブな感想が出にくい環境にもなりうると思いますが、青春映画としても、自身の実存を問える映画としても、2 通りの見方ができると考えています。この 2つの見方があることこそ、本作の魅力だと思っています。その2つの蝶番となっているのが、エクスネ・ケディの素晴らしい音楽です。少し世代の上の方は懐かしく感じる一方、コロナ禍を乗り越えて、残された自身の生について考える一助になるかもしれません。また一方で、僕らの年代の方々は、様々なものから遅れを取って、景気も悪く、自力で何もかもしないといけない時代で、諦めたくもありますが、それでも日々のわずかばかりの変化を毎朝迎えて、前向きに生きて行こうと思うかもしれません。若い世代の方は、この4年間、つらい時期を乗り越えて、今後、この期間の経 験を踏まえて、どう生きて行くのか考え、共有の対象として、様々な解釈を持って、作品 を観て頂けたらと思っています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

映画『PLASTIC』は現在、関西では7月21日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田。京都府のアップリンク京都。兵庫県のシネ・リーブル神戸にて上映中。また、全国の劇場にて、順次公開予定。宮崎監督の最新映画『#ミトヤマネ』が8月25日(金)より全国公開予定。

(※1)株式会社boidhttps://www.boid-s.com/(2023年7月20日)

(※2)井手健介と母船: Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)https://turntokyo.com/reviews/contact-from-exne-kedy-and-the-poltergeists/(2023年7月20日)

(※3)【特集】グラム・ロックがいかに世界を変えたか:その誕生と退廃を振り返る https://www.udiscovermusic.jp/stories/how-glam-rock-changed-world?amp=1(2023年7月21日)