幸せと希望で溢れた映画『エンドロールのつづき』
映画産業が、斜陽産業と呼ばれ続けて、早60年が経過した。
ヒットする作品はヒットするし、ヒットしない作品はヒットしない。
という結果が、常に顕著として表れているのは事実だ。
それでも、映画には、説明ができないほどの不思議な魅力が詰まっている。
それは、一定数のファンなら、誰しもが抱いた感覚だろう。
なぜ、これほどまでに、人を惹き付ける力があるのか?
なぜ、人は、銀幕という幻想的な漂いに誘引されるのか?
それは、誰にも説明できない。
それぐらい、映画には不思議な力が潜在している。
暗い空間で、見ず知らずの人達と、映画の上映を通して、紡がれる貴重な時間体験は、何ものにも変え難いプライスレスな存在だ。
そんな(※1)映画を、なぜ人は観たがるのか?という疑問を、このサイトがユニークに紹介している。
なぜ、人は映画館に足を運びたくなるのか?
遠方から、交通費を払い、寒い日も、雨の日も、雪の日でも関係なく、劇場に訪れる理由は、なぜだろうか?
配信があり、レンタルがあり、テレビがある非常に便利な時代でも、映画館は今でも存在し続ける。
日本国内にも数多くの映画館が、苦しい経営難に直面しながらも、今日も営業を続けるのは、あなた達映画ファンが、いるからだ。
映画愛に溢れたファン達の力が、劇場存続に非常に強く働きかけている。
この「映画」という魔力に魅了され、多くの映画少年を産んでいる。
本作『エンドロールのつづき』もまた、そんな不思議な力に引き寄せられるかのように、一人の少年がその形容しがたい神秘的な映画文化や映像製作に心を奪われるまでを描いた作品だ。
巨大なスクリーンに圧倒された男の子が、仲間を集い、映像製作にと邁進する姿は、一度は映画を作る現場を体験した人には非常に共感性が高いだろう。
子どもたちが映画を作る物語は、本作以外にも邦画の『(※2)夏休みの巨匠』『(※3)ラストサマーウォーズ』や洋画の『(※4)リトル・ランボーズ』スピルバーグの最新作『フェイブルマンズ』でも描かれている。
ひと夏の、初めての映像製作の体験を通して描かれる子供達の成長は、その時にしか体得し得ない貴重な出来事だ。
この経験をした者にしか手に出来ない心の成長は、生涯における一生の宝になるだろう。
本作は、パン・ナリン監督の実体験が、基となっていると言われているが、監督自身も実際に子どもの頃はチャイ売りの少年だったと言う。
貧困の環境から、独学で映像製作を学んだ彼は、1991年に短編映画で監督デビューしている。
長編映画は、2001年の映画『SAMSARA(愛の曼荼羅)』が処女作で、この作品は日本国内でも過去に紹介されているが、本作がおよそ20年ぶりの国内上映だ。
この期間に、プロデュース作品、ドキュメンタリー、短編を含めて、8本ほど製作しているが、日本ではほぼ縁のなかった状態だったのかもしれない。
そんなパン・ナリン監督は、インタビューにて、
「すべての映画製作者は自分の映画に自信を持っています。オスカーには、140本の映画がエントリーします。その中からオスカー委員会が、15 本の映画を選びます。15作品のうち、5作品がノミネートされます。だから、ノミネートされただけでも、オスカーを獲った気分になります。現在、私たちの映画には大きな人気俳優、巨大スタジオがないため、メディアで私たちの映画について話している人が少ないのが、現状です。実際には、多くの有名な批評家、ライターが6か月前から議論してくれています。ハリウッドで知られている(※6)GOLDMINE TELEFILMSのおかげで、本作を配給し、公開する予定です。ただ過去100年間、インド映画はオスカーを受賞できていません。だからこそ、この件に関しては、非常にナイーブな一面を持っています。それでも、過去にデンマーク映画でオスカーを獲得していますので、私たちの配給会社も同じです。この映画は、オスカーを99.99%の確率で獲得することになるでしょう。」と、ナリン監督は話す。
監督が話すように99.99%の確率で受賞するかは、別問題だ。
それでも、ここ近年、アジア映画の勢いは止まることを知らない。
この潮流は作ったのは、2019年に公開された韓国映画『パラサイト 半地下の家族』だろう。
翌年の2020年開催の第92回アカデミー賞での快挙が、大きく影響している。
更に、昨年2022年第94回アカデミー賞では、日本映画『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を受賞している。
今まさに、アジア勢が世界から注目を受けている。
不遇の時代が、終わろうとしている。
そして、今年2023年は、本作『エンドロールのつづき』がインド代表として国際長編映画賞にノミネートされただけでなく(残念ながら、選出は漏れてしまうものの、年間2000本近く製作されるインド映画から代表としてノミネートされただけでも、快挙に近い)、映画『RRR』の劇中曲「Naatu Naatu」が、歌曲賞にノミネートされた。
また、今年最も本命に近いと言われ、作品賞他でノミネートを受けている映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もまた、アジア系の監督(うち一人は白人)やミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァンと言ったアジア人が携わる作品が、今非常に注目を浴びている。
先日、行われたゴールデングローブ賞授賞式での、(※7)キー・ホイ・クァンの助演男優賞受賞に際してのスピーチは、非常に感動的だった。
アメリカでのアジア人へのヘイトが問題視されているにも関わらず、アジア人、アジア映画が非常に熱い。
このムーブメントが、未来永劫続く事を同じアジア人として願うばかりだ。
最後に、本作『エンドロールのつづき』は、一人の少年が、映画の魅力に魅了され、映画監督になるまでのほんの少しの人生(少年期のみ)を描いた物語だ。
ただ、これはサマイ少年の物語でもあるが、映画好きなあなた一人一人の物語でもある。
エンドロールの「つづき」には一体、どんなストーリーが展開されるのか?
皆さんで一緒に想像し、考えて欲しい。
その「つづき」は、まだまだ白紙の状態だ。
劇場の席を立ち、シアターから一歩外に出た瞬間から、この「つづき」は語られる。
白紙だからこそ、誰もが思い描く未来を創造することができる。
日本の映画産業は傾きつつある昨今(日本に限らず、世界的に斜陽産業でもある)、衰退するのも、興隆するのも、私たちの手にかかっている。
「エンドロールのつづき」が観たいなら、100年先に継承するために、今何をする必要があるのか、共に一考して行きたい。
映画『エンドロールのつづき』は現在、関西では1月20日(金)より大阪府の大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ。京都府のMOVIX京都。兵庫県のkino cinema 神戸国際にて上映中。また、3月17日(金)より和歌山県のジストシネマ和歌山にて公開予定。また、全国の劇場にて、順次公開予定。
(※1)【第9回】なぜ、人は映画を観たがるの!?http://hotozero.com/feature/kyodaitalk_9/(2023年1月28日)
(※2)映画『夏休みの巨匠』http://nokoeiga.com/(2023年1月28日)
(※3)映画『ラストサマーウォーズ』https://twitter.com/iruma_mov?t=AORH4rGkE1wv6JCybamiMQ&s=09(2023年1月28日)
(※4)映画『リトル・ランボーズ』http://rambows.jp/(2023年1月28日)
(※5)Pan Nalin Interview On Chhello Show: ‘लास्ट फिल्म शो’ मेरे बचपन से प्रेरित है, 100 प्रतिशत ऑस्कर जीतेगी’https://www.jagran.com/entertainment/bollywood-chhello-show-the-last-film-show-official-entry-for-oscars-2023-director-pan-nalin-said-100-percent-this-film-will-win-award-23087168.html(2023年1月30日)
(※6)GOLDMINE TELEFILMShttps://goldmines.co.in/#prettyPhoto
/8/(2023年1月30日)(※7)ゴールデングローブ賞2023|会場の涙を誘ったキー・ホイ・クァンの受賞スピーチhttps://www.esquire.com/jp/entertainment/celebrity/a42457690/80th-golden-globe-ke-huy-quan-emotional-acceptance-speech-2023/(2023年1月30日)