
今年もまた例年通り、大阪アジアン映画祭の季節が訪れた。今年は第20回を迎え、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。第20回の上映作品本数は、新たに67作品が上映される。上映作品の製作国 ・地域は19の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。世界初上映19作、海外初上映6作、アジア初上映4作、日本初上映31作。3月14日(金)から3月23日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。
短編プログラムC
短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』(26分)

一言レビュー:16歳、茨城の田舎町に住む女子高生カップルの仁美と菜穂。アイドルになることを夢見る菜穂を、仁美は献身的に支えていた。ある日、菜穂から「K-POPアイドルになるため韓国に行く」と告げられ、2人に突然の別れが訪れる。アイドルになりたい女の子という普遍的な10代少女達の夢の話だけでなく、そこに若いレズビアン達の恋愛要素(※1)、出会いと別れを描き出し、真っ直ぐで純粋な恋の話ではあるが、彼女達はまだ恵まれた関係性だ。本来であるなら、別れを告げる前に、想いすら相手に伝えられない現状に、当事者の私は少し彼女達の行く末の未来に応援したくなった。
短編映画『愛に代わって、おしおきよ!』(14分)

一言レビュー:息子を軍隊に入れるために貯金を使い果たしたのに、息子がセーラームーンになってしまった!母親はシャーマンに助けをもとめるが…。あの名曲に乗って繰り出される珍妙なダンスと、途方にくれる母親を生ぬるく包み込むオフビート映画。今、タイでは軍への兵役が社会問題になっている。タイでは、毎年4月に21歳の男性を対象に徴兵検査が行われ、くじ引きによって兵役の有無が決定される。そのくじが当たれば、喜ぶ者、泣き出す者、失神する者、本人ではなく逆にその家族が喜ぶケースもあり、タイでの徴兵は一筋縄ではないかない。また、同国の兵役制度には、くじによる決定、徴兵忌避の疑惑、軍隊生活の悪質さなど、様々な問題があると言われている。免除になるには、基本的に毎週土曜日の半日、軍事演習が行われており、軍事学校での演習の履修単位を取得(※2)すれば兵役が免除される。また、戸籍上は男性であるトランスジェンダーの方も審査の上、兵役免除の対象となる時もある。もしかしたら、この作品に登場する青年も徴兵を逃れる為の苦しい言い訳がセーラームーンへの変身だったのかもしれない。荒唐無稽のシュールなコメディ映画ではあるが、その根底にあるのはタイ人青年達の徴兵における憂いと悲しみなのかもしれない。
短編映画『寂しい猫とカップケーキ』(28分)

一言レビュー:書道家の夫を亡くした妻は、思い出の残る家でひとり暮らしている。マンションの親切な管理人は、野良猫を処分するのをどうしても避けたい。孤独な大人たちはすこしずつ心を通わせていく。近年、ここ日本では独居老人や老人による孤独死、また終戦直後に建てられた団地群に住む住民達の高齢化が増え、ゴーストタウン化した団地の平均年齢が年々、上がりつつある。その問題は、日本だけに留まらず、高齢化問題は世界中で進行しており、多くの国が社会保障制度や労働力不足などの課題に直面している(※3)。
短編映画『春二十三』(13分)

一言レビュー:2023年春、パンデミックによる感染政策が緩和されたが、春節を祝う爆竹や花火が禁止された。両親の葬儀を終えた男は、花火をもとめてバイクを走らせる。光と暗闇の対比の中に、パンデミック後の社会と男の心情が鮮やかに表現される。コロナ禍の期間、世界中がすべての動かを止めた。外の世界に行く事も、他者との接触も、何もかもが許されたなかった数年間。短編『春二十三』は、コロナの恐怖に翻弄されながら、家族の最期を看取る(※4)恐怖はコロナ以上の猛威があるが、その看取る事さえ拒絶されてしまったら、人は何に頼ればいいのだろうか?
短編プログラムD
短編映画『眩光』(30分)

一言レビュー:2003年夏、SARSが収束し学校が再開される。憧れの少年がメガネの子が好きだと知った少女は、彼の気を惹くために近視になろうとさまざまな手を試みる。疫病の脅威、崩れはじめた家族の絆と共に、少女の焦点はぼやけていく…。ある一人の少女から見た何かと都合の良い大人の世界を描いた短編。SARSの猛威(※5)が、奮った2002年。中国のある大都会に住む少女は、SARS感染で隔離後の今日、久しぶりの学校登校に胸を弾ませていた少女。でも、教育現場の現状は180℃ガラッと変わっていた。コロナ以前に起きたSARSパンデミックでもまた、人々の生活環境に多大な影響を与え、子ども達の学校生活への変化させた。
短編映画『街に溶ける』(8分)

一言レビュー:小学5年生の二藤と詩織。秘密を共有し合い、恋をした二人は“なりたい自分”になれる湖へと向かう。クィアな子供たちの小さな冒険譚。LGBTQに悩む子ども達は、水面下で年々増えている。そんな私自身もまた、幼少期はLGBTQとしての悩みを抱えていた(私の時は、人をカテゴライズする言葉なんて一つもなく、差別用語の「ホモ」が一般的であった)。子ども達自身の性に関する心の対峙や向き合い方は、時代と共に変化を見せ、その子一人一人に合ったLGBTQ(※6)の理解が広まりつつある。それでも、世間からマイノリティへの残酷で、時に仲間はずれにされ、時に虐げられ、謂われのない社会的差別を受ける可能性があるから、今の時代でもまだ、性に関する問題事は慎重にならないといけない。そんな中、小さな子ども達の冒険譚を描いた本作は、今を生きる子ども達の小さな希望になるだろう。
短編映画『屋上のレンピッカ』(20分)
一言レビュー:官能的な作風で知られる画家タマラ・ド・レンピッカの画集を手にした少女は、はじめて知る感情に心をかき乱される。新しくやってきた下宿人の若い女との友情を通して、少女は少しずつ成長していく。ソフト・キュビスムやアール・デコ運動で有名な画家レンピッカの官能的な絵画をモチーフに、一人の少女が大人の階段を登る(大人として覚醒する)姿を描いた本作だが、皆一度は経験した事のおる思春期における子ども達の戸惑いを瑞々しく描き、いかに「思春期」という人生の中でも短い期間の出来事が、非常に大切か再認識させられる作品だ。皆さんも、ご自身が過ごした思春期のあの頃に思いを馳せて欲しい。それが、今の子ども達の悩みを理解できる大きな一歩になるだろう。
短編映画『スズキ』(23分)
一言レビュー:2009年夏、ブラーが再結成し、オアシスが解散した。チャットで出会ったスズキとの会話が、中学生のスミンの単調な日々を鮮やかにしてくれた。しかしその夏、スズキは姿を消した…。チャットの中の友達は、本当の友達か?ある日突然、姿を消す友達は友達と言えるだろうか?果たして、この作品に登場するスズキは実際に実在する本物なのか、それとも架空の人物なのか、チャットを楽しむ少年でさえも分からない。子どもの青春期は、視野を広げ、認識力を高め、自己探求や他者との関わりを深める大事な時期(※)。ひと夏の経験が少年の心や成長を構成する大事な時間で、一つ一つの体験が裏付けとなって、大人としての道をひた走る。それは、どの大人も大人となる時期に必ず経験した体験で、ヒリヒリとした焦燥感、ドキドキした恋愛、一度しか訪れない青春の日々の数々。皆さん、もう忘れてる?貴方が過ごした楽しかった青春の日々を。そのかけがえのないもの素敵な時間が、私達人間を作っている。
映画『イェンとアイリー』

一言レビュー:同じ顔を持つふたりの女性。イェンは母を守るために父親を殺し、アイリーは演技のレッスンを通して自分の生き方を模索する。母と娘の運命を主軸に、静謐なモノクロ映像がふたつの時間軸を交錯させていく。時に、悲劇は繰り返される。何年経とうとも、親と子の関係性には一切の兆しが見えない。いつの時代も、どこの国でも、親子の歪んだ関係を解消する事はできない。親が子を、子が親を平気で恨み辛みが原因で殺めてしまう。そんな悲しいニュース、悲しい出来事が今、映画の外側にある現実社会でも起きており、これは単なる映像の中の物語という枠を超えて、私達は今、この問題解決に向けて一人一人試されている。日本では今年2月に報道された「相模原両親殺害事件」(※9)が、10数年前に起きた新宿両親爆発殺人事件と並ぶ衝撃を受けた。また、親が子どもを殺める事件と言えば、今全国で大きく報道されている大阪で起きた幼女コンクリ殺人事件に対して、今後の行く末に注目が集まる。子が親を殺すという行為には、何か切羽詰まった余っ程の事が背景にある事を知らなければならないだろう。
(※1)LGBTQなど性的マイノリティを取り巻く問題。私たちにできることhttps://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2022/80401/diversity_and_Inclusion(2025年3月17日)
(※2)タイの徴兵制はくじ引きで決まる?兵役免除やトランスジェンダーについて解説https://www.dlife.co.jp/blog/thailand-conscription-system/#:~:text=%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9A%84%E3%81%AB%E6%AF%8E%E9%80%B1%E5%9C%9F%E6%9B%9C%E6%97%A5,%E5%85%B5%E5%BD%B9%E3%81%8C%E5%85%8D%E9%99%A4%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月17日)
(※3)世界の高齢者人口は過去30年で倍増したが、労働力の活用不足が課題 ―国際高齢者デーでILOが分析https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2024/10/ilo_01.html(2025年3月17日)
(※4)母親のいない部屋で 自宅で看取った最後の5日間https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221109/k10013880721000.html(2025年3月18日)
(※5)天然痘に勝利、SARS封じ込め パンデミック闘いの歴史https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58038420U0A410C2000000/(2025年3月18日)
(※6)【連載第1回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもが抱える悩みとは?ーhttps://childsupport-navi.com/child-background/lgbtq/202109_04/#:~:text=%E5%B0%B1%E5%AD%A6%E5%89%8D%E3%81%8B%E3%82%89%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%AE,%E6%B0%97%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E5%A4%9A%E3%81%84%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E7%94%B7%E6%80%A7%E5%AF%BE%E8%B1%A1,%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月19日)
(※7)中学生の心と体の成長 反抗期・思春期の接し方は?https://benesse.jp/contents/hattatsu/chu/(2025年3月19日)
(※8)3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1286156.htm#:~:text=%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AF%E6%88%90%E9%95%B7%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AB,%E7%99%BA%E9%81%94%E3%81%8C%E6%9C%9F%E5%BE%85%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82(2025年3月19日)
(※9)相模原 両親殺害事件 当時15歳長男 初公判 起訴内容の一部否認https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250204/k10014712061000.html(2025年3月19日)
(※10)コンクリ詰めの女児の身元判明 住民票から削除され「失踪宣告」も
https://www.asahi.com/articl/AST3M01DVT3MPTIL009M.html(2025年3月19日)