映画『温帯の君へ』「同じ目線で考えて行きたい」宮坂一輝監督、山下諒さん、二田絢乃さん、さいとうなりさんクアトロインタビュー

映画『温帯の君へ』「同じ目線で考えて行きたい」宮坂一輝監督、山下諒さん、二田絢乃さん、さいとうなりさんクアトロインタビュー

世界は変わると知った時。映画『温帯の君へ』宮坂一輝監督、山下諒さん、二田絢乃さん、さいとうなりさんクアトロインタビュー

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–まず、映画『温帯の君へ』の制作経緯を教えて頂けますか?

宮坂監督:この映画は気候変動と恋愛映画の二つの要素が組み合わさっている映画なんですが、それぞれ挑戦したいと思っていた二つのテーマを、自分の中で掛け合わせて制作しました。まず気候変動に関しては、前作『(Instrumental)』という作品を2022年6月にシネマ・ロサにて劇場公開させて頂きましたが、前日から気温が上がり猛暑日になりました。そこで上映初日に劇場で冷房をフルパワーで稼働したら、冷房が壊れてしまったんです。

—–確かその時、1週間ほど劇場がトラブルに襲われていましたよね。映画館側もまさかの展開だと思いますが、連日のトラブル対応は今まで聞いた事なかったです。

宮坂監督:結局その日は、お客さんが来場したタイミングで空調が壊れてしまったので、100人程を収容して、サウナみたいになった劇場に詰め込んで、一時間ぐらい映画を見てもらう苦行を強いてしまったんです。そんな状態で、僕の映画を集中して観て頂ける訳もなく。では何が悪かったかと振り返ると、地球全体がおかしな気候になっていることが直接の原因です。初めてその時に、気候変動は実害を与え、自分にとっての一番大切な瞬間を奪われてしまう事があるんだなと実感したんです。そんな時、気候変動をテーマに映画を撮る事が、一つ自分のできる事と思って、そのアイデアを温めていました。恋愛映画という側面に関して言うと、難しい社会的なテーマを描く上で、きちんとエンタメにしてあげないと誰も観てくれないと思ったんです。自分自身で恋愛映画に対する憧れも持っていて、人間の一番の醜い部分も美しい部分もストレートに表現できるのが恋愛映画だと僕自身は思っています。恋愛映画の力を使って、社会的なテーマを描けたら自身のフィルモグラフィーにとっても、すごく良いものになると思って、この2つを掛け合わせて、今回、映画を作りました。

—–最近、夏場はずっと暑く、どんどん気温も気候も変化して行く中、日本は気温のせいで、本当に住みにくくなったと思います。

宮坂監督:それこそ最近では、急に雨も降るようになり、突然降り出すと、降水量も増える一方、降らない時は全然降らないのが現状にありますよね。

—–水害が増えたような気がします。

宮坂監督:川の氾濫も増えています。

—–だから、それだけ気温や環境が変わって来ている中、普通に暮らしていたら分からないかもしれないですが、災害がある事実を突き付けた時、肌で感じる一面もあると思います。なかなか、気温変動をテーマにした映画は、日本では少ないですね。たとえば、アメリカのような派手なディザスター映画は作れないですが、その逆を行く、恋愛要素を混ぜた気候変動をテーマにした映画は、今まであまり観た事ないかもしれないと感じて、比較的、斬新な取り組みをしていると、私は受け取りました。

—–最初に、本作への出演の話を頂いた時、山下さん自身、この作品に対して、どのような印象を抱きましたか?

山下さん:自分がこの作品に参加させて頂いたのは、オーディションからです。オーディションサイトを見ていて、この『温帯の君へ』のキャスト募集の記事を拝見して、応募させて頂きました。そもそも、地球温暖化を扱っていて、この作っている方はどのような文脈で作っているんだろうとまったく分からないまま応募させて頂いたので、作品への意図は汲み取れなかったんですが、初めの段階で脚本をすべて読ませて頂き、最初に読んだ時の感触は、地球温暖化についての社会に対する警鐘ではなく、ちゃんと作品の中で登場人物達が生きていて、結果、意見の違う人々の心が通っている姿を見られて、とても面白そうと思って、この作品に参加させて頂きました。

—–その点は面白かったです。難しい社会的な部分だけに偏るのではなく、それによって引き起こされる若者の不釣り合いなさや分かり合えなさ、またそれだけでなく、お互いに歩み寄ろうとする姿が、地球温暖化という壮大な話にも関わらず、非常に身近な話として展開している点は、非常に面白いと私は感じました。共感や親近が湧くからこそ、この作品や登場人物の2人が、愛おしく感じる事ではないでしょうか?
—–二田さんは、環境保護活動にどハマりして行く女子大生を演じられていました。「CAFF(Climate Action For Future)」(キャフ)とは、自身が生きる環境の中で出会う事はほぼ無いと思います。作品を通してこの活動に触れる事によって、ご自身の中で気持ちの変化はございましたか?

二田さん:自分が演じて行く中で、小さい事でも気になるようになったと思えるようになりました。それこそ、天気やニュースを見て、デモ活動や何かへの抗議活動をする事は、自分とは全くかけ離れている人が行う事だと思っていたんですが、その点に注目し、調べて見るようになったと思うんです。

—–興味を持つ事は非常に大切で、小さい事から気づいて行く事が、大切だと、私はその話を聞いて改めて思います。

二田さん:作品に携わってから、多少気になるようになりました。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–関心持つ事が一番大切で、世界を変える事はできなくても、関心を持つだけで、少しでも前に進むと思います。一人が関心を持って、その一人が10人、50人、100人。100人が関心を持った時、少しだけでも、世界は変わると私は信じたいです。だから、小さな事が大きな一歩になります。

—–さいとうさんは、「CAFF」の代表を務める森野を演じていますが、この女性が若い大学生の男女の関係を複雑にさせる、ある種、図らずともキーパーソンになっていると思います。最初に森野という人物と対面した時、さいとうさんは彼女の人物像をどう捉えましたか?

さいとうさん:考えるより先に行動するタイプであり、子どもの頃から同じような性格で、いわゆる、彼女は「なんでなんで星人」だったんだろうな、というイメージを最初に受けました。問題を解決して行く事、理解して行く事、世界の解像度を上げて行く事に対して興奮する人物という印象を受けました。

—–さいとうさん自身が演じられる森野と非常にキャラクターが似ている印象を今、感じました。少し物事に対して熱い想いを持っている前向きな印象を感じました。

さいとうさん:森野には、パッションで物事を前進させて行くような感覚やイメージがありました。

—–受け答えに関しても、さいとうさん自身の中のパッションを感じます。監督のキャスティングに関して、しっくり来ていると非常に理解できます。映画を観ているだけでは、役者さん自身のキャラクターは見えて来ないので、ご本人からお話をお聞きして、私は今、さいとうさん=森野を連想させるイメージが湧いて来ました。

宮坂監督:森野は一番、この映画に登場する人物の中では、自分に引き寄せにくいキャラクターではあると思ったので、それを明確にし、ちゃんと惹きつけられる方は限られると思っています。

—–意外と、若い方で活動家は現在少ないと思います。

さいとうさん:総体的には、少ないかもしれないですね。

—–分母の数で言えば、そう言えますね。活動もデモもしたくない若い世代はほとんどだと思います。活動をしたいとかしたくないではなく、熱い想いを持った方と出会える確率は低いと思います。その点で言えば、さいとうさんは、森野のキャラクターにぴったり来ると、改めて思います。

さいとうさん:でも、活動をしたいとかしたくないを考えた事がなかったです。したいではなく、しない選択はないんです。自分の思想を表現するのは、したいとかしたくないじゃないと思います。皆さん、そんな機会がないだけと、改めて今思いました。

—–難しいですが、する、しないの選択肢がなく、ただ単純に、気持ちの問題であると。

さいとうさん:私自身、環境問題に対して、ほんの少しだけ、ふんわり興味があったんです。10代の時にデモに参加した経験もあったので、森野とは少し似ている部分は、あったかもしれないです。

—–デモに関しては、経験者だった側面もあるんですね。

さいとうさん:表立って言える程の経験者ではありませんが、ただ、経験のあるなしで言えば、振り返れば経験はあったと言えます。今、本当に少し忘れていて、ただ、わざわざ伝える程の経験ではなかったので、お話しながら過去の経験を思い出していました。

宮坂監督:結局、この映画において一番大事なことは、森野という人物をちゃんと人間として見せる事なんです。活動家の方達に関わった事がない人からすると、思想だけで生きているロボットのように捉えている節があるのではないかと思います。血の通った人間だと思わせる事が非常に大事だったので、さいとうさんだったからこそ今回の森野という人間が立ち上がったと思っています。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–改めて、森野に注目してみたら、面白いかもしれないですね。この作品における主人公は、あの男女2人であって、彼等に気持ちが向いてしまいがちですが、もし森野が主人公だったと仮定した時、また違った視点で、この映画を観られると少し思いました。
—–地球温暖化や気候変動をテーマにした作品は、海外ではディザスター・ムービーとして山ほど制作されていますが、本作はテーマとは真逆であり、双極の位置にあると印象を受けます。人によって、捉え方が千差万別ある温暖化問題に対して、監督がこの題材に興味を持った理由、何かございますか?

宮坂監督:自分が実害を受けた経験もありますが、もう一点は、言って頂いた通り、「人によって捉え方が千差万別」だからです。どう考えても、解決した方が皆にとって幸せなのに、どこかで皆、解決しようとしている人達に対して冷たい目で見ている、あるいは、実際に活動している人達が過激な行動に走ってしまっている現状があります。それは合理的じゃない一方で、非常に人間臭くもあると思います。気候変動に対して活動する人と活動しない人の間の対立が、人間ドラマとして描けたらすごく普遍的な話になるし、気候変動にあらゆる社会的な問題に対して起こっている事だと思うので、今回、興味を持ちました。

—–でも、どうでしょうか?今の日本の若い子達がどれだけ地球温暖化に目を向けているかと問われれば、どうでしょうかと私は思います。特に、皆さん20代ですが、正直、私は地球温暖化に対する興味は薄いと感じています。地震や災害は怖いですが、だからと言って、直接的に自分達が何かして、原因に結びついていないと私は思っていて。だからこそ、今の若い方がどこまで、自分自身の生活と地球温暖化が結びついているのかと、私は非常気になります。

宮坂監督:その通りと思うところもあり、だから、ほとんどの方が直接的に結びついてないんです。例えばこの作品であれば、榎本という人物が登場しますが、彼はお金の事しか考えていなくて、でも皆さん、そんな感じだと思うんです。自分の生活に精一杯で、自分のやりたい事に精一杯。それはそれで別に否定されるものじゃないと思うんですが、ただ一方で、自分の生活の周りに社会問題は必ず存在しているはずで、皆見て見ぬふりをしているだけなんじゃないかと思います。皆、知らないわけじゃなくて、問題がある事を知っていて、薄々気付いているんですが、敢えて無いものとしているんです。ある意味、問題に強制的に目を向けられざるを得ない瞬間が多分、この作品に登場する人物には訪れたと思っているんです。その瞬間が、全員に来る訳ではないんですが、目の前に社会問題に対してすごく活動的な人が現れた時、その方々とちゃんと関係性を築けるのかと。人間的な話に落ちて来た時にこの映画が意味を発揮すると思うんです。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–映画を観ていて思ったのは、中心で活動する方々は温暖化に対して、また災害に対して、非常に熱を持っていますが、その周りにいる大人達や興味のない人の温度差が違うように構図として描かれていると思いましたが、それが今の日本の現状だと受け取りましたが、監督はどうお考えですか?

宮坂監督:海外と日本が少し違うのは、日本は皆、知ってはいるけど、誰も気候変動が起きていないと思っているんですよね。海外だと起きてないと言っている人がいるんですが、日本は皆、分かっていて起きているんだと理解はしているけど、行動するかと言われれば、また違うんです。たとえば、大学に行けば、社会的な活動をしている人達のサークルがあって、それを避けてしまう気持ちは理解できるんです。居心地の悪い感じの部分は皆、感じているはずで、その点がこの映画にあって、描けていたらいいのかなと思っているんです。その居心地の悪さから一歩脱して、僕や私はどうすれば、その先に行けるのだろうかと、この映画がそのヒントになればいいと僕は思っています。

—–たとえばですが、映画のワンシーンの中で環境省の大臣が出てきた時のあの温度差が映画の中では大切だなと思いました。一番ちゃんと考えないといけない人が、凄く軽く見えるんですよね。でも、あの姿が実際、現実問題として起きていると私は思います。

宮坂監督:環境省のシーンは知らない人から見ると、「本当にあんな感じなの?」と聞かれるんですが、実際に環境の活動をしていて、大臣と会って話した事がある人から見ると、映画で描かれている姿そのままと。あれがリアルと教えてもらって、見る人によって、感じ方が違うシーンです。それが、映画の面白い側面かと思います。

—–山下さんは、なぜ、大樹と翠が分かり合えずにいたと思いますか?どこかで、どちらが歩み寄ったりする事もできると思います。

山下さん:人それぞれに色んな理由があると思うんですが、ずっと一緒に過ごしている時間が長ければ、「こっちの事、分かってくれているよね。」と無意識に思ってしまうんです。多分、いろいろと折り重なって、積み重なって行って、衝突が生まれると思うんです。個人的な事で言えば、すべてを分かり合うのも違うなと思うんです。自分だって、恋人に理解して欲しくない事、見せたくない部分は、人それぞれあると思うんです。目の前で衝突が起きて、なぜ起きたのだろうと理解しようとする意志を持ちつつ、でも相手の事は尊重して、分かり過ぎるのもまた、少し違うと感じます。正直、分かんないからこそ、目の前にある事にがむしゃらに突っ込んで行く。その衝突を繰り返して、絶妙なバランスが生まれると思っています。

—–語り合うではないですが、自分の思いをちゃんと伝える事をしないから、人はすれ違ってしまうと思います。互いの想いを伝える時間をちゃんと設ける必要があると思います。その時間を作らないから、お互いカップルや親子、夫婦など関係なく、人として語り合う時間を設ける事が、お互いの分かち合いに結びついて行くと話を聞いて思いました。

山下さん:相手に対して、何かモヤモヤを感じる事もあるけど、僕自身、自分の言葉をちゃんと言葉にできてない瞬間が僕の中にあって、なぜモヤモヤしているのか分からないけど、むかつく時もある。やっぱり、衝突を繰り返して、相手の事を思い合って、結果、お互いを分かって行くと思えます。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–二田さんは、自然保護活動に邁進する女性を演じていましたが、本来なら活動に参加していない女性の選択もあったと思うんです。活動などせず、カップルが幸せに過ごす世界線が、もしかしたら、物語の中にあったのかもしれない。でも、彼女は活動に参加している。そのきっかけは、世界終末時計の存在を知ったからですよね。ただ、映画には描かれていない部分で、活動に至った経緯があると思うんですが、その経緯は何でしょうか?

二田さん:断定して何か言う訳ではものではありませんが、私が演じた翠は影響を受けやすい性格だと思うんです。彼女は何かと影響を受けやすく、だから、目の前で起きている事をちゃんと噛み砕くまで、納得できない人物です。分からない事をそのままにしたくなく、恋人の大樹は理屈で考えている一面がありますが、翠の場合は目の前の感情をそのままにする事ができないんです。どうしようと混乱した時に、頭で処理するのではなく、心の落ち着きやその後に彼に抱きついて泣いている時があるんです。あと私自身も似ているんですが、大学に入ると高校の時よりもやる事が明確じゃない事があったんです。でも目の前に出て来たものに対して、「今だ!」とキャッチして行く力はあると思います。自分が実際にそう感じていた時期もあったたので、彼女にも同じ感情があったと考えています。きっと翠は、友達は多い子だと思うんですが、上手に人付き合いできない一面も持っている女の子だと思います。なので、自分の事を強く引っ張ってくれる友達ができて、引っ張られるです。まさに美玖との出会いのシーンですが、彼女の周りにはそんな友達は今までいなかったんじゃないかなと。地球温暖化に興味があるというより、居場所を探しているという方が、もしかしたら、パーセンテージが若干上だったのかなと、私が演じている時はそう思っていました。

—–さいとうさんは活動家の代表という人間を演じていますが、森野はこの活動を通して、本当に自然破壊が改善され、自然環境が守られるものと信じているのでしょうか?さいとうさん自身は、この活動で何が変わると思いますか?

さいとうさん:森野は、心から信じていると思います。環境問題の1秒でも多く、何かが加速しているものを止める役割はあって、それをサポートをしていると本気で思っていると思います。私自身は、もうこの活動をする事によって、何らかの変化があるとすれば、社会へのインパクトは何かあるんだろうと思っています。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–地球滅亡までの時間を象徴的に示す終末時計が、今年2025年1月の時点で、残り89秒と発表されました。実は1秒進んでいて、前回の発表では2023年、2024年頃が90秒って言われていたんです。だから、一年単位で1秒進んでいると考えてもいいと思うんですが、この89秒が現時点で長いか短いか予測できませんが、私達に残された89秒。残り1分半の間に私達は、この地球に対して何をできると思いますか?

宮坂監督:質問ではない所から答えてしまいますが、90秒が実は、この映画の最初に出て来るんです。電子レンジの残りを表す秒数です。あれは、一応この終末時計から取っています。その時はまだ90秒だったので、今は89秒になってしまいましたね。私達がどこで何ができるかという質問ですが、この映画を僕が作って、今すごく思う事は、この映画自体がある意味、次の誰かにとっての何か新しい一歩になる事やきっかけにもなって欲しいと願っています。大きい事は言えませんが、この国にとって何か新しい方向性を示すものになればいいなと思っています。日々、気候変動に対する解決に向けて活動されている方も、活動されていない方もたくさんいますが、僕はちょうど彼らの間の中間に立っている存在だと僕は思っています。今回、その両方の方にこの映画を観てもらって、今の僕が思う事は、真ん中にいる人間だからこそ作れた映画だろうと。どちらにもあ共感出来るし、どちらにも心を配って作っています。真ん中を埋めて行くような作業、橋を架けて行く作業が、最終的に様々な問題の解決に向かって行くと、すごく思っています。直接的ではないにしても、最終的な自然破壊や地球温暖化への解決は、遠回りかもしれないけど、確実に何か一歩になっていると思っています。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

—–価値観の違いから相反する若者の姿を描いているのが、映画『温帯の君へ』ですが、私達は地球温暖化に晒されているだけでなく、地震や豪雨の自然災害とも隣り合わせに生きています。このカオスな社会で、今を生きる若者にエールを送れるとすれば、どんな思いを込めて声をかける事ができますか?

さいとうさん:私は今30代なので、この中で多分、一番年上ですが。中学生や高校生の10代の方、また20代の方、あるいは小学生の子ども達、にもしお伝えする事があるとすれば、「まぁ、大丈夫だよ」の一言です。世の中、しっかり科学がちゃんと進歩してくれているので、間違いなく進歩しています。ぜひとも、喜びを大切に生きて欲しいと思います。賢さは技術などが助けてくれる役割になるので、それよりも生きる喜びにフォーカスして生きていけば、世界はよりよく動いて行くので、喜びに満ちて生きて行って欲しいと、私は若者達にエールを送りたいです。

二田さん:私も含め、ここにいる皆さんと一緒に映画作りに携わっているんですが、映画はその時、その時間と場所を映す素晴らしいツールです。それに魅了されて、映画作りを諦めたくないから映画を続けていますが、私が100年前の映画だって、何年前の古い映画を観る事も好きなので、映画が教えてくれる事は本当にたくさんあるんです。その場のその時のその人、その時のその状況を映してくれていて、映画でも文学でも良いんです。その時映されている何かものを見る、それが絵や写真でもいいんです。芸術を観て触れれば、一緒に観たい気持ちはあります。一緒に向き合う事も大事だけど、何かを一緒に映画館みたいに、席で一緒に何かを観て、同じ目線で考えて行きたいと思います。

—–最後に、映画『温帯の君へ』が今回の上映を通して、どう広がって欲しいなど、何かございますか?

宮坂監督:まず、どんな方に観て欲しいかと言われれば、若い世代の方にぜひ観てもらいたいです。僕自身20代ですが、この問題をこれから背負って行くのも若い人達。若者が作った映画を観てもらいたい気持ちはあります。この映画で描いている分かり合えなさは、別に気候変動に限った話ではなく、社会問題に限った話でも最早ないんです。本当に生きて行く中で必ず感じる感情だと思っています。その点を描いた映画という意味では、皆さんに突き刺さる部分があると思います。映画は面白くてなんぼだと思っていて、別にこの映画を観て難しい事を皆に考えて欲しい訳では必ずしもなくて、一旦、映画の世界観に浸って、その中で自分ならどうしようかと考えて、本当に身近な目線で思考を巡らせる事が、一番この映画の楽しみ方としていいと思っています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

映画『温帯の君へ』は現在、東京のテアトル新宿にて、5月31日(土)から6月5日(木)まで上映中。また、大阪のテアトル梅田にて、6月20日(金)のみ上映予定。