映画『ほどけそうな、息』併映『まだ見ぬあなたに』『一瞬の楽園』「児童相談所への正しい理解に繋がって」小澤雅人監督インタビュー

映画『ほどけそうな、息』併映『まだ見ぬあなたに』『一瞬の楽園』「児童相談所への正しい理解に繋がって」小澤雅人監督インタビュー

2022年10月13日

児童相談所の光と影を追った映画『ほどけそうな、息』併映『まだ見ぬあなたに』『一瞬の楽園』小澤雅人監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

「児童相談所」の裏側の日常を丹念に描いた描いた映画『ほどけそうな、息』を監督した小澤雅人監督に本作や児童相談所、日本社会の未来について、お聞きした。

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

—–まず、映画『ほどけそうな、息』についてですが、児童相談所の関係者に取材を重ね、本作を製作されたという事ですが、なぜ徹底的な聞き取りを行い、相談所の現状や内側の今を描写・表現しようとされたのでしょうか?

小澤監督:僕自身が、本作に限らず、作品製作する際は、多くの取材をするタイプなんです。

僕の撮る映画は、フィクションではありますが、限りなくドキュメンタリーに近い作品が多くあります。

作る側の責任もあり、特に社会問題を取り上げる事が多く、それらの問題を描くには、表現する側の責任も付いて回ります。

なるべく、真実に近づけたいと、思っています。そのためには、取材が必要不可欠であります。

また、児童相談所はなかなか映像化されていない上、この映画が完成して、本作を鑑賞された方が、本作に描いている物語が、児童相談所だと思われる可能性を考慮すると、そのような面での責任感も必要です。

取材を重ね、今の児童相談所を丁寧に描きたいという想いで取材もたくさん行いました。

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

—–タイトル『ほどけそうな、息』には、どんな想いを込められましたか?また、「解ける」には、「結ばれていた解れた状態になる」という意味がありますが、何が解れた状態になるのでしょうか?「息」には、作品の何に対する表現でしょうか?

小澤監督:ほどけそうな「何か」を、一番想像したのは、家族の絆です。

ほどけそうな絆を繋ぎ止め、結び直すのが相談所の方々の仕事かと思います。

また、「息」や「呼吸」には、主人公カスミにとっての精神状態のバロメーターです。

タイトルにある「息」には、人の命やカスミ本人にも掛けています。

ほどけそうな命や絆を、ほどけないように繋ごうとしている方々の物語として表現するために、この題名にしました。

—–もう一点、タイトルにある「、」には、何を意味しておられますか?

小澤監督:ひとつ思い付くのが、相談所の方々のお仕事は、グレーゾーンが多いんです。

例えば、子どもを保護すべきか、家に返すべきか、非常に難しいんです。

虐待かどうか判断するのも、難しいですよね。

判断が困難な事案が多くあり、物事の進捗も簡単には事を運べません。

仕事の煩わしさや見識の難易度など、スムーズには行かない事の象徴として、題名に「、」を入れました。

—–「、」には、相談所のお仕事に対するストッパーを思わされました。

小澤監督:この「、」を、ある種の呼吸として捉えて頂いてもいいかと思います。

撮影直前に思い付いたタイトルですが、どうしても「、」が必要だと思いました。

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

—–本作には、山場もなく、クライマックスもありません。ただ、あるのは相談員たちの「日常」ですね。ドラマがなくても、十分ドラマな感じがしました。「日常」を描く演出にされた意図は、何ですか?

小澤監督:ダルデンヌ兄弟は、ご存知でしょうか?

僕自身は、彼らの作品から大きく影響を受けております。

あの方々の作品は、社会問題を取り扱いつつも、描いているのは人間ですよね。

人間の心情を丁寧に、淡々と描くだけですが、その演出が逆に考えさせられるものがあります。

僕も今回、児童相談所の背景を描いておりますが、それ以上に相談員たちの生活や日常をただ描く事で、何かを感じて頂けたらと思っています。

先程、仰って頂いた感想の中で、日常を描いていると言って頂けたのは嬉しかったです。

なぜなら、日常を描こうと狙ってもいるからです。

—–二作目『まだ見ぬあなたへ』は、映画『ほどけそうな、息』とは正反対に、非常にドラマティックな作品と感じました。若者の妊娠、中絶、里親問題など、少し難しく複雑な題材で描いておられますが、この作品から何からインスピレーションを受けておられますか?

小澤監督:これは、実は自身の企画と言うより、今回の映画『ほどけそうな、息』にも企画として参加して頂けている佐藤剛さんから企画を持ち掛けられました。

僕も、若年妊娠や予期せぬ妊娠に興味関心がありました。

問題を抱えた妊婦さんが入院する産婦人科の病院にも、取材を行かせて頂きました。

—–少しニュアンスは違いますが、この作品の印象は、映画『4ヶ月、3週と2日』を想起させました。

小澤監督:ムンジウ作品はもう少し淡々としておりますが、本作は若干、僕の中では作り方やアプローチは変わっています。

一緒に組んだプロデューサーさんの方が、作品をドラマティックに描こうとされている方でしたので、話し合いを重ねた結果、あのような演出に収まりました。

—–今回、上映される三作品の中では、少し色が違うように感じました。

小澤監督:僕が作る作品の中でも、少し色が違うかなと思います。

今回の作品以外でも、少し異色かと感じます。

—–三作目『一瞬の楽園』は、ギャンブル依存症が作品に盛り込まれておりますが、短編『微熱』でも同じギャンブル依存を要素として取り入れておりますが、監督自身、この「ギャンブル依存症」に対して、何か強い思いがございますか?あと、本作に出演していらっしゃるベトナム人女性のブー・トゥ・ザンさんは、どのように発見されましたか?

小澤監督:あの女性の方は、日本に来られた留学生です。

ベトナム人のキャストは皆さん、留学生の方で、芝居経験がまったく無い方達でした。

実は、Facebookで募集したんです。ベトナム人コミュニティや気になる方には直接DMを送るなどして、接点を作りました。

たくさんの応募があったのですが、オーディションで選考させていただきました。

—–ギャンブル依存症に対しては、監督自身、何か思い入れはございますか?

小澤監督:ギャンブル依存症に関して言えば、実は僕の父親が依存症でした

当時は、ギャンブル依存症に対して訴えたい気持ちも、ありませんでした。

ただ、ギャンブル依存症に対する人の心理に興味がありました。

そのときに作ったのが『微熱』という短編映画です。

この映画をたまたま観に来て下さった方の中に、「ギャンブル依存症問題を考える会」という、依存症を支援する団体の方がおられ、その方々に気に入って頂けました。

それがご縁で、ギャンブル依存症の啓発動画を作らせて頂くなどしていく中で、本作が生まれました。

自分にとっても、関係の無い世界ではないんです。

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

—–映画『ほどけそうな、息』は、児童相談所の知られざる内情を、作品を通して、社会に発信しておられますが、私たちが本作に触れて、何かしらの影響は受けると考えられます。監督自身、本作が描く世界から日本の未来に何を期待しますか?

小澤監督:今まで「児童相談所」が、映像化されて来なかった。

その上、この中で何が起き、何があり、また職員の方たちがどんな仕事をしているのか、分かってなかった背景があると思います。

フィクションなので100%現実そのままとは言い切れませんが、まずは映画を通して「児童相談所」とは、どんな場所なのか、どんな職員の方が働き、様々な苦労を抱えている事を知って欲しいです。

本作で認知してもらうことで、児童相談所への正しい理解に繋がって欲しいと願います。

例えば、世間からの一方的な誹謗中傷もある中、「児童相談所」への関心を持つ人が増えてくれれば、人々の想像力が生まれて、社会の見え方も変わってくると思います。

—–最後に、本作『ほどけそうな、息』をはじめ、三作品の魅力を教えて頂きますか?

小澤監督:映画『ほどけそうな、息』は、映像化された事がほとんどなかった児童相談所について丁寧に取材して制作した、かなり現実に則した作品になっています。

まず、児童相談所の実態を知って頂ければ。

児童相談所という特殊な場所で働く職員としてだけではなく、どこにでもいる女の子としても描いていますので、等身大の女性の姿から普遍的な何かを感じ取って頂ければと思います。

映画『まだ見ぬあなたに』では、毎週のように赤ん坊の遺棄事件が報道されていますが、ニュースだけで一方的な判断するのではなく、背景にある出来事を知って頂きたい。

妊娠してしまい、中絶ができない時期が来ても、選択肢がある事も知って欲しいのがあります。

映画『一瞬の楽園』は、ギャンブル依存症を描いていることもありますが、もうひとつベトナム人留学生の問題も描いています。

コロナ前の作品なので今は変わっているかもしれませんが、彼ら彼女らの多くは、母国で悪質なブローカーに騙されて、借金して日本に来て、勉強よりもバイトを優先せざるを得ないという状況でした。

一方で、留学生や技能実習生などの外国人労働者なしに今の日本の経済は回りませんし、彼らに支えられています。

そんな現状に疑問を抱いて作った短編映画です。

ぜひ劇場でご覧ください。

—–貴重なお話を、ありがとうございました。

©️2022『ほどけそうな、息』製作委員会

映画『ほどけそうな、息』併映『まだ見ぬあなたに』『一瞬の楽園』は現在、関西では大阪府の第七藝術劇場京都府の出町座にて、絶賛公開中。また、愛知県のシネマスコーレでも上映中。神奈川県のシネマ・ジャック&ベティは近日公開予定。