映画『ブックセラーズ』多様性とは何かを深く考えさせられるドキュメンタリー

映画『ブックセラーズ』多様性とは何かを深く考えさせられるドキュメンタリー

2021年6月14日

本作『ブックセラーズ』は、書籍をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。ニューヨークで開催される巨大ブックフェアに潜入した本作の監督D・W・ヤングが、そこで書籍を販売している店主たち一人一人に、多くの本(希少本や古書など)についてインタビューしていく。

ビンテージものの書物は、過去の産物として社会の隅に追いやられつつある中、彼らはその古い書籍の魅力を伝えようと日々、奮闘している。

本作『ブックセラーズ』は、そんな本のディーラーに焦点を当てつつ、インターネットが普及した今、書物がどのように扱われているのかを今一度、考える機会を与えてくれている。

【作品概要】

映画『ブックセラーズ』は、インディペンデント系の監督として、短編、中編、長編問わず、多くの作品を製作してきた映像作家D・W・ヤングが、手掛けたドキュメンタリー映画だ。

ニューヨークで開催されているブックフェアの舞台裏に潜入し、作家やディーラー、販売員、古書店の店主など、本に関わる職に就く人物たちにインタビューを敢行している。彼らディーラー達から紡がれる言葉ひとつひとつが、書物の重要性を物語っている。

映画『ブックセラーズ』のあらすじ

ここは、ニューヨークのブックフェア。毎年多くのブックセラーが、希少本と呼ばれる珍しくも価値のある著書を販売しに来る。買い手もまた、コレクターであったり、専門施設の研究員だったりと、この業界で長く活躍している人が買いに来る。

そんな会場にカメラ片手に潜入取材したのが、本作の監督D・W・ヤングだ。この業界に携わる様々な専門家一人一人にインタビューを行い、各々のエキスパートが昨今、本の世界で起きている変革について、憂いながらも愛情を持って語ってくれている。

映画『ブックセラーズ』の感想と評価映画

『ブックセラーズ』は、本の世界の裏事情をコレクター、古書店店主、ディーラー、アーカイビストから話を聞いたドキュメンタリー映画だ。本作の映画監督D・W ・ヤングは、アメリカでブックセラー達に関係した映画が今まで、作られていなかったことに着目。

40周年を迎えたニューヨークの希少本(なかなか手に入らない、貴重な本のこと)を取り扱うブックフェアに潜入取材を敢行した。彼はアメリカの本業界が近年、おかれている現状を専門家の口から話を聞く。

あるディーラーは「この業界は過去150年に比べ、近年15年で劇的に変動した」と言う。昨今、インターネットの普及に伴い、書物そのものの価値が暴落している問題も、生じている。書店に足を運ばなくても、ネットを有効活用すれば、クリック一つで何でも買えてしまう都合の良い時代だ。テクノロジーの発展が著しく、 書籍業界にも強い影響を与えている。

作中では、大衆化されたネットだけでなく、この業界の境遇にも目を向けられている。それは、黒人差別女性軽視の問題だ。ある黒人のアーカイビストは、インディアンの記録は昔から保存されているのに比べ、黒人に関する情報がほとんど保管されていない現状について語っている。

また、ある女流作家は、この業界では男性ディーラーが数多く活躍する一方、女性のディーラーや古書店店主はまだまだ少ないと言う。書籍業界は、ネットの急拡大と同時に、黒人差別や女性軽視の問題も孕んでいる。

まさに、この業界には差別的な様相もあると言える。本に限らず、映画業界もまた似たような部分がある。近年、映画界でもホワイト・ウォッシングと言う運動Me too運動が盛んに行われ、黒人と女性の地位を向上させようとする動きが見られた。

人種差別や女性軽視と言う問題を孕んだ事案は、実は映画業界と本業界において親和性があるのかもしれない。本のことだからと一言で切り捨てるのではなく、映画が好きな方たちにも、他人事とは思わず、本作を鑑賞して欲しい限りだ。

最後に、映画『ブックセラーズ』は、ニューヨークの本業界のを取材している。猛スピードで発展していくテクノロジーの進化に押されつつも、何が大切か教えてくれている。

監督D・W・ヤングも「将来、ニューヨークの本業界は、ネットの利便性を受け入れつつも、希少本は希少本で古書店やブックフェアで入手できる時代が訪れて欲しい」と言う。

昨今、本の業界が最も取り入れる必要があるのは、ダイバーシティである多様性だ。それは、近年の映画業界でも言われていることでもあるが、新しい文化を享受しつつも、本来昔からある伝統を守れる将来であって欲しい。

昨今、インターネットの利用拡大に伴い、電子書籍や映画の配信が乱立する中、本作は目に見えて手に触れれる書物の大切さを教えてくれている。まず、目の前にある本の温もりに触れてみませんか?目前にある小説、児童書、絵本、漫画、ビジネス書、雑誌、成年誌、何でも構わない。一冊の本を手にするところから、何でも受け入れることができる多様性の精神が、生まれるだろう。

映画『ブックセラーズ』のまとめ

本作『ブックセラーズ』は、ニューヨークのブックフェアに潜入し、本業界にて従事するあらゆる専門家の声を聞いたドキュメンタリー映画だ。ディーラー、古書店店主、販売員、作家、雑誌の編集長、アーカイビストなど、昨今の業界の実情を多くの関係者に聞いている。

ネットの成長と同時に、書籍のマーケティング市場は衰退しつつある。また、他にも黒人差別や女性軽視など、あらゆる社会問題が浮上する中、彼らは今後、この業界の多様性を発展させていくことが必要となってくるだろう。

映画『ブックセラーズ』は4月23日(金)から、大阪のシネ・リーブル梅田、京都の京都シネマ、兵庫のシネ・リーブル神戸にて公開される。他、全国にて公開。