ドキュメンタリー映画『マミー』真実は、あなたの中に眠る

ドキュメンタリー映画『マミー』真実は、あなたの中に眠る

事件発生から四半世紀、最高裁判決に異議を唱えるドキュメンタリー映画『マミー』

©2024digTV

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「運命と言うけど、あるんやろか?生まれた時から決まってるとか、なぁ、どう思う?」と、林真須美受刑者が問い掛ける。運命があるとするなら、それは社会が糾弾する事ではない。本人の強い意志や人々の関心という意識が、これからの未来の運命を作り上げる。1998年7月、日本中を恐怖の渦に陥れた大事件「和歌山毒物カレー事件」。この出来事は日本の平成初期、1990年代を代表する驚愕の出来事であった。この年代には、他に1995年1月に起きた阪神・淡路大震災、同年3月に起きた地下鉄サリン事件、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件が、あの時代を生きた方々には記憶として鮮烈に残っているのではないだろうか?私自身、平成初期である1990年代は幼少期ではあったが、子どもなりに初めて観たテレビのワイドショーでは、連日過熱に報道された事件は、朧気な子どもの記憶であっても、鮮明に覚えているものだ。地下鉄サリン事件以外、すべて関西で起きた大きな出来事だからこそ、幼心の中にも何かしらの影を落とし、ある種、人類滅亡説の「ノストラダムスの大予言」の話題も合わさって、暗雲低迷の感情を植え付けられた特殊な時代でもあった。社会が非常に悪いニュースに敏感に反応し、人々が疑心暗鬼する様がその時の時代背景を通して、伝染していた。それが、各年に起きた凶悪事件へと発展させたのだろう。1990年代前半のバブル崩壊後の日本は、社会的経済的に暗鬱な期間であったからこそ、その時の雰囲気が各地へ飛び火し、和歌山毒物カレー事件のような重大な事件を引き起こさせたと考えても間違いはないはずだ。良くも悪くも、平成時代の幕開けとなった1990年代は、呉牛喘月な猜疑心をその日々を生きた人々に与え続けた稀有な時代背景がある。映画『マミー』は、1998年に日本中を騒然とさせた和歌山毒物カレー事件を多角的に検証したドキュメンタリー。最高裁判決に異議を唱える本作では、当時の目撃証言や科学鑑定への反証を試み、保険金詐欺事件との関係を読み解く。真実は、どこにあるのか?真相は、誰の手が握っているのか?現地点では、誰もその事実には到達しておらず、一体どのカードを選択すれば正しいのか、暗中模索の状態が26年間続いている。事件は事件として犠牲に遭った被害者の方々には冥福を祈ると共に、事実、この事件の当事者でもある一人の主婦が冤罪であったとしたら、それは社会の考え方を根底から覆すいわれのない罪がそこに存在する。この濡れ衣とも言うべき得体の知れない冤罪にどう立ち向かって行くべきか、私達日本に住む我々国民は誰もその術を知らない。

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「和歌山毒物カレー事件」とは、一体どんな事件だったのか。改めて、この出来事について言及したいと思う。また、この事件を知らない30歳未満の方々、現在、学生や未成年の世代にも、あの日、あの時、あの場所で一体何が起きたのか、しっかりと知り向き合って欲しいと願うばかりだ。私自身、この頃はまだ小学生という幼い身分だった為、何が起きていたのか詳細に知り得ない部分もあるが、それでも、不明瞭ではあるものの、記憶の片隅の断片として、この事件は今でも強烈に記憶している。1998年(平成10年)7月25日、それは突発的に発生した出来事であった。和歌山市園部地区で行われた地域の夏祭りで起きた事件の第一報として発せられたのは、集団食中毒だった。関西圏内で起きた集団食中毒と言えば、この和歌山毒物カレー事件が起こる数年前の1996年7月に起きた「堺市学童集団下痢症」を思い起こす事ができるが、和歌山毒カレー事件はこの数百倍、数千倍、数万倍、悲惨な事件であった。単なる集団食中毒ではなく、民間が民間に対して行った飲食系の無差別殺傷事件の中では、当時は類を見ない数の多くの被害者が続出し、死者数は4名となった。平成初期に起きた集団無差別テロ事件と言えば、1994年(平成6年)6月27日に起きた松本サリン事件、1995年(平成7年)3月20日に起きた地下鉄サリン事件が先に発生しているが、これは国家転覆を狙った武装宗教集団オウム真理教による無差別テロ行為であったが、この事件はオウム事件をも凌ぐ、団体が民間ではなく、民間が民間に無差別に攻撃を仕掛けた事件としては、非常に奸邪な事件でもある。この事件を発端にして、地域ぐるみで行われる小さな地区の夏祭りが翌年、全国で姿を消した。私の住む地域でも翌年以降、そして現在でも、地域間の夏祭りは行われていない。この夏祭りでの良い点は、地域ぐるみのお付き合いやコミュニティの運営、そして地域の活性化や賑やかさを象徴させるものでもあったが、その反面、悪い点はどこの家庭の、どの調理場で調理された食品が出されていたのか不明瞭な点だ。食品を取り扱っているにも関わらず、その扱いが非常に杜撰で、食品衛生法の観点や食の安全性への配慮がどこまで理解されていたのか定かではない時代であった。良くも悪くも、昭和時代の名残が平成初期まで持ち越されていたのだろうが、それでも、夏祭りの中止と共に地域の活力が半減した時代の最初期が、この1998年の事件から続いている。今、この日本社会で生きる私たち自身の課題は、地域の活性化をどう取り戻す事にあるのでは無いだろうか?あの時代、私は幼心に恐怖も覚え、世間に対して疑心暗鬼も芽生え、なぜこうも悪質な事件が立て続けに起こるのか、子どもながらに疑問で仕方がなかった。そして、事件が発生した半年後、その地区に住む一人の主婦が逮捕された。逮捕される以前から、冷酷な世間の眼差しやマスコミによる熾烈なメディアスクラムの故意的な誘導の元、現死刑囚の林真須美受刑者が逮捕された。でも、取り調べ中も裁判公判中も、死刑確定後も一貫して、彼女は和歌山毒物カレー事件に関して関与を否定している。その以前には、夫婦で保険金詐欺も働いており、非常に黒に近い人物であったが、保険金詐欺は認めても、カレーによる無差別テロは一貫して否認続けている。当時は、世間も識者もマスコミも、誰も彼女の言葉には耳を貸さなかった。子どもの頃、私自身もこの女性が犯人であろうと、ブラウン管を通して確信していたが、その時から四半世紀以上が経った26年目の今、当時から囁かれて来た冤罪説に注目が浴びている。これがもし冤罪であるとするならば、日本社会や国家、法曹界は取り返しのつかない大きな過ちを犯している事にもなる事を気付いて欲しい。

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冤罪事件は日頃、普段通りに過ごしていたら、そうそう簡単に出会わないものではあるが、日本社会は今、私達が気付かないもう一つの日常の中で頻繁に冤罪事案は起きている。報道にもならない小さいものであれば、痴漢冤罪事件(※1)がこれに当てはまる。実は、冤罪事件は日常の中に静かに潜んでおり、誰が冤罪として逮捕されてもおかしくない現実が、今の日本社会には存在する。今年、有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判で、どれほど不利な証拠がそろっている犯罪者でも、依頼人のために無罪を勝ち取る”アンチ”な弁護士の活躍を描き、2024年4月14日から6月16日までTBS系「日曜劇場」枠で放送され、人気を得た弁護士ドラマ『アンチヒーロー』で法律監修を行った弁護士國松崇氏は言う(『半沢直樹』 や 『99.9-刑事専門弁護士-』シリーズなど、数多くの作品で法律監修も行う)。「冤罪は意外と身近にあるんです。冤罪が生まれるのは、個々の事件でいえば担当捜査員・検察官の油断や怠慢が原因でしょう。しかし、視点を広げれば、それはこの国の刑事司法や捜査機関の体制の問題だとみることもできると思います。例えば私の経験の中で、冤罪はニュースになるような大きな事件ではなく、世間の注目を浴びることもない、 軽微な犯罪こそ起こりやすいと感じたことがありました。警察や検察の人員には限りがありますから、軽微な犯罪に対して、時間と手間をかけた緻密な捜査はなかなか行うことができないという実態があります。担当する捜査官が、他に大きな事件を抱えていたら尚更ですよね。その結果、証拠関係や当事者の証言など、裏付けが非常に曖昧な状態のまま、流れの結果、証拠関係や当事者の証言など、裏付けが非常に曖昧な状態のまま、流れ作業のように物事が進んでいってしまいます。そして、捜査に慣れていない被疑者や被告人は、つい 『そのようなものか』と安易に受け入れてしまう。これが冤罪に繋がりかねないわけです。」(※2)と話す。また冤罪は、日本だけで起きている訳ではなく、アメリカは昔から冤罪大国とも呼ばれ、凶悪事件が起きる一方で冤罪事件も起きている。ここに、ある一つの例を挙げるとするなら、ただ「若い黒人だった」というだけの目撃証言で、逮捕当時17歳だった男性が、29年間、投獄された事実がある。服役中、ある日突然、刑務官が独房に訪れ、国を訴えなければ、釈放すると言われ、その後一切、どこからも謝罪もされていない冤罪事件(※3)が2019年に起きている。この事件は、人種差別、黒人差別が発端となったと考えられる。冤罪事件は、過去の話ではなく、今私達の目の前、日常で今も起きている。まず、私達はその事実を認める所から始めなければならない。冤罪を生まない社会を作る為(※4)に、これからの未来の為に、今日、今、私達は警察の捜査、取調室での事情聴取、裁判所の裁判の運び方や過去の判例を学ぶ所から始めたい。映画『マミー』を制作した二村真弘監督は、あるインタビューにて事件の3つの事案に焦点を当てた事について聞かれて、こう答えている。

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二村監督:「裁判の中で、林眞須美が犯人だとする根拠とされたのが、大型放射光施設Spring-8を使ったヒ素の科学鑑定と、林眞須美が現場に一人でいるところを見たという女子高生の目撃証言。もうひとつは、ヒ素を使った保険金詐欺を繰り返していたという証言です。重要なポイントにもなっていたので、この3点についてはきちんと検証すべきだと考えました。カレー鍋にヒ素を混入する際に使ったとされる紙コップに付着したヒ素の成分が、林家にあったもの(林健治さんがシロアリ駆除の仕事をしていた頃に購入していた)と成分が一致したことが裁判では重要証拠と認定された。しかし、取材をしていくうちに、和歌山市内で同じ工場で生産されたヒ素がシロアリ駆除剤として広く使われていたこと、さらに近隣に林家以外にもヒ素を所持している住人がいたこともわかってきた。それにも関わらず、科学鑑定は林家のものだけに限られていました。」(※5)と、話す。この監督の話からでも分かるように、事件が起きた当時、あからさまな捜査のミス、鑑定のミス、科学鑑定の不明瞭さなど、事件の捜査に関するいくつもの過ちがあったにも関わらず、すべて隠蔽されて、警察や検察、裁判官に有利な捜査が行われており、すべて都合の良いように解釈された捜査が行われていた事が理解できるだろう。

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最後に、映画『マミー』は和歌山毒物カレー事件を多角的に検証した構成となっているが、私はこの項目を通して、本事件の冤罪性を高らかに語りたくはない。この事件の結末が、どう動くのか未知数のところもある。ただ、世間の声には、甚だ憤りを感じる。死刑が確定したなら、死刑をすぐに執行しなければならないのか。有罪判決を受け死刑確定が決定しても、犯行動機が不明瞭であったり、自白強要が成された捜査過程のある事件の対象の容疑者や死刑囚が、確定後にさっさと執行を願われる世の中で本当にいいといいのだろうか?あなた自身が、あなたの家族が同じ立場になっても、同じ事が言えるのか?冤罪事件は、日本の至る所に存在する。パソコンで県名に冤罪と検索すれば、その土地で起きた冤罪事件が、必ず一つはヒットする。私の居住地では、枚方自宅介護殺人未遂事件が起きているが、結局は冤罪事件であった事案だ。また、大阪には1995年に起きた東住吉冤罪事件(※6)が、非常に注目を浴びた。他にも、愛する娘の死を通して、警察が捜査段階で「虐待」ありきの捜査を行ったローカルな事件(※7)。滋賀県では、湖東記念病院事件(※8)が一時期、冤罪判決かどうか全国が固唾を飲んで注目していた。近頃、熊本県では、およそ60年前に起きた菊池事件(※9)が、再審請求を求める動きが報道された。大阪では、「今西事件」(※10)と呼ばれる5年前に起きた幼児死亡事件の父親が、数年の時を経てやっと釈放された。冤罪事件は、他にもたくさんある。八海事件、足利事件など、冤罪が原因で、一人の人間の人生や時間が奪われているのは、事実に他ならない。大きい小さい関係なく、日夜、この国の社会は冤罪事案で溢れている。だからこそ私はこの国を、「冤罪大国ニッポン」、そう呼びたい。この事件に関しては、様々な意見や憶測、罵詈雑言に誹謗中傷、根も葉もない噂に嘘が飛び交い、正直、誰のどの言葉に耳を傾けていいのか分からなくなるだろう。まさに真実は、どこにあるのか?真相は、誰の手が握っているのか?それは誰にも分からない。ただ一つ、ただ一つ言える事があるとすれば、事件の真実や真相はあなたの心の中に眠っている。この映画を通して、再度、あなたの中に眠る真実を探して欲しいと願わんばかりだ。和歌山毒物カレー事件は、今年で26年の四半世紀が経過した。この次の25年の四半世紀では、少しでも冤罪事件を減らす事が、この国の大きな課題と言えるかもしれない。文末に、林真須美受刑者のご長男の切なる願いを付け添えておく。「これからも母を信じ続ける」と。

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ドキュメンタリー映画『マミー』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)痴漢冤罪は実際にあります|身に覚えがない痴漢で逮捕https://chikan-bengosi.com/chikanjiken_muzitsu/?gad_source=1&gclid=CjwKCAjwk8e1BhALEiwAc8MHiG0iyGVc7kcHLrsGgPTLa1Qusg3pMfM78BUKBS4j7GX-9h3KOGuf1xoCFxsQAvD_BwE(2024年8月7日)

(※2)『アンチヒーロー』の法律監修が語る 「身近にある冤罪」の実態に迫る!https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=20410(2024年8月7日)

(※3)「若い黒人男性」との目撃情報だけで禁錮75年… シカゴを「冤罪の首都」にした人種差別と違法捜査https://www.tokyo-np.co.jp/article/295366(2024年8月7日)

(※4)冤罪を生まない社会に必要なことhttps://www.tokyo-jinken.or.jp/site/tokyojinken/tj-77-interview.html(2024年8月7日)

(※5)和歌山カレー事件、林眞須美の「死刑」判決の真実はどこへ? 「報道の過熱によって、見えるものが視えなくなっていった」26年目の真相を追う映画『マミー』の監督が問うメディアの在り方https://shueisha.online/articles/-/251009?page=1#goog_rewarde(2024年8月7日)

(※6)晴れた冤罪。だが内縁夫の性的虐待はなかったことになった ――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語【再公開】https://bunshun.jp/articles/-/45681(2024年8月7日)

(※7)警察の「ずさんな捜査」で失われた家族との3年 愛する娘を “窒息死”させたと疑われ「虐待冤罪」 の残酷な被害”虐待ストーリー” ありきの捜査が背景にhttps://www.ktv.jp/news/feature/221226-enzai/(2024年8月7日)

(※8)滋賀県、確定無罪判決を否定する主張 国賠求める女性「怒り心頭」https://www.asahi.com/sp/articles/ASP9J6G4MP9JPTIL00K.html(2024年8月7日)

(※9)「菊池事件」の再審請求で三者協議 証人尋問を議論https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20240530/5000022182.html(2024年8月7日)

(※10)死亡した2歳娘への「虐待」疑われ5年半“勾留”されていた父親が保釈へ 一審は懲役12年の実刑…二審判決を目前に大阪高裁が超異例の判断「今西事件」https://news.yahoo.co.jp/articles/356fde443e91be1eadb03f5843419bd01793ee4c(2024年8月7日)