株式会社コギトワークス代表取締役 関友彦さん「感謝の言葉や気持ちと併せて」インタビュー

株式会社コギトワークス代表取締役 関友彦さん「感謝の言葉や気持ちと併せて」インタビュー

2023年1月12日

株式会社コギトワークス代表取締役 関友彦さんインタビュー

現在、クラウドファンディングにて、配給の新ルートを開拓しようと活動する株式会社コギトワークス代表取締役の関友彦さんにインタビューを行った。関さん自身のこと、コギトワークスの設立からネーミング、今回のクラウドファンディングや国内から国外への配給の新体制、従来の配給の旧体制の必要性、そして関さん自身の将来の展望について、お話をお聞きしました。

日本独自のカルチャーが育んだ【ミニシアター系邦画】の世界上映を実現するために、世界各国17都市のミニシアターと直接交渉し、新たな配給ルートを開拓します。現代のマ…
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—–まず、関さんが映画業界に興味を持った、もしくはこの世界に入ったきっかけを教えて頂きますか?

関さん:株式会社コギトワークスは、今一緒に経営している脚本家のいながききよたかと立ち上げた会社です。

この業界に入る前の僕は、映画業界とは関係のない馬術の障害飛越競技の選手をずっとしていました。

実は、全日本Jr.の強化指定選手だったんです。

幼少の頃から約15年間、馬乗りとしての生活を送っていました。

そして専門学校卒業後にイギリスに留学をしました。

イギリス留学が始まって数ヶ月後に、同じ語学学校に入ってきた新しいクラスメイトが、いながきです。

その後彼は、ロンドンにある映画の専門学校に通いました。

当時 車を持っていたのが僕だけでしたので、よく彼らの映像製作を手伝っていました。

自主映画の現場を手伝う中、面白さややりがいも感じるようになりました。

その後ビザの関係上、帰国しなくてはならなくなり、もし日本に帰るのであれば、馬乗りを卒業して、映画業界に入ろうと決意しました。

それが2000年のことですですので、僕は映画のことを全く知らないままこの業界に足を踏み入れたんです。

現場に入るきっかけをいただいたのは、留学前に日本で通っていた専門学校の先輩が、既に映画界で活躍されており、帰国後相談したところ、「じゃあ、来月空いているか?」と すぐに現場に誘っていただけました。

その時からフリーランスの制作部としてのキャリアがスタートしました。

それから制作部として様々な現場を経験し、2008年に脚本家のいながきと株式会社コギトワークスを設立しました。

—–お話できる範囲で構いませんが、株式会社コギトワークスの「コギト」には、ラテン語で「想う、考える」という意味がありますね。クリエイター達の「想い」をカタチにする目的を持っていらっしゃいますが、なぜ、会社を立ち上げ、この社名にされましたか?

関さん:脚本家のいながきと僕が立ち上げたコギトワークスの社名ですが、帰国後、彼と一緒に製作した短編映画『青年コギト』というのがあります。

この映画のタイトルが由来となっています。

僕はこの時、「コギト」という単語を初めて知りましたが、「コギトとは、英語の「consider(コンシダー)」の語源だ。」と彼が教えてくれました。

「コギト=熟考する」という語感と意味合いが、僕の中でその時響いたんです。

そこに「動く、働く」という単語「works(ワークス)」をくっ付けて、今の社名にしました。

なぜ、会社を立ち上げたのかと言いますと、将来自分たちが企画する映画を製作するには、やはり会社組織が必要ですし、制作部としてキャリアを積んでいくとそれをより具体的に感じるようになったからです。

その頃、お世話になっていた大先輩が制作プロダクションを立ち上げたのですが、数年してもなかなか自社製作の映画に乗り出せない状況を側で見ていて、自分の経験とは全く別次元で、「会社格」としても年数、経験を重ねなければ、社会的信用に繋がらないのだと感じました。

そういった思いもあり、まだプロデューサーとしては未熟な段階ではありましたが、いち早く会社を起すことにしました。

—–ここから、クラウドファンディングの話になりますが、今回行っているプロジェクトですが、いつ頃から、このような仕組みやシステムの構想をお持ちになられたのでしょうか?

関さん:勿論、パッと思いついた訳ではありません。

色々な経験の蓄積の結果ですが、まず、弊社には俳優の柳英里紗が所属していて、彼女が入社したことをきっかけに名古屋のミニシアター、シネマスコーレの坪井さんからのお誘いで、【柳英里紗映画祭】を毎年開催するようになりました。

柳は、以前から坪井さんと親しくさせていただいていましたが、失礼ながら僕はその時はじめてシネマスコーレさんに伺いました。

僕はこれまで制作部として映画の「現場」に携わってきていて、作ることのプロではあるものの、その完成した映画が、どうやってお客様に届いているのか、ということを知ろうとしていなかったんだと思います。

それから毎年訪れるシネマスコーレで、観客のみなさまを身近に感じるようになり、ミニシアターの存在意義を意識するようになりました。

そして2020年に映画『すずしい木陰』という作品の製作配給を手かげました。

当初は守屋文雄監督から柳への出演オファーをいただいたことからはじまったのですが、企画 をお聞きすると非常に興味深く、とても自分好みな映画だったので、是非プロデューサーをさせてほしいと名乗りを上げたんです。

『すずしい木陰』がはじめての製作配給作品となるのですが、配給を行ったというよりも、とにかくこの映画を、劇場に届けたかったんです。

右も左も分からないまま宣伝活動を地道に行い、いよいよ公開となった直後に国内初の緊急事態宣言が発令され、上映中断に追い込まれました。

ただ反面、この厳しい状況を通じてより一層ミニシアターの存在の大きさに気づくことにもなりました。

多種多様な映画を上映するミニシアターは、重要な文化の場所なのです。

続く、入江悠監督「シュシュシュの娘」では、全国の43館のミニシアターで上映させていただくことになりました。

作品を通して各都道府県のミニシアターの方々とお話出来たことは、非常に大切な経験となりました。

今行っているクラウドファンディングでは、世界のミニシアターへ、という目標を掲げていますが、勿論世界だけを見ている訳ではなく、日本も海外も国境なく、ミニシアターという文化をどう豊かにしていけるのかを考えています。

またこの動きはミニシアター文化の活性化だけに留まらず、作り手の地位向上も目指しています。

映画が生み出すすべての利益を作り手に還元する『成功報酬』を当たり前のビジネススキームにすることで、海外、国内合わせた興行収入・利益の分配を行い、実質的にも豊かな環境を実現させていきたいと思っております。

現状の日本のインディペンデント映画の状況として製作費のリクープを出来ている作品は決して多いとは言えないかもしれません。

ましてや儲かっている作品となると少ないのが現実だと思います。

国内のミニシアター数十館で(※1)リクープが難しいのだとすると、だったらマーケットを広げるというのは自明のことだと思います。

また、作品にはそもそも国境はないはずです。

国内に拘らず、国外に広げると、どういう化学反応が起きるのか、興味があります。

それは今後体感する事ですが例えば、日本で20館での上映作品が、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、シンガポールなど、各都市で広がって行けば、また違うムーブメントも起こるのではないかと考えています。

注目されればされるほど、作品はどんどん成長すると見込んでいるんです。

また、世界にマーケティングを広げることは、日本人の誰もが願っている事だと感じています。

「マーケットを広げる」と標語のように言えば、誰もが賛同する言葉かも知れませんが、その方法に関しては誰も行動していません。

海外=映画祭と言う構図が出来上がっていて、そこで話が終わっているんです。

だったら実際に作り手自身で直接劇場に届けてみて、どういう反応が起きるのかトライして行く必要があると思います。

日本のミニシアターに届けることと同時に海外のミニシアターにも同じマインドを持って送り出す事を実際に行ってみることが、今必要なのだと感じています。

また、このプロジェクトが方法論として成功すれば、他の映画人も同じ方法をとることができるようになると信じています。

—–今までのお話をお聞きして、イギリスで生活していた経験があるからこその発想だと思うのですが、例えばですが、シンガポールやニュージーランドと言った、その国の劇場はどのように探しているのでしょうか?

関さん:まさに今、連絡を取り始めています。

これまでの経験の中で知り合った知人が、各国にいまして、その方々のツテを通じて各国の状況を探っています。

たとえば、ニューヨークはインディペンデントシーンがとても活発的な地域でもあり、彼らの多くも同じように配給会社等を通さずに、クリエイター自らが発信していくようになってきているといいます。

やはり映画に国境はないのです。

日本映画に興味があるかないかは、各劇場の支配人のプログラムによるかも知れませんが、セールス・カンパニーを通さず、劇場との直接交渉を行うこと自体は少なくとも、そんなに難しい事ではないと、現地でキュレーションを行っている知人も仰っていました。

他にも、セールス・カンパニーに在籍している買付担当の方にも、このプロジェクトの話をしたところ、多分、想像以上にエネルギーを有することになるだろうが、逆に問題点があるわけでもない。と仰って頂きました。

このプロジェクトを通じて各方面の方々に、相談を重ねて行くととてもポジティブな反応ばかりをいただけました。

なので、結果的にとにかく行動してみようと決意しました。こちらの熱意を劇場主に伝えることで、何かが動く可能性があると信じています

—–今回のプロジェクトに関して、個人的に一つ懸念もございます。関さんにとって、製作サイドから作品を海外に届けることが、この企画の目玉ですが、例えば、国内における配給システムは今後、必要となるのか、また崩壊するのか、何かお考えはございますか?

関さん:前段でも言ったように海外だけに視野を持っている訳ではなく、国内のミニシアターへも作り手が直接配給をしていくことを実現させていきます。ただ、作品それぞれに合った配給方法があるとも考えています。日本の国内システムとして、配給会社が必要無くなる日はないと思っております。全国のより多くの劇場に届ける際には、必ず国内の配給会社は必要となります。日本映画界が長年培ってきた知識や経験の蓄積が、今後も必ず活かされるべきです。弊社が立ち上げた新しいレーベル「New Counter Films」は、産地直送をスローガンにできる場ではありますが、作品それぞれに相応しい届け方の選択肢が増えることを願っています。

—–ミニシアター作品を世界に届けるプロジェクトに関しては、改めてご賛同致します。ただ、少し視点を変えてみると、日本のミニシアターはどうでしょうか?国内には、関東関西含め、地方のミニシアターも存在しています。ただ、コロナ禍になる前から、日本の単館系の劇場は苦しい状況が続いていますね。現状に対し、関さんとして、コギトワークスとして、何かできること、手を打つことはありますか?

関さん:もちろん僕は、日本の映画人だと思っています。

海外を見ているだけでなく、国内にも目を向けています。

先日、ある地方の劇場に足を運んだ時、公開初日の映画『WANDA/ワンダ』を鑑賞させて頂きましたが、来場者が自分含め数名しかいなかったんです。

良質な作品の初日にも関わらず、来館者が数名しかいない事実に、愕然としました。

この現実を受け止めながら僕は作り手として、今後も作品を作り続けます。

そして製作した映画の宣伝も勿論しますが、作品の宣伝だけでは立ち行かないのではないかとその時思いました。

だから、今後は作品の宣伝だけに留まらず「劇場」という空間自体をどう活性化させることができるのかを同時に考えていければと思っています。

作品単体の力だけではなく、劇場自体をアミューズメント化して宣伝して行く必要があると考えています。

—–クラウドファンディングにおけるリターンですが、今まで見てきた中での最高額999,999円です。非常に思い切った事をされていますが、この設定を上回るリターンがあるとすれば、関さんは何を考えますか?物理的な事でも、精神的な事でも、構いません。

関さん:少し冗談も交えつつも、今回の件に限った事で言えば、生の現地同行が一番いいと思いましたので、その金額を設定しました。

—–高額な設定ではありますが、この金額を越えるプライスレスな事があっても、いいと思いました。

関さん:それで言えば、今回のリターンはほぼ、リターンではないと思っています。

支援して頂いた方に対して、何か物理的なモノが返って来るような仕組みではないですよね。

以前に行った「シュシュシュの娘」でのクラウドファンディングでも同じようにしたのですが、たとえば、自分の身近な友達が元気なかった時、たぶんその時その友達を食事か何かに誘うと思うんです。

それって実は一番身近な支援なんじゃないかと思うんです。

そしてその友達から見返りって求めないじゃないですか?

悩みを話して、少し元気になって、ごちそうさまって言ってくれたらそれで十分と言いますか。

だから、「ビールを飲む券」「ご飯を奢る券」と、実質的には見返りのないリターンを考えました。

勿論それだけではなく、他のリターンもご用意しました。

それの究極が、海外に同行することです。

もし応援するにしても、実際にその交渉の場に立ち会うことが一番有意義なリターンになるのではと思ったのです。

ただこのリターンのラインナップを見て皆さんがどう思われているのか、お聞きしたい所でもあります。

勿論、ご支援・ご声援いただいた方々への一番のリターンは、感謝の言葉や気持ちと併せて、日本映画を恒常的に世界に届けられるようなビジネススキームを確立することだと思っています。

—–今後における、関さんにとっての将来の展望やチャレンジしたい事は、ございますか?ちょうど今、チャレンジの途中ですが。

関さん:プロデューサーとして、一番やりたい事は、日本の有能な監督たちと企画・開発して、映画を作って行く事です。

今やっている事の地続きではありますが、企画の発端は我々日本人のクリエイターが立ち上げ、国内外の出資がフィフティ・フィフティで企画・製作を進める事ができないか、構想しています。

本当の意味での、共同制作映画を目指したいんです。

本当にイーブンの関係として、内容に対する発言権も、ビジネス的なスキームとしての責任感も、対等の価値観を持って、海外と共同制作で映画を作って行く事に挑戦していきたいと思っております。

それにはやはり「New Counter Films」というレーベルを通して、日本と海外のお互いが身近なクリエイター同士となれるように、環境を作って行きたいと考えています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

現在、関代表が発案した配給の新ルートの開拓が、クラウドファンディングにて開催中。日本の映画業界の新しい未来への第一歩。

(※1)「リクープ」とは?意味と使い方・リクープラインについても解説https://biz.trans-suite.jp/35188(2022年12月31日)