この社会の変化と私たちのこれからを描くドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』
人間も、動物も、遠いようで、近い生き物だ。
住処を追われれば皆、いとも簡単に路頭に迷う。
私達も、彼らも、居場所を奪われれば、本能的に次の居住地を求めて、街を彷徨う。
生ある限り、住む場所は必須条件で、居住する場所によって、生活や人生を左右する。
生き物は皆、心の安住を求めて、生涯を流転する。
それは、猫も同じだ。
猫たちも、自身の居場所を逐い求め、自ら人生を流浪する。
ドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』は、ソウルの江東区内に建設された、過去にはアジア最大と呼ばれる遁村(トゥンチョン)団地が舞台。
そこには、多くの住民たちに見守られながら暮らす250匹の猫たちが、居を構えていた。
建物の老朽化が原因で、団地の再開発が決まってしまう。
住民らの引越しや団地の取り壊し工事が進められる最中、猫たちが住処を追われる前に、彼らに新たな安住の地を与えるために、住民たちによる大掛かりな引越し作戦が始まろうとしていた。
人間と動物の共存は、永遠の課題だ。
1977年に国内で放送された「世界名作劇場」の第3作目に当たる(※1)アニメ作品『あらいぐまラスカル』でも、この「人間と動物の共存」がテーマとして、描かれている。
1963年に刊行したトーマス・スターリング・ノースが、自身が過ごした1910年代の幼少時代を書いた(※2)原作「はるかなるわがラスカル」でも、同じ主題が扱われている。
人間と動物、人間と自然の共存は、古くからある全人類にとっての宿題でもある。
技術や科学が進歩する中、両生物がどう折り合いをつけ、どう共生するのかを考える必要がある。
本作に登場する団地の住民たちの、動物たちに優しく寄り添う姿に心が和む反面、一部の人間が猫たちを邪険に扱う悲しい(※3)ニュースや(※4)報道は、後を絶たない。
本作の監督は、韓国映画の金字塔、映画『子猫をお願い』を製作したチョン・ジェウン監督だ。
韓国のインタビューで、韓国社会の変化における「猫」の存在価値や理由を問われ、監督はこう話す。
チョン監督:「韓国における過去の農耕社会では、ネズミを捕らえる猫たちは、貴重な存在として重宝されていました。時が流れ、1970~90年代の韓国が産業社会に突入すると、私たち人間が食べ残した食べ物を探る「泥棒猫」としての認識が、残念ながら強まりました。最近では、韓国の人々が綺麗なものを欲しがる欲望、持てない愛を渇望する欲を猫に被せるようになりました。長生きする猫は、人間の世話を受け、映画であるような状況に置かれながらも、昨今、猫と人の関係がとても密接になっているんです。だから、長く生きている猫に対して、もっと理解しようと歩み寄る必要があります。人々に依存する猫という動物とは、どのように関係を結べば良いのか。今後、韓国社会(韓国だけに留まらず)は、長寿猫から始まり、都市内部の自然、他の動物たちに関する話で議論を拡張して行く必要性を感じて欲しいです。」とチェ監督もまた、人間と動物の共存の問題に積極的に意見を述べている。
最後に、建物の老朽化で住まいを追い出される猫たちの姿を見ていると、ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』で描かれた東京オリンピックの開催で居住するアパートを退去せざるを得なくなった住民たちを思い出す。
本作は、この作品の縮図のようなものでもある。
政府や人間の身勝手さは、いつの時代でも、どこの国でも同じことだ。
相手が人間であろうが、動物であろうが関係なく、相手に対して理解を示したり、歩み寄ったりできる気持ちの余裕が必要だ。
他の種との共存は、人としての寛容さや重要さが成熟した時に、必ず成し遂げられる。
ドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』は現在、関西では1月13日(金)より大阪府のシネリーブル梅田、京都府のアップリンク京都にて上映中。また、2月18日(土)より兵庫県の元町映画館にて公開予定。全国の劇場にて、順次公開。
(※1)あらいぐまラスカルhttps://fod.fujitv.co.jp/title/5447/(2023年1月18日)
(※2)Book Review: RASCAL (Sterling North, 1963)https://livingwildsidebyside.com/book-review-rascal-sterling-north-1963/(2023年1月18日)
(※3)14匹のネコを置き去りにして引っ越した疑い 60歳の会社員を書類送検 静岡市https://look.satv.co.jp/_ct/17461053(2023年1月18日)
(※4)引っ越しの時に置き去りにされた猫、ボロボロになりながら生きのび2年後に新たな家族のもとへhttps://karapaia.com/archives/52316656.html(2023年1月18日)
(※5)’고양이들의 아파트’ 정재은 감독 “동물과의 공생을 고민할 때”http://m.cine21.com/news/view/?mag_id=99804(2023年1月18日)