International Art Event Design Festival Vol.57に出展のシネマイムパフォーマンス集団テンナイン 代表・主宰降井サットウさんインタビュー
—–まず、降井さんがパントマイムや演劇、身体で何かを表現することに興味を持ったきっかけは、何でしょうか?
降井さん:僕の原点を辿って行くと、幼少期のごっこ遊びや指遊びからですね。
ガンダムのプラモデルを持っていて、そのガンダムを動かして空を飛ばす遊びをしていましたが、その遊びの中で効果音を自分で付けたりしますよね。
身体表現で何かを表現するという原点は、子どもの頃の経験が大きく影響していると思います。
ふと思い出した時があるんですが、親が運転する車の後部座席の窓側から見る風景を通して、指で車窓から見える景色にある電柱や電線の上を飛んでいるような事を一人で想像しながら、ずっとしていました。
電線の上を歩かせ、スーパーマリオのように電柱が来たらジャンプする遊びを頭の中でしていました。それが、今の僕の原点であり、初めての身体表現だったと思います。
—–パフォーマンス集団テンナインを立ち上げる前は、どのようなご活動をされていましたか?
降井さん:過去に札幌に住んでいた事がありますが、その時劇団に入団していました。
当時は、役者を目指していましたが、偶然パントマイムの講師の方がパントマイムを教えてくれました。
その時から今のような事をしていて、当時と今がリンクしているんだと思います。
自分が表現するパントマイムを通して人が喜んでくれ、自身の中でヒットしたんです。
ただ、パントマイム自体が色々な場所で上演されているのを見た時、この表現の仕方は直接的であったり、大袈裟であったりするんです。
例えば、パントマイムを行う時に驚く姿を演じますが、僕はこのパフォーマンスが嫌いなんです。
驚いた素振りがわざとらしく、非常に不自然に感じてしまうんです。
このパントマイムをリアルに表現できないかと考えていた時に、僕はシネマイムという表現を知りました。
—–シネマイムという身体表現は、降井さんが立ち上げたパフォーマンスではなくて、元からあったものを取り入れたのでしょうか?
降井さん:フランス人の演劇家ジャック・ルコック(※1)という方がおられますが、彼は演劇家として様々な演技の指導を行っていますが、その方主催の俳優ワークショップの一つに、この「シネマイム」があるんです。
俳優修行の一つとしてあり、公には出さないパフォーマンスです。
それを知った時、僕自身はこのシネマイムが、表に出しても通用するパフォーマンスだと実感しました。
—–パフォーマンス集団テンナインを旗揚げしようと思った経緯を聞かせて頂きますか?
降井さん:シネマイムのパフォーマンスを始めた頃、元々は演劇公演の前座として舞台に立っていました。
あと、演劇公演の中の一コマとして使っていました。
残念ながら、演劇の演目の本編よりもシネマイムの方が受けてしまい、人気のない舞台よりも人気のあるシネマイムに転向しようと、このパフォーマンスに特化して活動してみようと考えました。
僕が一番、演劇をして楽しめたのがシネマイムだったんだと思います。
—–演劇界隈の観客には、シネマイムというパフォーマンスを受け入れられたんですね。
降井さん: 斬新と言えば、それもまた受け入れられる要素だと思いますが、それとは別に、当時僕たちが上演していた作品は、コメディでした。
また、シネマイムという特異なパフォーマンスもまたコメディ要素が強いので、ここを入口として観客の方が気に入って下さったのは、良かった点です。
—–シネマイムの演目を観客参加(体験)型にするというお考えは、ございますか?
降井さん:実際、考えたことはあるんです。
例えば、結婚式でパフォーマンスした事がありますが、新郎新婦の方に参加して頂いた事があります。
ただ、その場での参加ではなく稽古に一度参加してもらった上で、当日の本番に参加して頂く流れがあります。
なかなか、作品のクオリティを維持した状態で他の方を招き入れて上演するのは、表現を描けないんです。
言って頂けたように、参加して楽しさが分かるのは、最初に僕が言った指で電線を走ってみる経験と同じで、このパフォーマンスは子どもの遊びと近しいモノがあります。
だから、やれないはずは無いと思っていますが、いざ挑戦してみれば、シネマイムは見づらく分かりにくい表現方法なので、その分かりやすさが消えてしまうんです。
一般の方が演目に参加すると。
そうすると、後は何をやっているのか分からなくなり、結果、お互いに反発し合う関係性になってしまうと、今は考えています。
—–テンナインさんは、シネマイムというパフォーマンスを有名会社の映画のキャラクターで演目を行っていますが、これらの作品の著作権に関して、何か考えていることはございますか?
降井さん:この問題に関しては、ずっと考えてはいます。
著作権に関しては、2名の弁護士の方に相談した事もありますが、どちらもグレーとしか回答を頂けなかったんです。
—–私は、この問題に対して、著作権は問題ないと思っていました。
降井さん:結局、同じ分野ではないですが、もしモノマネで例えるなら、モノマネと捉え方は近いところもあり、された側が不愉快に感じて訴えたら、そのネタを封印する事になってきますよね。
結局、こういう関係でしか築けないと感じています。
—–正直なところ、世間からはまだ理解されないと言われているシネマイムというパフォーマンスですが、身体表現を通して見えて来るのは、同じ映画を扱っている者としてメンバーの方々のシンパシーやパッションを映像から感じ取る事ができます。パフォーマンスをする方々の原動力は、なんでしょうか?
降井さん:メンバーの原動力は、目の前でお芝居をした時に、お客さんの反応が他の演劇とはまた違ったリアクションなので、こことは別の演劇とは得られる価値観や感覚の質が違うと感じています。
テンナインのシネマイムでしか得られない快感があり、それを体感したお客さんはもう一度、リピートしたくなるんだと思います。
—–公式ホームページでは、シネマイムというパフォーマンスが日本で唯一、また未知のパフォーマンスに出会えると掲げておられますが、関西での上演、全国での上演、世界進出は目指していますか?
降井さん:世界には、よく行きたいと考えています。
なぜかと言いますと、シネマイムを見て下さったお客様からは、「海外の方がウケる」とか、「関西の方がウケるよ」と言われます。
それを鵜呑みにすると、気持ちも揺らいでしまいますよね。
第一に、思い留まらせる点はコスト面です。
色々考えた結果、イギリスのエディンバラに国際演劇市(世界最大の演劇祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」)(※2)があり、そこでは有名なアーティストの方々がお集まりになって、演劇だけに囚われないパフォーマンスを行っています。
そこに行こうと考えてもいましたが、その為に頑張ろうとそれぞれの想いを確認していたら、ちょうど来年に台湾での公演のお話をいただきました。
台湾受けする映画の演目や、今ならアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』に挑戦しようかと、考えているところです。
また、鳥取公演に行かせて頂いた時、鳥取県のローカル映画『大特撮巨編 ネギマン』(※3)というウルトラマンのような特撮作品があるんですが、その映画をシネマイムで表現したら、地元の方々から大ウケでした。
今後、地域の映画祭や演劇祭を巡る日本ツアーは、挑戦したい事です。
ただ、僕たちテンナインは皆パフォーマーなので、なかなかマネジメントやプロモーションができにくい環境が弱点でもあります。
それに対して行動をしようとすると負荷がかかってしまい、なかなか動けない状況でもあるんです。
結局、東京近郊の近場のイベントに出演する道がほとんどです。
—–現在、映画業界では、IMAX、3D、4Dといったデジタル時代ではありますが、シネマイムは今の環境とは逆行しているようにも感じます。デジタル時代でありながら、アナログな身体表現をする意義とはなんでしょうか?
降井さん:シネマイムも辿っていけば、演劇で、ライブなんです。
人と人が、対面する事によってしか生まれないやり取りがあるんです。
それは、映像では拾い切れない点でもあり、それをやり続けたいという僕の役者としての想いもあります。
それをやるために、一つの方法としてシネマイムの活動しています。
そこが、僕たちの重要な点です。
デジタルになろうが何だろうが、フェイス・トゥ・フェイスで出会う事によって起こるエネルギーや感動を体感して欲しいと思います。
目の前にいるお客さんのために、その体感した事を一緒に体験して欲しいと願っています。
体感が無くなれば、様々な意味として寂しいと思うんです。
それでも、舞台上で人と関われる事で、僕には救われた部分もあります。
人との関わりは、本当に重要なんです。
—–シネマイムという言葉自体は聞いたことがなく、造語のようにも感じますが、降井さんが考えるシネマイムとは、なんでしょうか?
降井さん:映画に対して持っている各個人の印象や感想は、個人個人で違うと思いますが、それでも一致する所が必ずあると思っています。
それが、僕の考えるシネマイムです。
僕たちは、映画に対して様々な感情を持っていますが、そのバラバラな想いの中にも交わる部分もあると思っています。
僕は同じ事を思っている者同士が、丸と丸の重なる部分が必ずあり、ここを再現する事によって、共通理解も深まると思っています。
パフォーマンスを見て頂いた時に、演目にピンと来ますよね。
ピンと来させる事が、お芝居をする上でやり甲斐にも繋がります。
共感して頂く事がとても大事で、最終的な目標は映画そのものを知らない人が見ても、上演する作品のタイトルが分からなくても、パフォーマンスを通して知ってもらえることだって起こりうると思います。
何か核となる部分が、映画の基にあり、それを再現することができれば、観客の方には伝わる上、分かって頂けると思っています。
その感動を再現して行こうとしている事が、私が作る「シネマイム」です。
その点を乗り越えれば、また視聴者参加型の利点を見つけられれば、100人の方と一緒にパフォーマンスができれば、本当に楽しいだろうなと、思っています。
—–最後に、今後の展望やチャレンジ、したい事など、何かございますか?
降井さん:今後の展望は、来年の台湾公演の成功です。
あと、テンナインのメンバーを増やしたいです。
シネマイムに関わる人を増やしたいです。
お客様にも来て頂きたいですが、パフォーマーや運営側の関係者も増やしたいと考えています。
文化にすると言えば大袈裟ですが、ただシネマイムに関わる人が増える事によって、市場規模も大きくなると思っています。
シネマイムの拡大が、今の僕の目標であり、展望です。
—–貴重なお話、ありがとうございました。
シネマイムパフォーマンス集団テンナインの演目は、5月20日と21日に両日開催されるデザイン・フェスタ 2023にて、出展中。
(※1)ジャック・ルコック(Jacques Lecoq)https://kuniaki-ida.jimdofree.com/kuniaki-ida/jacques-lecoq/(2023年5月17日)
(※2)エディンバラ・フェスティバル
Edinburgh Festivalhttps://www.nntt.jac.go.jp/centre/library/theatre_w/37.html(2023年5月17日)
(※3)鳥取県が生み出した謎のヒーロー風キャラ「ネギマン」 ガイナックス制作の特撮映像がガチすぎるhttps://nlab.itmedia.co.jp/nl/spv/1402/21/news076.html(2023年5月17日)