映画『とりつくしま』「もし私がとりつくなら…」東かほり監督インタビュー

映画『とりつくしま』「もし私がとりつくなら…」東かほり監督インタビュー

2024年10月2日

この物語は、親子の話でもある映画『とりつくしま』東かほり監督インタビュー

©ENBUゼミナール

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—–まず、映画『とりつくしま』の制作経緯や作品の舞台裏など、お聞かせ頂けますか?

東監督:制作経緯はまず、ENBUゼミナール(※1)が開催するシネマプロジェクトのワークショップを通して映画を製作する企画で、『とりつくしま』を撮りました。「とりつくしま」というお話自体には原作がありまして、その作品は私の母である東直子が書いた小説です。原作は11篇の短編からなる小説ですが、今回はその中の4つのお話を映画化しました。

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—–申し訳ないですが、まだ小説を手にできてなくて、作品には11篇もの物語があるんですね。その中の4篇が、監督にとって何か心に残るものがあったから、映像化に至ったのですね

東監督:私の好きな話がその4篇でもありましたが、ワークショップではほとんどの方に初めてお会いしたので、参加いただいた皆さんを知って行きながら、合いそうなお話を選びました。マグカップのお話に関しては、原作を読んだ時からずっとやりたいと思っていたのですが、モノにとりつく事が一番わかりやすいアイテムとして、最初のお話に持っていきました。ロージンは、粉になるという設定でなかなか難しいかなと思っていたのですが、最初にマグカップにとりついた事を分かりやすく表現しておけば、粉にとりついているという表現が伝わりやすくなると考えました。なので、ロージンを最後に持ってきています。小説の『とりつくしま』は、母が家族の事や、身近にあるモノをモデルにしたりしていました。青いジャングルジムは私の地元の公園にある遊具で、とても思い入れのあるモノでした。なので、このお話を入れたいという気持ちが強かったです。レンズのお話は、幅広い年齢層の方に出演いただきたかったことと、亡くなってから新しい出会いがあるというのが他と違いがあってバランスがいいなと思い、選びました。

—–個人的に、ジャングルジムのエピソードは、好きです。

東監督:あのお話しが一番、脚色をしているんです。小説の物語では主人公の男の子の周りの人物はほとんどいません。ほぼ映画オリジナルで人物を新たに登場させています。

—–歌も素敵で、いいチョイスでした。あの楽曲は、誰もが幼い頃に通って来ていると思います。

東監督:この「思い出のアルバム」(※2)は、小さい時に歌った経験がある方がとても多い楽曲だと思うんです。改めて、大人になって聞いてみると、この曲の内容はとても深いと感じています。

—–親の目線と子どもの目線が、交わり合った内容の歌詞だと思います。とても素敵なチョイスでした。

東監督:原作にはないのですが、その点も感じられる楽曲だったので、脚本にいれました。

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—–原作は監督のお母様がお書きになった作品ですが、この作品に触れた時、もしくは映像作品が完成した時など、どの場面でも構いませんが、この物語に関して、監督はどのような印象を持たれましたか?

東監督:作品の設定的にファンタジーのような印象を受ける方も多いと思いますが、私は原作を読んだ時に日常に有り得る話だなと思いました。私には、魂がモノにとりつくということが非常に共感できたんです。

—–確かに、モノには何か魂が宿ると信じられていますね。物語として別として、日本の文化として根付いていますよね。

東監督:物に対して手を合わす習慣もあると思います。おばあちゃんが、モノを人のように大事にする姿をよく見ていたのもあり、全然、変な事ではなく、ファンタジーではない印象を持ったんです。

—–ありがとうございます。本作は、非常に良い作品だと、私は本当に思います。映画だけでなくて、物語が終盤を迎えて、エンドロールが終わった瞬間には、「これはもう原作ありきの、原作が生まれなかったら、作られなかった作品かな」と。とにかく、物語が非常に素晴らしいと思いました。そこに付随するように、監督の優しい演出が光ります。

東監督:原作と映画はところどころ変えてもいます。映画を観た方が、原作を読んで、それぞれの違いを楽しんでくださっていたら嬉しいです。

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—–私自身、本作の内容に初めて触れた時、この作品が、たとえば、日本で有名な是枝監督の初期作品『ワンダフルライフ』やコミック原作のドラマ『死役所』を連想させると思わされました。他に、映画『トワイライトささらさや』や『ツナグ』『想いのこし』も近い何かを感じます。監督は、本作の映像化に対して、何か参考にされた作品は、ございますか?

東監督:逆に、死後の話を参考にすると、意識してしまうことが怖かったので、同じジャンルの作品は全く参考にしてないです。

—–映画に限らず、小説でも芸術でも何でも構いません。

東監督:たとえば、美術は参考している一面もありまして、お部屋のイメージを考える時、参考として映画を観ていました。作品として映画の参考にしたと言うよりも、自分のしっくりくる美術イメージを膨らませるために。でも、小説ばかり読んでいたので、参考にした映像作品はないかもしれないです。母が身近にいた状態で脚本を書いていたので、その都度、母に聞いたり、二人で話したりした時間の方が長かった気がします。

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—–たとえば、脚本の執筆をお母様に見てもらっていたと言っておられますが、脚色したお話から考えると、お母様も脚色について、知っていると思います。作品が新しく生まれ変わる様子を、どのように受け取られていたと思いますか?

東監督:基本的には、脚色部分は好きなようにやっていいという雰囲気はありました。ただ、母にもこの部分は入れて欲しいという原作者側の意見もありました。どちらかと言えば、私が排除していた台詞を戻す方が多かったかもしれないです。小説はモノがずっと喋っている事が基本で、モノローグが多くありますが、映像だと画が見えているので伝わりそうな部分は消していました。でも、母の大事にしていたセリフはいくつか戻したりして。結果的に戻してよかったと思うセリフしかないです。

—–ある種、共作的な一面もあるんですね。

東監督:本当に、共作の部分もあります。

—–監督一人の作品とは思いますが、それでも、親子で作品を作り上げられる事に対して、羨ましく思います。

東監督:でも、昔は本当に仲が悪かったんです。今、二人で共作できるのも、ここ最近ちゃんと向き合うことができるようになったからなんです。

—–親子は、仲悪いものですね。

東監督:でも、なぜ仲が悪くなってしまうのか、分からないものですよね。ただただ嫌いだったんです。若い頃は。年を重ねて、母の背中を追っている自分に気付かされました。

—–なぜ、あの時気付けなかったのかと、後悔もありますよね。

東監督:言っちゃいけない事を言ってしまった事を思い出しながら脚本を書いていました。

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—–タイトル『とりつくしま』に関してですが、どちらかと言えば、この『とりつくしま』には、「取り尽くしまも与えない」という言葉があるように、ネガティブな印象もある言葉もありますが、作品は「モノにとりつく」というキーワードに近いものがあると思いますが、監督はこのタイトルの『とりつくしま』には、どのようなイメージを持たせて、作品を構築させていますね。この題名の『とりつくしま』のイメージは持っていますか?

東監督:元々、母が考えたタイトルですが、この『とりつくしま』(イントネーションを置く場所が少し違う)を母が依頼された時は、連載として書いていたそうです。母は元々、短歌もやっているのですが、母の短歌は少し、怖いんですよね。なので、最初はホラーを書いてくださいという依頼だったみたいです。モノにとりつく事は多分、ちょっと怖い事ですが、書き進めて行くと、逆に暖かい話になることが多かったそうです。『とりつくしま』というタイトルも含め、ホラーに間違えられたりもするんです。でも、見る人によってはホラーなのかもしれません。それはそれで全然いいんです。受け取り方は自由なので

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—–他の方からも聞かれていると思いますが、物語に登場する人物達のように、最後に愛する人を見守る為に、どんなものにとりついて、誰を見守りたいなど、何か監督にはお考えはございますか?

東監督:もし私がとりつくなら、それこそ、母のモノになります。とりつきたいものが、その時の状況や数ヶ月で変わると言う方が多くて、私もまさに一緒だと思ったんです。今、小説や映画を通して、母と打ち解けている段階で、母が病気になってしまったんです。だからこそ、母の身の周りのものにとりつきたい思いはあります。母は今闘病中なので、お化粧をせず、家でメガネ姿で生活をしている事が多くて。コンタクトレンズをつけ、お化粧をした姿で、鏡に映るうきうきした顔が見たいですね。使い捨てコンタクトレンズなので、一日で捨てられて、潔く去りたいです。

—–この物語は、親子のお話ですね。他にも、夫婦の話であると思うんですが、何か監督のエピソードも踏まえて、親が子どもを大切に、子どもが親を大切にする物語だと。それは、本当に今、生きている私達が目の前にいる人達をどう大切にするかという一つの課題としての映画かと感じました。

東監督:素敵な事を言って頂いて、ありがとうございます。嬉しいです。

—–最後に、映画『とりつくしま』が、今回の上映期間を通して、どう広がって欲しいなど、何かお考えはございますか?

東監督:小さな規模の映画ですが、今、ジワジワとお客さんが来て下さっています。新宿武蔵野館では、2回の延長も決まり、すごくありがたい気持ちです。人の口から広がって行くような映画になっていたらいいなと思います。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『とりつくしま』は現在、関西では9月27日(金)より大阪府のテアトル梅田にて上映中。また、10月18日(金)より京都府の出町座、10月19日(土)より兵庫県の元町映画館にて公開予定。

(※1)ENBUゼミナールhttp://enbuzemi.co.jp/(2024年9月26日)

(※2)子どもたちへの普遍的な愛~楽曲『思い出のアルバム』に込めた想いhttp://g.kyoto-art.ac.jp/reports/5009/#:~:text=(1)%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E8%83%8C%E6%99%AF%E3%80%8E,%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E7%B4%B9%E4%BB%8B%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82(2024年9月27日)