映画『Ike Boys イケボーイズ』オタクより愛を込めて

映画『Ike Boys イケボーイズ』オタクより愛を込めて

世紀末大決戦!!?映画『Ike Boys イケボーイズ』

©Ike Boys MOVIE. LLC.

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オタクが世界を救おうとする話は、よくある話だ。映画の世界で言えば、『ターボキッド』『キック・アス』『ピクセル』『ダンジョン・クエスト』などが挙げられ、オタクが活躍する映画、たとえば洋画ならば、『魔法使いの弟子』、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』、『宇宙人ポール』、『ナポレオン・ダイナマイト』、『40歳の童貞男』、『DOPE/ドープ!!』等、邦画ならば、『電車男』、『キサラギ』、『海月姫』、『ヲタクに恋は難しい』、『私がモテてどうすんだ』、『あの頃。』、『モテキ』、『七人のおたく』、『間宮兄弟』等が挙げられる。かく言う私も、映画オタクの部類に挙げられるだろう。一昔前の社会での「オタク」は、世間からは「気持ち悪い」というイメージが先行し、「キモオタ」(※1)なんて言う言葉もある程だが、今からおよそ20年前の2000年初期、日本では『電車男』の映画とドラマがヒットしたその背景で、一般社会でのオタクへの認識が一変している。その世間での動きには、パソコンやネットと言ったデジタルの社会的普及が、バックにあると考える事ができる。この時代を境に、社会的に市民権を得た「オタク」ではあるが、その一方で、数多くの名称となるオタクが生まれた。たとえば、漫画オタク、アニメオタク、アイドルオタク、車オタク、特撮オタク、スポーツオタク、パソコンオタク、プラモデルオタク、ゲームオタク、鉄道オタク、コスプレオタク、料理オタクが、主な男性オタクの一般的典型例だ。また、女性では、歴史オタク、声優オタク、健康オタク、ジャニーズオタク、韓流オタク、文房具オタク、カメラオタク、登山オタク(※2)等が一般的な代表例である。また、オタクとは別に、マニア(もしくはマニアック)という呼称もある(私からすれば、オタクとマニアはニアリーイコールであり、紙一重の存在と認識している)。他にも、〇〇フリークという言葉もあり、ここにファンという言葉も組み合してみる。これらをある種、種族別をしてみると、ファンは一般層向けライトなイメージとなり、オタクは自身の好きなものに対して知識や熱量が長けている人を指し、マニア、フリークまでとなると、よりディープな好きがモノやコトに対して発動している向きがある。私自身は、このオタクとマニアの間辺りだろうか。映画オタク、映画マニア、映画フリークとなるのだろう。オタクは、世間から見れば、マニアックな知識を持て余した非常に近寄り難い存在の人物像として社会的に見なされているかもしれないが、オタクは推し活という名目で日本の社会経済(※3)を回しており、救っているという見方もできる。オタクは、今の日本社会に非常に必要不可欠な存在であると、認識した方がいいのかもしれない。映画『Ike Boys イケボーイズ』は、学園底辺層にいる冴えないオタクの学生二人が、ある日、不思議なパワーを授かり、世界を救うべく巨悪へと立ち向かう姿をオタク要素とSFタッチで描いたB級オタク映画だ。オタクは世界を救えない存在と訝しんでも、実際に日本の社会経済を救う一翼を担った存在なのは間違いなく、もしかしたら、彼ら/彼女らは混沌とした今の国際情勢を救うパワーを潜在的に持ち合わせているのかもしれない。

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日本社会において、「オタク」という言葉が一気に浸透して行った背景には、残念ながら、昭和末期から平成初期にかけての凶悪犯罪がきっかけである事を、世間の人々はもう忘れかけている。あなた方は、この時代の世間を震撼させた大事件「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」を知っているだろうか?私自身も、この年代はまだ生まれたばかりの赤ん坊の頃で、この事件が社会的にどのような影響を及ぼしたのか、当時をまったく知らないが、この事件を通して世間では、2つの考え方が湧いて出た。一つは、「知らない人には、付いて行かない」もしくは「知らない人の車には、乗ってはいけない」。戦後から高度経済成長期にかけて、多くの誘拐事件が発生し、この頃に「知らない人には~」という親子間でのドレスコードが生まれたが、これに拍車をかけたのが、今回取り上げている凶悪事件の影響も大いにあると考えられる。この事件の元死刑囚である宮崎勤の自室には、所狭しとビデオテープが山のように積まれている写真が、報道関係からスクープされた。その写真を見た人々が、オタク=気持ち悪いという印象を世間に広めたと言われているが、この「気持ち悪い」を印象操作したのが、当時のマスコミとも言われている。ビデオテープの中には、事件を連想させ、結び付けるホラーやロリコンの作品が数多くあるように、マスコミが印象操作した結果、この時代から2000年初期まで世間のオタクへの風当たりが非常に悪い方向に向いたと考えられる。自室に山のようなビデオテープで思い付くのは、私事ではあるが、私の自室にも所狭しと映画関係のビデオテープが山積みされている。DVD未発売(廃盤)、VHS化止まりの今では非常に貴重な映像作品を所有している。その目的は、近い将来、世間の中で陽の当たらない存在となってしまった作品達を、4Kかデジタルリマスターで再度、劇場上映できないか模索している。次の世代に継承するため、個人で映画保存継承委員会なるものを立ち上げ(私は、その代表であり、理事であるが)、映画を次の時代に継承しようと奔走している。客観的に見ると、我ながら、気持ち悪い存在であるが、文化を継承する事は非常に大切な事だ。少し話が逸れてしまったが、オタク=気持ち悪いという印象は今でも拭えないが、オタクは必ず社会の中で役に立つ存在であると、私は声を大にして言い続けたい。オタクは、必ず社会的経済を回す社会の歯車の肝心要の部分だ。

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さて、「オタク」という言葉が、発生した時代的背景には、少し残念な始まり方であったが、それでも、今の時代は非常に好意的に、友好的に受け止められているオタクの世界。近年では、好きなアイドルやアニメのキャラクターに対して、「推し活」(※5)という行為がSNSを中心に、女性達の間で人気を得ている。また、「推し研」(※6)なんて言葉も登場し始めており、この「推し活」事情は、今後の経済発展の中で侮ってはいけない存在になって来るだろう。近年、オタクの中からコスプレを愛好するコスプレイヤーという存在(※7)も増え始め、それは単なるハロウィンでの仮装ではなく、本気度を示すキャラクターへの変身として人気度を高めており、既に、世間のコスプレイヤーを推し活するファンまで現れており、一般社内に溶け込むオタクという存在をもう卑下にはできなくなって来ている。また、もう一例を挙げるなら、撮り鉄、乗り鉄と言った鉄道オタクの存在は今や、良い意味でも悪い意味でも世間の注目の的だ。撮り鉄達の迷惑行為、犯罪行為、マナー違反(※8)は一時、世間の反感と顰蹙を買って、猛バッシングを受けていたのも記憶に新しいだろう。一方で、撮り鉄に関する良い話もここで紹介しておく。「撮り鉄をめぐる話」によれば、「鉄道ファンと地元の人たちとの交流が図られているところもある。JR山口線の「SLやまぐち号」の絶好の撮影ポイントとして知られる島根県津和野町の白井地区もそのひとつ。熱心なファンと地元の人たちが協力し、SLの運転日に合わせ、年に数回「SL茶屋」を開催するなどして、交流を図っている。きっかけは山火事。十数年前、撮影地周辺で山火事が発生し、普段火の気のない場所であることからSLファンのタバコの火の不始末が原因ではないかとされ、一時は撮影地への立ち入り禁止も検討された。そこで、SL撮影に通っていたファンが地元の人たちと話し合い、撮影マナーの遵守を呼びかける看板を設置したり、撮影地を整備したり、地区の行事に写真を提供するなどの協力を続けてきた。」(※8)とある。地元住民と撮り鉄の心の交流が、現地発展の大きなカギとなる場合がある。海外でのオタク事情と言えば、フランスのジャパンエキスポを思い出すが、コスプレイヤーを極めるのは日本だけでなく、海外にも数多くいる。筋肉キャラとして筋骨隆々のアニメキャラクターのコスプレをして来たフランス人コスプレイヤーのレオン・ベイン氏(※10)は、ある時、自身の肉体の美貌を使って、あろう事か、セーラームーンのコスプレをSNSで披露したが、ファン達は青ざめ、フォロワーは減り続け、非難殺到したと言うが、彼はその意に介さず、「なんでもやってみろ!」と挑戦する事への尊さを自身の姿を通して説いている。ここまで来ると、オタクは自身を輝かせる特効薬のようでもある。オタクに自信を持つ事の大切さを教えられているようで、私自身、大いに感動を与えられた。オタクは、自身の人生を輝かせるだけのパワーを持ったツールであり、潜在的な能力を持っていると言っても過言ではないだろう。映画『Ike Boys イケボーイズ』を制作したエリック・マキーバー監督は、本作における「文化を理解しながらも理解できないというテーマ」について質問を受けて、こう話している。

Mcever:“Shawn and Vik are very loosely inspired by high school-age me and my best friend. There was no Japanese exchange student that came to my high school, but I have several different very dear Japanese female friends in Japan who clearly lived a Miki-esque experience. One of the interesting things about Japan is that it’s such a homogenous culture, and there’s so much pressure to fit in, there’s a side effect that when people develop a passion they will go full hog in a very specific niche. I have a very dear friend whose passion is going around the world and photographing ghost towns. She’s released a photobook of Chernobyl, and that is her deal. She actually came to Oklahoma to visit land run-era ghost towns and hung out with me then. It comes from a very real place, and the things that she picks up on are all real, but they are from one perspective. That’s what a lot of us do: we see one perspective on things, and we kind of fall down on that. Of course we’re going to get some things wrong, but the important thing is that we’re trying. And if we’re trying to listen, and we’re trying to learn, then the mistakes are OK because it’s part of the process.”(※11)

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マキーバー監督 : 「ショーンとヴィクは、高校生の頃の私と親友から大まかにインスピレーションを得ています。私の高校には日本人の交換留学生はいませんでしたが、日本にはミキのような経験をしたとても親しい日本人女性の友人が何人かいます。日本の興味深い点の 1 つは、非常に均質な文化で、周囲に合わせようとするプレッシャーが非常に強いことです。そのため、情熱が芽生えると、特定の分野に全力で取り組むという副作用があります。私の親友の 1 人は、世界中を旅してゴーストタウンを撮影することに情熱を注いでいます。彼女はチェルノブイリの写真集を出版しており、それが彼女の仕事です。彼女は実際に土地管理時代のゴーストタウンを訪ねるためにオクラホマに来て、そのとき私と一緒に過ごしました。それはとても現実的なところから来ていて、彼女が拾い上げたものはすべて現実のものですが、それらは一つの視点からのものです。私たちの多くがそうしています。私たちは物事を一つの視点から見て、それに陥ってしまうのです。もちろん、間違えることもあるでしょうが、重要なのは私たちが努力しているということです。そして、私たちが耳を傾け、学ぼうとしているなら、間違いは大丈夫です。なぜなら、それはプロセスの一部だからです。」と、一部を抜粋するとするなら、監督はその人の努力とプロセスもまた、大切と話す。今まで何をして、何を記録し、何を残して来たかという過去のプロセスが、未来の結果へと結び付く。オタクもまた、将来的な話をすれば、オタ活に全財産を注ぎ込み、将来の不安は各々にあるだろうが、それまでにオタ活をして来た事実、活動そのものへの肯定、そこには人生すべてを賭けて、活動に精を出す気高さがあり、それは何ものにも変えられない唯一無二の存在として輝きを放つ。それが、努力とプロセスのすべてであり、諦めない、努力する事に対する重要性を問いているようでもある。

最後に、映画『Ike Boys イケボーイズ』は、学園底辺層にいる冴えないオタクの学生二人が、ある日、不思議なパワーを授かり、世界を救うべく巨悪へと立ち向かう学生達の姿を描いたSFオタク映画だが、果たして、巨悪の敵の前にオタク達は世界を救う事ができるのか。たとえ世界を救えなかったとしても、オタクは現実社会の中で確実に日本の経済をしっかり回している。オタクは直接的には世界を救えないが、その代わりに、推し活やオタ芸を通して、日本の経済をしっかり回している。オタクより愛を込めて。

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映画『Ike Boys イケボーイズ』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)オタクをキモいと思う17の理由。気持ち悪さを改善して嫌われないコツとは?https://smartlog.jp/236302(2024年7月5日)

(※2)オタクの種類一覧!さまざまなジャンルのオタク男女24選https://noel-media.jp/news/3282?page=3&glad=1#part-c1c10f8efbd2bdba(2024年7月5日)

(※3)オタクは経済を回す!推し活の経済効果と市場規模をオタクが解説https://oshimoa.com/oshikatsu/292/(2024年7月5日)

(※4)《東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件》幼女4人を殺害後、遺骨を家族のもとに送付…独房での唯一の楽しみがアニメ鑑賞だった宮崎勤(享年45)の最期https://bunshun.jp/articles/-/65883(2024年7月5日)

(※5)「推し活」事情を学ぶ①推し活って何するの?編https://www.trans.co.jp/column/goods/oshikatsu_study1/#:~:text=%E4%BD%95%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F-,%E3%80%8C%E6%8E%A8%E3%81%97%E6%B4%BB%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F,%E5%BF%9C%E6%8F%B4%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B4%BB%E5%8B%95%E3%80%8D%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82(2024年7月5日)

(※6)全てのコンテンツは、「推し」てもらえる可能性を秘めているhttps://www.trans.co.jp/oshiken/(2024年7月5日)

(※7)仮装とは大分違う「本気コスプレイヤー」の世界人気コスプレイヤー・伊織もえさんに聞くhttps://toyokeizai.net/articles/-/310245?page=2(2024年7月5日)

(※8)「撮り鉄」迷惑行為、やくも「リバイバル車両」…注意すると逆ギレhttps://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20240511-OYO1T50007/(2024年7月5日)

(※9)撮り鉄をめぐる話https://www.photo-asahi.com/honbu/hot/174/(2024年7月5日)

(※10)マッチョなフランス人コスプレイヤーが突然『セーラームーン』に! ファン困惑も本人は気にせず「なんでもやってみろ!」https://getnews.jp/archives/2028615(2024年7月5日)

(※11)Fantastic Fest Interview: A Fresh Point of View With the Iké Boyshttps://www.austinchronicle.com/daily/screens/2021-09-25/fantastic-fest-interview-a-fresh-point-of-view-with-the-ike-boys/(2024年7月5日)