インタビュー・文・撮影 スズキ トモヤ
現在、全国で公開されている映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の監督河合健さんに作品の舞台裏やその魅力についてお話をお聞きしてきました。
「戦争とは何か?若き監督が問いかける混沌とした反対運動」河合健監督
—–戦争という少し難しいテーマを扱っていますが、なぜブラック・コメディとして製作されたのですか?
河合監督:元々、映画は悲しいことを悲しく描くとか、楽しいことを楽しく描くと言う風には作られていないような気がしています。戦争を題材にしているからと言って、実在の出来事を描かないといけないとか。
その悲惨さを訴える作品にしないといけないとか。反戦を描かないといけないとか。そういう考えは、固定概念だと思っています。今回のアプローチは、僕ら若い世代の視点から戦争がどのように見えているのかを探ること。なので、作り手と太平洋戦争の約75年の距離を感じてもらう作品になりました。ブラック・コメディになったのも、その距離が生み出したものだと思っています。
—–先日映画『東京裁判』を鑑賞させて頂きましたが、率直な感想として、とても複雑で、よく分かりませんでした。また、戦争と作り手の距離感とは、どのようなことでしょうか?
河合監督: スズキさんに限らず、歴史的背景や知識不足で混乱したり、そのせいで嫌煙される方も多いと思います。
でも、それは75年という距離があるので当然なのかもしれません。なんのちゃんでは、その分からなさ・複雑さをそのまま楽しんでもらえる映画にしようと思いました。知識を押し付ける映画ではなく、不明瞭な見え方自体を表現した現代劇です。
—–ありのままを描いてらっしゃるのですね。
河合監督:そうですね。映画の中には、戦争描写もないじゃないですか。戦時中の描写も入れてないと言うのは、あくまで現代劇。現代から、“太平洋戦争”がどう見えるかっていうことを描きたいと思いました。
—–ありがとうございます。次に、子役の西めぐみさんをオーディションで発掘されたとお聞きしておりますが、彼女のどこに惹かれましたか?
河合監督:助監督含め、オーディションも10年近く関わらせて頂いたんですが、難しいですよね。どのオーディションでも、まず初対面で部屋に入ってきた瞬間に惹かれるものがあるかどうか。
あとは、声質の確認と役柄に合うような背丈の確認もします。西めぐみさんに関して言えば、初めてお会いした時から、まず見た目のインパクトと言いますか、目力や佇まい、存在感に圧倒されましたね。
—–子役という括りで、括ってはいけないような雰囲気がありましたね。
河合監督:そうですね。子役のお芝居ってだいたい直接的すぎるというか、表情からすべてが読み取れたりするんですが、西めぐみさんの場合、表情の奥に隠された”なにか“を思わせる魅力がありました。
—–演技未経験でしたよね?
河合監督:そうですね。でも、ものすごく頑張って練習してくれたので、本番では殆ど一発OKでした。吹越さんも彼女が素人だって言うことをまったく意識せずに、プロとしてぶつかったと仰っていて、初めてでそこまでのお芝居が出来たのは彼女の才能だと思います。
—–子供たちが施設で亀を用いて、抗議活動をする場面が、素晴らしかったです。編集も大変だったと思うんです。そのような点で、他に大変だった撮影などは、ありましたか?
河合監督:すごく技術的な話になりますが、基本的に、ワンカットの中に登場人物が三人以上いる状態は、撮影技術として意外と難しいです。
それが常に、すべての場面で四人以上、画面の中にいると言う状況が、ほとんどのシーンでありました。その大半の出演者が素人さんで、そのまた半分が子役の方と言う環境は、ものすごく難しかったですね。
—–子役の方の動きは、難しいですよね。
河合監督:技術的な難しさは、ありました。結果的に成功したと言うのは、池のシーンです。子どもたちが池で西めぐみさんをいじめる中盤のシーン、水の中で溺れる場面は、練習してもやはり本番では一発撮りで撮影していますので、彼らに託すしかなくて。その期待に応えて、くれたなと思っています。
—–いじめっ子として、あの男の子たちの存在感はありましたね。
河合監督:そうですね。結果的に安全面を彼ら自身が考慮してくれたので安心しました。お子さんは、下手をすると無茶しちゃう可能性があると思います。その辺りを彼らもきちんと把握して演じてくれたので、素晴らしい出演者でした。
—–ありがとうございます。作品の設定でA級戦犯ではなく、BC級戦犯に焦点を当てたのは、なぜでしょうか?
河合監督: そもそもA級戦犯で架空の登場人物にするというのは無理があるんです。例えば、その方の家系が石材店を営んでいたと言う設定が、映画の嘘としてはやりすぎだと判断しました。
BC級戦犯の方が比較的、不特定多数の一人と言う括りの中で作品に登場しやすいと思い、BC級戦犯を題材にして作品を作り上げました。この題材で一番有名な作品『私は貝になりたい』でもそうですが、BC級戦犯の方は上司からの命令に従った結果、罪に問われた人もいます。当時の日本の複雑な状況が表現できるので、BC級戦犯が今回の題材に適していると思っています。
—–ありがとうございます。最後に、多くの世代のお客さんが足を運んで頂けると思いますが、どのように作品を感じて欲しいと思いますか?
河合監督: なんのちゃんは戦争を題材にしながら、描かれているのはその延長線上にある現代です。後から後から事実が覆される状況が普通に起こり得る今の政治。
その政治に対して困惑や嫌悪を感じながらも、どこか他人事のような距離感をもつ僕をふくめた現代人には、きっとこの映画と現代がつながって見えるのではないかと思います。
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、7月10日(土)から大阪府のシネ・ヌーヴォ、兵庫県の元町映画館にて上映開始。7月16日(金)からの3日間は、京都府の京都みなみ会館にて上映開始。また、全国にて絶賛公開中。