3月10日(金)より、10日間開催される第18回大阪アジアン映画祭が、今年も華々しく幕開けした。
本日は、6日目。今年の映画祭のテーマは、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。
映画『四十四にして死屍死す』と映画『サイド バイ サイド隣にいる人』を本映画祭の目玉として、16の国と地域で製作されたアジア人に関する多種多様な映画、長編、中短編含め、全51作品を一挙に上映。
コロナ禍という危機的状況を乗り越え、今年のラインナップは、例年にも増して、多彩な作品が集結した。
会場場所には、2022年春にオープンした大阪中之島美術館が加わり、お馴染みのシネ・リーブル梅田、梅田ブルク7、シアター7、国立国際美術館で、上映される。連日、各回にはゲスト登壇が予定されている。
近年のコロナ禍によって、叶わなかったゲストの来日並びに、来阪は3年振りに実施だ。6日目の3月16日(木)は、インディー・フォーラムに組み込まれた映画『カフネ』とスペシャル・オープニング・セレモニー作品として選出された香港映画『四十四にして死屍死す』等、アジアに関する作品が数多く上映される。
今回は、この3作品、コンペティション部門に組み込まタイ映画『ユー&ミー&ミー』と日本映画『天国か、ここ?』そして、特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》内の〈HONG KONG GALA SCREENING〉で日本初公開となる香港映画『流水落花』について取り上げたい。
映画『ユー&ミー&ミー』監督:ワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワット。タイ。2023年公開。日本初上映。
寸評レビュー:1999年のあの年、あなたはどこで、何をしていましたか?
(※1)Y2K問題、(※2)ノストラダムスの大予言、時代はまさに、脈動を打ちながら、混乱という波間を確かに生きていた。
本作『ユー&ミー&ミー』は、そんな混沌とした時代に青春時代を過ごしたタイのバンコクに住むある双子の少女の物語。
その時代の懐古的アイテム「たまごっち」「テープレコーダー」と言った90年代を象徴する娯楽的要素を背景に添えつつ、双子少女が直面した家族の問題、恋の芽生え、双子としての苦悩をフレッシュに描く。
一般の世界とは、一線を画す一卵性双生児という特殊な世界観を表現するのは非常に難しい事柄かもしれないが、本作は監督自身の殻に閉じ籠らず、双子という不思議な世界が一般の観客にも分かりやすく、そして共感できるよう丁寧に作り込まれている。
本作の監督は、タイ出身のワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワット。よくよく確認したら分かる事だが、「ホンウィワット」という姓が同じの双子監督だ。
兄弟監督は、昔からダルデンヌ兄弟、コーエン兄弟、カウリスマキ兄弟、ダヴィアーニ兄弟、ウォシャウスキー姉弟と、よく耳にするが、双子の監督は今まで聞いたことがない。
双子を題材にした映画は、よく製作されているが(頻繁ではない)、一卵性双生児の監督が自身をモデルにした作品を製作しているのは、過去に聞いたことがない。
1999年という世界が破滅に向かって生きていた時代、双子の少女らの家庭もまた、破滅へのカウントダウンの真っ只中にいた。
そんな世界観を表現したく、作品の時代背景を「1999年」に焦点を当てたと、双子監督は話す。
ホンウィワット監督は言う。「自身の体験だけではなく、多くの双子に取材を行い、彼らが経験したエピソードも作品に挿入した」と。
本作は、この世に生きる双子たちの想いを一纏めにした、総決算的な作品でもある。
映画は、20数年前の出来事を振り返りながら、20数年後の今のこの時代に、物語に登場する彼女らが、同じ空の下で、元気に過ごしているのか、想像を膨らますこともできる。
1999年。それは、誰もが感じた特別な年ではないだろうか?
あの年の終末期、あなたはどこで、何をしていましたか?
映画『天国か、ここ?』監督:いまおかしんじ。日本。2023年公開。世界初上映。
寸評レビュー:本当に、天国は存在するのか?と、哲学的な問いでは、実際に存在するのか、証明することはできない。
この世に生きている誰しもが、「天国」についての証明することは、ほとんど不可能だ。
ただ、アメリカの神経外科医エベン・アレグザンダーは(※3)「死後の世界は実在する」と言う。
10年前の話ではあるが、脳科学的に天国の実在を学術的に立証しようとしている動きが、行われていた。
この考えには、肯定も否定もできないが、もし本当に目には見えない世界があるとしたら、本作『天国か、ここ?』が描いた世界線が、別の時間軸に存在しているのかもしれない。
私達が想像し、思い描く「天国」は、真っ白なベールに包まれた何も無い空間をよく頭に思い浮かべるだろうが、それは一種の世界で、恐らく「天国」と呼ばれる世界観は100通り、いやそれ以上の世界が伏流的に深層的な領域として仄かに在るのかもしれない。
もし黄泉の世界が実存するなら、それは恐らく、映画『ワンダフルライフ』や漫画やドラマの『死役所』で描かれたような世界だろう。
本作『天国か、ここ?』は、「今は亡き馴染みのある映画人を作中に登場させた。」と、いまおかしんじ監督は「プライベート・フィルム」だと話す。
作中全体に漂う雰囲気は、実験的映画だ。
あたかも「天国」には見えない普通のロケ地を特別な場所に見立て、観る者にどういう捉え方をせるのか?どう感じさせるのか?また、どういう視点で作品を観れば良いのか、スクリーンから問いかけている。
これは、単なる「私的映像群」ではなく、非常に巧妙なトリックを随所に散りばめた「実験的プライベート・フィルム」だ。
今まで、こんなジャンルを観た事があるだろうか?
本作は、まったく新しい映像世界を提供してくれている。
天国は、どこにあるの?天国とは、どのような存在か?この作品が、少しばかり、啓示してくれているかも知れない。
天国に旅立った近しい人で、もし会えるとしたら、あなたは誰に会いたいですか?
映画『流水落花』監督:カー・シンフォン。香港。2023年公開。日本初上映。
寸評レビュー:「春花秋月何時了、往事知多少。小樓昨夜又東風、故國不堪回首 月明中。雕欄玉砌應猶在、只是朱顏改、問君能有幾多愁。恰似一江春水 向東流。」
これは、時の移ろいを表現した漢詩だ。
時節ごとに季節が訪れ、その都度、木々は実を付け、花を咲かせ、そして散らしていく。
それは、川も同じで、どこから湧いて、どこに流れるのか。
万物が持つ生の流転は、全人類、誰一人分からない。
時の流れの赴くままに、人間は生きている。
本作『流水落花』は、時の流れの残酷さ、美麗さ、儚さを、このタイトル一つに纏めたような趣がある。
本作は、(※4)香港の里親制度(養子縁組)に焦点を当てた物語だが、ここ日本でも、香港でも、「里親」に関する社会的認知度はまだ、開かれていない。
昨年に発表された日本財団ジャーナルによる記事には、(※5)「なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?」と題された文言が並ぶ。
2022年、2023年でも、日本国内では、里親・養子縁組制度に対する認知度、理解度はまだまだ乏しい。
映画『流水落花』が描く世界観は、日本よりも社会的浸透度が乏しい香港の現代社会における、ある夫婦が親になろうと葛藤し憂い、また刹那的人生を丁寧なタッチで描く物語だ。
親が親らしく、子が子らしく、寄り添い、心を開き通わせ、血縁関係のないにも関わらず、真の親子になろうとするまでの、時が移ろい流れる繊細さが作品の本質を捉える。
まるで生生流転な、有為転変で、夢幻泡沫の中、色即是空的刹那的社会潮流の渦中で、人々は生きている。
過ぎ行く時間が指し示すもの。
本作では、それを愛を育む姿として表現す。
第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023)は、3月10日(金)から3月19日(日)まで、大阪府のシネ・リーブル梅田他にて、絶賛開催中。
(※1)2000年問題って結局なんだったの? はてな京都本社で聞いてきたhttps://staff.persol-xtech.co.jp/i-engineer/interesting/y2k-hatena(2023年3月16日)
(※2)1999年の人類滅亡は「多少、時期がずれた」。『ノストラダムスの大予言』の五島勉さんは警告していたhttps://www.huffingtonpost.jp/entry/gotouben_jp_5f1fbc6ac5b6945e6e3ef8a2(2023年3月16日)
(※3)死後の世界は実在すると発言した脳外科医https://familyforum.jp/2013113026048(2023年3月16日)
(※4)领养儿童及寄养- Family CLIChttps://familyclic.hk/cn/category/topics/child-and-youth-affairs/adoption-and-foster-care/(2023年3月16日)
(※5)潜在的な里親候補者は100万世帯!なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/17667?gclid=CjwKCAjw_MqgBhAGEiwAnYOAelM_X3cQnwbvZTlGOdBLxPxPqYLI-Dg6eWRRmtGfXS7fGVQmkM_UURoCsFIQAvD_BwE(2023年3月16日)