ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』「気づける人になって欲しい」ユライ・ムラベツJr.監督インタビュー

ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』「気づける人になって欲しい」ユライ・ムラベツJr.監督インタビュー

2022年8月27日

ロシア・ウクライナ侵攻の根深さを浮き彫りにするドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』ユライ・ムラベツ・Jr.監督インタビュー

© All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televízia Slovenska

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—–2010年頃から旧ソ連の統治下にあった近隣国を取材し、2015年頃にウクライナに入国されたようですが、なぜウクライナを始めとする近隣諸国を取材し始めたのですか?

ユライ・ムラベツJr.監督:まず初めに、自国が旧ソ連の統治国家でしたので、そこからインスピレーションを受けている部分もありました。

その中で、旧ソ連国との共通点に非常に興味を引かれて、本作のプロジェクトを開始しました。ウクライナもその一環として、旧ソ連国の統治国家だったので、とても興味を持っておりました。

僕自身、14歳の頃から大きく影響を受けていたのが、84年にピューリッツァー賞を受賞した(※1)アントニー・スオウという世界的な写真家がおられますが、その方の写真展をプラハで拝観し、その時以降、彼と同じような仕事がしたいと思って、子供時代からずっとこの道を目指してきたという理由もあります。

そして、僕の両親からソ連時代や共産主義時代の話は頻繁にお聞きしておりましたので、成長するにつれて、実際に見てみたいと思ってもいました。

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—–ウクライナに入る前と後で、監督自身はその国に対する考え方や価値観に変化は、ございましたか?

ムラベツJr.監督:実は、僕自身はウクライナに対する具体的なイメージを持っておりませんでした。

90年代のウクライナは、スロバキア人にとって、「マフィアの国」という認識を持っておりました。

犯罪率が高い印象があり、ニセ警官に道で停められて、ニセの身分証で車を盗まれてしまうという事件も起きています。

ウクライナには、そのような危険なイメージしか持っていなかったのも、事実です。

撮影をするようになってから国と国を行き来するようになってから、ウクライナについて少しずつ知って行き、スロバキアとの共通点や違いなどを知って行きました。

ですので、前と後では印象が変わった感覚は、ありません。

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—–ロシア・ウクライナ侵攻は、今に始まった訳ではなく、およそ半世紀にも及ぶ、社会的、歴史的、政治的、国際的な問題が複雑に絡み合っていると言えますが、このロシア・ウクライナの関係性は、監督自身の人生と深く密接な関係があったり、幼少期からの影響はございますか?

ムラベツJr.監督:戦場カメラマンとしてのキャリアをスタートしたのが、ウクライナ問題も、ひとつとしてありました。

影響があったと、言えるかも知れません。

ウクライナで始めた仕事(戦場カメラマン)を今日までしていますので、そういう意味では、影響を受けたと言っていいのかも知れないです。

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—–日本語のタイトルは、『ウクライナから平和を叫ぶ』というとても分かりやすい題名ですが、その反面、ロシア語では『Mir Vama』と付けられておられますが、どのような意味がございますか?

ムラベツJr.監督:『Mir Vam』というタイトルには、「平和をあなたたちに」という意味があります。

この「Mir」には、「平和」という意味があります。

「Mir Vam」は、「平和をあなたたちに」と言います。

これは、作中の終盤に登場する歌のタイトルでもあります。映画の中でも教会で歌われている歌なんです。

(※2)セブンスデー・アドベンチスト教会がありますが、ドンパス地方では大変、布教が進んでいる宗派なんです。

その教会では、ミサ曲として『Mir Vam』が歌われています。

「Peace to You All(Mir Vam)」には、「皆さんに平和を。」という意味があり、その地区の信者さんの方々が歌う歌のタイトルから付けています。

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—–ウクライナでの撮影中、監督自身、命の危険を感じることはございましたか?

ムラベツJr.監督:この映画に関しては、撮影中に命の危険を感じることはございませんでしたが、100%安全という訳ではありませんでした。

いつ何が起きるのか、分からない状態でした。

そういう意味では、100%ではありませんが、命の危機に関するまでの危険はさほど、感じられませんでした。

ですが、分離主義共和国の方ではEU圏ではありませんので、何か起きた時、どう対応するのかという意識は、ずっと持っており、リスクとも隣り合わせでした。

でも、今年2月から戦争も始まりっておりますので、やはり大変な危険でもあります。

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—–上映時間が1時間7分と、比較的、時間が短い作品と受け取れますが、映像としての素材は残されておられるのか、またこの上映時間に込めたメッセージとしては足りないと、感じていらっしゃるのでしょうか?

ムラベツJr.監督:上映時間の60分は、こちらでは長編ドキュメンタリー映画としては、最小の時間となります。

僕自身、長いドキュメンタリーが嫌いですし、観客自身も複雑な物語の上、上映が長い作品ですと、集中できないと思います。

アクションやコメディと言ったジャンルではございませんので、僕にとっては60分、1時間は標準的なスタイルで、印象的な長さだと思っております。

この撮影スタイルは、たくさんの撮影が行われ、映像を選択し編集していきます。

また例えば、マウリポリでの兵隊たちへの撮影も行いましたが、今回は一般市民の声を届けたいというスタンスでしたので、カットしました。

確かに、兵隊の中にも様々な思いもあると思いますが、今回は市民たちの目線で製作しております。

もちろん、多くの場面がカットされ、使用されておりません。

シーンごと丸々、採用していない映像もあります。

ドラマ性、ストーリーに沿った素材を使う事によって、様々なシーンの視点を紹介しています。

ただ、その視点が被ってしまった時は、一番いい映像を選択する事で、対応していきました。

まだまだ、残っている素材は、たくさんあります。

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—–撮影時期が、2015年頃ほど。日本以外では、2016年10月に海外で公開されているようですが、個人としては、日本人として、本作を取り上げるのは少し遅く感じてしまいますが、2016年公開から今年2022年の日本公開、この6年間の「空白」について、何か思うことはございますか?

ムラベツJr.監督:僕にとっては、とても驚きだったんです。

このような大きな切符とチャンスで、僕にとっては日本という遠いエキゾチックな国で公開して頂けるのは、本当に驚きです。

今回、日本で上映が決定したのは、2022年2月から始まったロシア・ウクライナ侵攻による、ウクライナへの興味や関心が世界中で集まって来た延長戦として、今回の日本公開が実現したと思っています。

やはり、この6年間では、他の国際的な問題もあり、注目はウクライナから離れていた事も過去に何度かありました。

今起こっている戦争は、2014年から起こっていた紛争の第2フェーズに当たります。

この戦争を理解するためには、過去の出来事を学ぶ必要もあります。そういう想いも抱えて、観て頂ければと思います。

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—–2月から本格的なロシア・ウクライナ侵攻が勃発しましたが、現在日本では少しずつ戦争の報道が、減りつつあります。先日、国内では(※3)ウクライナ人の結婚ラッシュがニュースとして取り上げられておりました。現在のロシア・ウクライナ侵攻の戦局は、いかがでしょうか?

ムラベツJr.監督:現在の僕の意見は、単純明快です。

ロシア側が、アグレッシブな侵攻者側として戦争の罪の責任を取らなければならないと、思っています。

今もウクライナ側を、強く応援しております。

ウクライナが無事に、自国を守りぬけるように、自分たちの民主主義的な思想を守り切れるようにと、支持しております。

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—–少し話が反れるかも知れませんが、アジア諸国でもロシア・ウクライナ侵攻と似たような事案も起きております。近年では、中国が香港を自国の統治下に置こうとしている状況がございます。また先日、(※4)台湾では、中国側の侵略に備えて、国家主導で軍事訓練を始めているという現状が、アジアでも起きています。ヨーロッパ側にアジアの情報が、入っているかどうか定かではありませんが、将来、可能性として、ウクライナ同様に日本も、何かしらの動きがあるかもしれないと否定はできません。この国際問題に関して、監督自身は何か思い、感じることはございますか?

ムラベツJr.監督:アジアの状況は、僕も注目しています。

と言うのも、やはり現在の中国もまた、ロシアの社会情勢に注視しながら、行動していると思われます。

例えば、台湾に対しての行動が結果、どのように事が運ぶのか、ロシアの例から推し量っている状況かと思われます。

中国もロシアの状況や動向、また世界の反応を見て、大変シビアに洞察していると思います。

現在、残念ながら、第三次世界大戦に向かい得るようなプロセスが、始まっている事でしょう

そのような事態に陥った場合、独裁的な国家が示す民主主義という戦いになると思われます。

中国もロシアもやはり、独自の民族性を持っておられますが、このような国々のトップがある程度、富を独占し、その一方で一般の方々が苦しい生活を強いられる状況にあります。

今の現状において、国民の富を守るためにトップの人間が、軍事でしかその地位は守られないので、このような意味合いを持って、今後も注目していこうと考えています。

—–最後に、本作『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』を、日本人にどのように感じ取って欲しいなど、ございますか?

ムラベツJr.監督:やはり、世界で起きている事に興味・関心を持って頂きたいと思います。

どんな物事、些細な事でも構いません。

国際情勢、国際問題にも、気づける人になって欲しいと願っております。

映画を観ながら、自分自身で何かを見つけられる人になって欲しいと思います。

今自身の国、海外の情勢含め、気が付ける人になって欲しいと思います。

そして、新しい情報を集めて、自身の教養として身に付けていく、あるいは学んで行く事が大切だと思います。

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ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All』は、8月26日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田、9月2日(金)より京都府のアップリンク京都、9月9日(金)より兵庫県のシネ・リーブル神戸にて公開になります。

(※1)故郷の英雄https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/feature/0603/f_5_zoom1.shtml(2022年8月22日)

(※2)セブンスデー・アドベンチスト教会この教会についてhttps://adventist.jp/%e3%81%93%e3%81%ae%e6%95%99%e4%bc%9a%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/(2022年8月22日)

(※3)戦時下で結婚急ぐ若者急増、首都では8倍超に ウクライナhttps://www.afpbb.com/articles/-/3417700?cx_amp=all&act=all(2022年8月24日)

(※4)台湾で大規模軍事演習を実施 一般市民も避難訓練に参加https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000262769.html(2022年8月24日)