これはただの続編ではない映画『きさらぎ駅 Re:』


異世界は、本当にあるのか?私たちは、本当に転生できるのか?近年、サブカル界隈の世界では漫画やアニメで「転生」「異世界」系のジャンルの人気に火が付くブームが起きている。たとえば、「転生したら〇〇だった」「異世界の〇〇で…」「異世界村の〇〇で…」など、やたらと転生や異世界に憧れる時代になった。もし、もう一つの違う世界に行けたら?もし、もう一つの違う人生に転生できたら?と、ありもしないパラレルワールドへの羨望と期待が今の社会に込められている。与えられた人生は、この身一つのはずなのに、何重にも積み重なる存在しなかったであろう何百もの世界線の自分を想像してしまう。普段の電車に乗って、今まで降りた事のない駅に降りて、歩いた事のない町を歩いて、新しい自分自身を演じられる自惚れた高揚感に満足する感性が薄っぺらい人々が増えた昨今、若い世代を中心に、本作『きさらぎ駅 Re:』のようなありもしない世界への憧れを抱くようになった。まるで、ホラー映画の要素のように。映画『きさらぎ駅 Re:』は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」発の都市伝説をもとに映画化した2022年公開のホラー映画『きさらぎ駅』の続編。世間の人々が、異世界への憧れを抱き続ける限り、同じような恐怖は永遠と残り続けるのであろう。

「きさらぎ駅」のように日本には、ありもしない駅が本当に存在するのか?逆に、過去には存在していたが、時代の流れと共に存在しなくなってしまった駅が、山のようにある。私たちが常日頃、乗降している鉄道の普段の駅とは違い、ある日突然、忽然と姿を現す不思議な駅。その駅の先に続くレールは、どこに向かっているのか?その駅で降りたら、どんな町が広がっているのか?それは、生活する上で用がなく降りない駅なら、同じ感覚に陥るのではないだろうか?近年、廃止された駅は数多く存在し、2023年には北海道の留萌本線、妙見の森ケーブルなどで13駅が廃止。2025年には、同道の宗谷本線で雄信内駅、南幌延駅、抜海駅。また、根室本線(※1)で東滝川駅、東根室駅が廃止予定。次に、廃止された路線には、平成12年度以降、全国で25路線・574.1kmの鉄道が廃止(※2)。JR北海道では、深川から石狩沼田間の鉄道事業が2026年4月1日付で廃止予定となっている。廃止になる駅や路線は、地域社会に大きな影響を与える。廃止後の代替交通手段の確保や、廃止された駅舎の活用が一つの課題だ。路線の廃線、駅の廃止の背景には、利用者の減少、人口減少、路線の老朽化、代替交通機関の発達が挙げられ、北海道と同じような地域では同じ事が起きており、廃駅が決まった後、廃れた廃屋のように何十年もの間、放置され続けたら、いつの間にか都市伝説として噂が噂を呼び、ただの廃駅となった駅にも関わらず、異界に繋がる窓口だと噂だけが先行した恐怖の廃駅として恐れられるようになるのであろう。このまま鉄道問題を放置すれば、近い将来、廃線・廃駅は今以上にどんどん増えて行くだろう。そして、「きさらぎ駅」のような異界や魔界に繋がる廃線・廃駅は今後、益々増えて行く事になるだろう。あなたの住む街のどこかに、今日も廃線・廃駅を決めた路線が増えるのかもしれない。それは、鉄道だけに関わらず、たとえば、バスの路線も一つ挙げるとすれば、あなたの生活のより近い場所にパラレルワールドに続く場所は存在すると考えられる。

なぜ、人はパラレルワールドや異世界に興味を持つようになったのか?ありもしないもう一つの自分の人生では、今の生き方とは違う人生がある。その違う人生に憧れや期待を持つのは、その人個人の勝手ではあるが、それが逆に破滅の道を進む可能性もある。無い物ねだりをした結果、自身に待ち受けるのが破滅の人生。たとえば、子どもを亡くす人生を体験したり、地位と名誉を失う人生を歩んだり。もしかしたら、今を生きているこの人生こそが、一番幸福をもたらしてくれる美しい人生(※4)だったりするにも関わらず、ありもしないもう一つの世界、パラレルワールドに思いを馳せるのは、今の人生に満足できていないのだろう。パラレルワールドへの憧れは、現実世界での不満や後悔、可能性への渇望を示唆している。異なる選択肢や結果が存在する世界への想像は、現状に対する不満や不完全燃焼、別自分への興味、そして未来への希望を反映させていると言われる。パラレルワールドに関する主な深層心理には、現実世界への不満、可能性への渇望、自己探求に現実逃避が挙げられる。またパラレルワールドの物語が人気を集める理由には、共感とカタルシス、エンターテイメント性、考察の余地など、人々の想像力を掻き立てるエンタメ性が色濃く反映されている。パラレルワールドの物語には、時に伏線や謎が仕掛けられ、後の考察の余地を残す事によって、より深く物語の世界に没入できる魅力を放っている。並行世界への憧れは、私達人間が持つ普遍的な願望や欲求と深く結び付き、物語やフィクションを通じ、様々な形で表現されている。物語そのものが、パラレルワールドであり、並行世界の一つだ。小説を読んで、映画を観て、演劇を観劇し、私達はありもしない世界に生きていると錯覚し、それを脳内変換で喜びや充実した満足感として憧れを持つのであろう。パラレルワールド(並行世界)における哲学的な概念として、現実とは異なる可能性の世界を指し、ポジティブな考え方で言えば、憧れや理想郷としての側面を持つ。物理学やSF作品でよく登場する並行世界には、哲学において、自己同一性、自由意志、存在論に関するテーマと関連付けて考察される事が多々ある。並行世界と哲学には、密接な関係性があり、パラレルワールドに対する概念には、哲学において様々な解釈や議論を呼んでいるのは、知っているだろうか?哲学における並行世界の概念には、自己同一性、自由意志、存在論があり、もしも別の選択をしていたら、自分はどうなっていたのか?という問い。それが自己同一性であり、自分らしさとは何かと問う。パラレルワールドの自分は、現在の自分と同一かどうかが問われ、異なる存在に対する疑問が生まれる。また自由意志とは何か?自由意志は、パラレルワールドの概念と関連している。もしパラレルワールドが存在するなら、私たちの選択は本当に自由なものかどうか。それとも決定論的な運命の一部なのか?この問いへの疑問は、常に議論の的だ。そして最後に、パラレルワールドと現実世界での存在論とは何か?現実の存在とどのように関係するのか?存在論的な問いが、常に脳裏を過ぎる。パラレルワールドが現実世界の延長線上にあるのか、それとも、全く異なる次元の存在なのか?私達は、そのどちらでもない世界で生きている。誰もが抱く多元宇宙への憧れには、様々な要因が考えられる。たとえば、過去の失敗や後悔に対する解消、自分の理想とする人生や姿に対する理想の実現と現実、現実の制約を超えて、様々な可能性を試せる場所を求められる可能性への探求心。並行世界への哲学的な意味には、哲学的な論考を通して、現実世界や自己存在に対する理解を深める機会を与えられる。現実に対しての相対化、可能性への肯定性、自己に対する理解の深化が並行世界と現実世界の存在論に付随する。自分がどのような存在であるのか、またなりたいのか?どのような人生を送りたいのかと、深淵の疑問を自身に投げ掛ける事ができる。多元宇宙論に関して、単なる空想上の概念ではなく、哲学的な思考を深めるためのツールとして、哲学が重要な役割を果たしている。ニーチェ、カント、ウィトゲンシュタインら、時代を代表する多くの哲学者が、パラレルワールドや並行世界、多元宇宙に対して研究を重ねているが、今回は近代哲学者として名を馳せたライプニッツ(※5)の考えと名言を絡めて、哲学からのパラレルワールドとは何か?を考えたい。ライプニッツの哲学における平行世界とは、互いに影響し合わない独立した存在の単子論、神が創造した可能な限り多くの存在と変化を含む最善の可能世界、単子論に基づき私たちの世界とは異なる法則や出来事が存在する「平行世界」が存在する可能性の示唆、現代への影響として、量子力学における観測問題や、多世界解釈など、現代科学における平行世界の議論にも、ライプニッツの哲学が影響を与えていると考えられている。でも、ライプニッツは、「自然界には完全に同じものはふたつとしてない」と、これらの概念を覆す名言を残している。私達は、ここで一旦、足を止めなければいけない。パラレルワールドも、並行世界、多世界解釈も多元宇宙論もどれも素晴らしい概念ではあるが、もう一度、立ち止まって考えた時、本当に何が大切なのか、気づけるはずだ。私は、あなた自身の中に眠る自分自身の意識の大切さ(※6)に対して、自身への自己肯定感を高めて欲しい。この世で最も大切な事は、今ここに、あなたが存在する事だろう。映画『きさらぎ駅 Re:』を制作した永江二朗監督は、あるインタビューにて本作のFPS手法(※7)の撮影について聞かれ、こう話している。

永江監督:「FPSのワンカットにこだわってやっていたので、その苦労しかないくらいの撮影でした(笑) FPSの部分はヘルメットみたいなのにゴープロをつけて、佐藤江梨子さんの吹き替えを、道本成美さんという女優の方がやってくれていたのですが、自分の目線ではないので、カメラがずれてしまったり自分の影が入ってしまったりなどして、壮絶でした。「一回で終わる」とさっきはサラッと言いましたが同じ芝居を基本は9回くらいはやりました。一回で終わることはほぼなかったです。さっきの話と矛盾するのですが、何回もやり直しでした。カット割のある撮影は早坂伸さんが撮っているからいいのですが、FPSは女優さんがカメラをつけて、芝居しながら撮影なので本当に大変です。道本さんには感謝しかないです。吹き替えなので道本さんは絵に入れないですし、声も変えちゃうわけで。そういう意味で彼女なしにはこの作品できなかったと思うくらい感謝しています。FPS手法の映画は、日本では中々ないですが海外ではアクション映画の『ハードコア』という有名な作品があります。全編FPS手法で、世界的に評価されて、「FPSといえば”ハードコア”」という。その世界的に騒がれた撮影方法をホラーでやってみたいという想いが昔からありました。 POVというビデオカメラ目線の手法はよくあるのですが、FPSは主人公の目線なのでズームとかができないというのもあり、ずっと一定の画角で撮らなければいけないので、難しかったです。普通の映画では簡単にできる撮影手法が全く出来ないんです。 寄れないしカットも割らないというのが、いざやってみると大変で、なぜみんながやらないかっていうことに気づきました(笑)」(※8)と話す。FPS手法の撮影は、監督の言うように日本ではまだ取り入れらていない非常に珍しい撮影技法であり、その点、日本で新しい撮影方法を海外から真似て、実験的に挑戦した点は非常に素晴らしく、何事も挑戦し続ける事が大切である。ただ、監督はFPS手法は「リアルタイムで撮影している」技法と話しているが、どちらかと言えば、FPS手法とは映画やゲームの世界において、登場人物の一人称視点(First Person Shooter)で物語を表現する手法という言い方の方が正しい。FPSの撮影手法は、100年前の映画『つばさ』から現在公開中の映画『F1』など、様々な映画シーンの撮影にて、採用されている古くからある撮影技法だ。この「一人称視点の主観的な見方」を踏まえて、このパラレルワールドや並行世界について交えて話すとなると、私達が見ているこの世界は主観的側面から言えば、この世界単一でしかないのだろう。もし、多くの哲学者や物理学者が提唱している多元宇宙論、多世界解釈があるとすれば、それは私達の主観的視点の中に眠っているのだろう。

最後に、映画『きさらぎ駅 Re:』は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」発の都市伝説をもとに映画化した2022年公開のホラー映画『きさらぎ駅』の続編ではあるが、これは私達が常日頃考える続編の概念を一旦横に置いて考えた時、夢でもない私達が生きる今の世界の連続性の中にある時間や生活のその延長線上にこの物語が存在する。パラレルワールドとは、もう一つの世界の概念と同時に今を生きる人生のその先にある未来もまた、パラレルワールド(並行世界)と位置付けても良いだろう。今年もどこかの路線が廃線を迎え、どこかの駅がその役割をひっそりと終わらせる。あなたは、今の暮らしのそのどこかにきっと「きさらぎ駅」と遭遇するだろう。その時は、怖気つかず、勇気の一歩を踏み出して欲しい。廃駅の向こうに広がる多元宇宙の並行世界を目撃できるのは、あなた自身のその目だけだ。そして、その経験こそが、過去の哲学者ニーチェ、カント、ウィトゲンシュタインらが成し遂げられなかった出来事を凌駕する。現代において多元宇宙論(マルチバース)を研究する哲学者のシモン・フリーデリヒ氏、野村泰典氏やInterdisciplinary Dialogue、Key Questions、The Many-Worlds Interpretation、Fine-Tuning and the Multiverseといった研究団体達が、あなたが経験するであろうパラレルワールドの体験に生唾を飲み込むに違いない。並行世界を旅できるのは、この世界の存在を信じる者だけだ。

映画『きさらぎ駅 Re:』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)北海道から消え続ける駅 ここ10年で宗谷本線は4割、根室本線は3割の駅が廃止にhttps://www.tetsudo.com/column/1124/#:~:text=%E3%81%9D%E3%81%AE1%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E3%80%812025,%E3%81%82%E3%82%8B%E9%A7%85%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年7月14日)
(※2)近年廃止された鉄道路線https://www.mlit.go.jp/common/000021485.pdf(2025年7月14日)
(※3)JR最短の「本線」、2026年4月1日付で廃止へ JR北が廃止届を提出https://www.tetsudo.com/news/3447/#:~:text=JR%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E6%B7%B1%E5%B7%9D%EF%BD%9E,%E6%9C%80%E7%B5%82%E5%96%B6%E6%A5%AD%E6%97%A5%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82(2025年7月14日)
(※4)パラレルワールドの自分たちと制約がもたらす幸せhttps://change-consul.factdeal.co.jp/lifestyle/parallel-worlds/#%E9%81%B8%E6%8A%9E%E8%82%A2%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%8C%E3%82%82%E3%81%9F%E3%82%89%E3%81%99%E5%B9%B8%E3%81%9B%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E(2025年7月14日)
(※5)ライプニッツが考えたこと【倫理の偉人たち】https://www.juku.st/info/entry/1224#:~:text=%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%84%E3%81%AF%E3%80%8C%E5%AD%98%E5%9C%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AE,%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%86%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2025年7月14日)
(※6)パラレルワールドから考える自分の意識の大切さhttps://corp.synapse.jp/staff-blog/20220307-1/(2025年7月14日)
(※7)Doctor’s Notes: First-person shooterhttps://www.mvariety.com/views/editorials/doctors-notes-first-person-shooter/article_3c8e8126-e222-5fb0-9a8b-d5c47a8bff30.html#:~:text=First%2Dperson%20shooter%20is%20a%20video%20game%20genre,match%20through%20the%20eyes%20of%20the%20shooter.(2025年7月14日)
(※8)あの有名なインターネット都市伝説が満を持して映画化!/ 映画『きさらぎ駅』の永江二朗監督に『作品の見どころ』『撮影の裏側』を聞くhttps://locanavi.com/interview/director/nagae-jiro/(2025年7月14日)