新たな旅の始まりを綴る映画『銀平町シネマブルース』小出恵介さんインタビュー
—–まず、本作『銀平町シネマブルース』への出演が決まった経緯を、教えて頂きますか?
小出さん: 2021年の夏頃、企画のお話を頂きました。ちょうどその時、僕はドラマに出演させて頂いていた時でした。
その後に、僕としても映画にも出演して、復帰したいと、ずっと思っていました。
絶好のチャンスと言いますか、シンプルに嬉しかったです。
—–昨年、2022年には何本か主演作品にご出演されておりますが、この作品が最初の作品でしょうか?
小出さん:もう一本の作品『Bridal, my Song』に出演していましたが、その映画の撮影終了直後にお話を頂き、その時から、立て続けに映画の撮影に参加させて頂きました。
それが、一昨年2021年の秋ごろでした。
—–本作のシナリオに目を通して、小出さん自身、近藤という人物に共通点や共感を抱くことはございましたか?
小出さん:近藤という人物は、何か事情があって、自分の過去やすべてから逃げ出してしまった人間なんです。
家を捨て、逃亡してしまった人物です。
僕自身も、逃げ出した訳では無いですが、過去に色々あり、人生そのものがストップしてしまいました。
ある期間を置いて、そこから再び歩み出す、再生して行く点では、非常に重なる部分もありました。
その点は、自分の中でも重ねて、演じることができたと思います。
—–重ねてと仰りましたが、例えば、どのような点で重ねることができましたか?
小出さん:作品の冒頭での近藤に関して、空虚な時間が流れていますが、僕自身にもやる事がない時間がたくさんありました。
物心着いた頃から、今までずっと、動いていた時間が、パタッと止まってしまい、何をしていいのか分からない状態が、彼の人生でも続くんです。
そういう空気感や空虚な感情は、自分でも感じていました。
そんな気持ちを役に持ち込んで、想像して、演じられたと思います。
個人的には、僕自身、アメリカへの渡航を経験して、歩みを進めたんですが、その事に関しては、一切迷いを感じませんでした。
近藤という人間は、人生にもっと迷いを感じていて、どういう風に人生を歩むのか、自身に対する主体性を見出せない人物です。
人生にできた空白の時間は、自分も実感して、演じることができました。
—–私は、本作を城定監督の映画『アルプススタンドのはしの方』の大人版青春映画と感じました。小出さんの目からは、本作のシナリオを読んだ時と完成後とでは、『銀平町シネマブルース』はどのように映りましたか?また、いまおかしんじ監督の脚本ですが、いまおかさんの作風と言うよりも、完成が城定監督の作風になっている点、何か違いを感じましたか?
小出さん:脚本を頂いた時点でも、世界観が出来上がっていました。
そこに、城定監督が参入する事で、監督自身の「らしさ」や「イズム」が再度、立ち上がって来たと、撮影中にも感じたんです。
どっちに寄せるという話ではありませんが、脚本で描かれた内容を忠実に撮影し、あとは演出を受けて、素直に反応していく現場でした。
結果として、城定監督の世界観になった事は、作品の完成を見て、実感しました。
—–作品を鑑賞させて頂き、城定監督の作り手としての味が出ていると、私自身感じました。ただ、お二方はピンク映画のご出身。それにも関わらず、今回は濡れ場が全くない作品に仕上がっていましたね。
小出さん:非常に爽やかな作品に仕上がっていますね。
城定監督の映画『アルプススタンドのはしの方』もそうですが、爽やかな温かい物語を手掛ける点も、監督としての強みだと思うんです。
他の作品では、比較的、色気のある場面もあり、大人の機微を描いていますが、本作のような爽やかな系統の作品がある事もまた、監督自身の引き出しには脱帽ですよね。
—–両ジャンルを使い分けて、作品を製作できるのは、城定監督の強みと言いますか、腕の上手さが光りますね。
小出さん:撮影期間が決して長くありませんので、その期間で、ひとつの作品として仕上げられる力は凄いと思います。
編集を通して、作風を変えられることも可能性としてあるかもしれませんが、ちゃんと世界観を成立させている点は、見所だと思います。
ただ個人的には、今度は映画『ビリーバーズ』のような世界観を彷彿とさせる作品にも出演してみたいと、少し考えています。
ピンク映画での城定監督は、また少し違った雰囲気を持つと思っています。
その空気感を味わってみたいですね。
—–本作の物語の設定上、「銀平町」とは架空の町ですが、主人公の近藤にとっては、大事な故郷として描かれていますよね。小出さんにとって、もしくは、近藤にとっては、「銀平町」とは、どのような町でしょうか?
小出さん:「銀平町」という場所は、大学の頃に住んでいた町ですが、周りに友達がいるとか、まったくないんです。
また、僕のイメージとしては、言うほど縁が深い場所でもないと思います。
自分がさすらう時間の中、流れ着いた場所なんです。
そこに、偶々、学生の頃に通っていた映画館で巡り会った人々から触発される事で、彼の人生が再度、動き始めるんです。
この町は、一体どんな土地なのでしょうか?
自分がもう一度、歩き始められるきっかけを作ってくれた場所でもあり、町だと思います。
—–なぜ、近藤が帰郷をしたのか?経営が傾く劇場に肩入れするのか?彼が、映画好きになったきっかけなど。近藤を取り巻く背景が、まったく描かれていないのかなと思います。また、劇場の開業60周年が、50年でもなく、70年でもなく、なぜ60年なのか?ドラマの背景に関しても、奥行きを考えることができますが、これらの要素を考慮した結果、近藤という人物や作中の環境が、小出さんのお芝居に、どう影響を与えたとおもいますか?
小出さん:作品において背景の説明がまったくないんです。
それは仰る通りですが、撮影の裏で設定を教えてくれて、演技指導が入るかと言えば、そんな事もありませんでした。
その空白の部分は、自分でも埋めて行くほうが、僕自身も、演じ易い所はあります。
自分で埋めながら、演じていました。
前に、映画『愛なのに』を鑑賞しましたが、その作品でも背景を描いていないんです。
—–本作でも空白の部分を掘り下げ、付加価値を付ける事によって、近藤という人間がストーリー上、どのような人物なのか、膨らみを持たせる事が出来ますよね。
小出さん:その部分は、勝手に膨らましてもいいと、監督は思っていると感じます。
作品の全体像が朧気のままでも、面白いと思っているんだと、考えています。
そこを敢えて、設定を決めず、すべてを明確にし過ぎない、架空の町の、架空の人物達という寓話っぽさもまた、城定監督節だろうなと思いますね。
完璧な物語がすべて、良いとは限らないと、城定監督は考えているtのではないかなと。
—–物語の設定は架空ですが、作品のロケーションは、埼玉県川越市にある現役の老舗ミニシアター「川越スカラ座」ですが、実際の映画館が、近藤を演じる上で、小出さんの演技を豊かにしたと思えますか?
小出さん:やはり、ロケ地は非常に大事ですよね。
実際の雰囲気含め、その場所でどう存在するのかは、一番大きなヒントになります。
実際の場所での撮影は、非常に助けられました。
ただ、思っていたよりも、小ぶりの映画館なんです。
完成した作品を鑑賞させて頂き、凄く上手に仕上げており、今お話した空間だけには見えない映像になっています。
演じる側としては、実際にある劇場でロケをする事は非常に助かっています。
—–本作は、経営難に陥った劇場の物語ですが、その反面、洋画では『フェイブルマンズ』『バビロン』『エンドロールのつづき』と映画に関連した作品が偶然にも、同時期に公開されています。小出さんにとって、「映画館」とは何でしょうか?
小出さん:僕にとっての「映画館」ですか?
昔からずっと、僕も映画は好きでした。
僕にとっての映画館は、息を着く場所でもあり、新たな刺激をもらう場所でもあり、インスピレーションの場所でもあり、自分を見つめ直す場所でもあり、孤独を埋める場所でもあり、退屈な時間を埋める場所でもあります。
映画館は、そういう感情に対して頼る事が多かった若い時でした。
—–ご自身にとって、映画館の存在が、大きかったと?
小出さん:映画というモノに対して、純粋に好きだった感覚は、俳優というお仕事を始める瞬間に、変わってしまいました。
その時からの映画を見つめる眼差しには、非常に変化を感じています。
自分が関わっているお仕事の情報を得たり、学んだり、研鑽する視点と考えているんです。
当時の眼差しは、もっと私的なモノでした。
プライベートな感覚であったのですが、その点で言えば、ひとつ趣味が奪われた感覚でもあります。
それでも、それをお仕事にして頂けるのは、非常に幸せでもあります。
—–都内で先日行われた先行上映会の舞台挨拶の場で、小出さんは「絶対に、また必ず出たい。本作は思い出の作品になった。」とお話されておりますが、本作を小出さんの再出発の作品とした時、今後、俳優として、役者として、どう活動して行こうかと、何かお考えはございますか?
小出さん:やはり、映画という観点で言えば、これを皮切りに再出発として、色々な作品に出演し、演技を重ねて行きたいと考えています。
その1本目の作品として、役も含めて、僕自身の経験に沿ったような内容でしたので、『銀平町シネマブルース』は僕にとって、記念碑的な、マイルストーンのような作品だと思っています。
—–最後に、本作『銀平町シネマブルース』の魅力を教えて頂きますか?
小出さん:本作は、映画のための映画です。
人それぞれ、映画に対する距離感や関わり方はまったく違うと思いますが、作る側でも、観る側でも、映画から足が遠のいた方が、これを観て、「自分にとって映画とは何か?」と、自問して思い直せる機会になると思っています。
本作に触れて、初めて映画という文化を認識する方は、この作品を契機として、映画の世界にドップリと浸かってもらえる事もできます。
とにかく、『銀平町シネマブルース』は「映画」というカルチャーの魅力をたくさん伝えている作品ではないかなと思います。
—–貴重なお話、ありがとうございました。
映画『銀平町シネマブルース』は現在、関西では2月10日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田、イオンシネマ シアタス心斎橋。京都府のアップリンク京都、イオンシネマ京都桂川、出町座。兵庫県のkino cinema 神戸国際にて、上映中。和歌山県のイオンシネマ和歌山は、2月17日(金)より公開予定。また、全国の劇場にて、順次公開予定。