映画『喝采』「喝采」という終焉へと人生の歩を歩む

映画『喝采』「喝采」という終焉へと人生の歩を歩む

フィナーレこそが、人生。映画『喝采』

©2024 Crazy Legs Features LLC

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幕が閉じると同時に、人生の終焉を迎える。幕が降りると同時に、キャリアの終わりを告げる。誰もが人生百年時代を生きており、何歳になっても表舞台や自身が活躍できる場所で活動し続けたいと願うのは、当然の事。もし亡くなる間際まで動き続ける事ができるなら、あなたは人生のどの道を選ぶか?ベッドの上でその時が来るのを待ち続けるか、ベッドから飛び起きてその時まで動き続けるか。人生には、2つのうちの1つの選択が迫られる。その時、あなたはどんな取捨選択をするか。その餞別によって、その後の生き方に大きく影響を与える。本当に進みたい生涯の道は、どこにあるのだろうか?どの道を選べば、正しいゴールに辿り着くのだろうか?人生の最終終着駅を選ぶのは、あなた自身の選択の結果だ。人生にしても、キャリアにしても、何でも終わりに向かっている。けれど、人の生き方に間違いはなく、どの道を選択をしても、その決断がすべて正しい。続ける勇気も、終わらせる勇気も必要だ。映画『喝采』は、ブロードウェイの伝説的な女優マリアン・セルデスをモデルに、キャリア終焉の危機に直面した大女優が最後の舞台に挑む姿を描いたドラマだ。最後のステージに立つという事は、80年以上生きて来た人生の集大成となる。最後の最後に人生の掉尾を飾る事は、今まで歩んで来た道が肯定される事にあるだろう。

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50代、60代以上の世代を「シニア世代」と呼ぶ昨今、それより上の世代を敬意を込めてポジティブに呼称する言葉に「グランド・ジェネレーション世代」(※1)と呼ぶ風潮が近年、増えつつある。特に近頃は、80代以上の年代の方々が、男女問わず、元気に働いたり、自身の趣味を楽しむ生活を謳歌している。従来の見方では、超シニア世代は身体が弱り、腰が曲がり、見た目も老いて行くが、肉体とは反対に精神そのものは若い頃と同じようなエネルギッシュな感覚を持っている。シニア世代の心の活力は衰える事なく、活動的に動き続けている。この世代の方々を「アクティブシニア」とも呼び、元気に長生きする姿が印象的に映る。現役で活躍している高齢の方には、どんな方がいて、どんな場所で活躍しているのだろうか?日本の芸能界で言えば、黒柳徹子(92歳)(※2)、女優の吉永小百合(80歳)や草笛光子(92歳)。この方々が人気を集める理由には、自分らしく働き、それが結果として若々しく見え、元気さやアクティブさに繋がっている。衰えない活力や、新しい事にも挑戦する姿勢が世間から評価されている。芸能界以外では、歌手兼演出家の美輪明宏(90歳)、解剖学者の養老孟司(80代)、建築家の隈研吾(80代前後)、作家兼アナウンサーの下重暁子(※3)など、まだまだ現役で活躍している方がたくさんいる。2025年現在(昨年度以前のデータ)、日本では65歳以上で働く高齢者が増加傾向にあり、2024年時点で900万人を超え過去最多を記録。65歳以上の4人に1人が働いており、70〜74歳でも3人に1人が就業している昨今、「生涯現役」で働く姿は一般化している。 2025年4月1日以降、高年齢者雇用安定法(※4)の経過措置が終了し、企業には「希望者全員が65歳まで働ける環境づくり」が完全に義務化された。私達の日々働く環境には変化が伴い、どんな人でも性別も年齢も関係なく、誰もが元気に平等に働ける状態が整われつつある。「グランド・ジェネレーション世代」は、まるで映画『アベンジャーズ』シリーズに登場するような英雄を彷彿とさせ、現代社会における後期高齢者達の活躍は今の世の中を輝かせるある種の社会の光なのかもしれない。

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人生の終焉に向けて、何かを残したいとか、何かを成し遂げたいと思う方はたくさんいるのではないだろうか?人生の後悔とは別に、こんな事をしたかった、あんな事をしてみたかったと想いは走馬灯のように駆け巡るだろう。人生の最期に何を残したいかという問い(※5)は、私達人間にとって人生最大の課題の一つだ。多くの人にとって、「自分らしい生」と「家族への思い」を形にする「終活」の核心部分が含まれている。ある調査によると、遺産や思い出の品といった物質的なものだけでなく、感謝の言葉や愛情、生きた証(メッセージ)を残したいという意見も多く見られたという。残したいものに対して、具体的なものには何があるだろうか?以下の要素が挙げられるとして、家族・大切な人への「心」と「言葉」があり、「ありがとう」の感謝と愛情(※6)を家族やこの世に遺す者に感謝の言葉を伝えたいと思う人が大勢いる。また、共有した時間の記憶は、形あるもの以上に大切にされ、生前に共に過ごした温かい思い出と絆を大切にしようとする動きが見られる。物質的なものと言えば、自分の死後、家族が困らないようにする実務的な準備と同時に、感謝や想いを伝える手段に遺言書・エンディングノート(メッセージ)が選ばれる。次に、「生きた証」とメッセージに強気を置く傾向が見られ、自分の経験や思い出、価値観をノートや動画、アルバムにまとめて人生のストーリー(思い出の箱・手記)として残す人も増えている。また、家族が大切にしてくれる、愛用していた品々や思い出の詰まった品(写真、子供の作品など)を遺したいと考える人もいる。3つ目は、「残される家族の負担」を減らす事だ。遺された人が片付けに困らないよう、生前に整理をしておくことは、大きな「残したい贈り物」の一つであり、身辺整理や断捨離の在り方を問われている。あとは、現実的な話をすれば、通帳、保険証券、年金手帳などの情報を分かりやすくまとめ、資産や貴重品が整理される事にある。 そして最後に、人生の終焉における「最期の意思」が誰もが残したい想いだ。自分の意思(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)を明確にし、家族が苦渋の決断をせずに済むようにしておく事も重要視され、人生会議での終末期の医療や介護の希望を伝える事も大切だ。多くの人が、最終的に「物質的なもの」よりも「人間関係」や「愛」(※7)を大切にしたいと考え、自身の死が家族の重荷にならないことを強く望んでいると言える。 「もっと自分らしく生きていい」といった、人生で学んだ教訓を残して行く人にアドバイスを送り、過去のわだかまりを消し、周囲への愛と感謝を伝えて穏やかに去る最期の許しと赦し(※8)を完結させたいと願う。映画『喝采』を制作したマイケル・クリストファー監督は、あるインタビューにて本作でのジェシカ・ラングとの仕事について、こう話す。

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クリストファー監督:「ジェシカとは30年くらいの知り合いです。私たちは、史上最悪の映画の一つに関わっていました。ジェシカ・ラング、グウィネス・パルトロウ、ニーナ・フォッシュ、ハル・ホルブルックが出演していたのですが、私は脚本の修正を依頼されました。何度も変更されたので、タイトルさえ思い出せません(『ハッシュ』)。あの映画から何も良い結果が生まれなかったのは、明らかに私の失敗でした。良い映画よりも悪い映画の方が、より強い絆で結ばれることがある。今回もまさにそうだった。私たちは親友になったけれど、それ以来一緒に仕事をしたことはない。何年も色々なことを話し合っていた時に、この脚本が生まれた。ニューヨークの有名な舞台女優を題材にした脚本で、私もその女優を知っていた。私の最初の仕事の一つは1969年でした。ある女優と二人芝居をするという仕事で、基本的には舞台に立って彼女の話を聞くというものでした。それがほぼ全てでした。彼女と私は友人になり、長い間親しく付き合っていました。彼女は晩年、認知症を発症しました。一度、一緒に舞台に立ったのですが、ひどい発作を起こしてしまいました。容態が悪化しすぎて、私たちが舞台から降りるのを手伝わなければならなかったほどです。とにかく、この脚本は彼女の人生に基づいて構想されていたのですが、とても悲しい内容でした。もし私がこれをやるなら、認知症に陥っていくという悲しい映画はもう作りたくないと言いました。なぜなら、そういう映画は既に作られていて、しかもうまく作られているからです。そこで、初日の公開を、その後の展開ではなく、物語の結末にしようと決めました。ジェシカと私は、認知症に立ち向かう勇気を描いた映画を作りたかったのです。この映画に出演したほぼ全員が、この病気と闘う誰かの姿に心を動かされました。資金調達に苦労していた時、「ロッキー」のマスターピース・シアター版を作りたいと言い、資金を得ることができました。死を前に、どうやって生き続けるのか?何かが自分の一部を取り去っていく時、どうやって自分らしさを保つために闘うのか?その闘いはどんなものか?終わりが来ると分かっていても、そこには勝利がある。」(※9)と話す。人生の最後に病気を患い、キャリアが崩壊し、「引退」という二文字が頭の上を掠めても、諦めない心を持つ事が大切だ。諦めなかったその先には、大いなる勝利が待っている。私達は常に、何かに試されながら生きている。幕が降りたその向こう側には、両手いっぱいに連打の拍手をする観客達の事を思えば、きっと良い人生であったと最後の舞台で振り返る事ができる。天国には、背中に背負った荷物を持ち帰る事はできないが、この世には家族の心の中に残った思い出達を託す事はできる。認知症であっても、他の病気であっても、「引退」の二文字であっても、其れは怖いものではない。そこにあるのは、眩い光に照らされた幸福の瞬間だ。

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最後に、映画『喝采』は、ブロードウェイの伝説的な女優マリアン・セルデスをモデルに、キャリア終焉の危機に直面した大女優が最後の舞台に挑む姿を描いたドラマだが、単に悲劇や悲しみを描いている訳ではない。病に立ち向かう恐怖と勇気、最後まで生きようとする人生の崇高さ、何事も前向きに捉えようとするポジティブさが描かれている。日本語タイトルの「喝采」は、物理的に舞台の終わりで投げかけられる聴衆からの暖かい拍手を示すが、この映画での「喝采」とは今まで生きて来た人生のすべてへの賞賛が含まれる。第二次世界大戦を経験し、日本の高度経済成長を目の当たりにしま世代、バブル全盛期からバブル崩壊前後、そして就職氷河期世代にリーマンショックに、9.11における世界同時多発テロ、3.11に起きた東北大震災など、私達はめくるめく時代の潮流に乗っていた。酸いもあれば甘いもあり、落ちて行けば登りもある。様々な人生の経験こそが、「喝采」に値する。人々の割んばかりの愛の込もった大きな拍手に迎えられながら、私達は「喝采」という終焉へと人生の歩を歩む。

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映画『喝采』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)シニア層の新しい呼び方「グランド・ジェネレーション」とは?https://seniorlife-motto.info/archives/925(2026年1月27日)

(※2)生涯現役だと思う“高齢著名人”、1位は「黒柳徹子」https://www.oricon.co.jp/news/2001802/full/#google_vignette(2026年1月27日)

(※3)作家・下重暁子が「自らの訃報」で絶対に書かれたくない「死因」とは?https://diamond.jp/articles/-/361791(2026年1月27日)

(※4)【わかりやすく解説】2025年4月の高齢者雇用安定法改正で何が変わった?https://joylife.alsok.co.jp/knowhow/archives/84(2026年1月28日)

(※5)終活革命!? 日本人終活革命!? 日本人の選択と決断、アンケートが明かすリアルhttps://tovigasmaru.co.jp/?p=1844(2026年1月28日)

(※6)終活に取り入れる断捨離のすすめ方|残す物・捨てる物の判断基準と実践ポイントhttps://www.syukatsu-souzoku.jp/columns/624(2026年1月28日)

(※7)【あなたの『死ぬまでにしたい10のこと』はなんですか?】調査の結果、自分がしたい事よりも遺された家族の負担にならないようにしたいといった項目に票が集まる結果に。現代の終活事情とは?https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000037487.html(2026年1月28日)

(※8)Coping with Emotions as You Near the End of Lifehttps://www.cancer.org/cancer/end-of-life-care/nearing-the-end-of-life/emotions.html#:~:text=you%20near%20death.-,Regret,remember%20their%20time%20with%20you.(2026年1月28日)

(※9)Interview – Director Michael Cristofer on ‘The Great Lillian Hall’https://www.thefilmpie.com/index.php/blog-2/6440-interview-director-michael-cristofer-on-the-great-lillian-hall(2026年1月28日)