「映画を完成させる事に価値を置いていた」5月13日(土)、大阪府のシネ・ヌーヴォにて行われた映画『J005311』の舞台挨拶レポート

「映画を完成させる事に価値を置いていた」5月13日(土)、大阪府のシネ・ヌーヴォにて行われた映画『J005311』の舞台挨拶レポート

2023年5月17日

©Tiroir du Kinéma

©2022「J005311」製作委員会(キングレコード、PFF)

思い詰めた表情で街へ向かう男・神崎は、タクシーを拾えず道端に座り込んでいたところで、ひったくり現場を目撃する。神崎はひったくり犯の山本に声をかけ、100万円の報酬を払う代わりにある場所へ連れて行って欲しいと依頼。山本は不信感を抱きながらもその依頼を受け、2人の奇妙なドライブがスタートする姿を描く『J005311』が5月13日(土)より大阪府のシネ・ヌーヴォにて公開初日を迎えた。

映画『J005311』は、監督・出演の河野宏紀さんと野村一瑛主演で、人生に思い詰めた一人の男と人生を捨てた一人の男が出会い、一つの目的に向かって車を走らせる姿が印象的なヒューマン・ドラマ。

神崎演じる新人俳優・野村⼀瑛と、今回初監督に挑むと同時に、主人公の山本を演じた河野宏紀の二人による限られたセリフと声にならない演技合戦がスクリーンにいっぱいに鳴り響く。神崎は何か思い悩んだ表情で、街へ出る。なかなかタクシーが捕まらず、背中を丸めて道路に腰掛ける

車道越しにひったくり現場を目撃。一心不乱に走り出した神崎は、ひったくりをしていた山本(河野宏紀)に声をかけ、100万円を譲渡する代わりに、ある場所へ送ってほしいと依頼する。山本は不信に思いつつも物憂げそうに依頼を受ける。そこから、二人だけのおかしなドライブが始まった。気まずく重い空気が漂う中、二人の孤独者が共に関心を持って、歪な時間を過ごす。主人公を演じる河野宏紀さんと野村一瑛さんの二人だけで展開される物語は、一切の余計な演出を嫌い、究極までに削ぎ落とされた作品全体の雰囲気は、唯一無二。他に出演者もおらず、スタッフも2人だけという極限にスタッフが少ない環境下で製作された本作は、自主映画という枠を越えた演出に魂も震える。

©Tiroir du Kinéma

上映後に、監督の河野宏紀さんと主演の野村⼀瑛さんが、舞台挨拶に登壇した。まず本作の製作経緯を聞かれた河野監督は「僕らが出会ったのは、約9年ほど前でした。ある俳優養成所で出会い、卒業後、ずっと一緒にいる仲でした。その時から映画を作ろうという話をしており、製作も進めていましたが、あまり事が上手く運べず、結局頓挫してしまったんです。そして、時間だけが過ぎて行きました。本作は、2022年3月の4日間で撮り上げましたが、僕自身が前年から役者から身を引こうと悩んでいる時に、監督として作品を一つだけでも残そうかと考え、もう一度野村くんを呼んで、2人で話し合った結果、本作の製作を行いました。」と振り返った。主演の野村⼀瑛さんは本作の脚本に目を通して、どう感じられた聞かれ「脚本を河野監督から「俺はこれを撮りたい」と言われ、差し出されたシナリオを観た時は、勝手に短編だと思いました。ただ、彼の言いたい事が脚本から伝わって来て、9年間一緒にいた者として、これは絶対に撮らないといけないと、僕自身の責任でもあると感じました」と製作までの思いを話した。

本作が、初監督だった事に話が及び、河野監督は「スタッフ含めて4人で撮りましたが、自分が今まで観て来た映画を参考にもしました。最悪、スタッフはカメラと録音の方がいれば、と考えていました。照明に関しては、最初から自然光を採用する意向でしたので、スタッフは最低2人いれば、成り立つかと考えました。」と製作における考えを話した。撮影監督の方に話が及ぶと、河野監督は「カメラマンは、さのひかるという女性の方ですが、彼女は僕の高校の同級生です。たまたま、カメラを扱った仕事を普段からしており、主にMVを撮っている方です。映画は今回初めてで、普段からよく遊ぶ仲間なので、彼女にお願いして、カメラを回してもらいました。」と話す。

よりディープに録音の方にも話が触れ「録音担当の方の榊祐人さんは、彼もまた普段は自主で映画を作っており、長編映画『たぬきがいた(14)』という作品を初監督しています。彼は録音もできる方で、お願いしました。榊さんとは、彼の作品に出演させて頂いた経緯もあり、その時からの繋がりで、今回の製作に参加して頂けました。」とカメラマンと録音の方との参加経緯を話され、4日間の撮影期間については「実際、撮影自体はスタッフを含めても、たったの4日間でした。ただ、その前にもリハーサルを2ヶ月ぐらいかけて、どのような作品に仕上がるかと、カメラを回しながら行いました。また、予算の都合上、リハーサルでもカメラマンが呼べない時は、自分達でカメラを回して、芝居を行いました。」と主演の野村さんは話す。

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ゲリラ撮影でのひったくり場面にも話が広がると、河野監督さんは「撮影初日目、僕が最初の出番となったひったくりをして、走り去る場面を撮影しました。ロケ地は、東京の上野駅。許可も取れない場所でしたので、最初からゲリラ撮影を決意しました。ひったくりの場面を撮影していた時、誰かが警察に通報してしまい、本物のひったくり犯に間違えられて、警察に連行されてしまいました。最初のテスト段階で通報されたようで、次の本番撮影時に警察が来て、次々にパトカーや警視庁に囲まれ、上野警察署まで連れて行かれました。結局、聴取に時間も取られて、ほぼ撮影はできませんでした。」と撮影現場の大変さを話した。

©Tiroir du Kinéma
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撮影時の長回しや撮影方法を聞かれて「娯楽映画とは真逆の作風だと思いますが、説明もなく、主人公の表情やセリフ、小道具などで表現したくて、またあの2人の関係性における切迫感を出したくて、画面いっぱいに野村くんの顔をアップで撮影を行いました。」と河野監督は作品における映像表現について話した。この撮影方法について、野村さんは「まずカメラが近すぎて、気をつけなければ行けなかった事は演技の動線でした。変な動きはしてはいけないと気をつけました。どうしてもカメラの位置が近いため、少しでも違う動きをするとレンズに当たってしまうんです。あと、カメラから見切れて何も映ってない画になってしまう点は、気をつけたところです。」と話す。

最後に、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ受賞した時の感想を聞かれ河野監督は「元々、劇場公開や映画祭入選が目的ではなく、2人でちゃんと映画を完成させる事に一番、価値を置いていました。入選自体は結果論でしかなく、正直なところ、戸惑いはありました。ただ、審査をして下さった三島有紀子監督の「この作品を選ぶために、私を審査員として呼んで頂けたんだ。」とおっしゃってくれた事が、率直に嬉しく感じました。」と感慨深く話し、舞台挨拶は締め括られた。

映画『J005311』は現在、関西では5月13日(土)より大阪府のシネ・ヌーヴォ。5月26日(金)より京都府の京都シネマにて上映開始。その上、近日公開予定となる兵庫県の元町映画館でも公開が控えている。また、全国の劇場にて順次公開予定。