映画『家族の肖像』「親は、非常に有難い存在」撮影部・照明部の太田智樹さんインタビュー

映画『家族の肖像』「親は、非常に有難い存在」撮影部・照明部の太田智樹さんインタビュー

2023年5月3日

再度、親子の重要性を考える映画『家族の肖像』太田智樹撮影部・照明部インタビュー

—–簡略で構いませんが、まずこの業界に入ったきっかけは、何でしょうか?

太田さん:小さい頃から、映画が好きだったからです。

子どもの時に、父親によく映画館に連れて行ってもらい、その経験が大きく影響していると思います。

何かしら、映画に関する仕事をしようと思っていまして、最終目標として監督を目指していました。

映像系の高校を卒業後、ビジュアルアーツ専門学校・大阪(※1)に進学しました。

最終的には、テレビ関係の会社にと就職しました。

僕らの時代は、映画関係の仕事はほとんどなく、代わりにテレビ関係の制作会社へと入社しました。

その会社は業界では珍しく、制作と技術が両方あったんです。

基本、制作部に入りたくても、その部署に入れるのは大学卒業者のみでした。

結果的には技術の部署に応募して、入社を決めました。

その後、その会社を辞め、映像しかずっと続けて来なかった事もあり、衛星放送関連の職に就きました。

衛星放送の仕事は、製作業務ではありませんでした。

しかし、映画制作には携わりたかったので時を同じくして、仕事の傍ら自主映画の現場で撮影部や照明部として活動を始めました。

—–関西のインディペンデント界隈でのご活動は、長いのでしょうか?

太田さん:20年以上だと思いますが、関西のインディペンデント界隈に籍を置いています。

お陰様で、沢山のご縁に恵まれているなと、感じています。

実は、小さな頃から兄と一緒に独自で映画を作っていました。

—–まさに、映画『フェイブルマンズ』や映画『エンドロールのつづき』また映画『Single8』のような世界観を彷彿させますね

太田さん:その時に作った映像も、探せば残っているかもしれないですね。

機会があれば、またお見せしたいと思います。

—–この話の流れから、本作の岸本監督とは、学生時代からのご関係とお聞きしていますが、監督とカメラマンには深い親和性があると思っています。それは、作品が産み出されるまでのお二人の関係は製作において大きく影響していると思いますか?

太田さん:岸本監督は、感覚的なので、彼女の言葉を聞いて感性を掬い取って行く作業が必要なんです。

映画は、監督によって色が変わると思いますので、一つの画角にしても、どのような見せ方をするのか、また監督がどうしたいのかという考えを常に探って行きます。

監督の理想とする映像や演出を導き出すためには、自分が持っている作品のイメージと監督が生み出そうとしている映像が一緒なのか、違うのか、確認する必要があります。

ただ、岸本監督の場合は、お互いの思うポイントが一致する事が多いんです。

それは、学生の頃から一緒に映画を作っているからなのか、お互いが持っている感性が似ているからなのか分かりません。

—–お二人の長年組んでいる関係性が、作品にも出ていると思います。撮影部と照明部として作品に参加すると決まった段階で、本作のシナリオを受け取られますが、この物語から最初に受けた印象を教えて頂きますか?

太田さん:非常に岸本さんらしい作品でした。

社会問題を提起する部分もある物語で、孤独死など、人の死や死んで死別した人の気持ちを取り扱っています。

彼女が、こだわっている題材なのだと感じています。

カメラマンとして、監督の想いをどれだけ映像化できるかが肝です。

僕の考えとしては、もっと監督が撮り方や見え方まで決める方がいいと思っています。

取捨選択は監督の役目ですが、そこに至る過程では提案できる立場でありたいと、思っています。

—–それでは、岸本監督が「死」をテーマに作品を作り続ける目的は、なんでしょう?

太田さん:それは本人にしか分からない部分もあると思いますが、監督の人生の中で特に引っかかる「何か」があったんだと思います。

それを映画として発信しているのではないでしょうか。

—–死をテーマにする意図は、ある種、永遠のテーマなんですよね。人は、死と隣り合わせですよね。その表裏一体として、死の反対側には生きる、生があると思います。ここから現場の話ですが、監督と撮影部だけでなく、撮影と照明にもある種、親和性があると思いますが、本作では両部署を担当している太田さんですが、カメラだけに集中するのではなく、二つの作業を担う中、カメラと照明が持つ相互関係における重要性は何でしょうか?

太田さん:撮影する段階で、カメラと照明は切り離せない存在です。

光があるから、物が見えますよね。

すべて大切な部署ですが、その中でも撮影において、照明は最も重要なポジションの一つです。

カメラマンは、照明を自分で操作するか、専門の照明部さんと組むかなどし、関わる必要があると考えています。

—–撮影部と照明部は、合わせてワンセットのイメージが強いですね。また、本作の主人公は愛したい、愛されたいという愛情に囚われていますが、何かが解き放たれた瞬間が終盤の場面で見受けられます。太田さんはカメラのファインダーを通して、あの場面に対して何を感じ取ることができましたか?

太田さん:あの最後の最後ですよね。

彼は、親に愛されたいという感情があって、死んでしまった父親と心の中で対峙しています。

あの場面ではやはり、主人公自身、変化はあったんだと思うんです。

それは、カメラ越しに感じ取る事ができました。

それがうまく、映像として表現されていればと思います。

—–撮影部としてのカメラで表現する事も大切だと思いますが、その観点で考えれば、カメラで表現できたと思いますか?

太田さん:先程お話したように、照明をカメラでの表現の一部だと考えるならば、まだ劇場で観れていないので(インタビューを行ったのは、上映開始前でした)何とも言えないですが、僕はうまく行ったと思っています。

また監督にはあるカットでライティングを通して見せたい演出があり、僕にはそれを映像として表現したいという思いがありました。

—–作品の冒頭と終盤での照明の当て方が、主人公の心情を表現しているようにも受け取ることができましたが、今回は主人公のキャラクター設定によりフィットしたライティング作業を行いましたか?

太田さん:主人公の心情を照明で表現できているのであれば、非常に嬉しい事です。

監督と脚本が求めている映像を、忠実に作るのが僕たち撮影部や照明部の仕事です。

作品の理解を深めて行くと、物語が必要としている光の当たり方や量が、導き出されます。

それに沿って、組み立てていった結果が、映像に現れているんだと思います。

—–映像制作において、照明の重要性とは何か、教えて頂きますか?

太田さん:どんな物に対しても、光が当たってないと認識できないですよね。

同じ対象物であっても、光の当たり方によって、見え方は違ってきます。

顔の向き一つ変えるだけでも、表情と印象が違って見える事があります。

被写体自体の角度によるところもありますが、光の角度や当たり方によって、影の出方が違うことでも印象が変わってきます。

そのため、同じ能面であっても、表情が違って見えたりもします。

だからこそ、照明は重要なポジションを占めていると思います。

—–監督や役者だけでなく、もっと技術の世界も一般に広めたいと考えています。総合芸術だからこそ、色んな部署を知ってもいいと思っています。また、映画の世界を目指す最初のきっかけは、監督ですよね。自分も若い頃は、憧れでした。でも、映画は監督だけではなく、関係者皆さんの作品ですよね。

太田さん:僕が思うのは、制作部が、現場で一番重要なポジションなんです。

演出部、俳優部、撮影部、照明部と、部署は多岐に渡りますが、制作部(※2)の存在がとても重要です。

—–製作経験もあり、制作部に近い事もしましたが、正直嫌でした。車番も荷物番も。目の前に撮影現場があるのに、一人だけ機材を見張る役目は抵抗がありました。でも、それが一番、大切な事なんですよね。

太田さん:そうなんです。制作部の方がいなかったら、その現場はめちゃくちゃになると思います。

現場の関係者の食事を用意し買いに行くのも、基本は制作部の仕事です。

突然、必要になった小道具を走って買いに行くのも、大切な役割です。

挙げれば、キリがないですが、それをしてくれる方がいるからこそ、現場が成り立つんです。

—–縁の下の力持ちという言葉が、ピッタリですね。クランクイン前、クランクアップ後のアフターケアも制作部が担っていますが、まったく注目されていないのが、現状ですよね。

太田さん:そう、制作部は影の存在で、縁の下の力持ちなんです。

光の当たらない所で、撮影現場のいちスタッフとして、現場や作品を支えてくれているんです。

ただ、話題に上がらないのは残念です。

—–本作のテーマの一つでもある「親子像」「家族像」ですが、太田さんにとっての「親子像」「家族像」とは、なんでしょうか?

太田さん僕の家庭は皆、とても仲が良いです。

『家族の肖像』のような家庭とは、違う環境で育っています。

そういう点では、主人公に共感できる部分は、少ないかもしれないです。

死んでしまったお父さんの性格を含め、この夫婦の過去には一体、何があったのかと勘繰りたくもなります。

子どもも親もお互いに期待しすぎないという関係がいいと思っています。

—–家族であっても、他者ですね。

太田さん:そうですね。他者は他者だと思います。

DNAの事を考えたら、物理的に受け継いでいるのもあると思います。

子どもであっても、いち人間です。

親だって、いち人間です。

お互いに期待し過ぎないくらいで、ちょうどいいのではないでしょうか。

色々な家族の形態があると思います。

僕にとって親は、非常に有難い存在です。

—–最後に、本作『家族の肖像』の魅力を教えて頂きますか?

太田さん:コロナ禍前の2019年の秋口に撮影が始まり、やっとお披露目という日を迎えました。

この時感じた監督の想い、僕の想いは、映画に込められていると思います。

岸本監督が伝えたかった事に対して、少しは貢献できていれば嬉しいです。

境遇や立場は様々だと思いますが、どんな人にも感じてもらえる部分があると思います。

親子、友達、恋人と、ぜひ映画をご覧になって語り合って頂けたらと、思います。

—–貴重なお話、ありがとうございます。

映画『家族の肖像』は現在、関西では4月22日(土)より大阪府のシアターセブンにて、5月5日(金)まで上映中。

(※1)ビジュアルアーツ専門学校・大阪https://www.visual-arts-osaka.ac.jp/(2023年4月29日)

(※2)制作部の仕事から本質を学ぼう【映画・ドラマ】https://tmbox.jp/2020/06/09/seisaku/(2023年5月1日)