映画『夢幻紳士 人形地獄』の作品概要
文 スズキ トモヤ
映画『夢幻紳士 人形地獄』は、80 年代に人気を博した高橋葉介氏の漫画『夢幻紳
士 怪奇編』に収められた「老夫婦篇」と「人形地獄篇」を組み合わせて製作された推理探偵映画 だ。
大正時代からは少し時代は違えど、“昭和モダン”と言う文化も、確実に大正浪漫から大きく影響を受けたカルチャーと言ってもいいだろう。この短い時間の中で生まれた歴史的大衆文化は、和洋が折り重なった不思議なカルチャーだ。
映画『夢幻紳士 人形地獄』のあらすじ
時は昭和初期の日本。帝都から遥々田舎まで足を伸ばした主人公の探偵・夢幻魔実
也(皆木正純)。彼には、他人の心を読むことができる不思議な能力を備わっている。耳に届いた妖しい声に誘われて、寒村の外れでポツんと大きな木箱を開けると、一人の少女・三島那由子(横尾かな)を発見する。
夢幻魔は、謎の少女の正体を突き止めることができるのか。何十体の日本人形が、主人公に襲いかかる。まるで横溝正史や江戸川乱歩を彷彿とさせる推理探偵映画だ。
映画『夢幻紳士 人形地獄』の感想と評価
大正浪漫と言う文化は、とても魅力的な文化だ。大正時代と言う遥か昔の情緒溢れるモダンさに想いを馳せる。明治維新以降、日本は急ピッチに西洋文化を取り入れるようになった。日本の文化は大きく変貌したと言っていいほど、この時期は革新的な時代であった。西洋の文化の影響を大いに受けている。それが、大正浪漫だ。
本作『夢幻紳士 人形地獄』は、昭和初期を時代背景にした漫画『夢幻紳士』を土台にした怪奇ミステリーだ。映画は、全身黒ずくめの山高帽を被った寡黙な男が登場する。謎の少女失踪事件を解決すべく奔走する。昭和ロマンに影響を受けて、紙風船や日本人形など、当時の空気感を漂わせている。作中には、これらの小道具が当時を象徴するように作品に彩りを添えている。
怪奇とは、この世で不可解な事があるような、信じられないほど意外性がある様をそう呼ぶ。本作は怪奇映画に部類に入り、悍ましくも不思議な場面が登場する。最も印象に残るのは、和室の中で突如として何十体もの日本人形が襲ってくるシーンと、悪役が人形へと姿形を変える場面が不気味さを物語っている。
技術面で言えば、和室での日本人形が襲うシーンの VFX の技術が、恐怖を煽っているように見えて、とても素晴らしい技量だ。また、人形へと姿を変えられる場面も編集がとても素晴らしく、細かいカットを繋ぎ合わせて、女性が否応なく日本人形に変えられる場面を表現している。この場面では、カメラと編集技術の力量が、素晴らしく感じる。
女性ならではの優しさと奥床しさのある控えめな演出が、この監督の秀逸な点なのかもしれない。女性監督らしいと言えば少し偏った言い方かもしれないが、この抑えた画面作りが作品の善し悪しを左右している。
さらに、怪奇現象の描写や日本人形の恐怖など、日本の少し古いサスペンス映画やクラシックなホラーを連想させてくれる演出は、丁寧に作品を作り上げようとしている姿勢が垣間見えて、その点も高く買っておきたい。監督が愛してやまない原作漫画が、首尾よく映画化されている。大正浪漫の魅力を画面に叩き込んだ本作は、独特な世界観を巧妙に映像化している作品だ。
映画『夢幻紳士 人形地獄』のまとめ
本作『夢幻紳士 人形地獄』は、大正浪漫と言う文化を包蔵した怪奇探偵映画だ。少女の失踪事件を物語の全体に据え置きつつも、作品全体に漂うのは大正浪漫への憧憬だ。本作を通して、大正浪漫に花開いた日本特有のカルチャーに触れてみるのもいいものだ。
映画『夢幻紳士 人形地獄』は、大阪府では、シネ・ヌ―ヴォと京都府の出町座にて上映中。兵庫県では、元町映画館にて、7月31日(土)から上映開始。