ドキュメンタリー映画『木樵』「自分を大切にして生きる」宮崎政記監督インタビュー

ドキュメンタリー映画『木樵』「自分を大切にして生きる」宮崎政記監督インタビュー

2022年10月19日

悠久の時を越えて、山と生きる人々の姿を追ったドキュメンタリー映画『木樵』宮崎政記監督インタビュー

©️2021 『木樵』製作委員会

過疎化が進む田舎町で林業という名の木樵に人生を託した職人たちの姿を追ったドキュメンタリー映画『木樵』を監督した宮崎政記監督に本作の見どころや林業の魅力、作品を通して見えてくる日本の将来について、お聞きした。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–岐阜県に帰郷し、家業である「木樵」を2年ほど携わる中、映像として残したいと思っていらっしゃったと。なぜ、撮りたい気持ちになったのでしょうか?

宮崎監督:順を追ってお話しますが、東京でドキュメンタリー作品含め、テレビの仕事や映像の仕事をずっとして来ました。

50歳前後の頃、僕のお袋が認知症を患ってしまいまったんです。

その頃、母親は一人暮らしをしていましたが、親戚含め、帰郷するよう説得されました。

映像の道を捨てて、田舎に帰ったんです。

母親が逝く前に、一緒に最期の時間を過ごそうと、帰省しました。

ただ、木樵をテーマに映画を作りたいと思っていたのは、映像の仕事を始めた頃からあったんです。

高校生までは、木樵の仕事をしたいという想いをずっと抱えていたんです。

でも、映像関係の仕事を始めた頃から、この題材を取り上げたいと、考えていました。

映像の仕事を捨てて、田舎に帰ることで、木樵の映画を作りたいと思うようになりました。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–「林業」という職業は、一般の方からはまだまだ、未知の領域かと存じ上げますが、林業の方々が営む姿を作品に収めることによって、この世界の何を伝えようとされましたか?

宮崎監督:「林業」は現在、衰退してしまった産業ですが、それを復興しようと思って、作品を製作した訳ではありません。

ただ、山で生きる木樵の姿を伝えたいという気持ちが、この作品の根本です。

林業の復活や復興なんて、大きいことは考えていません。

木樵達の姿を知ってもらいたい。

それが結果的に、林業の理解などに繋がればと、願っています。

—–「林業」や「木樵」の姿をありのまま捉えようとされたのですね。お若い方もおられましたね。

宮崎監督:木樵の師匠と呼ばれる引退間近の年寄りの豊かな表情は、弟子たちがいる、二十歳の若い子もいるという明るい今が、あの表情を生み出していると思います。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–撮影中、大変だった事や、その反対に良かったことはございますか?

宮崎監督:大変だったのは、テレビの仕事、ドキュメンタリー作品含め、カメラを回した事がありませんでした。

今回、初めて自分でカメラを回す冒険をしました。

これは、非常に大変でした。小さいですが、カメラを肩に抱えて、三脚を脇に挟んで、急な山道を登るのはとても大変でした。

撮影当初は、70歳手前でしたが、とにかく体力的に大変でした。

ドキュメンタリーを撮る時の私の決意は、「待って下さい」とは、相手に伝えないと、決めています。

「木を切るのを待って」とは言えないので、私が作業場に着いた頃には、何本も既に伐採しているんです。

木樵達は、急な山道を平気な顔して登っていくんです。

私は、ヒーヒー言いながら、彼らに付いて行くので精一杯でした。

とにかく、体力的、肉体的に大変でした。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–およそ一年間の撮影期間の中、多くの映像素材が生まれましたが、約80分の上映時間ですが、切り捨てていかなければならない素材もあった事でしょう。ただ、80分に収められた映像に何を表現しておられますか?

宮崎監督:一番は、「木樵」という仕事の具体的な作業です。

この風景や作業を知って頂きたいと、思っています。

木は、生き物なんです。

木樵達は、平気な顔してバッサバッサ切って行くんです。

あの楽しさや面白さは、切る経験をした人でないと、理解できないと思います。

撮影する前に私も、細い木を切っていました。

自然破壊と叫ばれる中、相反する行為ではありますが、あの快感は忘れられません。

勘違いしないで欲しいのは、「林業」とは自然破壊でも何でもなく、尊い仕事という事を忘れないで頂きたいです。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–撮影を通して、監督自身、林業や自然に対して、気持ちの変化はございましたか?

宮崎監督:映画の中でも伝えておりますが、山の荒廃が非常に酷いんです。

「無惨」と言ってもいいほど、どの山も荒れています。

台風の強風は自然災害なので、仕方がない事ではあります。

ただ、倒木達をそのままにしているんです。

今の問題は何かと言われれば、片付ける人がいない。

片付けるための費用がない。

これが、林業の状況なんです。

これこそ、行政がしっかり絡んで、手助けしないといけないと、問題だと思います。

—–行政は、何もしてくれない、そんなイメージばかりが先行してしまいます。

宮崎監督:ただ、地方自治体が山主に代わって、山に手を入れていこうという活動が行われています。

つまり、山主には本当にお金がないんです。

木樵に木を切って、売っても、採算が取れない、そんな状態がずっと続いているんです。

放ったらかしておくしかない状態です。

地方自治体が、買うか借りるかして、処理する方法が出て来ています。

そんな法律が、生まれようとしています。

—–ちゃんと山を守って行きましょうという動きですね。とても大切ですね。次の質問は、プレスからの抜粋ですが、笠原木材株式会社の山田社長がコメントを残されておられますが、「新型コロナウィルスによるパンデミックが収束した後、私たちはどう生きて行くのか。ひとつの答えには、「木樵」の生き方にあるような気がします。」と仰っておられますが、監督自身、木樵の姿を通して、どう生きていけばいいなど、ございますか?

宮崎監督:やはり、彼ら木樵を見ていると、自分の人生を通して習得した技術を持ってして、しっかり人生を生きようとしている事ですね。

習得するには当然、時間もかかります。

だから、今お話した事が、山田社長のお言葉にも含まれておられます。

今、映画の中の彼ら木樵は、非常に豊かな表情を持った人間なんです。

彼らの山に流れるゆったりとした生活時間が、ゆっくりと生きて行く事。

その山に流れている時間を、そのまま家庭に持ち込んで、地域に持ち込んで、山に流れる時間の中、あの人達は生きている。

あの豊かさです。

山田社長が言うように、右往左往している場合ではないと、発信しているのでは?と思います。

コロナとか、ウクライナとか、社会情勢は大変な時代ですが、自分たちのペースにあった時間を持つことが大事ですね。

ただ、山の中だから出来ることと言ってしまえば、身も蓋もないですよね。

だから逆に、この作品を観て、あの豊かさに触れて、彼らのように豊かになりたいと、都会に住んでる方が思ってもいいと思います。

自然の中の時間を再現できなくても、都会の中の時間を有効活用して行って欲しいですね。

©️2021 『木樵』製作委員会

—–場所や環境は関係なく、自身の生活スタイルの中で、人生の豊かさを見つけて頂きたいですね。自分もまた、見つけたいです。また、本作は「自然と共に生きる」が、作品のテーマになっておられますが、それをするために、今を生きる私たちはこれから何をして行けば、よろしいでしょうか?

宮崎監督:先程と同じ話ですが、「自分を大切にする」ことですね。

自分を大切にできない人は、人を大切にできないですよ。

補う言葉も必要ですが、自分が大切であるためには、例えば、誠実である事も重要ですよね。

とにかく、自分を大切にして欲しいですね。

—–最後に、本作『木樵』の魅力を教えて頂きますか?

宮崎監督:沈んだ「今」に光を与える映画だと、言えますね。

様々な理由で、皆さん、気持ちが沈んでいると思います。

映画館に足を運んで頂き、およそ90分で、人生をガラッと変える力はありませんが、一筋の光ぐらいは挿して来るはずです。

それを基に、人生を頑張って生きて欲しいと思います。

©️2021 『木樵』製作委員会

ドキュメンタリー映画『木樵』は現在、10月14日より大阪府のシネ・リーブル梅田、京都府のUPLINK京都、和歌山県のイオンシネマ和歌山にて上映中。また、10月21日より兵庫県のシネ・リーブル神戸、11月11日より兵庫県の洲本オリオンにて上映予定。全国順次公開。10月22日(土)、シネ・リーブル神戸にて、益田祐美子プロデューサーと高橋剛志さん(一般社団法人 職人起業塾 代表)のご登壇による舞台挨拶が、行われる予定。