映画『COME & GO カム・アンド・ゴー』リム・カーワイ監督 インタビュー
インタビュー・文・構成 スズキ トモヤ
—–本作の製作のきっかけを教えて頂けますか?
リム監督:映画『Come & Go』を作ったきっかけは、2019年の春でした。
平成から令和に変わる直前の1ヶ月。平成の最後の桜の季節に撮影した作品です。
でも、この構想そのものは、2012年頃からありました。この映画は「大阪三部作」の三作目に位置付けしております。
なぜ、三部作になったかと言うと、実は2010年に新世界を舞台にした作品『新世界の夜明け』を作りました。2012年も大阪ミナミを舞台にした映画『恋するミナミ』を作りました。
この作品以降、2013年~2019年までの6年間は、空白がありました。2013年頃には既に、大阪のキタ「梅田」を舞台にした作品の構想はありました。
でも、なかなか上手くいかなくて、撮影開始までに6年かかりました。
構想そのものも7年ぐらいかかり、やっと作った作品です。だから、きっかけとしてはやはり、『新世界の夜明け』『恋するミナミ』を作ったからこそ、「大阪三部作」として本作を作りたかったんです。
過去二作も、大阪を舞台にして、海外の国々、中国、香港、韓国にも撮影しに行きました。中国と韓国の東アジアと日本の関係性を描こうとした作品です。
そのテーマも本作『Come & Go』に引き継がれております。
日本人と東アジア人の関係を描く映画になっております。同時に2013年から2019年の間には、日本でも大きな変化が起きました。
まず2014年以降、インバウンドが世界で始まりました。
オリンピックも決まり、日本は積極的に海外の人を受け入れる体制を整えようとしていました。
本当に2014年の境目だと思いますが、一気に日本にいる外国人が増えました。
観光客は東アジアだけでなく、東南アジアの方々もたくさん来られるようになりました。
その理由は、ビザの緩和が一番大きいと思います。
昔は、日本に来るためには、銀行口座の残高を証明する必要がありました。
それができないと、日本に来るためのビザが許可されませんでした。
特に、東南アジア人に対して厳しい取り締まりが存在しました。
インバウンド対策が日本で行われるようになってから、すべて解除されるようになりました。
インドネシアやタイの人は、ビザなしで1ヶ月日本に来ることができます。
一度祖国に帰っても、再入国も許されております。とても緩和され、来やすくなりました。この数年間は日本の経済も停滞気味でしたが、2019年以降、活発になりました。
このような変化がたくさんあり、これらのことを三作目に反映させようと思いました。
ここまで登場人物が多く、言葉もグローバルになるとは思いませんでした。構想としては、2013年頃には既にあったということです。
—–今まで観たことがなく、とてもグローバルな作品でしたね。
リム監督:ありえないですよね。多分、これからもなかなか作られない作品ではないかと思います。
—–前作二作は、大阪の「ミナミ」が舞台だったと思いますが、今回はなぜ「キタ」にしたのでしょうか?
リム監督:最初から頭の中には、それぞれの地域を舞台にして作るという考えがありました。
そして、僕から見ると、「大阪府」は少し違って見えます。
堺市があり、豊中市、池田市がありますよね。
僕から見る「大阪市」は、コンパクトで、三つの地域に分けられております。
ひとつは、新世界辺りの天王寺区や西成区のエリアです。
ふたつ目は、ミナミですよね。オシャレな繁華街であり、ブランドショップが固まっているミナミエリアですよね。
そして、キタエリアですね。大阪全体の交通の心臓部だと思います。
阪急もあり、JRもあり、外国人が往来できる場所だけでなく、日本人も行き来できる中心部です。
心臓部として機能している大都会ですね。
—–撮影時、大変だったことなど、ございますか?
リム監督:タイトなスケジュールな中で、撮影準備を行い、撮影が始まり終わりました。
すごく楽しかったですね。なぜ、楽しかったかと言うと、海外からのたくさんのキャストの方が来られました。
現場のスタッフは日本人ですが、彼らにとってもとても新鮮な現場でした。
たくさんの外国人が現場にいることは、今までなかったのではないかと思います。
スタッフの方もすごく楽しんだと思います。
全体的には、とてもタイトなものでしたが、今までに経験できないような触れ合いを感じることができたのではないでしょうか?
日本人だけでなく、海外の方もまた、様々な言葉が飛び交う現場でコミュニケーションが取れるのは、新鮮な気持ちで楽しめる雰囲気があったと思います。
—–今回、多くの外国人の方がご出演されておりますが、彼らはオーディションか、監督からのオファーで出演が決まりましたか?
リム監督:登場人物は14人以上がおり、全員自分で撮影の交渉をして行き、キャスティングして行きました。
—–オーディションも同時に行われたのでしょうか?
リム監督:そうですね。オーディションも行いつつ、オファーもしていきました。大阪では4回ほど、東京では2回行いました。
プロやアマを問わず、このような役柄を募集していますと、記事を出したり、TwitterなどSNSで告知し、大阪と東京合わせて、多分400人ぐらい方々を面接して参りました。
—–それは、日本人だけでなく、外国人の方もでしょうか?
リム監督:日本に住んでいる外国人も同時に、オーディションを行いました。
日本人、外国人合わせて400人以上の方が、オーディション会場に来られました。
彼らの中から合う役をキャスティングしていきました。
やはり、自分がイメージしたピッタリ合うキャストは、そんなに集まらなかったですね。
その後、芸能事務所やプロダクション、海外の知り合いにもアプローチして、最終的には今回のキャスティングとなりました。
—–キャストが決まるまでの道のりが、とても大変でしたね。
リム監督:結果としては、とても完璧なキャスティングと言えますが、ここまで来るのに、とても時間がかかりましたね。
すぐに出演してもらうとかではなく、色々役柄などを考えた上、条件をクリアしてから、キャスティングが決まりました。
—–撮影時は言語が溢れてたと思いますが、コミュニケーションを取るのは、どうでしたか?
リム監督:僕にとっては、まったく問題なかったです。
自分は母国語や英語だけでなく、日本語、広東語、中国語も話せます。
今回、来て頂いたキャストの方は、韓国人だから英語を喋れますので、英語で彼らとコミュニケーションを取っていきました。
中国、台湾の人は皆、中国語を話します。
香港の人は広東語で話してますから、僕にとってはまったく問題のない現場となりました。
どのキャストとも、直接会話ができますので、通訳の力をお借りすることはありませんでした。
—–言語の壁は、まったくなかったのですね。
リム監督:まったくなかったです。でも、他の方や日本人のスタッフは、現場で僕の言葉で話しても、分からなかったと思います。
多分、色々戸惑っているのではないかと思います。ただ、編集して完成した作品を観ると、みんな納得してくれたんじゃないかと思います。
—–アジア人を大阪の狭いエリアでもある「キタ」に集結させた意図は、なんでしょうか?
リム監督:そうですね。この映画のテーマに関わっています。
要するに、隣同士なのにまったく知らない者同士。日本人でもそうですが、日本に住んでいる外国人同士も同じなんです。
例えば、ミャンマー人とベトナム人は同じ東南アジアから来ている人ですが、日本に来ても彼らはあまり交流はしていません。お互いに、自分のコミュニティに留まっている人ばかりです。
日本人ももちろん似ているところがありますが、みんなお互いのことに興味がないと思います。
だから、日本人だけではなく、外国人にまで視野を広げた結果、本作の構成となりました。
テーマとしては、みんなそれぞれ問題を抱えて、解決しようとしていますが、みんな余裕がない。
周囲のことにも目を向けれず、関心を持とうともしない。
そんなテーマを持っています。だから、狭いエリアの「キタ」ですれ違ったり、触れ合ったりしますが、お互い他人のことをまったく興味がないという表現が、本作ではできたのではないかと思います。
やはり、「梅田」という街は、とても多様的です。
様々なエリアがあり、色々な表情を持っている街です。
中崎町もあり、天六もあり、東梅田もあり、そして北新地もある。
多くの方が住んでいるのに、お互いに交流がないエリアとしては、現実もそうですが、映画としても表現としても説得力のあるエリアではないかと思っております。
—–広いエリアで、多くの方が行き交っているにも関わらず、繋がってそうで繋がっていない。孤独を感じているのはではないかと思います。本作の群像劇という設定が、作品にスパイスを効かせていると思います。大阪三部作を製作されていますが、監督自身、大阪に対する「想い」は、ございますか?
リム監督:「大阪」はやはり、面白い街ですよね。
物理的には、アジアの国と比べてみると、近いわけではありません。
都会としては福岡が、アジアに近いのかもしれません。
しかし、メンタリティの面では、「大阪」は、とてもアジア的です。
例えば、大阪人はツッコミが好きで、そしてすぐ誰とでも友達になれるフレンドリーさもあると思います。
アジアの諸外国の方も、様々な民族が共生共存しています。
お互いに距離を保ち意識しながら、やっていく社会です。距離が、そんなにあるわけではありません。
この部分が、大阪のいい所だと思います。そんなメンタリティを持っている都会は、大阪しかないかと感じます。
福岡や東京にも住んだことありますが、大阪の方が洗練されているようにも感じます。「自由な文化」と言ってもいいと思います。
—–中国人の観光客と台湾人の旅行者が出会う一連の流れは、何かしらの意図があり演出されておりますか?
リム監督:あの場面を観て、何かを感じ取ってもらえたら一番いいですよね。
自分としてはやはり、中華系の人は受けてきた教育や政治の背景、価値観も違いますよね。
そういうことを日本人が、感じてもらえればと思い、あのような映像で表現しました。
—–海外でも、上映されますよね。
リム監督:実は、コロナ禍の件もありまして、こちらも積極的に海外の上映へのアプローチを控えております。
今は、エストニアの映画祭でも上映されます。
その後、NYでの映画祭でも、上映される予定です。今のところは、二箇所だけです。
香港、台湾、ベトナム、マレーシア、シンガポールを含めて、あらゆる国に仕掛けて行こうかと思います。
今決まったのは、12月の香港での上映予定です。あとは、来年以降の話になると思います。
—–特に、アジアでの上映に関して、アジア人に本作をどのように感じて欲しいなど、ございますか?
リム監督:今回の映画の内容は、海外の方よりも日本人が、一番分かってるんじゃないかと思います。
エストニアやアメリカで観てもらえた時、彼らにとって分かりずらいところが、あったと思います。
あるいは、彼らが想像していた日本と少し違うという印象を受けたのだと思います。
特に、日本人のハーフの部分、そして日本になぜベトナム人が、こんなにもたくさんいるのかといつ疑問。
これらのことが、彼らにとって苦く辛い部分もあると思います。
難民の問題も含めてですよね。難民や移民、海外からの労働者など、当たり前だと思ってるんですよね。日本ではサービスされたり、様々な問題もあったりしますが、理解しづらい部分もあるのではないかと思います。
技能実習生をテーマにした映画『海辺の彼女たち』という作品もあります。
外国人に絞って掘り下げて、一本の映画として見てもらえば、比較的分かりやすい作品になると思います。
でも今回は、様々な背景を持っている人々の話を並列に観せたわけですから、欧米人から観ると分かりにくい、伝わりにくい描写もあったと思います。
ただ、実際に日本人だったら、このような状況に皆さんも気がついておられますし、慣れてしまっていると思います。
外国人の世界に更に一歩踏み込んで、知る必要があると思います。ある意味で、日本人は分かりやすいと思います。
だから、僕は海外の人に観てもらうというよりも、日本人に観て欲しいと思います。
もっと日本人が、本作のようなことが日本でなぜ起きているのかを考えて欲しいです。
映画『COME & GO カム・アンド・ゴー』 は、12月3日(金)より大阪府のテアトル梅田、12月4日(土)より大阪府のシネ・ヌーヴォにて上映開始。また京都府の京都シネマは、12月10日(金)より。出町座は近日公開。兵庫県のシネ・リーブル神戸は、来年1月14(金)より。宝塚シネ・ピピアは、来年1月28日(金)より公開が控えている。