幼少期に心の傷を負った少年達に捧ぐ映画『ミステリアス・スキン』


「僕は8歳の時に5時間の記憶を失った」これは、この作品の冒頭で語られる秘密の告白だ。12歳の冬の日、僕の時間はあの日で止まってしまった。この物語で繰り広げられている事実は、虚像ではなく真実だ。妄想でも何でもなく、今も日本のどこかで幼い少年が変態達の餌食になっている。児童に対する性的虐待は、幻だろうか?女児への性的いたずらは許されず、男児への性的いたずらは単なる遊びの延長線か?成人男性が、幼少の少年を弄ぶなんて、一昔前までは信じられなかっただろう。いや、違う。男色は、江戸時代以前から存在していた。是として認められていた時代があった反面、今は非として認知されている時代だ。日本では昭和中期から平成初期にかけて、同性愛の世界では、男児を対象にした裏ビデオ「堂山オリジナル」というブランドも存在したのも事実だ。この「堂山オリジナル」に関して、あるサイトの記述には「バブル時期に、「堂山オリジナル」という少年のポルノビデオが販売されていたらしい。今の時代にこんなのがあれば即ブタバコ行き」(※1)という80年代から90年代にかけてのエロビデオ業界はまさに法の介入も許されない程、無法地帯であった。また、2000年以降には小学生から中学生の幼い少年達を対象にした児童ポルノDVDを販売していたサイト「美少年倶楽部」の運営者の荒武修平が、2012年に逮捕されている。年々、児童ポルノへの取り締まりが厳しくなっている昨今、子どもを性の対象にした事案が悪であるという認識が強まっている。12歳の頃の僕は、ブライアンとニールのように性被害に遭い、その後の人生に暗い秘密を爆弾のように隠し持たなけれならなくなった。なぜか今では笑い話にされているが、僕の苦しみに対する責任は誰も取ってくれない。映画『ミステリアス・スキン』は、幼少期に受けた性被害により心に深い傷を負った2人の少年の行く末を描いた青春ドラマだ。性加害を受けた経験のある大人になった子ども達が、今もどこかで密かに苦しんでいる。

皆さんは、2023年3月7日が一体、何の日かご存知だろうか?この日は、日本のJ-Pop業界の光と闇を暴き、その後の日本の音楽業界における悪事が露見した境の年だ。イギリスのBBCが、ドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」(※2)としてジャニー喜多川が築き上げたジャニーズ帝国の暗部を白日の元に曝け出した一大スキャンダルだ。その後のジャニーズ事務所の衰退、社名変更、代表の交代劇、そして無為徒食であった最低な記者会見。どこを取っても、故ジャニー喜多川の存在が、事務所の歪さをこの会見場でも表出させていた。僕が子どもの頃は、「ジュニア達は、ジャニー喜多川に寝盗られると、デビューへの切符が約束される」なんて根も葉もない噂と都市伝説が、巷で話題に上がっていた。それが、現実的になるとは、誰が予測できただろうか?目を覆いたくなるような残虐な犯行に対して、事務所は黙認、黙殺、誤魔化しが日常茶飯事だった。2020年以降、芸能界や映画業界では性的搾取の実態が、明るみになった時代でもあった。この問題は、芸能界という特殊な世界だけの事ではなく、一般社会にも卑劣な変態は存在する。昨年の2024年、世間で衝撃が走ったニュースが私達に飛び込んだ。それは、一人の小学生男児が訴えた性的被害の実態だ。夏休み子どもキャンプに参加した男の子は、その年に最悪な体験をする。キャンプ場の夜、ボランティアスタッフで参加した20代の男性スタッフが男の子に卑猥なイタズラを行った。少年は、3年後の2024年に自身の身に起こった出来事に対して葛藤しながら母親に訴えた。「パクされて自撮りを…」(※3)。要は、一方的にフェラをされ、少年の幼陰を弄んだ。公式の場で公表するのも憚れる程、卑劣な行為の数々だ。事件は、この一件だけに留まらない。近頃、四国地方で元幼稚園教諭の男が、銭湯や温泉の男風呂の中を盗撮した疑いで逮捕され、全国ニュースになった。この容疑者は、宿泊施設のその日の状況を伺いながら、サッカー少年クラブの団体客が利用している隙を狙って、体格のいい少年たちの裸体を風呂場で盗撮していた。その上、その盗撮画像を全国の少年趣味の変態共に売り捌いていた。男は「体格のいい子の方が、高額になる」(※4)とスポーツ少年ばかりを狙って、数年間、犯行に及んでいた。盗撮をした男も悪だが、その動画を数千円で買ったとされる全国のそいつの顧客は同罪であり、断罪されるべきだ。性被害で傷付くのは当事者本人だけでなく、周りの家族もまた、「子どもを守れなかった」(※5)と、被害に遭った当事者と同じように悩み苦しみ、葛藤する。毎日どこかの府県で、大なり小なり、性犯罪が横行している。そして今日も、佐賀県のローカルニュースにて、児童ポルノを500点以上所持していたとして小学校の教師が懲戒免職(※6)された。性犯罪者の人生の行く末なんて、どうでもいい。早く駆逐されればいいなんて、願わずにいられない。ネットサーフィンしていれば、必ず数件はネットニュースにて報道されている昨今。誰が、幼きか弱い子どもを守れると言うのだろうか?誰が、身の危険から子どもの安全を保証できると言うのだろうか?子ども達の安全をすぐキャッチできる知的な大人の存在が今、必要だ。

では、どうやって身の危険から子どもを守れると言うのだろうか?それは、性犯罪に限った事ではなく、近年増えつつある事案で言えば、水難事故(※7)や交通事故(※8)はまさにタイムリーの極みだ。どれだけ気をつけたとしても、どれだけ注意を払ったとしても、どれだけ対処法を教えたにしても、子ども社会にある日突然、危険は降り掛かる。大人達がウカウカしてたら、ある日突然、子どもの命や安全は死神に狙われる。たとえば、今日本社会で問題になっている子どもに対する性加害に関して、多くの専門家がその指針(※9)を打ち立てている。まず性加害とは、何か?年齢や性別にかかわらず、性暴力の被害を受ける。女性だけではなく、男性も被害に遭っている事実がある。最もここが重要だが、加害者の8割は皆、顔見知りの犯行だ。私の場合は、兄の友達、僕から見て学校の先輩だった。子どもが性的な行為について理解できるような年齢になったら、保護者など周囲の大人から自身の身を守る事が大切であるか、お子さん自身にもしっかり伝えておくことが必要だ。僕は12歳の頃、まだ性の知識が乏しかった頃に性的イタズラをされている。正直、今の大人達が考えた対策法は生ぬるいと感じている。だから、今でも子ども達への性被害は後を絶たない。性被害の相談年齢の約3割が中学生以下の未成年。相談者が被害に遭った時の年齢は、10代以下が約半数を占めており、中学生以下に限っても約3割に上る事が明らかとなっている。そして何より、加害者は知らない人とは限らない。たとえば、よく知っている身近な大人(先生、コーチ、親や親せき)。友達、兄弟。交際相手。そして、インターネット(SNSやオンラインゲーム)で知り合った相手。僕の体験は、上記の2つ「知っている身近な大人」と「友達、兄弟」が当てはまる。子どもに対する性暴力の実例を挙げるなら、①着替え、トイレ、入浴をのぞかれた。②抱きつかれた、キスされた。③服を脱がされた。④水着で隠れる部分(プライベートゾーン)を触られた。④痴漢にあった。⑤下着姿や裸の写真・動画を撮られた、送るよう要求された。などが主な実例だが、小学生の頃の僕の場合、ここに書かれていない生々しい事まで体験させられた。それでも、子ども達は性暴力の被害に遭っても、性被害だと認識できず、加害者との関係性などから誰にも相談できず、被害が潜在化・深刻化しやすい傾向にある。これは、私自身にも当てはまり、誰にも相談できずに30年が経とうとしている。30歳を過ぎた頃、あの時の12歳の僕が受けた性的イタズラが性被害であると認識した時、私の中での考え方が変わり、その時初めて自身の親に被害の実態を打ち明ける事ができた。打ち明けただけで、誰も得しない行動。果たして、本当にこれで良かったのかと自問自答しながら、今日まで生きている。もし、幼い子どもが性暴力被害に場合、身体と心と行動で見せる変化に今までとは違う変化を見せる。身体の変化の場合、①頻尿、おねしょ②集中力の欠如、学力不振③体調不良(頭痛、腹痛、吐き気、倦怠感など)④不眠(夜更かし、悪夢を見る、一人で眠れないなど)⑤性器の痛みやかゆみ⑥食欲不振、過食。心の変化の場合、①ふさぎこむ、元気がない、無気力②過剰に甘えようとする③集中力の欠如。行動面での変化の場合、①行動面の変化②自傷行為、リストカット③多動や暴力的行為④非行(飲酒、喫煙、家出など)⑤人との距離が近い、不特定多数の人と安全でない衝動的な性行動を繰り返す。僕は、この映画の登場人物のニールのように、最後の⑤の「不特定多数の人と安全でない衝動的な性行動を繰り返す。」を経験した。その頃は、興味本位で同性の世界に足を踏み入れただけと思っていたが、知らず知らずのうちに、僕は心の傷を負っていたのかもしれない。だから、世の親御さんは、お子さんが上記で挙げたような行動を一つでもしたとしたら、彼等の些細な行動に注視し、気を配ってあげて欲しいと強く願う。映画『ミステリアス・スキン』を制作したグレッグ・アラキ監督は、あるインタビューにて本作に登場する性行為の場面や役者に対する諸々について、こう話す。

アラキ監督:「子供たちをキャスティングした後、親御さんたちに『こういう計画で、こういうふうに撮影するんだ』と説明しなければなりませんでした」と荒木監督は語る。「親御さんたちには非常に具体的に伝えました。『こういうふうに撮影するんだ』という絵コンテも用意しました。テーマがとても暗くて、特に後半の緊迫したシーンは撮影が非常に大変でした。撮影は夏に行われましたが、子供たちは最高の夏を過ごしました。映画のセットに行けることをとても楽しみにしていて、本当に楽しんでいました。彼らは本当に素晴らしい俳優でした。子供たちは本当に楽しんでいました。その間、私たちは撮影を実現するために必死に準備を進めていました。たくさんの親が断り、たくさんの子供たちが来られなかったんです。『ミステリアス・スキン』にはR指定やPG指定のバージョンもあり、虐待シーンが映される前にドアが閉まり、バイオリンが演奏される。『ミステリアス・スキン』には、これまで見たことのない、想像もできないような、生々しい裸の瞬間が描かれている。そして一度見たら、もう忘れられない。そういう瞬間があるからこそ、『ミステリアス・スキン』を作る価値があるんだ。テレビ映画版は、既に作られているから作る価値がないんだ。私は子供の頃に虐待を受けましたが、『ミステリアス・スキン』のような児童性的虐待を描いた映画は他にありません。なぜなら、この映画はまさにその実態を目の当たりにするからです。観客はただ傍観者ではなく、『ああ、これはひどい。登場人物たちがかわいそう』と思うだけではないんです。『こんなことが本当に起こっているんだ。この撮影方法だと、自分にもこんなことが起きているんだ』と実感するんです。映画を観終わった後は、文字通りトラウマを抱えることになります。それがこの映画の唯一無二の点だと思います。」(※10)と話す。子ども達のキャスティング、その親への説明と説得、この作品が傑作と呼ばれる由来、傍観者を作らないシステムへの再構築、そして何より、監督自身が幼少期に性被害に遭っていた衝撃の事実。20年前じゃなく、20年後の今だからこそ、必要とされる本作。少年への性加害は、昔から存在した。存在したにも関わらず、顕在化しなかった理由は、それが性加害(性被害)として認知されていなかったからだ。男の子は、性的成長の延長線に性被害があり、単なる同性同士の可愛い戯れ程度にしか思われていない。子どもへの性行為が、正当化される世の中であってはならないと強く注意喚起がしたい。

最後に、映画『ミステリアス・スキン』は、幼少期に受けた性被害により心に深い傷を負った2人の少年の行く末を描いた青春ドラマだが、単なる性的なピンク映画でも、青春群像でもない。この作品が描いているのは、愛を求め、大人の世界を彷徨い続ける孤独な少年の物語だ。愛とは、何か?愛とは、何ですか?幼い頃に性的被害を受けた主人公が、大人の男性と身体の関係を持ちながら、必死に愛を求めている。あの頃僕から連続した時間の中にいる現在の私を例えるなら、この物語にいる2人の少年、ブライアンとニール、そのどちらが私自身であったかと問われれば、私はまるでニール少年そのものだった。幼少期に性的イタズラで人生を狂わされた僕は、男娼をしながら、多くの年上男性と交わり続けた20代の10年間(この期間、確かに恋もした)、僕は必死に他者からの愛を求めていたのだろう?ニールが必死に求め続けた姿と重なるように、あの時の僕は性加害を受けた直後から葛藤を持ちつつ、のめり込んだ。真実の愛とは、何だろうか?愛とは、性欲の捌け口にされる事?愛とは、暴力的なそれを指す?愛とは、一方的に得られる快楽の事?あの頃の僕も、今の私も、真実の愛が分からない。ニール少年のように、今でも必死に誰かからの愛を求めているのかもしれない。私は夜のベットの中に潜って狂わされた不遇の人生の不運な運命を振り返ると、年甲斐もなく、泣きたくなる。2人の少年のように私は、30年近くたった今でも、失われた空白の時間の深い溝に複雑に入り込んだ、性加害を受ける前の本当の自分を探している。現実を受け止め前を向いて、明るい未来の人生を生きたい。そして何より、これからの未来を生きる子ども達が私と同じような被害や嫌な思いをせず、大人達が子ども達をちゃんと守る社会作り、地域づくりをする事が大切だ。これが、今の私の願いだ。

映画『ミステリアス・スキン』は現在、全国で絶賛公開中。
(※1)メディアにも責任はあるhttps://note.com/lgbtgoodmorning/n/n3db7b8ee3833(2025年5月26日)
(※2)BBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」https://www.bbc.com/japanese/articles/cly7zmng7ewo(2025年5月26日)
(※3)「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1199669?display=1(2025年5月26日)
(※4)男湯盗撮のターゲットは「体格の良い男児」 元幼稚園職員逮捕 動画を販売、数千人被害かhttps://www.sankei.com/article/20250518-O7YWPSA3VZO55IE67IAOTBZIL4/(2025年5月26日)
(※5)中学校で起きた男性教師からの性暴力事件 「娘は守られなかった」と語る被害生徒の母 学校が被害を「口止め」かhttps://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900025696.html(2025年5月26日)
(※6)児童ポルノ約500本所持 小学校教諭を懲戒免職 わいせつ行為で停職処分の教諭も【佐賀県】https://www.fnn.jp/articles/-/878052(2025年5月27日)
(※7)子どもを水難事故から守るために知っておくことなぜ手を挙げて大声で助けを呼ぶのはNGなのかhttps://toyokeizai.net/articles/-/612252(2025年5月27日)
(※8)小学校1年生の歩行中の死者・重傷者は6年生の約2.9倍。新1年生を交通事故から守るには?https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201804/1.html(2025年5月27日)
(※9)こどもを性被害から守るために周囲の大人ができることhttps://www.gov-online.go.jp/article/202312/entry-5240.html(2025年5月28日)
(※10)Gregg Araki on the ‘Raw Nerve’ of Abuse ‘Mysterious Skin’ Still Hits: ‘You Leave That Movie Literally Traumatized’https://www.indiewire.com/features/interviews/gregg-araki-mysterious-skin-interview-1235035228/(2025年5月28日)