映画『レンタル×ファミリー』「根付かないで欲しいと願うもう一人の自分」阪本武仁監督インタビュー

映画『レンタル×ファミリー』「根付かないで欲しいと願うもう一人の自分」阪本武仁監督インタビュー

2023年6月25日

観る者の価値観を根底から揺るがす映画『レンタル×ファミリー』阪本武仁監督

©映画「レンタル×ファミリー」製作委員会

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—–映画『レンタル×ファミリー』の制作経緯を教えて頂きますか?

阪本監督:まず、石井裕一氏の著書「人間レンタル屋」を知ったところからスタートしています。

本を手にする前には、テレビのワイドショーにてレンタル・ファミリーの特集を放送していました。

そこで調べてみると、彼の書籍を知りました。この本は非常に面白いんですが、石井さんが表紙に出ている理由が分からなかったんです。

私は疑問に感じて、25家庭のご家族の父親代理をしらがらも、本の表紙に姿を出しているのが不思議に感じていました。

メディアに頻繁に出演する彼に興味が湧いたんです。

露出が高いにも関わらず、父親のレンタル業を並行で運営していました。

また石井さんは、ドイツを代表する映画監督ヴェルナー・ヘルツォークの最新作にも主演で出演しています。

石井さんの人間レンタル屋を映画化しているんです。

その作品は、ある年のカンヌ国際映画祭にて上映されていますが、日本での国内公開は未定です。

ヘルツォーク版の作品は、とても面白い作品でした。

様々な経緯を経て、一度石井さんに取材を申し込み、会いに行ったんです。

その時に感じた様々な疑問を投げて、彼から色々聞き出しました。

改めて、映画化したい気持ちが湧いてきたんです。

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—–やってること自体は、新しい試みかと思います。

阪本監督:昔の便利屋さんが移行して、今の人間レンタル屋さんに変化したのではと思っています。

石井さんの場合は、知り合いから頼まれて、父親の代理を頼まれたのがきっかけらしいです。

それが始まりとなり、仕事が徐々に増えて行ったらしいんです。シングルマザーでは制約が多くあり、石井さんは母親たちの環境の理不尽さを感じて、助けになるならばと、会社を立ち上げたらしいんです。

石井さんは、困っている方の依頼があれば、極力引き受けたいと考えている方です。

彼氏代行、レンタル彼女なら、1回限りの関係性を演じればいいので、腑に落ちるところもあります。

ただ、家族になってずっと子どもを騙し続けていくサービスに、気持ちが引っかかるんです。

それって、果たして、良い事なのか、悪いことなのかと感じ始めたところから、石井さんにお話を聞き始めました。

サービスとして父親代理をしない会社も確かにありますが、石井さんはお客さんが困っているのであれば、父親代行も引き受けるスタンスです。

石井さんと同じようなシステムの会社もあれば、代行として父親を演じていると最初に打ち明ける会社もあります。

父親の代わりはしますが、本当の親ではないと説明する方針を立てている会社もあります。

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—–正直なところ、家族を借りる行為に対して、少し気構えてしまう一面もありますが、このタイトル「レンタル×ファミリー」が示す意味とは、一体何でしょうか?

阪本監督:実は、この言葉は昔から使われています。

昔からある単語で、これが一番サービスを表現する言葉だと思っていますので、今回の作品のタイトルとして採用したんです。

「レンタル家族」か「レンタルファミリー」かのどちらかで悩みましたが、皆で相談して最終的に今の「レンタル×ファミリー」に落ち着きました。

既に、石井さんらの業界では皆さん普通に使っています。

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—–実際にレンタルサービス業を営む石井さんの著書「人間レンタル屋」が基になっていますが、この本を読まれて、監督ご自身の中でレンタル屋への理解は、深まりましたか?

阪本監督:もちろん、深まりました。

すごく変わった依頼がたくさんあり、嘘やろと思うような案件がいっぱいあります。

石井さんがそれを一生懸命応えているんです。

彼はただただ一生懸命、お客さんの要望に応えています。

困っている人のために、何とかしてあげたい人で、頼まれたら法に触れない限り、危険な目に遭わない限り、だいたい何でも応えてあげたい人なので、一生懸命取り組んでいる姿が書籍に書かれています。

私たちには、到底体験できない事を、彼は経験しています。

ただ、それと同じぐらい違和感もあります。

石井さんには直接、私が感じた事をお聞きすると、彼もまた同じことを思っているんですよね。

世の中からレンタル・ファミリーというサービスや依頼が、なくなって欲しいと思いながら、仕事している部分もあると、石井さんは言っています。

減って欲しいと思いながら、仕事の依頼は常に多くある状態で、依頼者は増え続けているのが、今の状態です。

石井さんは、この環境に対して一生懸命対応している状態です。

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—–取材をしながら、作品を制作しながら、監督自身が感じたことを、この映画に盛り込めたと思えますか?

阪本監督:それは、盛り込めたと思っております。

このサービスを通じて、救われている人々の姿を光の部分として描いてはいますが、闇深い所もたくさんある事も表現していると思うんです。

石井さんからお聞きした話を、そのまま描いてはいます。

彼を美化する撮り方や擁護する姿勢を取らず、尚且つ私が見て、疑問に残る所すべて、描けるようには石井さんと打ち合わせして、了承を得ています。

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—–本作の演出の特徴は、セミドキュメンタリーが持ち味ですが、この映画において今回の演出を選んだ事によって、作品に生まれる化学反応をどう受け止めておられますか?

阪本監督:生々しさを如何に映像に出せるのかを試すために、今回の撮影手法を選びました。

特に、エピソード2の物語の中盤では、セミドキュメンタリー風の手法で撮影を行いました。

その撮影をした事によって、想像する空間が増えるのではないかと思って、撮影に挑みました。

その雰囲気を出したいがために、石井さんにディレクター役としてカメラを回してもらうアプローチも作中でしています。

極力、ノンフィクションを撮るような手法でフィクションを撮るアプローチで制作しました。

作品の化学反応としては、お芝居だと、どうしても演じてる風が出てしまいますが、劇映画だと作り物のような雰囲気が出てしまうのは逆効果だと思いました。

それを極力無くすために、ドキュメンタリーっぽいアプローチをしています。

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—–私自身、本作を観て思う事は、人の孤独を埋める事そのものが人の存在なんです。人と人との関係が大切だと、改めて、思わされました。人の孤独を埋める行為が、今のこの時代に必要とされている時なのか、監督は人々に与える孤独について、どう考えていますか?

阪本監督:家族の話に関して言えば、特に核家族化が東京や都市部で進んでいる背景が、大きいと思います。

地方には、祖父祖母も一緒に暮らし、皆で食卓を囲む風景がまだあると思いますが、東京や都市部ではシングルマザーも多く、親を頼れない方も多く存在します。

そんな方々の孤独を何で埋めるのかと言えば、石井さんのこのサービスがスポッとはまっていると思うんです。

でも、私自身はこのサービスが長期でなければ、効果的だと思いますが、それよりももっと別の方法があるような気がします。

実際、この『レンタル×ファミリー』の映画の中で描いているようなコミュニティでもいいんです。

人と人との繋がりは、自分たちで求めれば、そこには必ずあります。

でも、周囲との繋がりや人と人との関係性が気薄になっているから、孤独になりつつある思いますが、これを解消する方法もたくさんあると信じていながら、映画を作っています。

依頼者さんからお話をお聞きすると、縋る場所が人間レンタル屋しかないと言われるんです。

少し視野を広げれば、いくらでもコミュニティはあるのにと、思ったりもしています。

働かないといけない、子育てしなといけない、時間もない中、切羽詰まりながら、他の事も考えられないとなれば、どんどん孤立を深める気がします。

そんな時は、色んな方々に相談して欲しいですね。

見栄を張る必要もない気がします。

無理しなくてもいいので、もっと楽に過ごせれば、孤独も減って行くのでは?と思いながら、取り組んだ一面もあります。

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—–一昔前は、貸本屋や貸レコード屋、今ならレンタルビデオ屋、レンタルDVD屋と言われ、物がレンタルされる時代と思うんですが、現在は「レンタルなんもしない人」や「プロ奢ラレヤー」が突如、現れました、少し昔から現在の流れで言えば、社会の価値観が変わり、何かを借りる行為が物かyoら人へ進化している様にも感じます。この時代背景の中、移り変わる変化について、監督はどうお考えでしょうか?

阪本監督:今後、また変化は起きて来ます。

物から人に変わり、人から何かに移行されると思うんです。

10年後、今のサービスが存在するのか疑問です。

多分、別の進化を遂げて、違うサービスが生まれている時代が訪れるかも知れないですよね。

それが何なのかは、未来の話なので、何もお答えできませんが、ただ必ず進化はしていると言いきれます。

別の業態が、生まれているだろうと思います。

家族レンタルサービスはこのまま更に大きく進化している可能性もあると、考えられますね。

全然違う何かが、求められている世界が来るかも知れないですね。

ただ10年前、今のように流行するとは、誰も予想できなかったと思うんです。

石井さんでさえも、今を予想していなかったと言っています。

—–たった10年で時代は、こんなにも変化するんですね。これからの10年が、どうなるのか楽しみですね。

阪本監督:どうなって行くのか分かりませんが、AIが取って代わる時代になっているのか。

人の寂しさや孤独を埋めるのが、ロボットや人工知能になる時が来ているかも知れないですよね。

もしくは、石井さんのような方々が、人々の心の隙間を埋めている可能性もありますよね。

私が、常々思っているのはシングルマザーのために父親代わりが欲しいと言う方々がいて、生活も困っているのであれば、もっと自治体や行政が介入する必要もあると感じています。

イギリスには、ナニー制度(※1)と言うシステムがあるんです。

これは、子どもの育児を助けてくれるようなベビーシッターに近い制度があります。

ただ、ナニーとは女性ですが、実はマニー制度(※2)というのも存在します。

映画でも、マニーを扱った作品もあります。

お父さんの代わりに、住み込みで子どもの保育を担うシステムを、国が全力を上げてシングルマザーを助ける制度があったりすると、もっと環境が変わってくると思うんです。

マニーとは、まさにレンタル父親の制度サービスみたいな感じです。

—–もっと国側が、整備する必要もありますね。

阪本監督:行政が、もっと介入してもいいのでは?と、思う事もあります。

助けてあげて欲しいと、願わざるを得ないんです。

でも、人間レンタル屋を依頼して、父親を長期で借りると、子どもの心を傷付ける可能性もありますよね。

このサービスは、いい面と悪い面の両面があると、思います。

ただ、法でしっかり整備されて行けば、本当の父親では無いというルール作りがあれば、いいのではと思う時もあります。

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—–株式会社ファミリー・ロマンスを運営する公式ホームページ内の石井さんのインタビューにおいて、「レンタル夫は、一度のサービスで4時間。その時間が経てば、帰る。そんな私を縋る子どもが大泣する一連の流れがある。」と話しますが、ある種、これはお金で夢を売買している様にも捉えることができてしまいます。根本的な問題を解決していない様にも感じますが、監督はこの件については、どうお考えでしょうか?

阪本監督:私自身も残酷に思ってしまう部分もまた、確かにあります。

ただ、石井さんはオーダーが入れば、その注文通りに演じているだけなんです。

そのようなスタンスで取り組んでおられますが、依頼者がいれば、その方の支持の通りに動いているだけだと思います。

仕事に関して言えば、その注文や設定に徹しておられるだけです。

石井さんは、依頼者さん側に気づいて欲しいと話しています。

彼本人も、どうしたら問題が解決するのか考えながら、取り組んでいるとホームページにも書いています。

どのようにすれば、依頼者の自立に繋がるのか考えながら、一つ一つの案件を大切にしているとお話されました。

本来は、父親のレンタルを頼まなくてもいいような社会作りが、急務です。

家族だけで時間を過ごすのが、一番理想の形ではありますが、このサービスを頼ってしまうと、本当のお父さんだよと言ってしまうと、ずっと頼ってしまう必要もあると思います。

このサービスの闇だと思いうんです。

依頼するのであれば、もっと良く考えて依頼して欲しいと、私は言いたいです。

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—–プレス内の監督のコメントで、「私自身、理解できますが、賛否両論ある中、救われている人がいるのも事実。誠意を込めて取り組んでいる石井さん。」でも、近い将来、人間をレンタルする社会が、どのように根付くと考えていますか?

阪本監督:石井さんのお話を聞くと、都心では既に根付いていて、利用者も多いと聞きます。

当たり前のように皆さん、利用しているんです。

そんな環境が、当たり前になって来ています。

私の周りには、人間レンタル屋のユーザーはいませんが、それがここから先、ますます増えて来ると予測しています。

逆に、根付かないで欲しいと願うもう一人の自分もいたりします。

—–最後に、本作『レンタル×ファミリー』が今後、どのような道を歩んで欲しいとか、作品に対する目標がございますか?

阪本監督:色々な方々に観て欲しいと、思うんです。

特に、お子さんを持っていらっしゃるシングルマザーの方には、観て頂きたいと思っています。

あと、代行に関わったスタッフの方々にも、観て頂ければと願っています。

子どもがおられる若い親世代の方々にも、観て頂ければと。

ただただ、利用するのであれば、良く考えて、依頼して欲しいと思います。

多くの方々に観て頂きたいので、今後も上映活動は頑張って行きたいです。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『レンタル×ファミリー』は現在、関西では6月23日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田、京都府のアップリンク京都にて、上映中。また、全国の劇場にて順次、公開予定。

(※1)「ベビーシッター」と「ナニー」の違いについて詳しく紹介します!https://www.brush-up.jp/guide/sc36/difference(2023年6月24日)

(※2)Rise of the ‘Manny’ – Meet the Men Making Waves in the Childcare Industryhttps://www.korukids.co.uk/blog/after-school/rise-of-the-manny(2023年6月24日)