ドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』障がい映画や福祉映画を越えて 佐藤監督に単独インタビュー

ドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』障がい映画や福祉映画を越えて 佐藤監督に単独インタビュー

2021年9月25日

ドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』 佐藤監督インタビュー

©office + studio T.P.S

インタビュー・文・構成 スズキ トモヤ

ドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』の佐藤監督にzoomにて、単独インタビューしてきました。障がい者の世界を感動ポルノにしたくない監督の「想い」をお聞きしました。

佐藤監督:作品を観て、どう思いましたか?

—–正直なところ、知らない世界を観させて頂いきました。

例えば、代表の方の石川さんが、中途障害になられた経緯についてはすごく驚きました。

ヒューマン・エラーと言えばヒューマン・エラーかも知れないんですが…

佐藤監督:そうですね。医療過誤です。

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—–訴えようと思えば、訴えることもできると思うんですよね。

なかなか、踏み込めないところなのかなと感じました。

佐藤監督:彼女は、結局訴えなかったと思います。

—–監督自身、なぜ障がい者の方の世界に踏み込もうとしたんですか?

そのきっかけは、ございますか?

佐藤監督:昔から障がい者に限らず、マイノリティの世界に興味がありました。

20代の頃に宇都宮病院事件がありまして、精神病院で患者を虐待していた事件ですね。

—–ひどい事件ですね。

佐藤監督:そうですね。そのニュースを知って衝撃を受けてから、しばらく精神病院について調べました。

常に30年以上、マイノリティの世界にこだわりありました。

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—–そして今回、踏み込んで取材されたのですね。

佐藤監督:踏み込んだというよりも、少数派で生きている人の事をずっと考えていました。

そもそも、マジョリティとマイノリティを分ける意味があるのかと、僕の中で沸き起こりました。

本来マイノリティって、誰から見ての話なのか、疑問に思っていました。

マイノリティかマジョリティか、と言う言葉が、障がい者か健常者か、という言葉になると思います。

その境目、カテゴライズは誰がしているのか、という思いにここ数年で至りました。

障がいある人達を障がい者として捉えない。

その逆に健常者として分類されている人をもう一度、フラットに見たら、どうなるのか?という発想からでした。

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—–確かに、世間は何にでもカテゴライズしようとしているように感じますね。

実際、みんな同じだと考えれば、そうやって分ける必要がないと感じます。

佐藤監督:程度問題と言いますか、グラデーションの中の一部でしかないと思います。

例えば、一言障がい者と言っても、非常に重度の方もおられたら、片足がなくてもとても元気な方もおられますよね。

健常者の中でも、かなり精神病んでる人もいますよね。

それに気がついてない、あるいはそれが原因で迷惑かけるという方もおられますよね。

自身も病気で苦しんでいるにも関わらず、健常者として見られる方もおられますね。

極端に言いますと、誰も違いはないと思いますね。

そもそも健常者、障がい者として、分けるのは違うのかなと思います。

世間では、感動ポルノと言われていますが、障がい者が頑張っている姿を見て、感動する人は当然、おられるかと思います。

という点が、僕自身そもそも境はないと感じますし、自分が健常者やマジョリティだと言う前提で見ているから、そう見えると思います。

だから、障がいあるなし関係なしに、例えば日本人に対する外国人のヘイトなど、自分自身がマジョリティだと思うから、そういうヘイトのようなことが可能になるとも思います。

例えば、行ったこともない、言葉も分からない外国に一人で行けば、完全にそこではマイノリティですよね?

だから、マジョリティもマイノリティも関係なく、総体的に見たらいいのかなと思いますし、そういう方が差別や偏見もなくなるのかなと、感じますね。

—–みんな土俵が同じですよね。

佐藤監督:バリエーションの中の一部でしかないと思った方がいいのかなと感じると、最近ここ10年は想い至っております。

—–「colors」の代表の石川さんと中村さんのお人柄は、監督から見て、どう感じましたか?

佐藤監督:お二人とも強烈ですよね。

魅力的な方で、いい人で、親切な方です。その分、いい意味での毒があるんですよね。

そんなお二方の部分に、僕としては魅力を感じます。

お二人とも、正直だと思います。

人に嫌われても、気持ちを正直にお話する方ですね。

嘘がまったくありません。

—–作中でも、ストレートな話し方をよくされてましたね。

佐藤監督:こんな風に発言すれば、世間からどう思われるかという考えはせず、安全策を取らない方ですね。

—–使い分けているとはおられますが、比較的本音を口にしているのでしょう。

佐藤監督:性格として、嘘つけない方ですね。

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—–建前だと、つい気を遣ってしまいますが、本音だと気持ちが楽ですよね。

佐藤監督:結局、気を遣うというのは、相手に嫌われたくないという気持ちの表れですよね。

批判されたくないという感情は、ある種自己愛なのかも知れないですね。

そういう思いが、心の奥にあると思います。

防御性とも言えます。

そういうところを踏まえて考えると、あの二人はそんな部分は、気にしてないと思うんですよね。

—–何を思われてもいいみたいな。

佐藤監督:だから逆説的に、色んな人を惹きつけるんだと思います。

あの二人のことを嫌だと言う人も、少なからずおられますよね。

—–敵を作ってしまっている点も否めないですね。

佐藤監督:否めないどころか、少なからず敵は多いと思いますね。

—–撮影時、苦労された事や、反対に良かったことは、ございますか?

佐藤監督:大変だったのは、石川さんの声が大きすぎて、音が割れてしまうことに苦労しましたね。

—–とても編集しにくかったのでは、ないでしょうか?

佐藤監督:カメラに外付けマイクを付けて、マイクのボリュームが左右にあり、2チャンネルで録音していました。ひとつのチャンネルは石川さん対応用で音量を下げて、もう一つは他の方のために音量を上げて、対応しました。編集の時に、両方を使用して、切り替えながら編集作業をしました。

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—–上手に切り替えながら、編集されてたんですね。

佐藤監督:石川さんの時はAチャンネルを使って、他の方にはBチャンネルで使い分けておりました。

—–劇映画の現場でも、音はとても気になっておりましたね。

佐藤監督:いやー、大変ですよ。

僕は一人で現場行って、一人で撮影してますからね。

元々、カメラマンではありませんので、専門的な訓練をした訳ではありません。

撮影自体は、よく下手だと言われます。

—–よくカメラもブレてますよね?でも、特には気になりません。

佐藤監督:そんなにいい機材は持っておりませんが、正直ブレても構わないと思うこともあります。

でも、今はみんなワイヤレスみたいないい機材を持ってるんですよね。

僕自身は、持ってないですし、使わない方がいいと思っています。

素人さんにワイヤレスを付けると、その方は緊張して固まってしまいます。

マイクを付けられたら、いい事言わないといけないと、緊張してしまいますよね?

—–自然体の、ありのままの姿を撮影されているんですね。

佐藤監督:そうすれば、皆さん大体慣れてくるんですよね。

カメラが回ってるのが当たり前という感覚から気にしなくなってしまうんです。

なるべく目立たないように、空気のような存在で、現場にいるようにしています。

—–逆に、撮影していて良かったと思える点は、ございますか?

佐藤監督:皆様がフランクと言いますか、構えないで撮影を受け入れてくれたことですね。

比較的、自然な姿を撮らせて頂けたのが、良かったですね。

—–撮影時、特に拘ったことは、ありますか?

佐藤監督:場所が、すごい狭い空間なんですよね。

僕一人で狭いぐらいで、皆さんが構えず、自然な姿を撮れたらと思っておりましたね。

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—–監督自身好きな場面は、ありますか?

佐藤監督:ライブのシーンで、歌い足りないと言って、途中で帰っていく子、覚えてますか?

—–泣いてらっしゃった子ですね。

佐藤監督:あのシーンが、実は一番好きですね。

あの子は、僕のカメラに何かを残そうとしているとか、撮らせようとしているつもりはまったくなくて、そんな姿をこっそり撮影しましたね。

彼には一番、嘘がないようにも見えました。みんな考えつつも、ありのままを生きていると思います。

—–映画の中の方々は、皆さん魅力的な方がおられましたね。

佐藤監督:そうですね。僕にとっては、皆さん魅力的ですね。

魅力ない人にカメラを向けても、いい映画は撮れないと、基本的には思います。

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—–500日の密着取材中に、心境の変化は、ありますか?

佐藤監督:ますます、この世界を広めたいという気持ちが湧いてきましたね。

ボーダーであったり、カテゴライズであったり、分けることに対して疑った方がいいのかなと思います。

感動ポルノと言われたり、見て感動する自分自身も少し離れた位置から考えた方がいいいんじゃないかなという想いをより強く持ちました。

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—–長期取材を終えて、感じたことはありますか?

佐藤監督:幸運だったなと思いますね。撮り始めた時は、どうなるかと思っていました。

作品になるのかどうなのか、分からなかったです。

障がいのある人にカメラを向けるという状況が、リスキーな事だと思います。

当然、撮られたくない人もおられると思いますし、それがどう使われるか分からないという不安もあって、当然だと思います。

だから、ハードルが高いかなという気持ちも密かに持っておりました。

でも、結果的には、スムーズに映画として作れたのが、良かったですね。最初感じていた心配も、幸いにも杞憂に済んだのが、ホっとしました。

—–本作をご覧になられる方には、何を感じてもらえたら、よろしいでしょうか?

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佐藤監督:大体の方が、この作品を観て、モヤモヤする感情を抱く方が多いですね。

例えば、福祉に関わっている方達は、拍子抜けしてしまうようなんです。

つまり、頑張っている障がい者の姿やその方を支えている方を撮っているわけではないんです。

障がい映画や福祉映画と考えて、観ないで頂ければと思います。

映画『ラプソディ オブ colors』は、本日9月25日(土) から大阪府のシネ・ヌーヴォにて上映開始。また、10月9日(土)より元町映画館、10月15日(金)より京都みなみ会館にて公開。9月25日(土)にはシネ・ヌーヴォにて監督舞台挨拶も予定