映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』実りある輝きを放つ

映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』実りある輝きを放つ

聖夜に魔法をかける映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』

©2024 Millers Point Film LLC. All rights reserved.

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クリスマス・イブには、「何か」が起こる。それは、特別に起きる聖なる奇跡か、平凡な日常の中の必然か。家族が一同に会すファミリー・イベントには、不思議と奇跡や偶然といった何かが宿る。年に一度しか訪れないクリスマス・イブというファミリー・デイは、誰にとっても特別な時間だ。どの家庭にも訪れるこの特別な時間こそ、未来永劫、永遠に残し続けたい心地よい時間の流れだ。温かな会席には、温かな料理に、温かい会話、和やかな家族間の交流に花開く。子ども達はサンタへの願い事を考え、大人達は久方の再会に尽きぬ会話が止まらない。誰もが、家族と共に過ごす時間は、その時にしか味わえないかけがえのない充実した価値ある時間だ。架空の街ミラーズで展開されるクリスマス・イブに起きる大人の為のアレゴリーだが、一人一人にとって捉え方の違いがある特定の場所には、レストランやホテル、公園など様々な場所が考えられるが、今回は家族の長の祖母宅が「ある特別の場所」として舞台がセッティングされている。映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』は、クリスマスイブの夜。ロングアイランドにある小さな町のとある家に、ある家族の4世代の人々が集まった。毎年恒例の集まりだったが、もしかしたら今年で最後になるかもしれない年。伝統的な物語構造を離れ、複数の世代や立場の登場人物たちが織りなす断片的なエピソードを詩情豊かな映像表現で描く。クリスマスと同じようにクリスマス・イブは、家族にとって特別で大切な一晩になるだろう。

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そもそもクリスマス・イブとは、どんな日を指すのだろうか?日本人としての認識は、本番のクリスマスの前日とだけの印象ではないだろうか?私達が知っているクリスマスとは、イエス・キリストの誕生(降誕)を祝うキリスト教の祝祭日だ。「キリストのミサ(礼拝)」を語源に持ち、日本国内では宗教的な意味合いより、恋人や家族と過ごすイベントとしての習慣が色濃く残り、定着している。本来は、聖書に誕生日は明記されていないが、4世紀頃から12月25日を「キリストの降誕祭」として定めたとされる。冬至の太陽の復活祭とイエス・キリストの誕生と結びつけられた説がある。クリスマスは、宗教的側面と文化的側面で今でも人々から愛され、重要視されている。表面上だけでも、クリスマスの意味が理解できたと思うが、ではクリスマス・イブが一体、どんな日なのか、誰も分かっていないだろう。クリスマスイブ(※1)とは、知っての通り12月24日を言う。この日は、12月25日のイエス・キリストの誕生を祝うクリスマスの前夜、または「クリスマスの夜そのもの」を指す日だ。日本ではやはり、クリスマス同様に恋人や家族と過ごす特別なイベントとして定着している。ただ、本来の「イブ(Eve)」は「Evening(夕方・夜)」が語源にあり、キリスト教の暦では日没から1日が始まると言われ、それを「クリスマスの夜」とし、24日の日没後からクリスマスが始まる由来が残っているが、今の時代にこの事を知っている人は極わずかだろう。ほとんどの人間が由来や歴史を知ろうとはしないが、もう一度、イブが何の日か知る事により、この日に集まる家族の想いを知るだろう。キリストの生誕を祝うクリスマスの前日のイブは、その生誕を祝う前祝いや準備期間と捉えても良いだろう。クリスマス・イブの重要性や文化的意義(※2)には、「家族と過ごす温かい時間」や「恋人たちにとって特別な日」があるが、キリストの生誕を祝う宗教的な意味合いとは別に、家族や恋人と一緒に「誰かの幸せを願える日」にしてもいいだろう。

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私達には、一年を通して、特別な日や長い期間の休みは数多くある。日本なら年末年始の大晦日やお正月、節分の日にひな祭り、ゴールデンウィークやシルバーウィーク、お盆休みにお彼岸。年間行事や祝日が、各月に設定されている。当然のように、海外では国や地域、文化・宗教によって、祝日の種類には様々あり、たとえば、アメリカでは独立記念日やイースターの感謝祭、フランスではフランス革命記念日、アジアの中国では春節、タイには国王誕生日など、日本とは異なる多様な祝日がある。他にも、仏・伊・独の聖母被昇天祭、イギリスのサマー・バンクホリデー、米・加のレイバーデイ、メキシコの独立記念日、中国・香港の国慶節、韓国のハングルの日、印・マレーシア・シンガポールのディワリ。アフリカにも祝日があり、5月25日は「アフリカの日(Africa Day)」という大陸全体で祝われる重要な日もある。他に、南アフリカ共和国には4月27日の自由の日、モロッコには3月20から21日に行われるラマダン明け、ケニアには5月1日の労働者の日、エチオピアには9月11日のエチオピア新年(エンタタッシュ)などがある。私達が特別な日に家族と一緒に過ごす意義は、どこにあるだろうか?一年を通して日本に多くの祝日がある理由(※3)には、「国民の祝日に関する法律」に基づき、「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」とするある。私達日本人が、より良い社会と豊かな生活を築く為、または、歴史や文化、自然、個人の尊厳を大切にする目的で定められている。太平洋戦争の敗戦後の国民生活の向上や労働者の休息確保、国際社会での平和と文化を尊重する背景も持つ。 私達が祝日を楽しむ目的には、「①美しい風習を育む。②よりよき社会、より豊かな生活を築く。③祝い、感謝し、記念する。」の3項目があり、何も考えず、当たり前に祝日が訪れる意義について、もう一度、立ち止まって考えたい。また、祝日に家族が集まる理由にはいくつかあり、何気なく祝日を迎える現代人にとって、毎月のほとんどに祝日がある目的や意味に触れて欲しい。まず、特定の祝日や祭日は家族やコミュニティが一緒に過ごす為の重要な時期とされている。日本にある行事や祝日は、世代を超えて受け継がれてきた伝統と文化の一部なのだ。また、祝日には、宗教的な記念日(クリスマスやイースター、ハロウィンなど)やその国の歴史における重要な出来事(独立記念日など)と言う宗教的・歴史的意義がある。家族の誰かの家に一族が集まって、これらの意義を祝い、共有する目的もある。そして、祝日は公休日である事も多く、学校や仕事が休みになったら、家族全員が顔を合わせる機会も増える。普段は、離れて暮らしていたり、忙しくてなかなか会えない家族が一同に会席する貴重な時間を共有する休息と再会を楽しむ日となる。最後に、この為に私達は祝日を利用して、家族を大切にする日にしているのだろう。絆の強化は、家族や友人、多くの人々にとって大切な事だ。共通の時間を過ごし、食事を共にし、特別な活動に参加したり事により、家族の絆や関係を深める事ができ、その為の祝日だ。様々な要因が複合的に作用し、祝日は家族が集まる特別な機会となっているが、最も絆を育み、関係性を強化し、顔を合わして互いの健康を祝う日が、祝日だろう。映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』を制作したタイラー・タオルミーナ監督は、あるインタビューで自身の故郷に対する感情について、こう話している。

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「こんなに大きな家族からたった一人で抜け出すなんて、ちょっとクレイジーな感じがする。だから、僕の作品の多くは、自分が育ったこの場所を振り返るものなんだ。とても人類学的なんだ。まさに、人間性や人々、そして彼らのあり方を研究しているようなものなんだ。私や私の友人の多くは、故郷に対して、ある種の固定観念を持っています。それはかなり反動的な郊外の風景です。郊外はオープンマインドになりがちですが、長年、そこに住む人々に対して抱いてきたある種の偏見があります。あの町は、まるで文化など気にも留めないような、芸術性のない場所だと私は思っています。でも、人々の家でロケハンをして、ありふれた日常を覗き込んでいると、彼らは芸術のためだけに、自分たちのありふれた日常に光を当てることに、とても心を動かされているように感じました。本当に驚きました。」(※4)と話す。もしかしたら、本作は少なからず、監督自身の半自伝的作品なのかもしれない。大家族の中で青春時代を過ごしたタイラー少年にとって、何もない故郷の田舎のどこにも吐露できない息詰まる窮屈なコミュニティへの辟易とした持って行きようのない感情を爆発させたのが、この物語という見方もできる。監督自身が抱く故郷や学生時代への飽き飽きした感情がすべて、作品に込められていると考えれば、どこか腑に落ちる。自分が生まれ育った地元を離れたい気持ちも、どこか違う世界のコミュニティに行きたいと願った青春期のあの頃の自分も、すべて私自身も理解できる一面もある。その反面、何も無い退屈で嫌悪感を持つ故郷に対してプラスな一面を見つけた姿勢にも共感性を感じて止まない。この作品は、誰の心にも届く、自身の故郷に対する愛と感謝、尊敬を描写し、郷里への懐かしさと尊ぶ心を描いている。

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最後に、映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』は、クリスマスイブの夜。ロングアイランドにある小さな町のとある家に、ある家族の4世代の人々が集まった。毎年恒例の集まりだったが、もしかしたら今年で最後になるかもしれない年。伝統的な物語構造を離れ、複数の世代や立場の登場人物たちが織りなす断片的なエピソードを詩情豊かな映像表現で描いており、アメリカの資本主義的大作映画とは一線を画す新しい北米系インディペンデント映画の扉を開く一本だ。この映画において「ミラーズ・ポイント」とは、物語の舞台となる架空の地域名であり、大家族の人間模様を描写する為の背景として機能しているが、家族が大切な日に集まる意義をもう一度、考えさせてくれる良い機会を与えている。あなたにとっての祝日とは?あなたにとっての家族とは?その存在意義が、これからのあなたの人生に実りある輝きを放ってくれるだろう。 

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映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)クリスマスはいつ?イブとの違いや過ごし方・お祝いについて解説https://www.hibiyakadan.com/item/XMAS_ABOUT.html(2025年12月21日)

(※2)12月24日は「クリスマス・イブ」心温まる幻想が広がる特別な記念日https://forbesjapan.com/articles/detail/75928(2025年12月21日)

(※3)日本の祝日は世界一多い!? 世界の国々にはどんな祝日があるのかhttps://www.manegy.com/news/detail/286/(2025年12月22日)

(※4)For Director Tyler Taormina, ‘Christmas Eve in Miller’s Point’ Was an Exercise in ‘Judgment’ and ‘Gratitude’https://www.indiewire.com/features/interviews/christmas-eve-in-millers-point-director-tyler-taormina-interview-1235063442/(2025年12月22日)