今年もまた、第19回大阪アジアン映画祭が、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。上映作品本数は63作品、上映作品の製作国 ・地域は24の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。
映画『潜入捜査官の隠遁生活』親子の絆について
一言レビュー:ある事件以降、小さな商店を営み娘を育ててきた女性。正義感の強い娘は、内緒で空手を習い、困った人を助けて”空手少女”と話題になるが、危険な薬物事件に巻き込まれてしまい…。家族の秘密と再生を描くアクションドラマ。本作『潜入捜査官の隠遁生活』は登場人物の主人公性が、その都度、物語の流れによって変化を起こす少し変わった作品だ。日本語のタイトルと物語の行く末に、誰もが騙されるはずだ。ある種、親子の絆を試しているようでもある物語性の中に吸い込まれそうになるが、家族という関係には他者では立ち入れない深い絆がある。「全ての人間関係の基礎には、親子の絆が存在する」(※1)と言われているが、偉人野口英世の母親シカの英世に対する深い愛情(※2)は、さほど、知られていない。彼女自身、無学であるにも関わらず、息子英世には勉強こそが、人生の扉を開くものと教え、名学者野口英世を生み出している。本作『潜入捜査官の隠遁生活』は、親子の絆について、もう一度、再考したくなる作品だ。
映画『走れない人の走り方』個という存在がよりもっと大切に
一言レビュー:ロードムービーを撮りたい映画監督の小島桐子。限られた予算、決まらないキャストなど数々のトラブルにより理想と現実が乖離する中で、桐子が取った選択とは。本作『走れない人の走り方』は、ノンフィクションなのか、フィクションなのか、曖昧な境界線の中にいる人物を捉えた作品にも見え、人生のグラデーション(※3)について、つい考えてしまう。では、人生のグラデーションとは何か?それは、個々の存在が、より輝ける世界を指しているのではないかと思う。十人十色という言葉があるように、人生には100通り以上の生き方があり、そこには正解不正解は存在しない。タイトル「走れない人の走り方」とあるが、○○できない人の○○のやり方は、その人個人のやり方が正解だ。走れないから、他人の走り方を真似なくてもいいし、自身が思った走り方が不正解でもない。集団か個人か(※4)と問われる時代はもう、とうの昔に過ぎ去った。今の世の中は、より個人が尊重される時代となっている。さらには、個人主義の時代から分人主義(※5)と聞き慣れない言葉まで産まれている。分人主義とは、個人の中には様々な人生や生き方があり、感情がある。もう個人が、個人という考え方ではなくなった昨今、個という存在がよりもっと大切にされる時代が到来する事を願いたい。
映画『トラブル・ガール』トラブル・ボーイと呼ばれた私から世間へ
一言レビュー:小曉はADHDの少女。学校では孤立し、家でも母親とはうまくいかず、父親は仕事で不在がち。彼女を理解してくれるのは担任のポールだけだった。しかし、嵐の日、彼女は母親とポールの不倫を見てしまい…。昨今、社会福祉的医学的に注目されている発達障害を取り扱った台湾映画。発達障害を患う子どもたち(※6)は皆、本人が気付かない所で生きづらさを感じている。そもそも、生きづらさが何なのかさえ、口や言葉で説明が難しい。何が生きやすくて、何が生きづらいのか。当事者の私自身、障害者手帳を更新する際、かかりつけ医で自身が感じる生きづらさについて説明はしにくい。大人の私でさえ、他者に伝えるのが難しいのに、子どもたちがどこまで生きづらさを感じているのか未知数だ。自分が思っている事を言語化するのが困難だから、幼少期の頃から他者とよく衝突していた。成長はしているものの、大人になった今も変わらず、よく家族と喧嘩する。自身が思っている意図がなかなか伝わらず、歯車が合わないと、衝突してしまうのは心歯がゆい。でも、これだけは伝えたいのは、発達障害のある方や子どもたちは、トラブルを起こしたくて生きている訳ではない。発達障害を持つ子どもたちは、必死に生きているだけ。トラブル・ボーイ、トラブル・ガールと世間はそんな目で見てしまうかもしれないが、彼等は彼等なりに一生懸命生きている。まずは、その事を知って欲しい。トラブル・ボーイと呼ばれた私から世間へ。
映画『ティーヨッド 死の囁き』度量や懐の深さを試している
一言レビュー:50年前の農村を舞台に、悪霊に取り憑かれた妹を救うため、元軍人の長男が家族とともに闘う!WEBで掲載された話題沸騰のホラー伝説に着想を得て映画化。東南アジアの各国でも公開された話題作。タイのホラー専門に掲載された物語が基となっているが、この話の基となったタイのカンチャナブリー地区で有名な伝説「Tee Yod」から着想を得ていると言われているが、タイ側が学者を招いて、その真相を迫ろうとしている。アングルシー島の歴史と文化の専門知識で有名なシーナカリンウィロート大学環境文化・エコツーリズム学部講師オン・バンバン博士への調査で、私たちは「ティー・ヨッド」をめぐる謎を解明しようと努力した結果、オン・バンバン博士は、彼らにこう答えている。「事件の関係者自体が具体的な知識を持っていないため、その起源は不明のままです。それは半世紀前の彼らの回想に基づいているだけです。」(※7)と、真相は闇の中のようで、日本には伝わっていないタイ古来の都市伝説がまた、恐怖を誘う。本作『ティーヨッド 死の囁き』は、タイ版『死霊館』と捉えれば、分かりやすい。得体の知れない存在に取り憑かれた家族を救うため、一家は団結する。映画『死霊館』でも、ラストの悪魔祓いの場面で、家族の愛や思い出が悪霊を一掃する。悪霊は、清いものや愛を嫌う。本作『ティーヨッド 死の囁き』でも、家族の愛や団結、絆、楽しかった思い出がツールとして活躍するが、家族たちは各々に家族として試される。人を思う強い愛こそが、困難を打ち負かす。それは、名作ホラー『エクソシスト』でも描かれている親としての子への愛だ。これは、日常生活に置き換えると、あなたは家族が大病を患った時、どこまで寄り添うことができますか?と、あなた自身の度量や懐の深さを試されている。
映画『スミコ22』また違う新しい人生
一言レビュー:スミコはふと思う、自分の感覚がひどく曖昧なものになっていることに──。福岡佐和子とはまださつきによる映像制作ユニット「しどろもどリ」最新作。『浜辺のゲーム』(OAFF2019)等の堀春菜が主演を務める。超絶シュートでオフビート、作品全体がゆるふわな感覚に包まれた不思議な作品。まったく社会性な要素は、微塵の欠片もないにも関わらず、今のストレスフルなブラック社会(※8)に物申す要素が、作品の裏で見え隠れする雰囲気が心地よい。本来なら朝早く起きて、通勤ラッシュの電車に揺られて、夕方までの定時まで、もしくは終電ギリギリの社会人生活が、一昔前の日本社会だったが、本作に登場するスミコ22歳の生き方はそれらをすべて根底から覆す新しい生き方を提案する。私自身も一般社会から零れ落ち、逸脱した生き方をしているからこそ、スミコの生き方を応援したくなる。毎日せかせか働くのもいい事だが、時には朝遅く起きて、一日ダラダラした生活を送ってみたら、また違う新しい人生を再発見できるのかもしれない。
第19回大阪アジアン映画祭は現在、3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ梅田、ABCホール、大阪中之島美術館の4か所にて開催中。
(※1)全ての人間関係の基礎が、親子の絆
親離れ・子離れよりも、親子の絆が最も大切https://toyokeizai.net/articles/-/19613?page=3(2024年3月7日)
(※2)母シカの手紙https://www.noguchihideyo.or.jp/sp/about/exhi05.html(2024年3月7日)
(※3)野村友里さん「個々の色がまざりあうのが人生、グラデーションライフ」https://www.asahi.com/and/w/(2024年3月7日)
(※4)暴走する集団・組織の怪――個人化する社会で求められる「集合的アイデンティティ」https://yab.yomiuri.co.jp/adv/wol/(2024年3月7日)
(※5)分人主義とは?https://dividualism.k-hirano.com/?doing_wp_cron=1709760777.3032629489898681640625(2024年3月7日)
(※6)発達特性かも?とお悩みの方へhttps://umeoka-cl.com/news_school.html?gad_source=1&gclid=CjwKCAiAxaCvBhBaEiwAvsLmWBSv24wpec3oZiJ-FYaqCgLnIQNrEj6DQmeLBvpdEO-LrHMub25QNRoCsWQQAvD_BwE(2024年3月7日)
(※7)Experts Dismiss Claims of ‘Tee Yod’ as an Anglesey Languagehttps://www.newsdirectory3.com/the-mysterious-tale-of-tee-yod-debunking-the-anglesey-language-myth/(2024年3月7日)
(※8)ブラック企業は無くならない ─ 社会学者の卵の会話にある無責任https://www.anlyznews.com/2012/06/blog-post_10.html?m=1(2024年3月7日)