3月10日(金)より、10日間開催された第18回大阪アジアン映画祭が、今年も華々しく幕を閉じた。
今年の映画祭のテーマは、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。
映画『四十四にして死屍死す』と映画『サイド バイ サイド隣にいる人』を本映画祭の目玉として、16の国と地域で製作されたアジア人に関する多種多様な映画、長編、中短編含め、全51作品を一挙に上映。
コロナ禍という危機的状況を乗り越え、今年のラインナップは、例年にも増して、多彩な作品が集結した。
会場場所には、2022年春にオープンした大阪中之島美術館が加わり、お馴染みのシネ・リーブル梅田、梅田ブルク7、シアター7、国立国際美術館で上映された。
連日、各回にはゲスト登壇され、貴重なトークを展開した。
近年のコロナ禍によって、叶わなかったゲストの来日並びに、来阪は4年振りに実施は、大盛況であった。
インディー・フォーラムに組み込まれた映画『カフネ』とスペシャル・オープニング・セレモニー作品として選出された香港映画『四十四にして死屍死す』等、アジアに関する作品が数多く上映された今年の映画祭。
今回は、この二作品、コンペティション部門に出品された香港映画『香港ファミリー』と特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》にて上映された香港映画『深夜のドッジボール』について取り上げたい。
映画『香港ファミリー』監督:エリック・ツァン・ヒンウェン。香港。2022年公開。日本初上映。
寸評レビュー:映画『香港ファミリー』は、香港に住むある中流家庭の数年間の季節の移ろいを静観的優しいタッチで描いた佳作だ。
すれ違い、いがみ合い、罵り合う彼らの姿は、この家族特有の拗れた関係性ではなく、全世界万国共通の誰もが持つ悩みだ。
他人同士であっても意思疎通は難しいのに、家族になったら、なぜこんなにも困難になってしまうのか!
分かり合えるはずの互いの存在が、逆に手枷足枷となって、邪魔をする。
何気ない言葉の掛け合いでも、時に残念ながら、勘違いからケンカへと発展してしまう。
余りに近い関係で、余りにも互いが互いに甘えてしまう関係だからこそ、つい本音が迸り、汚い言葉遣いで罵倒し合う。
毎日をもっと笑顔でもってして、明るく過ごしたいと願うあまり、言葉での、感情での、態度での小競り合いが絶えない。
ほんの些細なボタンの掛け違いが、後に数年間に亘る論争へと発展してしまう。
どこかで、どちらかが、互いをリスペクトしたり、素直に謝罪する気持ちを持てた時、修復不可能にまで陥った家族同士の関係を修繕できる日が訪れるかもしれない。
(※1)家族喧嘩の歴史は、遡る事、紀元前69年にまで辿り着くことができ、この時代に生きたかの有名な世界三大美女と称された女王クレオパトラは、国王の父親死後、慣習に習い弟のプトレマイオス13世と兄弟同士で兄弟婚をし、共同王に就任したが、彼らは国の主導権を巡って、争いを繰り広げたという。
また、紀元前27年から1世紀、2世紀まで続いたローマ帝国では、カラカラ帝(兄)vsゲタ帝(弟)の兄弟による王権の玉座を巡って、熾烈な兄弟喧嘩が起こったという。
(※2)家族同士の喧嘩は、この世に生きている限り、誰もが通るべき道で、誰にとっても永遠のテーマとしての問題が孕んでいる。
なぜ、家族同士が争いを起こさなければならないのか?
それは、この先、何百年、何千年経ても、解決しない問題の一つだろう。
年代も、国も、位も、性別も関係なく、どこかで、誰かが、自身の権利を主張して言い争う。
少し視点を変えてみれば、「喧嘩するほど仲が良い」なんて言い伝えられているように、どの家庭よりも親密な関係性を築けていると、考えてもいいだろう。
それでは、映画『香港ファミリー』の彼らは、どうだろうか?
7年間の仲違いの末、辿り着いた結末は、彼ら自身を幸せにさせるものか?
それとも、深淵な不幸の谷底へと落とされる答えだったのか?
家族ならば、怒鳴り合っても、殴り合っても、罵り合っても、いつか必ず、笑って笑顔で、食卓を囲む時が訪れる。
その時には、きっと、数年前の喧嘩の時よりも、互いをリスペクトし合い、愛し合える関係性が築けるに違いない。
作品を通して、描かれる家族像は、そう願わざるを得ない素晴らしい家庭でもある。
今日は、真っ直ぐ帰宅して、直接「ありがとう」と伝えてもいいし、電話口を通して、今あなたが抱く感謝の気持ちを伝えて欲しい。
幸福な時間は、必ずや、あなたに訪れる。
映画『深夜のドッジボール』監督:イン・チーワン。香港。2022年公開。日本初上映。
寸評レビュー:香港映画『深夜のドッジボール』は、意表を突く、痛快爽快な香港版スポ根映画だ(スポ根なんて、言葉は既に死語)。
ドッジボールを通して描かれるのは、社会から逸脱した人間たちの社会復帰と自身の再生物語だ。
そこに、社会福祉と言う地域にとって非常に重要な題材を盛り込みつつ、最後の最後まで、コメディタッチな演出はエンジン全開のフルスロットルだ。
それでも、この日本語のタイトルとは別として、英題『Life Must Go On』には、「Show Must Go On」同様に、「ショウ、人生の幕開け」と言うニュアンスとして捉えてもいいのかもしれない。
単純に「Life Goes On」だと、「人生は続く」となるが、本作の英題「Life Must Go On」の場合は、ニュアンス的によりアクセントが強くなり、「人生は(それでも)続いていく。どんなに辛くとも…。ピンチの時に前を向いて歩こう!」と、ポジティブな、そして力強い意味合い、メッセージが込められている。
それは、大なり小なり、誰の人生にも共通して言える事だ。
本映画祭にて出品された全映画の被写体となった人物や物語の主人公たちの人生は、ずっと続く。
映画『風』に登場するバングラデシュ人も、ドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』に登場する過酷な労働環境に身を投じる子どもたちも、映画『赦し』で罪を背負って生きる夏奈も、映画『カフネ』に登場した高校生たち。
映画『四十四にして死屍死す』に登場した奇妙な住民たちも、映画『ユー&ミー&ミー』の1999年に生きた双子たち、映画『天国か、ここ?』の登場人物。
映画『愛のゆくえ』の高校生。映画『本日公休』に登場した理容室の中年のおばちゃんも、映画『黒の教育』でヤクザに目を付けられた男子高校生。
映画『ライク&シェア』でデジタルタトゥーに苦しむ女子高生。
映画『トラの旦那』でコロナ禍に苦しんだインド人も、映画『香港ファミリー』で長年家族喧嘩で苦しみ続けた香港の中流家庭の家族たち全員。
そして、クロージング・セレモニー上映作品の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』に登場する人物らの人生が、「Life Must Go On」のこの一言に集約される。
本作『深夜のドッジボール』は、本映画祭に出品された作品に登場する人物達の人生における総称であり、メタファー的要素を含んでいる。
でも、これは映画に当て嵌めた話だけではなく、現実世界に生きる私達自身にも当て嵌めていると受け取ることができる。
人生は、まだまだ続く。人生は、終わりを知らない。
次の人生を歩むために、勇気を持って、今目の前にある大きな扉を開けよう。
必ず、あなたの目の前に、明るい未来が待ち受けているはずだ。
全映画は、このようなメッセージを含まているようなものだ。
人生は、これからも、このあとも、ずっと続いていく…。
第18回大阪アジアン映画祭は、3月19日まで大阪府にあるシネ・リーブル梅田やABCホールにて盛大に開催された。
(※1)世界を変えてしまった親子ケンカ・兄弟ケンカ(前編)https://reki.hatenablog.com/entry/160712-Historical-Argument-First(2023年3月21日)
(※2)世界を変えてしまった親子ケンカ・兄弟ケンカ(後編)https://reki.hatenablog.com/entry/160714-Historical-Argument-First(2023年3月21日)