映画『二人静か』「各々の夫婦にも当てはまること」坂本礼監督インタビュー

映画『二人静か』「各々の夫婦にも当てはまること」坂本礼監督インタビュー

2024年1月19日

不安な時代に抗う肌と肌の温もりを描く映画『二人静か』坂本礼監督インタビュー

©坂本礼

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—–本作『二人静か』の制作経緯を教えて頂きますか?

坂本監督:僕は監督として、映画を撮るのがおよそ8年振りになるんです。前作を撮った後に、今回の映画『二人静か』の企画を考えました。当初の枠組みで企画を形にできず、7年か8年空いてしまいました。今回、プロデューサーで入っている寺脇さんに参加してもらって、制作を進めて行きました。当初のシナリオから、コロナ禍なども経て、今の形になりました。

—–ただ、8年の空白期間をどう捉えていますか?

坂本監督:僕自身、プロデューサーとして整えている映画もあるんで、僕自身は映画を作っていない感じはないんです。最初の頃は、助監督と表記するのが好きだったので、助監督で表記しています。僕が監督している作品で、「二人静か」は10本目ですが、僕がプロデュースして整えた作品は10本以上あって、なんかのときにプロフィールを作って欲しいと言われて、作ってみたら、監督した作品の数よりプロデュースしている作品の方が多いくて、自分でもびっくりしました。

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—–本作のタイトル「二人静か」には、監督の何か思いがあるのか、お聞かせ頂けますか?

坂本監督:中野さんに脚本を書いてもらうんですが、今回のタイトルはどんな題名がいいのか考えていたとき、ネットか何かでリサーチしていたときか、何かの記事を読んでいるときに「二人静」という能の演目を見つけて、興味を持ったんです。中身というよりも言葉や文字の雰囲気で、僕らが今回、作ろうとしている作品に対して、このタイトルがちょうどいいと思いました。「二人静」は、様々な作品のタイトルとして付けられていて、映画も同じタイトルが3本ほどあります。「二人静」という現代小説もあります。いっぱいありすぎて、ネットで検索しても、映画が出てくれないんです(笑)。

—–でも、どういう「静か」でしょうか?子どもを一生懸命に探している行動は、動いているので、どちらかと言えば、動きのある物語と受け取れます。でも物語とは、真逆の意味ですよね。この「二人静か」の「静か」は、作中の夫婦にとって、どんな意味があると思いますか?

坂本監督:次は、夫婦の話をやろうと、脚本家の中野さんと考えていて、企画を進めて行く中、多分、「二人静か」の語呂や漢字の印象が、夫婦という関係そのものを印象として捉えていると思うんです。だから、ストーリーにおけるあの2人というわけではなく、「二人静」 という言葉が、夫婦の関係性そのものを描いていると思っています。

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—–本作は、失踪した子供を探す親の姿を描いていますが、他にも、介護の要素や不妊治療の要素など、今日本が抱えている問題を描いていますが、監督はこれらのケースをどう考えておられますか?

坂本監督:このストーリーを作ろうと思ったのは、子供ができない夫婦がブログを目にしたのがきっかけで、そのブログを読んだのか、ブログがネットの記事になっているのを読んだのか忘れてしまったんですが、不妊のことで3年ぐらい悩んでいたご夫婦のブログだったんですが、子供をこのまま欲しいと思い続けるのか、朝まで喧嘩して、いがみ合って、とうとう3年目か4年目に、2人で話し合った結果、自分たちは子供を作るのをやめようという結論を出したということが書かれていて、実際、そのご夫婦はその後お子さんに恵まれますが、その記事を読んだ時に、すごくモヤモヤする感情が湧いたんです。この気持ちを形にしたいと感じたんです。この体験を映画にするのが、スタートでした。だから、不妊の問題に対して、どう捉えているかとお話すると、当事者にとって、非常に繊細な出来事だと思っています。子どもという存在は夫婦で欲しいと望んだり、一方で、望まない場合であったりと様々ではないでしょうか。 だけど、子供がいない夫婦や子どもを育てた事がない女性に対して、ある一定の紋切り型で、僕らの心に生まれる意識が、あると思っています。それはどうして、そんな事が起きてしまうのか、戸惑うときがあります。失踪事件に関しては、ある一定の夫婦の関係性を作る上で、ストーリーにおいてのせた題材です。 札幌の城丸君事件や福島の神隠し事件など、また桐生夏生さんの小説「柔らかな頬」や映画にもなっている田口ランディさんの「アンテナ」など、神隠しの事件や失踪事件に興味を持っていた時期があり、頻繁に調べていたりもしていました。その時の興味を「二人静か」のストーリーの要素として取り入れたいと思い、中野さんも、それにのってくれて、シナリオを作りました。山梨の道志村のキャンプ場で起きた失踪事件がありました。この映画を観て、あの事故というか事件を思い出す方もいるのではないでしょうか。事件や事故は、その当時はショッキングだから、注目し、その後も覚えていたりますが、事件や事故は僕らが生きている社会に混在してるから、忘れちてはいけないんじゃないかと思うんです。起きた事は、無かった事にはできないんじゃないかと。起きたことをたまに思い出した方がいいと思うんです。その事件そのものは、非常に悲しい出来事です。被害者の方は、本当に辛い思いしていると思いますし、加害者が、許される訳でもありません。でも、僕達が生きてるこの社会には、常に存在していて、今後も起こる可能性があると、僕は思います。

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—–子どもの失踪事件や子どもが絡む事件は常に、世の中に大きな衝撃を与えていますが、この度、作品でこのようなケースを取り上げるのは、非常に難易度が高く、またナイーブで、センシティブな問題と私は思います。監督は、本作の制作を通して、何か得るものはございましたか?

坂本監督:今回、脚本家の木田紀生さんが、本作を観てくれたんです。すると、木田さんは「いわゆる、外側には様々な物語があるけど、その根底には、やはりシンプルに夫婦の感情があって、それを表に出すために、失踪や監禁事件が付随しているだけなんじゃないか」と、言って頂けたんです。そう言っていただけて嬉しかったです。 僕自身も夫婦の話を作る事。また、お話させて頂いたモヤモヤを形にする所から今回始まって、僕も結婚していますが、こうして作品を作りおえて、今後夫婦の関係性について作品を作っていきたいと思えるようになりました。「二人静か」を見て頂いた方々から妻には観て欲しくない。と、感想をもらっています。ご夫婦で観にこられた方は、東京では1組ぐらいでした。男性の方が、お一人で観に来られている印象が強いです。妻と一緒に観たくないと言われるということは、ご自身の夫婦関係について、語られていると感じたり、自分たち夫婦のことを考えるきっかけになっていたりすんじゃないかと思うんです。「二人静か」を作って、僕自身が得たものと言うよりは、夫婦に対しての感触や実感を持てたという思いがあります。「二人静か」を観ると、各々の夫婦にも当てはまることが、なにかあるんだと思います。関西では、ぜひご夫婦で映画を観に来てもらいたいです。

—–おそらく、夫婦の話だけでなく、自分たちの実際の家族で子どもがいなくなった時、たとえば、当事者であるなら、旦那さんはどう行動を取るのかとか、妻はどう行動をとるのかが想像できないから、一緒に観たくないと考える事もできますね。今ふと、数年前に制作された堤監督の映画『人魚の眠る家』を思い出しました。

坂本監督:実は、東野圭吾さんの小説を参考にしています。 映画は観ていませんが、本が出版される前に電車に「人魚の眠る家」の広告がでていて、これは参考になると直感し、直ぐにアマゾンで予約したのを覚えています。脚本の中野さんにも渡しました。僕らの制作が8年間もかかってしまっているので、「人魚の眠る家」の方が先に映画になってしまいましたが。

—–最後に、本作『二人静か』の今後の展望をお聞かせ頂けますか?

坂本監督:『二人静か』ですが、ぜひご夫婦で観に来て欲しいです。本作が出来上がってしまい、作品はもう、一人歩きしている状態なので、僕が言うのもなんなんですが、ちょっと、東京ではなかなかご夫婦で『二人静か』を観に来ていただけなかったので、ぜひご夫婦で、観に来てほしいと思っています。僕自身のことで言えば、夫婦のことを暫くやっていくんじゃないかと。「二人静か」を作ってみて、そのことに気づきました。しばらくの間、夫婦という関係性が、僕の映画作りのモチーフになると、今は思っています。また、8年後になっちゃうかもしれませんが。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

©坂本礼

映画『二人静か』は現在、1月13日(土)より大阪府の第七藝術劇場にて、上映中。また、2月9日(金)より京都府の出町座にて上映予定。兵庫県の元町映画館もまた、公開予定。京都府の出町座にて舞台挨拶とアフタートークが行われる予定。【舞台挨拶】2/9(金)、2/10(土)登壇:西山真来さん(本作主演)、坂本礼監督【アフタートーク】2/17(土)登壇:中野太さん(本作脚本)、坂本礼監督 2/18(日)登壇者:上村裕香さん(ゲスト/小説家)、中野太さん(本作脚本)、坂本礼監督