不条理な世の中に挑発し続けるパンク映画『GOLDFISH』藤沼伸一監督インタビュー
—–簡略的で構いませんが、映画『GOLDFISH』の製作経緯を教えて頂きますか?
藤沼監督:俺たちロックバンド「アナーキー(亜無亜危異)」は、1980年にデビュー。
ちょうど、俺が20歳の時でした。デビュー後は、様々なトラブルや困難な出来事を乗り越えて、今に至るんだ。
バンドの長い歴史の中では、途中活動休止にも陥った時期もあったよ。
ある時、バンドメンバーで再結成したんだよね。
ただ、その数ヶ月前に、逸見泰成ことマリが亡くなったんだ。
再結成イベントに穴を空けるのは嫌なので、残ったオリジナルメンバーでステージに立ったんだよね。
マリが亡くなった後も、残った4人で「亜無亜危異」として活動してたんだ。
そんな時、デビュー当時、スタッフとして手伝ってくれていた方が今、映画のプロデューサーをしているんだ。
そいつが、俺のところに来て、自分のバントをモチーフにして、映像化しないかと提案を受けて、俺は承諾した。
そのプロデューサーは、俺が映画が好きな事を知っていて、声を掛けてくれたんだと思う。
元々、俺は音楽よりも先に、映画が好きになったんだ。
俺は、一人っ子で、映画館ばっかりに足を運んで。
他のやつと遊ぶのは、あまり好きじゃなかったから、一人で映画館に行って、知らない世界をたくさん垣間見て、映画を観る事に時間を費やすのが、すごく好きだった子供時代だったんだ。
その後、ギタリストとしてバンド結成しましたが、映画の方がもっと先。
プロデューサーが、それを知っていたようで、俺を映画監督として白羽の矢を立ててくれた。
—–初めての事に対して、少し不安はなかったですか?
藤沼監督:まったく無かったですね。その時で既に、60歳手前。
だから、年齢も重ねていたので、そんな不安なんて、どうでもよく思ってしまうもんだよ。
何でも来いって、感じだよね。
面白い事は、どんどんやってみた方がいいなって感じだ。
悩んでいるより、なんでもトライする方が面白いんだよ。
毎回、俺は興味がある事に対しては、失敗しそうだけど、失敗するのが意外と好きなんだよね。
失敗そのものが、経験なんだよ。
ずっと失敗しないままだったら、あるモノが手に入らなかったりすると思わない?
一度、失敗する事で、過ちに気付いたら、別の方法で再度、トライしてみようって思えるでしょ?
何度もトライする事によって、欲しいものがだんだん近づく感覚になると思うんだよね。
—–行動して、失敗して、手に入れることができるんですね。
藤沼監督:失敗した結果、新しい方法でトライするだけなんだよね。
だから、映画も別に失敗しても、構わないって思えて来るんです。
それでも、監督として作品を作る以上、いい映画を作って、皆さんにお届けしたい気持ちは、ありました。
—–タイトル『GOLDFISH』には、そのまま「金魚」の意味がありますよね。他にも、多くのアーティストが体験する「死の波」を呼ぶ金魚のようなものと、公式ホームページにて説明していますが、この金魚には、作中のバンドマンだけでなく、そして「GOLDFISH」そのものがロックバンドの象徴だと、思っています。この「GOLDFISH(金魚)」に対して、藤沼監督はどんな意図を持って、この題名にされましたか?
藤沼監督:タイトルは、「金魚」か、「GOLDFISH」かの二択でした。その考えを基に、脚本家に話を投げました。
ベースは、俺が過去にロッカーとしてやって来た俺のバンドの物語ですが、少し脚色も入れつつ、ストーリーを完成させました。
「金魚」とは、観賞用だけに作られた魚なんです。
食用ではなく、ただ見られるためだけに改良された種類です。
だから、色を変えられたり、目が飛び出したり、いわゆる奇形の魚が、金魚です。
それを皆で鑑賞する事が、実はエンタメに近い事では無いかと、俺は思うんです。
歌手で言えば、アイドルもそうですよね。
アイドルは、アイドルの生き方をしている訳ですよね。
例えば、恋愛禁止であったり、誹謗中傷を受けても、ちゃんとした意見がいない立場でもあると思う。
アイドルは、そういう枠として活動してるんだよね。
でも、それを管理している人間が、どこかに居るんだよね。自分で金魚になった訳ではなく、それを管理してたり、支配してたりする裏の人物が、この日本の社会のどこにいると、俺は前から考えているんだ。
先日、映画を観た時、劇中のセリフで、(※1)「古代ローマから愚民を支配するには、パンと娯楽を与えて、教育は管理し、医療を支配側の手の内に入れるだけで、人は簡単に管理できてしまう」という言葉を目にしたんだ。
人の支配とは、古代ローマからずっとしてきた歴史上の事実として、受け入れる必要があると思うんだよね。
いわゆる、目には見えない支配者が必ず、どこかに居るんだ。
その中の「娯楽」と「金魚」をリンクさせて、俺たちは金魚のように監視されて来た過去があるのでは無いかと。
—–アイドルの世界のように、ロックバンドの世界にも「金魚」のような作られた、鑑賞されている世界が存在しているのですね。
藤沼監督:気付かない内に、俺たちは監視され、支配されているんだよね。
魚屋さんや八百屋さんは、金魚鉢の中に居ないと思う。
だから、彼らは少し違う世界にはいるんだけど、金魚鉢の外から観ている側なんだよね。
それは、お笑いの世界も同じような気がするんだ。
皆で外側から見ているんだよ。
見られなくなったら、それはそれでダメ。
その残酷さや苦悩、苦痛は多分、あるんだと思う。
バッチリ、ロジカルに言える明確な事ではなく、なんとなくボンヤリしたモノではあるけどね。
その部分を映画を通して、表現したいと思ってたんだよね。
だから、映画の題名を「GOLDFISH」にしたいと、脚本家と話し合ったんだ。
脚本家の方も、「それは、面白い」と、興味を持たれたんです。ただ、作中には一人の女の子が登場するんですが、俺自身は男の子しか子どもは居ないんだけど、物語の設定では子どもを10代の女の子にして、作品の世界観を「金魚鉢」だと、感じている子が登場人物に一人居ると、非常に面白い。
客観的に見る人間だよね。
お父さん達よりも、一枚、二枚上手の子どもを物語に配置する事で、父親たちの世界を「金魚鉢」として捉えている人物にしたんだ。
神社にいる巫女さんは、昔は霊や神様が見えていた方たち。
だから、娘の名前を「巫女」から「ニコ」に変更して、ある種、それを言語せずに表現しようと、主人公の娘役にすれば、面白いと思ったから、あの子が空を見上げた瞬間、水の中に存在する世界として分かってもらえるように、空が揺れているカットを入れたんだよ。
あの子だけが、父親のいる世界が、「金魚鉢」の中である事が、分かっているニュアンスを映像に入れてみたんだ。
—–私達は皆、「金魚」という存在なんですね。
藤沼監督:この世界には、金魚もいれば、鮒もいて、稚魚もいる。
そういう世界観を作品で表現できればいいなと、思っている。
結局、みんな、管理されているんだよと、皆に感じて欲しいんだよね。
そのような世界が見えて来たら面白いと、考えたんだ。
—–私達自身も金魚であり、またそれを観察する外側の存在でもあるんですね。この世界そのものが、「水槽」で、私達はその中にいる存在なんですね。
藤沼監督:そうですね。金魚にもなり得るし、また水槽という風にも見えますね。それを映画で表現できればと、作ってみたんだよ。
—–本作には、「中年の危機」と言われる(※2)「ミッドライフクライシス」の要素を入れつつ、ある一定の年齢を越えた人物の悩みや葛藤を描かれていますが、その悩みは性質が違えど、年齢によって悩み自体は人それぞれ持っていると思いますが、監督自身、経験として自身の中に持っている悩みを、作品に投影できたと思いますか?
藤沼監督:結局、俺らは管理されてるんだよね。
そういう事が、リアルに感じられるようになっちゃったんだよ。
それを感じたのは、311の東日本大震災の時。
あの日からのメディアの対応がおかしいとか、なぜ福島の原発の管理がイスラエルの会社なんだろうかと調べ始めたら、俺自身、知らなかった事実がたくさんある事に気付かされたんだよね。
では、なぜ、お金は誰が刷っているのだろうか?と思った時、通貨発行権を独占している企業があるんだ。
こういう事が起きている裏側を調べ始めたら、社会の事実を知らされずに生きてきた事に気づかされた。
—–本作は、パンクやロックにすべてを捧げたと言っても良いほど、ロックミュージックに精通した作品だと感じましたが、同業のロッカーやロックファンには、この作品をどう受け取って欲しいなど、ございますか?
藤沼監督:ただのロックの物語では無いと言う事だよね。
「ロック」というカテゴリーはあるが、その前に人間であったり、誰かの子どもであったり、母親がいて、父親がいる。
まず、そこが原点。
そこから、ロック好きとなって、その世界に嵌って行きますが、その前は普通の子どもだよね。
それが、大人になった訳だから。
その点をじっくり、観てくれたら嬉しい。
「ロック」だけなら、それだけのカテゴライズになって、枠組みされているだけなんですよね。
—–その枠を飛び越えて…。
藤沼監督:「ロック」を越えて、まず人間。
そうすると、案外、視野を広げて観ることもできるよね。
これから、どうやって生きていくのか。
悩みは、みんな持っているので、逆に悩まない人はいない。
一度、悩みが過ぎ去れば、また新しい悩みが来るよね。
悩むという行為は、ある種、人生の問題を解決しようとしているんだと思うんだ。
だから、人は悩むのであって、それが解決できないから悩んで、解決法をちゃんと考えればいいと。
—–40年以上、アナーキー(亜無亜危異)のとしてギタリストとして、ご活躍されておられますが、この40年の間に、日本のロックやパンクシーンには、大きな変動はございましたか?また、その変化があるとするなら、作品に反映できたと思いますか?
藤沼監督:音楽の変化は、もしかしたら、変化に対応できないメンバーを見せてもいいのかもしれないと。
色々、音楽のジャンルは世に出て来たね。
20歳から40年間活動して、その間にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズとか、凄いバンドが急に登場したり、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか、かっこいいバンドが数多く誕生したんだよね。
俺はあのようなバンドに反応して、すごい事やろうとした。
ただ、それに対応できない方もいるね。
「昔の音楽、いいよね」って言う人は結局、保守的過ぎて、正直、自分は苦手な部類。
今の音楽に馴染めないから、昔や昭和の音楽は良かったよねって言っているおじさん達がいるよね?
俺は、あんまり好きじゃないんだ。
なぜ、今の音楽を聞かないんだろうね?なんで、新しい音楽を受け入れられ無いんだろう。
でも、スマホも持っているから、色々調べる事も必要だよ。
—–完成した作品を鑑賞して、藤沼監督から見て、どう映りましたか?何か感じた事は、ありましたか?
藤沼監督:作品を観て感じたのは、まず自分の人生としては観ていない。
俺の言いたかった金魚のことや、ニコの視線はどうだろうかとか、作品の全体を通して、面白いかどうかを気にしていたんだ。
実は、ミヒャエル・ハネケやラース・フォン・トリアーとか、観客にすべてを委ねる作り方をする映画監督の作品が好きなんだ。
個人的にも、すべてが朧気で、ハッキリしない作品が好きなんだよね。
—–両監督、不条理な作品が多いですよね。
藤沼監督:そういう作風が、個人的には好きなんだよね。
だから、彼らが持っている作品のエッセンスやテイストを、物語の所々には入れたつもり。
音楽も入れずに、淡々と見せていく撮り方は、ミヒャエル・ハネケなんだよね。
それでも、誰が見ても楽しめるエンターテインメントにしようと、心掛けたのは事実だ。
t—–ハネケやトリアーをモチーフにしているとは、全然気付きませんでした。最後に、本作『GOLDFISH』の魅力を教えて頂けますか?
藤沼監督:俺が、自分で観ても、凄い映画かどうか、分からない所があるんだよね。
自分的には、面白いんだが、音楽はステージ上でプレイするので、ある程度、自分のモノではあるよね。
でも、映画は世に出してしまうと、ある意味、観客の作品になってしまうんだよね。
観客が、好きに観てくれれば。
ヒロユキみたいに、「それって、あなたの感想ですよね」で、いいんだよね。
個人的には、自信作。
皆さん、好きに感想を言ってもらえれば、嬉しいな。
—–貴重なお話、ありがとうございました。
映画『GOLDFISH』は現在、関西では3月31日(金)より大阪府のシネマート心斎橋。京都府の京都シネマにて絶賛上映中。また、京都府の京都みなみ会館、兵庫県の元町映画館は近日公開予定。全国の劇場にて、順次公開予定。
(※1)パンと見せ物/パンとサーカスhttps://www.y-history.net/appendix/wh013-040.html(2023年4月1日)
(※2)大人が迎える第二の思春期”ミッドライフクライシス”とは【臨床心理士が解説】https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a38994826/mental-health-20220209/(2023年4月1日)