ドキュメンタリー映画『ケアを紡いで』「生きることとは、受け入れること」大宮浩一監督インタビュー

ドキュメンタリー映画『ケアを紡いで』「生きることとは、受け入れること」大宮浩一監督インタビュー

2023年4月13日

いくつもの葛藤と幸福のかたち。ドキュメンタリー映画『ケアを紡いで』大宮浩一監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

©大宮映像製作所

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—–本作『ケアを紡いで』が当事者である鈴木ゆずなさんの企画から始まりましたが、大宮監督自身はどのような経緯で作品の製作に参加されましたか?

大宮監督:映画に出てくるNPO法人「地域で共に生きるナノ」谷口さんからお電話があり、「素敵な夫婦がいるよ」とお話を頂きました。

このようにお話があると言う事は、「映画にしないか?」という意味合いがあったと思いますが、少しづつお話を聞いていくと、病気を患っておられ、お話をお聞きすればするほど「彼女を撮影することはできない」と僕自身の中で感じました。

今回のような題材を映画で表現するのは倫理的にどうなのか、という葛藤もありました。

ただ、折角ご紹介を頂いてお会いもしないでお断りするのは失礼でもありますので、谷口さんと一緒に尋ねて、お話をお聞きしました。

2時間ぐらいお相手の話を聞く中、少しずつ気持ちに変化がありました。

—–例えば、ゆずなさんとお話をして、どういう気持ちの変化が、ございましたか?

大宮監督:彼女自身が、とても爽やかなんです。

でも病気に関しては、淡々とですが非常に丁寧に説明して下さりました。

僕自身は(※1)AYA世代という言葉をその時初めて知りました。

AYA世代の悩みや彼女ご夫婦自身の葛藤も具体的に話して下さり、少しずつ撮影させてもらいたいという気持ちになりました。

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—–作品のタイトルについてのご質問ですが、まず「ケアを紡いで」とは思い付かない題名ですが、このタイトルにはどんな想いや願いを、監督は込めましたか?

大宮監督:「ケア」と言う言葉を、介護や看護というカテゴライズされた中ではなく、もっと広い意味として今回使いました。

生活の中で生きづらさを感じている方々を見守る事を含めた「ケア」という意味を込めました。

ケアする側とケアされる側と分けるのではなく、折り重なって素敵な模様ができるような社会になってくれればという思いで、このタイトルを付けました。

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—–作品を観させて頂き、私自身感じた鈴木ゆずなかんは、とても芯の強い方だとお見受けできました。病気を患い、死への恐怖を抱きながらも、彼女の信念を感じましたが、監督自身は彼女と一緒にいる中、病気と向き合うゆずなさんを見て、何を感じましたか?

大宮監督:撮影をした頃は、病気を認めて受け入れて並走している時期だったと僕は想像しています。

それでも、今仰っているように、彼女には強さや信念があると思います。

受け入れる強さ、また後輩の看護師に自分の経験を伝えようとしている冷静な面持ちも持ち合わせていました。非常に素敵な方ですよね。

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—–本作を通して、AYA世代問題について、多少なりとも、今の現状を知ることが、自分なりにできたのかなと思いますが、ここで監督にお聞きしたいのは、このAYA世代問題を改善するためには、私たちにできることは、何かございますか?

大宮監督:具体的に制度とは人が作るもので、人が幸せに生きられるように制度設計をしているはずなんです。

ただ僕自身が映画の中で制度に関して声高に語るタイプの作り手ではありません。

例えば、AYA世代は15歳から39歳までの方が対象です。

なぜ、40歳以上の方はその制度の狭間に当てはまらないかと言えば、(※2)介護保険制度があるからです。

介護保険制度ができてから、まだ23年しか経過していないんです。

それ以前は、上限がなく、お年寄りの世代まで対象外という大変な時代でした。

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—–その制度自体が産まれた時代もまた、日本が本腰を入れるのは遅すぎると感じて止みません。23年前って、極々最近の話ですよね。それぐらい、日本の中のシステムに対して、認知が非常に遅れてしまったりするのかなと感じます。

大宮監督:どんな時代にも、制度の不備はあります。

それを突くことは簡単で、制度のせいにすればいいだけなんです。

でも、僕たちにはできることもあるのではと思います。

民間の力で制度を上手に利用しながら、コーディネートするんです。

いざ、自分自身が病気を患った時、制度の壁が立ち塞がりポカンと立ち尽くすしか術がないのが現状です。

ところが、間に入ってくれる人が、コーディネートしてくれれば、制度と患者の結び合わせを行ってくれます。

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—–公式ホームページにて、「答えのない大切な時間。ありのままを共に生きる。」とありますが、監督にとって、本作を踏まえて、この「ありのまま」ては、なんでしょうか?

大宮監督:凄くいいコピーだと思います。(※3)帚木蓬生さんの書籍に『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』があります。

静かに見守ることが、一番の薬になる場合もあります。

答えではない答えが見つかる場合もあるのかなと。

生きることとは多分、受け入れる事だと。

それは、結果としての答えを急がずに、まずは受け入れて、時間を過ごしてみようという意味なのでは。

—–最後に、本作『ケアの魅力』を教えて頂きますか?

大宮監督:作り手の想いや考えをあまり入れないドキュメンタリー映画があってもいいのかもしれません。

本作のような直球の映画を是非受け取ってください。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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ドキュメンタリー映画『ケアを紡いで』は現在、関西では4月8日(土)より大阪府の第七藝術劇場。4月14日(金)より京都府の京都シネマ。また、兵庫県の元町映画館や全国の劇場、順次は公開予定。

(※1)AYA世代の方へ(15歳から30歳代)~15歳から30歳代でがんと診断された人へ~https://ganjoho.jp/public/life_stage/aya/index.html#:~:text=AYA%E4%B8%96%E4%BB%A3%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81Adolescent,%E4%B8%96%E4%BB%A3%E3%82%92%E6%8C%87%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2023年4月5日)

(※2)介護保険制度(成り立ちや仕組みなど)https://www.city.kasuga.fukuoka.jp/kurashi/hoken/kaigo/1000928.html(2023年4月6日)

(※3)帚木蓬生(ハハキギ・ホウセイ)著者プロフィールhttps://www.shinchosha.co.jp/sp/writer/2538/(2023年4月6日)