映画『OLD DAYS』「俺はまだ、走ってる」末松暢茂監督インタビュー

映画『OLD DAYS』「俺はまだ、走ってる」末松暢茂監督インタビュー

映画『OLD DAYS』末松暢茂監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

—–少し失礼かもしれませんが、社会的に見ても「暴走族」は、時代遅れと囁かれている昨今、なぜこの題材で作品を製作しようと思ったのですか?監督の暴走族に対する熱い想いは、ございますか?

末松監督:「暴走族」とは、ひとつの日本特有のカルチャーだと思っています。

日本の文化を、海外に持って行けば、面白いのではないかと。

暴走族は、日本にしか無く、海外にはない文化かと。

不良漫画は、今でも色褪せない日本映画のジャンルとして確立されています。

バイクそのものは好きですが、自分は暴走族ではなかったです。

暴走族に対する熱い想いがあったというよりは、暴走族を通して「友情」を描きたかったので、暴走族とは一体、何か?

より深く知りたいという熱量は高かったと思います。

実際、実在する元暴走族の幸手櫻會のOBに取材させて頂きました。

取材を重ねて行く中で、暴走族の事を学ばせて頂き、暴走族に対する理解が深まりました。

—–実際の元暴走族の方も出演しておられますが、どのような流れで出演オファーされたのでしょうか?

末松監督:実際、暴走族の経験がないエキストラの方が、ちゃんと役作りをして、演じるのは難しいかと。

どういうスタイルで撮ればベストなのか悩み、OBの方に出てもらえないのか打診しました。

僕なりに、リアリティのある世界観を、作りたかったんです。事細かく説明をしても、迫力に欠ける場合もあります。

僕も映画を観ていて、エキストラの方が嘘っぽかったら、凄く薄く感じてしまいます。

海外では、実際の方が出演する動きも多くあります。

実際に、出所した受刑者を使って、刑務所の場面を撮る作品もあります。

『暁に吠えろ』という映画がありますが、実際に本物の囚人を出演させてます。

本物の方に出演してもらうことで、リアリティのある映像を産み出せます。

自分が尊敬するイニャリトゥ監督は、演技経験のない地元の子どもを主人公にした作品を製作しています。

僕は、彼から影響を受けていると思います。その道の経験者を使うのも、演出上ありだと実感しています。

—–先程のお話と近いところもございますが、元暴走族の方がご出演されていましたね。撮影期間中、大変だったことや、楽しく過ごせた事はございますか?

末松監督:大変だったことは、たくさんあります。

低予算中の低予算な作品でしたので、製作陣の人数が少なかったんです。

自分たちだけで、多くの作業をこなしていく事が、大変でした。

僕に付いてきてくれている感覚ではなく、みんな一緒に頑張る仲間でした。

楽しかったことは、取材をする中で新しい体験ができたことです。

幸手櫻會の昔話をお聞きした事が、とても楽しかったです。

今振り返って、とても楽しい時間を過ごしていたと、改めて感じています。

みんな怪我もなく、乗り越えれた事が、良かったですね。

—–現場ではやはり、チームワークが大切かなと思いますね。

末松監督:僕自身も、周りの皆さんには助けられました。

プロデューサーの袴田くんや他のスタッフの仲間にも、感謝です。

当時の撮影中は、嫌なことや腹立つこともあったと思います。

人間関係ができていなければ、作品は完成してなかったではと。

—–本作『OLD DAYS』は、暴走族を描いているのではなく、彼らの深い友情や絆など、人間同士の関係性を描いておられますが、この作品の題材を通して、友情や絆の何を表現しようとしましたか?

末松監督:言葉にすると難しいかもしれませんが、暴走族もまた「人」です。

作品は、「人」を描いているんです。

友情にフォーカスしていますが、ただ自分がこの題材で作るきっかけになったのは、自身が年齢を重ねた事にあります。

撮影しようと動き始めた時に、ずっと一緒にやって来た舞台役者の仲間も結婚し、夢を断念しました。

年齢を重ねることで、色んな出来事を経験します。

自分たちが願ってないような出来事も、たくさんあると思います。

最初は皆、若く青い人間ばかりで、感情が入り乱れたりするんです。

でも、段々と慣れていき、現状を受け入れていきます。

ふと振り返った瞬間、「あいつ、元気にしてるかな」「ちゃんと生きてるかな」「何してるんだろ」と、思う時がありました。

ただ、シンプルに暴走族の世界を描き、分かりやすいメッセージをストレートに投げる中編映画もあってもいいと、思いました。

自分自身が、別れてしまった友達を応援するつもりで、作った作品です。

—–この話の続きとなりますが、名古屋のある舞台挨拶にて監督は、「本作は暴走族の映画を描いたのではなく、現実にいる友人が悩んだり、落ち込んだりする姿にエールを送りたくて、本作を製作した。」と仰られていますが、監督自身、そのエールにどのような想いを込められましたか?また、友人や観客には、届いていると思いますか?

末松監督:エールと言えば、烏滸がましいですが、自身に対しても、そんな気持ちがあります。

「エール」をどう感じてもらえるかは、観ている方々の様々な感じ方や解釈かと思います。

ただ、自分の友達に向けては、「皆、元気?俺はまだ、走ってるよ!」と。

—–最後に、本作『OLD DAYS』の魅力を教えて頂きますか?

末松監督:実在した幸手櫻會という埼玉にいた暴走族の姿を描いた作品です。

ただ、東京の都会ではなく、埼玉の田舎にいる彼等は、まったく色が違います。

田んぼの畦道や田舎の原風景など、少しノスタルジックにもさせてくれ、懐かしさも感じさせてくれます。

そんな空気感や暴走族の友情など、大したドラマがある訳ではありませんが、ふとした人間関係や歴史、その土地と暴走族の姿。

そこにしかないリアリティから、若きりし頃の自分たちに置き換えて観れるところが、多少あると思います。

バイオレンスでエンターテインメントな映画ではありません。

ただ、どこにでもある、自分たちならではの中編作品になっていると思います。

たまには、違った映画が観たいと思った方には、ぜひオススメです!

—–貴重なお話、ありがとうございました。

映画『OLD DAYS』は現在、絶賛公開中。