映画『ニューイヤーズ・イブ 』
文・構成 スズキ トモヤ
本作『ニューイヤーズ・イブ』は、前作『バレンタイン・デー』のヒットがきっかけとして作られた、群像劇を主体としたヒューマン・ロマンスだ。
監督は、ゲイリー・マーシャル。代表作に『潮風のいたずら』『フォーエバー・フレンズ』『プリティ・ウーマン』『プリティ・プリンセス』など、多くの質の高い作品を世に送り出している。
女性の視点に立ったロマンス作品を得意とする名匠だ。
『プラダを着た悪魔』や『きみに読む物語』と言った作品の源流は、ゲイリー・マーシャル作品から来ていると考えてもいいだろう。
また、本作の見所は、アシュトン・カッチャー、ヒラリー・スワンク、ミシェル・ファイファー、ロバート・デ・ニーロ、アビゲイル・ブレスリン、ミシェル・ファイファー、ザック・エフロンなど、ハリウッドを代表する超豪華な役者陣10数名が魅せるアンサンブル映画としても楽しめる。
本作のあらすじは、ある新年の前日、12月31日の大晦日の日に起きる奇跡を描く。ボーイフレンドと年越しを過ごしたい少女ヘイリーと彼女の母親キム。
タイムズ・スクエア協会でボール・ドロップの担当責任者を任されたクレア・モーガン。レコード会社のパーティでシェフをするローラと昨年末に突然別れた元カレのジェンセン。
唐突に年末で退職を決意したイングリッド。バイク・メッセンジャーのポールは、彼女のTo Doリストに記載している夢を叶える手伝いをする。
そして、ガンで余命幾ばくもないスタンは、カウントダウンのボールが落ちる瞬間をこの目で見ようとする。
10数組の人々が、一夜に目にする奇跡は、彼らの人生の何処と何に影響を与えるのか。
NYで毎年行われるビッグイベントの一つでもある年越しカウントダウンのその瞬間をフィーチャしたロマンス映画『ニューイヤーズ・イブ』は、公開されてから今年の12月でちょうど10年の時を迎えた。
今これを書いているのは、12月22日のこと。
日本国内では、2011年12月23日に劇場公開されており、明日で記念すべき10周年を迎えようとしている。
アニバーサリー・イヤーに相応しく、年越しの31日から新年の1月1日へと移行するとても大切な日に、とてもオシャレでゴージャスな本作を鑑賞するのもまた、自分たちのシネマ・ライフに何らかの良い影響を与えてくれるだろう。
そもそも、ニューヨークのカウントダウン・イベント「ボール・ドロップ」の歴史は古く、カウントダウンの催しとして始まったのは、1904年からと言われている。
そして、現在のスタイルである「ボール・ドロップ」そのものは、1907年からほぼ毎年開催されている模様。
毎年、世界各国から100万人以上の観客が集まり、極寒の中、盛大な祝賀パーティを開催する。
観察史上最も寒かった年越しは、1917年と言われている。
ニューヨークのカウントダウン・イベントは、寒い時期にも関わらず、多くのアメリカ人にとっては、「新年」を祝杯するために集う大事な伝統だ。
本作の魅力は、NYの伝統的イベント「年越しカウントダウン」が作品の魅力ではあるものの、それは要素にしか過ぎない。
もうひとつ、挙げるとするなら、やはり冒頭でも説明したように「総勢10数組の役者が出演」している点が、本作の魅力のひとつだ。
好きな男優、女優を見つけるのも良し。好きなキャラクターに感情移入するのも良し。毎年必ず訪れる「年越し」イベントは、アメリカ人であろうと、日本人であろうと、必然的に誰もが経験する共感必死の出来事だ。
公開から10年経過した作品なので、あれやこれやと数多くの事柄が語られてきた近大アメリカ映画史の傑作。
ここでは、よりディープな(深い話であって欲しい)トピックを書くとしたい。
やはり、映画には「トリビア」という豆知識が、時に必要となる時もある。
どの作品にも必ずといいほど、撮影秘話が存在する。
今回、本作だけでも調べると、28個はある裏話を少しだけ取り上げたいと思う(恐らく、知っているエピソードもあるはずと思う)。
①元々、キャサリン・ハイグルが演じるローラ(ケータリング業で成功したシェフ)は、ハル・ベリーもキャスティングされていたが、残念ながら脱落してしまった。K・ハイグルに役が決まったという。H・ベリーは、元パートナーとの親権争いのために身を引いたとも言われている。裁判の結審後、彼女は同映画の別キャストで再キャスティングされました。出演数は少ないものの、とても印象深いキャラクターを演じる。
②映画は2011年の終わりから2012年の間が、物語の設定。ただし、タイムズスクエアの映画の冒頭では、カウントダウンの年が2011年にセットされている。カウントダウンには常に次の年が表示されるため、これは当てにならない。映画の撮影自体が、その前年の2010年12月31日に実際に撮影されたことが確認できる。
③ヘイリーが家から逃げ出し、キムが彼女を地下鉄に連れて行き、地下鉄の列車が出発する時、ガラスの反射でクルーとカメラを見ることができる。
④イングリッド(ミシェルファイファー)とポール(ザックエフロン)が59番街の橋を東に向かってバイクを運転している時、マンハッタンのスカイラインの位置は、正しくない。このビューを表示するには、西に運転する必要がある。
⑤これは、ケイリー・エルウィスが医者を演じた8番目の映画でした。確認できただけでも7作で医者役・博士役を演じている稀有な存在だ。ちなみに、ケイリー・エルウィスは、映画『ツイスター』の敵役ジョナス・ミラー役や『ソウ』シリーズのローレンス・ゴードン博士役が、有名な名バイプレイヤーだ。
⑥ハル・ベリーとミシェル・ファイファーはどちらも、無関係の映画でキャットウーマンを演じた。
⑦マシュー・ブロデリックのキャラクターは、『フェリスはある朝突然に』の有名な役割に関係して、ビューラートン氏と名付けられました。『フェリスは~』の時の役名は、「ビューラー」だった。
⑧ミシェル・ファイファーとロバート・デ・ニーロは、映画『スターダスト(2007)』『マラヴィータ(2013)』未公開のテレビ映画『嘘の天才〜史上最大の金融詐欺〜(2017)』に両者ともに出演している。
⑨ジュリエットビノシュはイングリッドの役割を断っていた。
⑩ヘイリーの部屋には、自転車の絵と「ポール」と書かれたお土産のナンバープレートがあり、ポールが彼女の叔父であることを示している。
また、本作のエンド・クレジットで流れる映像は、誰もが好きなNG集が収められている。P!knの『Raise Your Glass』がフューチャーされているが(よくよく調べると、歌詞の内容と映画は直接的には関係がない)、ただ「グラスを上げろ」が、「乾杯しよう」と言う祝杯モードとアップテンポなメロディが、作風にあっていそうだから、選曲したのだろう。本作は、本編のみならず、エンド・クレジットも見どころのひとつだ。
こうして、ひとつの作品の中にも多くのトリビアが存在するのは、やはり興味深いものがある。
而れども、本作で最も特筆に値することは、本作のシナリオと脚本家のキャサリン・ファゲイトだ。
彼女が関わった作品は、日本ではほとんど紹介されていないのが事実。日本の映画サイトで紹介されているのも前作『バレンタイン・デー』やDVDスルーの『プリティ・ガール』と本作の3作のみだ。
でも、海外では96年頃から映画業界で活躍していることが、見受けられる。
長編作品に初めて関わったのは、米独合作のスリラー映画『Kounterfeit』から(この作品に主演として、知名度が上がる前のヒラリー・スワンクが出演しているのも、奇遇)だ。
また、2000年以降は『Max Steel(2000)』をはじめ、3本のテレビ映画作品の脚本を書いている点でも、多方面で活動しているのが、よく分かる。
本作『ニューイヤーズ・イブ』の抜擢は、前作『バレンタイン・デー』からの流れがあるのだろう。
一晩で起きる複雑な群像劇の物語を、ひとつのシナリオとして書き上げるのは、至難の業だ。
おそらく、このシナリオは彼女以外にも、多くの関係者が関わっているはずだが、まず一人で書き切ったことに賞賛する価値があるだろう。
また、この作品では、とても共感できるセリフが、作中に登場するので耳を傾ける意義もある。
とても丁寧に練られた脚本があるからこそ、本作が10年以上経った今でも、輝き続けるのだ。
シナリオは、映画の土台であり、基礎の部分だ。
いい脚本には、いい監督が携わり、いいキャストが集結する。本作は、その概念を地で行くような作品だろう。
脚本の構成だけに留まらず、登場人物たちが発するセリフも、考え抜かれた言葉が並んでいる。
ひとつのセリフに時間をかけて、言葉を選んだのではないだろうかと、想像に容易い。
ここで特に作中において印象深い台詞を二つ引用する。
「魔法は世界から消えた」と人は嘆く。では、なぜ皆、この一夜を祝うのか?新しい年への希望を胸に。
このセリフは、作品の冒頭でナレーションが、観客に問いかけるような語り口調で発している。
世界から魔法は消えたのか?なぜ人は大晦日の夜に集い、祝うのか?そこに魔法があるのではないかと、こちら側に問い質しているようにも聞こえる。
また、作品の中頃にヒラリー・スワンク演じるクレアが、スピーチする場面は本作のハイライトではないだろうか?
昨品に携わる者全員が、この想いを胸に映像製作に取り組んでいるようにも感じ取れる。
当日のハプニングにも狼狽えることなく、突如としてスピーチする羽目になっても、凛とした姿勢で望むH・スワンク演じるクレアの気品が溢れる素晴らしい場面だ。
そのシーンのセリフを全文抜粋し、引用した。
「タイムズ・スクエア協会のクレア・モーガンです。ご覧の通り、ボールが途中で止まってしまいました。これはメッセージではないでしょうか?シャンパンを開け、新年を祝う前に、一度立ち止まって過ぎた年を振り返りましょう。思い出しましょう。成功も、失敗も。それを守れなかった誓いと破った誓い。カラを破って冒険したこと。傷つくのが恐くて、閉じこもったこと。新しい年はあなたにチャンスをくれます。過ちを許し、もっと努力し、もっと与え、愛するチャンスを。先のことを恐れるのではなく、未来を楽しむのです。0時にボールが落ちる時、その時こそ優しさを思い出しましょう。思いやりを。今夜だけでなく一年ずっと。。。」
今年も一年が過ぎようとしている。2021年もまた、嬉しいニュースから悲しいニュース、心が痛むニュースなど、多くの(3)出来事が往来した年だろう。
皆さんはどんな事件やニュースを覚えていますか?
2019年の年末から続くCOVID-19の流行は、今年もまた、世界的に収束の域を出ないのが現状だ。5回にも渡る「緊急事態宣言」の発令。
一体、いつになれば、この事態は落ち着き、通常の日々が戻れるのだろうか?
一方で、嬉しいニュースとしては、コロナ禍の中、オリンピックが開催されたことではないだろうか?
政府や運営委員会の対応は、部分的にいかばかりなこともあったが、五輪に出場する選手団には、まったく関係ない上、彼らには罪はない。
この混乱した社会で、よくぞあそこまで活躍してくれたと賞賛したい。
数年間の努力の元、良い結果悪い結果関係なく、あのステージに行けたことそのものが、価値のあることではないだろうか?
本作『ニューイヤーズ・イブ』は、いや本作を製作した監督、脚本家はじめ、関係者は皆、国内のニュース、個人的な出来事に関係なく、その年にあったことを振り返ろうと伝えているようだ。
良い事も、悪い事も、努力した事も、投げ出した事も。勇気を出した事も、出せなかった事もすべて。
未来を嘆くのではなく、明日を楽しみましょうと。ほんの少しの優しさと思いやりが、日々の暮らしのあれこれを変化させることができると、教えてくれているようだ。
今年を振り返り、未来である次の年に期待を込めて、明日を見ようと。
とても前向きなメッセージが、込められている。
映画とはまったく関係ありませんが、個人的に今年最も嬉しいニュースは、スウェーデンを代表する世界的スーパーグループ「ABBA(アバ)」のオリジナル・メンバーが4人揃って、実に40年振りに復活を遂げた。
自分は当時のファンではなく、解散後に彼らを知って好きになった部だが、ABBAの楽曲は美しい旋律の作品ばかり。
何百曲とある発表音源の中に、「新年」を祝う楽曲『Happy New Year』がある。
その曲をスペイン語でセルフカバーした『Felicidad』は、原曲『Happy New Year』をそのままに「幸福=Felicidad」を祝う楽曲になっている。
最後に、この曲を紹介しつつ、本年2021年の映画レビューを締めくくりたいと思います。「幸福」は、すぐ近くにある。皆さんにとっての、今年一番の嬉しいニュースとは?
映画『ニューイヤーズ・イブ』は現在、U-NEXTで配信中。
(1)(2)New Year’s Eve Movie Script – Script.com Scripthttps://www.scripts.com/script/new_year’s_eve_14720(2021年12月22日)
(3)時事通信フォト(2021年)2021年の出来事https://www.jijiphoto.jp/ext/news/year/2021/index.html(2021年12月24日)