
今年もまた例年通り、大阪アジアン映画祭の季節が訪れた。今年は第20回を迎え、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。第20回の上映作品本数は、新たに67作品が上映される。上映作品の製作国 ・地域は19の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。世界初上映19作、海外初上映6作、アジア初上映4作、日本初上映31作。3月14日(金)から3月23日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。
短編プログラムA
短編映画『天使の集まる島』(33分)

一言レビュー:闘病生活を送る青年・聡太郎。いつものように病院の屋上で寝転がり、ラジオから聞こえてくる音声に耳を傾けると、不思議なことにどこか知らない異国の地へたどり着くことができた。そして聡太郎は外の世界へと飛び出していく。突然、南の島で「天使の見習い」に抜擢された少し情けなく見える青年。そして、誰にも見えないはずの青年が見れる外国人男性と、その島で天使になったその男性の元恋人の存在。私達は普段、目に見える視覚化されたものしか見ないように生きているが、この不透明な見えない存在にこそ、私達が今を生きている事への証の証明に繋がる。「透明」である事への重要性。
短編映画『ヘンゼル:2枚の制服スカート』(28分)
一言レビュー:忘れ物をすると、音楽の授業でみんなの前で歌う罰が待っている!死んでもみんなの前で歌いたくない不安症の女子高生は、家に取りに戻ろうとする。失敗や人から嫌われることを恐れて壁を作ってしまう、多感な女子高生を描いた青春映画。尿失禁の悩みを持つ中学生(※2)の少女が、自身の取り巻く環境への恐怖心、焦燥感、苛立ち、悲壮感など、10代に見られるこの時期特有の複雑な感情を見事に映像で表現した短編青春映画。あの頃の些細な悩みでさえも、誰もが通る一本道。道の真ん中で悩み苦しみもがきながら、誰もが自身にとってプラスとのる最善の道を探す。
短編映画『晩風』(20分)

一言レビュー:老人の「息子」と、少年の「お父さん」が結婚する。祖父と孫に見えるふたりは披露宴に向かうが、果たして大切な家族を祝福することができるのだろうか。目に見えない解放をテーマに、現代台湾の新しい家族像を優しく描き出した。アジア諸国では、台湾、ネパール、タイと3カ国だけに同性婚が許されている中、本作『晩風』はその台湾を舞台に同性婚(※3)に踏み切ろうとする二人の男性の家族を通して、なぜ同性同士で結婚するのかを問う作品となっている。今のこの社会で、誰もが幸せに結婚式、結婚生活を迎えて欲しいと強く願うばかりだ。
短編プログラムE
短編映画『To Be A Woman』(36分)

一言レビュー:6 年目の結婚生活を送る中国人のリンは、いつも子どもを欲しがっている。それに反して夫は身体治療と性別適合手術を受け、女性になる決断をしていく。母になる夢が崩れ、リンのアイデンティティと居場所が揺らぎ始める…。昨今、ジェンダー問題が長らく注目を浴びる中、当事者達の胸のうちにある苦しみにはどこも注目して来なかった。性転換の先に待っているのは、幸か不幸か?どれだけ幸せな結婚生活を望んでも、どれだけ愛しい我が子を望んでも、何か一つは犠牲にしないと、自身の幸せは掴めない。なぜ、人は普通に幸せになれないのか?なぜ、その幸せさえも求めてはいけないのか?人には人のそれぞれの幸福があるはずだ。
短編映画『恐るべき自動運転』(27分)

一言レビュー:急速に進化する自動運転技術が、配達員の息子の職を奪うかもしれない…。息子の将来を守るために、ママは自動運転車に戦いを挑む!あまりにも真剣なママの姿にクスっとしてしまうが、AIが進化する現代社会を辛辣に描いた娯楽作。今、目前まで迫っているAI時代への警鐘(※5)を鳴らす韓国発短編娯楽作。今、私達の暮らしや仕事、嗜好までもが、AIによって奪われそうになっている。暮らしは、便利になればなるほど、人の手は必要なくなるが、その利便性を求めるあまり、私達は人として何かを忘れてしまっているようだ。ロボットではない、人の生身の温かさを…。
短編映画『ボクシングの日』(13分)

一言レビュー:看護師のセシリーは、退院したボクサーのことが気になっている。彼の試合が近づくにつれ、セシリーの心に不安が募っていく。非常にアート的なオシャレ映画ではあるが、この作品が最も発進している事は他者に対する優しさだ。退院したボクサーの試合を気にする女性看護師の姿を通して、人との繋がりが薄弱となった昨今、誰が誰に対して、人としての温もりを与え、引き渡して行けば良いのだろうか?
映画『君と僕の5分』

一言レビュー:転校生ギョンファンは日本の音楽や漫画が大好きな少年。クラスに馴染めない彼に、人気者のジェミンが声をかける。次第にジェミンに惹かれるギョンファンは思い切って告白するが、いつの間にかゲイだと知れ渡っていた。2001年の韓国・大邱市。田舎町から引っ越して来た同性愛を隠して生きる少年の取り巻く環境を描く青春映画。あの頃の日本社会は、この映画が描く韓国社会と同じだった。言いたくても、伝えたくても、発信したくても、まだ黙っていなくてはいけない空気感に、私は押しつぶされそうにもなっていた。まだ自身が同性愛である事を気付いていなかったあの頃のすべてが描かれた本作は、誰にも言えない秘密を抱えて生きる今の若者達に伝えたい「自由恋愛」の美しさについて、少しでも前向きに生きて欲しいと願う。
映画『よそ者の会』

一言レビュー:鈴木槙生は大学の清掃員として静かに働く傍ら、密かに爆弾作りに没頭している。ある日、構内で「よそ者の会」のポスターを目にし、興味を抱き会合に参加する。どこにいてもよそ者だと感じる。そんな「よそ者」たちが集まり…。「よそ者」達とは、一体誰か?それは、私や貴方の中に眠る他者を排除しようとする心の表れ。排除の法則(※8)は、昔から囁かれているが、なぜ人は他人を排斥しようとするのか?なぜ、自身を社会から排除しようとするのか?私は、人間社会で必要のない存在なのか?社会に取り残された人は、不透明な日本社会に大勢いる。
映画『爽子の衝動』

一言レビュー:四肢麻痺の父と2人暮らしの爽子は生活保護の申請をしているが、水際作戦によってなかなか審査が通らない。福祉サービスも充分でない中、新人訪問介護士・サトがやってきたことである問題が起こり…。社会には、取りこぼされた可視化されていない多くの日本社会の犠牲者がいる。数字にも現れていない日本の今のこの現状に対して、政府は地方自治体は行政は国民に何ができるというのだろうか?また私達市民民間だけの力で、どれだけの人を救えるというのだろうか?社会のセーフティネットにさえも引っ掛からない人々の救う方法を考えなければならない。
ドキュメンタリー映画『蒸発』

一言レビュー:日本では毎年、何千人もの人々が忽然と姿を消している。彼らは「蒸発者」と呼ばれ、人間関係のトラブルや借金など、様々な理由で失踪していく。失踪者と残された人々の心の葛藤、そして和解の道のりを映すドキュメンタリー。人には、人知れず逃げ出したい時もある。訳あって、蒸発という道を選択しなければならない人もいる。私自身、学生の頃は「自死」(※9)でこの世から逃げ出したいと何度も願った事だろうか。なぜ、人は逃げ出したくなるのだろうか?何度逃げても、その逃げ出したい対象から逃げる事はできないのに、それでも、逃げの精神が働くのには、人の潜在意識の中に住む逃走の怪物が、衝動的にそうさせているのだろう。この世から逃げたいと願っていた子どもの時分の私自身に、立ち向かう事への勇気の大切さを教えてあげたい。今の若い世代が、自殺を選ばない社会を作り上げる事が、今を生きる大人達の役割だ。時には、逃げてもいいからこそ、逃げたくなる君へ贈りたい。逃げは、恥じゃない。
(※1)なぜ「透明感」にこだわるのか 考えたい言葉 vol.25https://www.wwdjapan.com/articles/1395498(2025年3月16日)
(※2)頻尿の改善方法や原因を症状別にご紹介(2025年3月16日)
(※3)同性婚 世界の現状はhttps://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/pQMkk09WMB/(2025年3月16日)
(※4)FTMとは? 性別適合手術の種類についても紹介https://ts-cl.com/ftm_about/#:~:text=%E6%80%A7%E5%88%A5%E9%81%A9%E5%90%88%E6%89%8B%E8%A1%93%EF%BC%88SRS%E6%89%8B%E8%A1%93,%E8%A6%96%E3%81%99%E3%82%8B%E6%84%8F%E8%A6%8B%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月16日)
(※5)金融・保険業界の仕事は「AIに代替される」可能性大!AI研究者が警鐘を鳴らす理由とはhttps://diamond.jp/articles/-/348342(2025年3月16日)
(※6)さりげない「気遣い」ができる人・できない人の差喜んでもらうためにした事がなぜ喜ばれないかhttps://toyokeizai.net/articles/-/647926?display=b(2025年3月16日)
(※7)日本における性的マイノリティーの受難https://www.nippon.com/ja/currents/d00253/(2025年3月16日)
(※8)「排除の論理」を使う人たちとどう付き合うか排他的な組織・環境に対処する方法とは?https://toyokeizai.net/articles/-/215189(2025年3月16日)
(※9)既存のセーフティネットから溢れてしまう人が、明日がご機嫌に過ごせる世界を造るhttps://makers-u.jp/people/student-interview/post-5494(2025年3月16日)
(10)#逃げ活 ~こころの逃げ場、ここにあるよ~https://jscp.or.jp/action/nigekatsu2024.html(2025年3月16日)