君との出会いは奇跡でしたドキュメンタリー映画『私の親愛なるフーバオ』


みんなのアイドル、フーバオ。韓国国民全員が愛し、涙し、別れを惜しんだ 数百日間。パンダは、アジア三国間、日本、中国、韓国の平和の象徴だ。パンダが両国に存在するという事そのものが、国際的な友好を示す最たるもの。中国はパンダを世界各国に贈り、貸与する事によって外交関係を深め(※1)、また中国人にとってパンダは国宝であり、友好関係のシンボル、そして外交ツールとして重要な意味を持つ。世界で飼育されているパンダは、600頭以上。うち中国本土以外では約80頭が22カ国・地域に暮らす。中国政府が世界各国の動物園に貸し出しているパンダは、2024年8月時点で17カ国に計53頭。以前は相手国に贈与していたが、パンダの生息数が減少。1984年以降、「繁殖研究のための貸与」へと変わった(※2)。また、世界には野生のジャイアントパンダが約1900頭、飼育されているパンダが約757頭いると言われている。過去には、絶滅危惧種に扱っていたが、2016年、国際自然保護連合(IUCN)はパンダを絶滅危惧種から危急種に引き下げたが、それでも依然として、希少な動物である事実は変わらない(※3)。ドキュメンタリー映画『私の親愛なるフーバオ』は、2020年に韓国で初めて生まれたジャイアントパンダ、フーバオと飼育員たちの1354日間の軌跡を記録したドキュメンタリー。パンダの存在は、国際間で尊敬と敬意の念を表現しているが、国民間では癒しの存在。嫌な事があっても、すべてを忘れさせてくれるパンダの存在は永遠だ。

パンダ発祥の地は、主に中国の四川省、陝西省、甘粛省の標高約1300~3500メートルの山岳地帯の森林にいたと考えられている一方、中国でパンダが発見される随分昔には、ヨーロッパ地方でもパンダの祖先が存在したのではないか?と、言われている(※4)。古くは1100万年前、スペインのサラゴサ市近郊で化石が発見され、この種を「アグリアルクトス・ベアトリクス」と呼び、この種類がパンダの祖先と学会で認識されている。長い年月を経て、今のパンダへと進化を遂げて来たこの動物は、今や全人類の希望の象徴とでも言うべき崇高な存在として敬愛されている。世界で正式にパンダがパンダと認識され始めたのは1869年頃とされ、フランス人宣教師アルマン・ダヴィドが、中国四川省で布教中にパンダの毛皮を発見。これをヨーロッパに持ち帰って、初めてパンダの存在が認められた経緯がある。この時代より以前の1825年頃には、レッサーパンダがパンダと言われていた時代もある。このレッサーパンダもパンダと同様に、絶滅危惧種として認定されており、野生の個体数は森林破壊や密猟によって激減傾向(※5)にある。そして1972年、日本に初めてパンダが紹介された。この年、空前のパンダブームが巻き起こり、日本中がパンダフィーバーとなり、老若男女誰もがその愛くるしいパンダの姿にお熱となった。

日中国交正常化を記念して、2頭のジャイアントパンダ「カンカン」と「ランラン」が日本に初めて連れられたのは1972年10月28日の事。同年11月5日、上野動物園にて一般公開された際、世界三代珍獣の一つと言われる愛くるしいパンダをひと目見ようと、全国から動物園に約5万6000人の来場者が訪れ、行列の長さは2キロ(※6)にも及んだと報道された。歴史的空前のパンダブームは、その当時の日本人の思い出の記憶として残り、直接的な関係はないと言われているが、高度経済成長後期におけるこのパンダフィーバーは日本の経済成長を牽引し、大きなプラスの影響を与えた側面もあると考えられている。1970年に開催された万博博覧会の成功もまた、一躍買ったのだろう。現在、上野動物園にはオスのリーリーとメスのシーシー、2頭の間に昨年6月誕生したシャンシャンの合計3頭のパンダ(※7)がいるが、来年2月には中国への返還期限が迫っているのは悲しいものだ。一方で、現在アメリカの首都ワシントンのスミソニアン国立動物園では、中国から2頭のジャイアントパンダが貸し出された。世界における中国とのパンダの貸し借りは、両国における友好や和平への約束が目的として行われる。このた「パンダ外交」は、米中における友好関係の象徴として長年続いて来た両国の一環。米中間におけるパンダ外交の歴史は、1941年に始まったと言われる。パンダの貸し出しは、野生動物保護活動に対する国際的な支援の一環と考えられている。現在、アメリカのジョージア州のアトランタ動物園には、4頭のパンダが飼育されている。世界の様々な国で中国からのパンダの貸し出し(パンダ外交)が行われる、過去にはイギリスで2011年から2頭のパンダが。ロシアでは現在、モスクワ動物園で飼育され、2023年にはロシアで初めて生まれたパンダ「カチューシャ」も誕生(※9)した。パンダ外交が、各国との交流を深める活動となっており、日本や韓国におけるパンダ外交がアジア間における非常に大切な出来事と言えるだろう。ドキュメンタリー映画『私の親愛なるフーバオ』を制作したシム・ヒョンジュン監督は、あるインタビューにて本作の撮影について、こう話す。

ヒョンジュン監督:「可愛いフーバオと2人のズーキーパーの本音が気になって、監督として撮影に参加する事に決めました。3ヶ月間、フーバオを追って撮影して来た私も泣き、感情が沸き上がって来たのですが、私以上に飼育員のお2人の方が、フーバオの惜別に緊張して震えていた事でしょう。恐らく、私が経験した3ヶ月以上の3年、5年、10年のように共に過ごした感情を持っていたと思います。10年、20年と過ぎた頃、韓国国民ならみんなが覚えている素敵な出来事だと思います。」(※10)と話す。如何に、韓国国民にとって、フーバオの存在が大きかったのか、監督の話からでも理解できるだろう。誰もが、パンダとの別れには落胆し、肩を落とし、涙を流しただろう。それは、フーバオファン以上に、一番近くにいた2人の飼育員達が直接肌で感じていたに違いない。パンダは、単なる人々のアイドルではなく、国と国との関係性を手助けする友愛の印だ。冷えきった国際関係を溶かし、国民の心を豊かにさせ、人々の心の記憶に鮮明に楽しい思い出として留める出来事だろう。

最後に、ドキュメンタリー映画『私の親愛なるフーバオ』は、2020年に韓国で初めて生まれたジャイアントパンダ、フーバオと飼育員たちの1354日間の軌跡を記録したドキュメンタリーだが、単なる「パンダ可愛し」映画として描かれていない。私達人間と動物が、この世界、地球上でどのように共存するのか考えさせられ、パンダという存在が複雑に絡まり、冷えきった国際情勢の救世主であると、長年認識され続けて来たのだろう。タイムリーにも現在、日本の和歌山の白浜(※11)ではパンダが中国に返還され、町中から落胆のため息が聞こえて来ている。その一方で、日中友好議連が中国を訪問し、新たなパンダの受け入れに前向きな姿勢を示そうとしているのか、今後の動向に注目が集まる。また、「パンダは中国のNo.1かNo.2案件だ」と言われるほど、中国側にとって、パンダ外交は大事な国策だ。彼ら中国人が何を考えているのか、私達日本人は知る由もないが、それでも、今回の一件を通して、日中友好を今後も続けて行きたいのか、考える契機に来ている。そして物言わぬパンダが、日中韓のアジア情勢に対して、物陰から平和を願っているのかもしれない。パンダという存在は、明日を生きる私達の大きな希望となっているのだろう。

ドキュメンタリー映画『私の親愛なるフーバオ』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)ジャイアントパンダ保護地域/中国最先端の保護研究施設がある自然豊かなパンダの森https://www.hankyu-travel.com/heritage/china/giantpanda.php#:~:text=%E5%B1%B1%E6%B7%B1%E3%81%8F%E3%81%AB%E6%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7,%E3%81%AB%E6%8C%87%E5%AE%9A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年4月29日)
(※2)資源も貿易協定もパンダと「交換」 中国の戦略利用https://www.cnn.co.jp/world/35038584.html(2025年4月29日)
(※3)日本の動物園にいるジャイアントパンダ6頭の名前は?パンダの歴史・特徴・生態も解説https://kids.rurubu.jp/article/162194/(2025年4月29日)
(※4)パンダの起源は中国ではなくヨーロッパhttps://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7149/?ST=m_news(2025年5月1日)
(※5)実は絶滅危惧種のレッサーパンダ…国内動物園には250匹、飼育員「知らない人も多い」https://www.yomiuri.co.jp/national/20241003-OYT1T50051/#google_vignette(2025年5月1日)
(※6)パンダは「経済力があり中国との関係も密接な国に行く」 日本に再び来るのか…来年2月には上野動物園でも返還期限https://www.mbs.jp/news/kansainews/20250428/GE00065302.shtml(2025年5月1日)
(※7)【1972(昭和47)年11月5日】上野動物園でパンダ一般公開開始https://media.rakuten-sec.net/articles/-/46903#:~:text=1972%EF%BC%88%E6%98%AD%E5%92%8C47%EF%BC%89%E5%B9%B411%E6%9C%885%E6%97%A5%E3%80%81%E6%9D%B1%E4%BA%AC,%E3%81%AE%E5%A4%95%E6%96%B9%E3%81%8C%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2025年5月1日)
(※8)中国のパンダ2頭 米首都ワシントンに到着「パンダ外交の再開」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241016/k10014610601000.html#:~:text=%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E9%A6%96%E9%83%BD%E3%83%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%81%AE,%E3%81%A0%E3%80%8D%E3%81%A8%E4%BC%9D%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年5月1日)
(※9)ロシア生まれのパンダ「カチューシャ」がお披露目https://jp.news.cn/20240309/867912b7a3244390af3d472cafc1c2fd/c.html#:~:text=%E3%80%90%E6%96%B0%E8%8F%AF%E7%A4%BE%E3%83%A2%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AF%EF%BC%93%E6%9C%88%EF%BC%99,%E7%94%9F%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82(2025年5月1日)
(※10)”감독님, 나쁜 사람”…푸바오 다큐 본 강철원 주키퍼는 왜? [인터뷰+]https://www.hankyung.com/article/202408294366H(2025年5月1日)
(※11)和歌山“パンダの町”が騒然…新たな貸与に中国は前向き?「パンダ外交」の思惑は?【news23】https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1885616?display=1(2025年5月1日)