あなたは、いつ日本人になりましたか?ドキュメンタリー映画『小学校 それは小さな社会』
小学校時代。あなたは、どんな小学生としてあの6年間を過ごしたのか覚えているだろうか?私自身が体験した学生生活は正直、悲惨だった。家庭環境は十二分に恵まれ、教育環境もまた申し分なかった。ではなぜ、悲惨だったのかと問われれば、あの時の私自身の中に問題があったと言わざるを得ない。今でこそ(歳を重ねた成人となった現在、大人の発達障害として診断を受け、安定した日常を取り戻している)、発達障害を患う子ども達はクラスに数名いると言われているが、私が過ごした90年代の日本社会では発達障害に対する認知理解度は乏しく、私は学校で常にアウェーな存在としてクラスの中の社会で窮屈に感じならがら過ごしていた。また、発達障害による自身の突飛で多動な行動が嘲笑の眼差しとなり、奇異なクラスメートと捉えられ、中学に上がる頃まで「変な子」扱いされて来た(もしかしたら、自身が勝手にそう思い込んでいる可能性もあるが…)。学童期の自身の振る舞いが恥ずかしいものと認識を始めた思春期の頃、私は自身の過去との決別を誓い、誰も選ばないだろうという理由で学区の中でも少し遠くの高校を進学のために選び、故郷での思い出を記憶の片隅のゴミ箱に葬り去った。二十歳を過ぎた頃には、地元への愛着も薄れ、再度故郷を手放して、10年少し、まだ幼少期の頃の自分自身とは気持ちよく決別できてない今の私自身がいるが、それでも、今の私を作り上げたものの中には、確実に「小学校」という小さな社会もまた、影響を与えている事だろう。ドキュメンタリー映画『小学校 それは小さな社会』は、日本の公立小学校に通う1年生と6年生の学校生活を春夏秋冬にわたって描いたドキュメンタリー作品だ。本作を通して、あなたはあなた自身の幼少期、学童期をどう回想するか?
入学式、卒業式、給食、ホームルームにレクリエーション時間。クラブ活動、学芸発表会、校外学習に春の遠足、秋の遠足。長い長い夏休み、そして冬休みに春休み。避難訓練、消防訓練、平和学習。夏の宿泊学習、6年間で最後の修学旅行。一年365日、1年生から6年生までの6年間の行事や思い出が、子ども達の心を育て、感情を育み、地域とのコミュニティ、子ども達同士の子ども社会を作り上げる。あの時期の1年を振り返り、小学校時代の6年間を振り返り、私自身が今ここで息をして、存在している理由の中にあの日々の経験が鎮座しているのかもしれない。人が子どもから大人へと成長する過程の中で過ごす小学校という特殊な場所が、私達「日本人」を育てている。前ならえと右向け右の基本動作競技課題は、子ども達の協調性と秩序を作り上げる反面、この一糸乱れぬ基本行動がロボット製作所となる学校現場を作ると批判の声も聞こえるが、今の日本社会で協調性を培うのが必須科目だ。協調性とは、人の顔色を伺う卑しい大人になるのではなく、目の前で困っている人にそっと手を差し伸べ、無条件の愛で優しく包み、抱擁する事こそが協同性、傾聴力、柔軟性、人間関係構築力ではないだろうか?
ただ、協調性や秩序を作り上げる場所が学校現場のはずが、近年は様々な問題が浮上している。いじめの問題、スクールカースト、不登校問題、留守家庭児童会における待機児童問題など、秩序を乱すかのように種々多様な事案が子ども達の健やかなる生活を脅かす。また、子ども社会に限らず、教師同士の間では不届き者も多くおり、このごく一部のどうしようもない教師達の存在が、秩序と協調性で守られた子ども達の子ども社会を脅かす脅威に直結している。問題教師と呼ばれる大人達が起こした事件と言えば、14年前に元教え子の女子生徒に性加害を加えた元校長の判決(※1)は、懲役9年。裁判の争点は、時効の有無。また、頻繁に起きているのは各ご家庭の情報や生徒の個人情報を記したアンケート用紙やUSBメモリを紛失する無責任な教師(※2)が増え、学校の管理体制が問われている。問題は校内だけに留まらず、塾や習い事と言った校外にいる指導者にもまた、問題行動を起こす一部の大人もいる。近頃、柔道教室の指導者(※3)が道場に通う子ども達に様々な暴行を加え、逮捕の報を受けている。日本の子ども社会が今、学校内外で脅かされていると、私達大人がまず認識する事だ。私自身は、ごく一部の教師や大人による問題行動を避難したいのではなく、この深刻化する教職員の不祥事(※4)を少しでも減らせる事を願っている。願うだけでなく、教育機関を初めとした、校舎の外にいる民間側も共に手を取り協力し合い問題解決に向け、取り組む事が大切だろう。子ども達の未来や健康、純粋なままの輝く瞳、キラッキラの笑顔を守れるのは、学校内外にいる私達大人だろう。ドキュメンタリー映画『小学校 それは小さな社会』を制作した山崎エマ監督は、あるインタビューにて本作における集団生活の協調性と軍事教育の間にある問題点に対する「諸刃の剣」について、こう話している。
山崎監督:「「諸刃の剣」という言葉は的を射ていて、協調性の高さと同調圧力の強さは表裏一体なんですよね。日本の最高にいいところと最悪にダメなところは、本当に紙一重のところにあると思います。そして、日本式教育を受けることで徐々に白からグレー、グレーから黒に変わっていくのだとすると、小学校は白に近いところにあるのかなと思います。同じ教育システムを受け続けることでちょっとずつ危うさが出てきて、人によってはだんだん集団のなかで自分の居場所を見つけたり、違うことをしたりするのが難しくなってくる。杉田先生が話していたことや日本が抱える教育の課題はもちろん考えないといけません。ただこの映画では、不登校やいじめなど、日本の教育システムの危険性や、表裏一体の裏の部分はあえて取り上げていません。両方を見せることは時間的にも難しかったし、簡単にあらわすこともできない。でも、主語が大きくなってしまいますが、日本は自分たちのことをかなり批判的に見がちな国なのかなという感覚があるんですよね。」(※5)と話す。この「自分達の国を批判的に見がち」へのアンサーは、引用記事に目を通せば続きの話をしているが、ここでは作品で取り上げきれなかった日本の教育システムの危険性や表裏一体の裏の部分に関する事柄をクローズアップできればと思う。山崎監督の言うように「簡単にあらわすこともできない」とは確かにその通りではあるが、どこかでしっかりと発信して行く必要もある。
最後に、ドキュメンタリー映画『小学校 それは小さな社会』は、日本の公立小学校に通う1年生と6年生の学校生活を春夏秋冬にわたって描いたドキュメンタリー作品だが、学校内だけの出来事に注力するのではなく、社会の全体像を俯瞰的に多角的に、また内側からの内部的視点で見つめて行く事が大切だ。子ども達の衣食住を守るだけでなく、この子らが生きる未来の日本も守らなければならない。私自身、昨年末に地元の公立小学校と支援学校に足を運んだ。小学生は、子どもらしくイタズラ小僧ばかりで、勝手に先生と言う設定にされ、話し掛けてくれたのは嬉しかった。また、支援学校の高校生達は少しお兄さんとなっており、皆さん立派でした。単純作業の多い職業にご就職されるようだが、私の目から見れば、皆さん健常者と何一つ変わらない。単純作業ではなく(単純作業もまた非常に大切)、もっと人としてやり甲斐のある仕事をして欲しいと思えた(映画業界が、そうなれる様に頑張って欲しいし、私自身も頑張りたい)。「日常的な発達支持的生徒指導で本プログラムを活用することで、『個々の児童生徒の力』と『学級集団の力』を包括的に向上させ、いじめ防止意識の向上が図られるものと考える。」(※5)とあるが、今の時代はこの「個々の児童生徒の力」と「学級集団の力」が必要とされており、個性と集団の力が合わさった時、大きな畝りとなり、教育現場の様態が変わるのであろう。文末となったが、いつの時代であろうと、私のように「惨めだった」「悲惨だった」と生徒達に思わせる教育現場であってはダメだ。その点を肝に銘じて、私達はこれからの日本の教育を作り上げる事が大切だ。
ドキュメンタリー映画『小学校 それは小さな社会』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)14年前、教え子に性暴力 元中学校長に懲役9年判決 逮捕時は校長
https://www.asahi.com/articles/ASSD90PH8SD9UTIL02GM.html(2025年1月8日)
(※2)神戸市兵庫区の小学校で児童らの個人情報紛失 書類2種類、担当教諭が金庫に保管せずhttps://www.kobe-np.co.jp/news/kobe/202501/0018518491.shtml(2025年1月8日)
(※3)柔道塾塾長、女児に性的暴行か 過去には男児の口に無理やりしょうゆを流し込んだなどとして逮捕・起訴https://news.ntv.co.jp/category/society/fdb2ac20e79644f196127233ea9d7281(2025年1月8日)
(※4)深刻化する教職員の不祥事を考えるhttps://www.relief-point.co.jp/newsletterweb/%E3%81%A9%E3%81%86%E9%98%B2%E3%81%90%EF%BC%9F%E6%B7%B1%E5%88%BB%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E6%95%99%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AE%E4%B8%8D%E7%A5%A5%E4%BA%8B%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B/(2025年1月9日)
(※5)協調性を重んじる日本の教育は、本当に「問題だらけ」?映画『小学校~それは小さな社会~』監督インタビューhttps://www.cinra.net/article/2412-emaryanyamazaki_iktay#%E5%92%8C%E3%82%92%E9%87%8D%E3%82%93%E3%81%98%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%95%99%E8%82%B2%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%80%82%E3%80%8C%E6%9C%80%E9%AB%98%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%A8%E6%9C%80%E6%82%AA%E3%81%AB%E3%83%80%E3%83%A1%E3%81%AA%E3%81%A8%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%AF%E7%B4%99%E4%B8%80%E9%87%8D%E3%80%8D(2025年1月9日)
(※6)小・中学校における「いじめ未然防止プログラム」の実践の試み―プログラム実施による効果と生徒指導への適用に向けた考察―https://drive.google.com/file/d/16HKIV_h50RhpQoUdgV58Lb2ewZLQoJ6o/view?usp=drivesdk(2025年1月9日)