映画『ライトハウス』主人公たちの精神が崩壊していく毎に、観る側も同じ体験を背負わされる胸糞映画だ

映画『ライトハウス』主人公たちの精神が崩壊していく毎に、観る側も同じ体験を背負わされる胸糞映画だ

2021年7月8日

映画『ライトハウス』の作品概要

文・構成 スズキ トモヤ 協力 堤 健介

2016年公開のホラー映画『ウィッチ』で一躍有名となった俊英ロバート・エガース。今回制作したのは、灯台守として派遣された二人の男の厭悪な関係性をスリリングに描いたスリラー作品だ。

孤島の密閉された灯台の中で展開される嫌悪に満ちた会話劇は、辟易するほどのエクスタシーを感じること間違いなし。主演には、俳優ウィレム・デフォーとロバート・パティンソン。本作は、第72回カンヌ国際映画祭にて上映され、批評家からも絶賛された今年注目の作品だ。

映画『ライトハウス』のあらすじ

物語は1890年代、ニューイングランドの孤島。ここに4週間だけ灯台守として派遣されてきた二人の男。ベテランのトーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験のイーフレム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)。

 彼らは、最初から反りが合わず、争いが耐えない。険悪な空気の中、日々を過ごしていたが、ある時島を襲った嵐のせいで、二人は孤島に閉じ込められてしまう。閉鎖的な空間で繰り広げられる、男たちの抑圧された心理状況を表現した恐怖のスリラー作品だ。

映画『ライトハウス』の感想と評価

    衝撃的な作品だ。監督から叩きつけられたのは、この作品を読解するための挑戦状だ。あたかも、本作を掌握している監督の手の中にあるのは、観客に物語を解読して欲しいと言う欲望だ。
    閉塞的な灯台で。険悪な雰囲気の二人の男。巨大な嵐が突如として、彼らを襲う。精神を崩壊させるほどのパワーを持ったストーリー展開が、観る者を奈落の底に突き落とす。外の世界から切り離された孤島にある灯台が、窮屈で重苦しい社会の縮図だ。夜の暗い海を照らす闇夜の灯が、彼ら灯台守の行く末を照らし出す。光と闇の狭間で息をする姿、この社会で生きる人々を体現しているようだ。白黒映像で撮影されたこの作品は、一体何を表現しようとしたのか。この監督は、本作を通して何を描こうとしたのか。難易度の高い作品ほど、観客自身の技量が試される。


    なにしろ、読解が難しい作品を製作したのは、前作『ウィッチ』で数々の謎を観客に投げかけた気鋭の監督ロバート・エガースだ。彼が演出したカメラ・アングルや劇中曲が、不穏な空気を醸し出している。その類まれな演出法に誰もが、驚愕を抱かざるを得ないだろう。まるで本作は実験映像のようで、とても挑発的な内容となっている。晦渋な作品のため、何度も観ないと理解できないだろうと、焚き付けてもくる。必ず複数回は観ないといけないようなトリックが、散りばめられている。本作『ライトハウス』は、何度も劇場に足を運ぶことになるのは必須条件として、心得ておきたいところだ。
   

 作品は、宗教や信仰心と言うテーマを扱いつつも、それそのものが全面的にアピールされている訳ではない。ただ、この朧気な題材にこそ、作品を読み解く最大のヒントが隠されている。それを掴み取れるどうかは、観客にかかっている。物語の中心の流れは、短期間で派遣されてきた灯台守の男の会話劇だ。

 ベテランの灯台守が、若輩者を罵り、罵倒するトークイベントが、2時間延々と繰り広げられる。観ているこちらも罵声を聞かされたら、嫌な気持ちにだってなるものだ。物語は、精神的に追い詰めていく男と追い詰められていく男の心理スリラー。間違いなく、本作は観る側に生理的嫌悪感と言う感情を植え付け、じわりじわりと気力を減退させてくれる胸糞映画だ。


    そんな不穏な空気を纏った本作に最も必要だったのは、この空間を表現できる演技力のある俳優だ。W・デフォーとR・パティンソンの演技が見事に、作品とマッチしている。監督は彼らの会話から、観客がどんな感情を抱くのか、セリフを通じて実験的に試している。本作は、そんな監督の意図を首尾よく飲み込み、体当たりで演じた両俳優の代表作になったと言っても、過言ではない。悪役で定評のあるW・デフォーはこの作品でまた、嫌われ者のキャラクターを更新している。また、共演のR・パティンソンは、本作では人間関係に苦悩する若者を挺身して演じている。彼らの迫真の演技には、パワーが漲っている。観ていて疲れが襲ってくるほど、演技力のある役者が、これこそ難解な作品だと言わんばかりに、観客を扇動しているのだ。


    もう一つ特筆すべきは、本作の監督ロバート・エガースの演出力が、一段と飛躍している点だ。ベテランと若手の俳優への指導が、本作をより不穏な作品として完遂させている。彼ら俳優を指導する立場である監督は、本来役者が内に秘めているポテンシャルを引き出す大役を担っている。彼らを追い詰めるような演出が、観る者にまで何度も観たいと言う欲望を急き立てているのだ。二人の男の険悪な関係性を描くための演技指導が、作品を高尚なものに押し上げている。

本作は物々しくて、不快で、憂鬱な雰囲気を装ったスリラー作品。監督が勢いよく叩きつけた挑戦状は、人々に鑑賞意欲を焚き付ける。頭を使って考えるのを放棄したくなるような、難解で、複雑な物語は、観る側に刺激を与えてくれる。さぁ、この複雑怪奇な物語を読み解くことができるのか、挑戦したまえと、監督からの果たし状が今届けられたばかりだ。

映画『ライトハウス』のまとめ

 今年公開された作品の中で、今のところ一番危うい映画が本作『ライトハウス』だ。監督は複雑で重厚な作品を通して、考察しろ、空気を読み取れ、テーマを深掘りしろと言わんばかりに、観る側を圧倒している。

 それに応えるように、役者の二人の演技力は、想像を絶する出来栄えだ。観客は、この作品について深く考えるために格闘する必要がある。そんな監督自身の好戦的な態度に答えるべく、作品について熟考するべき最高の胸糞映画だ。

映画『ライトハウス』は、関西の大阪府では、大阪ステーションシティシネマTOHOシネマズなんばMOVIX堺にて。京都府では、京都シネマにて。兵庫県では、TOHOシネマズ西宮OSにて、7月9日(金)から上映開始です。また、シネ・リーブル神戸は 7月16日(金)から上映です。他に、滋賀県は大津アレックスシネマにて 7月9日(金)から。奈良県は、ユナイテッド・シネマ橿原にて8月16日から上映開始です。全国は 7月9日(金) から上映が始まります。