ドキュメンタリー映画『独裁者たちのとき』真人間になって…

ドキュメンタリー映画『独裁者たちのとき』真人間になって…

2023年6月8日

黄泉の国からヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニが帰還するドキュメンタリー映画映画『独裁者たちのとき』

天国に行くには、どうしたら良いのだろうか?

その答えを知っているのは、誰も知らない。

神だけが知る、人知を超えた世界だ。

人は死ねば、天国か地獄に行くと考えられているのは、キリスト教の教えだ。

仏教では、天国のことを極楽浄土と呼び、そこには七宝の池があると言われている。

池には、数え切れない宝が沈み、この水にもご利益がある(具体的に分からないが)水だそうだ。

また、仏教は地獄道の地獄は、八大地獄と呼ばれ、八つの階層がある。

具体的には、等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄、無間地獄の八階層。一番軽い等活地獄は、殺人を犯した者が送られる。

また、四つめに軽い叫喚地獄は、生前に殺人をし、盗みを働き、さらには陵辱し、酒を呑む者が落とされる。

ここでは熱く煮え滾る鍋に投げ込まれ、溶けた銅を強制的に飲まされると言われている。

逆に、一番重いと思われる大焦熱地獄や無間地獄には、どんな事が待ち受けているのだろうか?

五つの大罪を犯した者がだけ落ち、長時間、絶え間ない責め苦を受け続けると言われているが、私はそれだけではないと思っている。

ここに落とされた者だけしか味わえない、想像も絶する拷問が待っているに違いない。

それぞれの宗教によって、天国と地獄に対する価値観や考え方には、ばらつきがあるが、ひとつひとつに天国と地獄が存在する意味を持たせようとしている。

本作『独裁者たちのとき』は、13世紀から14世紀に存在したとされるイタリアの詩人・政治家のダンテ・アリギエーリが、執筆した彼の代表作『神曲』に準えて作られたアニメーション・セミドキュメンタリーだ。

第二次世界大戦に暗躍した時の指導者ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニという四大政治家の姿を通して、人の罪は神の御元で浄化され、神の審判を受けるため天国の門に行けるのかというある種、実験的要素を取り入れた作風だ。

ダンテの『神曲』(※1)は地獄篇、煉獄篇、天国篇の三篇から構成され、全部で14,233行の韻文による長編叙事詩。聖なる数「3」を作品の土台とし、極めて均整を保った構成となっている。

この数字の「3」には、キリスト教の三位一体(※2)を示していると言われている。この「神曲」はしばし、昔からゴシック様式の大聖堂として表現されている。

また、イタリア文学史上最大の古典と評され、世界文学史上でも極めて重要な書物として認識されている。

この時代の作品としては珍しく、ラテン語ではなく、イタリア、トスカーナ地方の方言で書かれていることが本書の特徴。

少し余談ではあるが、いつかダンテ「神曲」を土台にした映画が、作られるであろうと踏んで、数年前に本書を読んでいた。

過去に映画では、ポーランド出身のクシシュトフ・キェシロフスキが逝去寸前に書いていた作品の原案が、この「神曲」を題材にしたシナリオとして遺稿として存在し、彼の死後、当時の若手監督である映画『ノー・マンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチや映画『ラン・ローラ・ラン』のトム・ディクヴァが、それぞれ天国篇の『ヘヴン(2002)』や煉獄篇の『美しき運命の傷痕(2005)』として両監督に引き継がれ、映像化されている。

唯一、地獄篇が映画化、完成の目処は立っておらず、未だに三部作未完成のままだったりする。

他にも、地獄篇の物語に準えて事件を起こしていく犯人の姿を追ったトム・ハンクス主演の映画『インフェルノ(2016)』やイタリア映画史上、初めての長編映画『インフェルノ(1911)』6時間9分にも及ぶロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーとエカテリーナ・エルテリが共同監督で作り上げた映画『DAU. 退行(2021』『DAU. ナターシャ』シリーズでも、ダンテの『神曲』は何らかの形で映像化されて来た過去がある。

自身、いつか必ずダンテの『神曲』が映像化される(違ったアプローチで表現されるか)と予測していたので、数年前に一度、数ヶ月を要して読破した事がある。

古典的世界文学もあり、当時の雑感としては非常に難解で、作品の世界観について行くのが困難で、文字を追うのが精一杯の状態でもあった。

その中でも本書から与えられた印象は、ダンテの『神曲』は数百年前の物語であるにも関わらず、大かれ少なかれ、今の時代にある一定の影響を与えているということ。

どのような作品の土台となっているかと言えば、数え切れないほどの文学や映画がこの作品を模倣しているはずだが、小説ならドストエフスキーの『罪と罰』、映画であるならMCUシリーズが大いなる影響を受けている。

もちろん、『罪と罰』やMCUシリーズの間に横たわる長きに渡る歴史の中の文化が存在し、それらが過去から現在への踏襲し続けているであろうが、今挙げた明確な作品はこれらの歴史のほんの一部分にしか過ぎない。

けれど、何かしらの文化として示唆されていることは間違いないだろう。

現代に生きる映画好き、特にMCUファンにはダンテの『神曲』に触れて頂きたいと願う。

本書を読むことで、映画に触れる姿勢にも大きく感化される事、間違いないだろう。

本作を監督したアレクサンドル・ソクーロフは、昨年のカンヌ国際映画祭に本作を出品するにあたり、自身が作品をどのように捉えているのかコメントを残している。

«Там огромное количество фильмов, и совсем необязательно, что этот фильм им понравится. Это исторический фильм, он сложный и для Европы, и для нас сложный, для всех», — пояснил Александр Николаевич. Режиссер отметил, что для него важно, чтобы новую картину увидел российский зритель и настаивает на показе фильма на родине. Кинолента создавалась для кинотеатров, при этом ее продолжительность всего 80 минут.(※3)

「膨大な数の映画がありますが、彼ら(映画祭関係者)がこの映画を好きになる必要はありません。ただ、この作品は歴史的な映画であり、ヨーロッパ人にとっても、私たちロシア人にとっても、そしてすべての人にとっても複雑です」とアレクサンダー・ニコラエヴィッチ(ソクーロフ)は説明した。彼は、監督としてロシアの観客が新しい映画を見てくれることが、彼にとって重要であると述べている。この映画を母国で上映することを強く主張している。

記事の一部を抜粋すると、このような言葉が並ぶが、監督自身、本作がロシア本国で上映する事に対して強く希望している背景には、恐らく現在のロシア政府に対する何かしらの強い反発心を持っているからだろうと推測できる。

本来であるならば、本作の被写体になるであろう人物は、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニではなく、現代におけるロシアの指導者に向けられた憎悪的感情が、本作から滲み出ている。

ただ、作品内にてダイレクトに批判として表現すれば、監督自身の身の危険が生じてしまうため、結果として、第二次世界大戦の政治家達を対象の人物として描いているのは、明白だ。

本作『独裁者たちのとき』は時の指導者たちのアーカイブ映像を用いて、過去に彼らが行った人道非道の数々を、実際の本人たちの言葉を引用し、独白形式で悔恨と懺悔の姿を描く。

これらの人物に不釣合いなのが、その時代のイギリスの首相チャーチルだ。

彼だけが、すべての据(しがらみ)から解放されて、天国の門を目の当たりにする。

原題『Fairlytale』が意味する通り、本作が「おとぎ話」であるのであれば、空理空論ではあるものの、この物語を現代に置き換えることができる。

もし置換えれるなら、自身の悪行を振り返りながら、彼らと一緒に煉獄の地で右往左往すべきは、ロシア政府のプーチンや北朝鮮の金正恩や金徳訓の社会主義国家の現指導者だ。

他にも、世界には過去に20人ほどの独裁者がいた。彼らも一緒に煉獄の地で自身の行いを振り返り、反省すべきだろう。

ただ、一つ願えるなら、これら独裁者たちは天国に向かうのではなく、仏教が唱える八大地獄の一番下にある無間地獄で、何度も何度も地獄の業火に焼かれて欲しい。

輪廻転生も許されること無く、地獄の底で生前に行った悪行の数々を際限なく悔悛して欲しい。

ただ、目には目を歯には歯を、暴力には暴力をだと、何の解決にもならない。

もし天国の門をくぐって、再度永劫回帰できるのであれはま、今までとは真逆の人間として生まれ変わって欲しいと願うばかりだ。

最後に、日本で起きた吉展ちゃん誘拐殺人事件の元死刑囚小原保が死刑執行前に遺したとさらる言葉を彼らに捧げたい。「真人間になって、死んでいきます」と…。

ドキュメンタリー映画『独裁者たちのとき』は現在、関西では6月2日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田。京都府のアップリンク京都。6月9日(金)より兵庫県のシネ・リーブル神戸にて公開中。また、全国の劇場にて上映中。

(※1)ダンテの『神曲』の世界へようこそ!作者ダンテ・アリギエーリとあらすじをわかりやすく解説。https://firenzeguide.net/dante-divinacommedia/#%E3%80%8E%E7%A5%9E%E6%9B%B2%E3%80%8F%E3%81%A8%E3%81%AF(2023年6月7日)

(※2)三位一体説https://www.y-history.net/appendix/wh0103-149.html(2023年6月7日)

(※3)Александр Сокуров подаст заявку на участие своего нового фильма «Сказка» в отборе на Каннский кинофестивальhttps://www.vokrug.tv/article/show/16860809521/(2023年6月7日)

(※4)独裁者――いかにして生まれるのかhttps://imidas.jp/cinema/?article_id=l-84-006-20-03-g452(2023年6月7日)

(※5)吉展ちゃん誘拐殺人事件の犯人・小原保の生い立ちや家族!事件詳細とその後も総まとめhttps://newsmatomedia.com/yoshinobuchan(2023年6月7日)